どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
というかヤンデレ好きなんですけど、ヤンデレ書きたくなる。出ませんけど。
でもヤンデレのねじれちゃん割とありだな……?
「転間くん……?」
振り向いたところで、聞き覚えのある声と見覚えのある容姿をした人物が居た。
距離にして数m。
驚いたようにこちらを見つめる青い瞳とロングヘアーの髪。
青緑色の半袖のブラウスに裾にフリルがある黒いミニスカートに身を包むねじれの姿がそこにあった。
よく俺のこと分かったな、と思ってると、バッと真綿が離れたのが見えた。
今の言葉から俺の知り合いってことを理解したのか、それともねじれを知っていたか。
どちらにせよ。
「奇遇、だな?」
「その子は……?」
顔が見えないため、表情は読めないが視線は真綿に向けられてるのだろう。
なんだか空気が重たい気がする。
後輩と出掛けてる姿を知り合いに見られるとは、予想出来なかったわけではない。
俺が誰と出かけようが俺の勝手だが、ねじれに会うとは思わなかった。
たまに知り合いはちらほら見えたから有り得ないわけではないのだが。
でもそうか、こいつら会うの初めてなんだっけ。
「えー……ひとまず、自己紹介も必要だろ。そこの店でも入るか……?」
「……うん」
「は、はい……」
というわけで。
流石に話し込んでは邪魔になるため、ファミレスに入った俺と真綿の対面にはねじれが居て、いつものねじれらしくないというか、昔のねじれを思い出す。
こう、静かなのだ。今のねじれなら初対面相手ならばグイグイ行くだろうに。
そして空気がやはり重い。
なんだこの、言いようのない居心地の悪さ。入る前もそうだったけど。
例えるなら浮気がバレた現場みたいな感じだろうか、いや浮気したことなんてないどころかそんな関係になるような相手は居なければ俺に好意を抱くような相手がそんな何人もいるわけもなく。*1
実際にこんな感じなのかは知らないが、昔見たドラマではこんな感じだったような気もしなくもない。
居心地の悪さは同様なのか真綿も出方を窺ってるようにも見える。
ただ挙動不審だったり縮こまるわけではなく、割と堂々としてるのだが。
こいつ割とメンタルすごいよな。
しかし残念ながら俺にはこの空気を変える術はない。
「とりあえず注文するか……俺が受け持つから好きなの頼んでくれ」
「うん。わかった」
「は、はい」
席に着いていつまでも注文しない訳にはいかないだろう。
二人にメニューを渡してから俺は適当に目に入った物にすることにした。
食えれば何でもいいだろう。
そうして二人が決めるのを待ってから、必要なものを注文したあと。
「それで……なんだ。ねじれは1人か?」
「今日はね。そういう転間くんは違うんだ」
「むしろ俺が1人で来るイメージあるか?」
「ないかも。じゃあ、2人っきりでデートなんだ?」
「出掛けてるだけだよ」
「ふーん……? あんなふうにくっついててただ出掛けてるだけなんだ。そっか、ふーん」
俺がこんなところに来るのはせいぜいオールマイトグッズを探し当てた時くらいだ。
それはそうと言葉にトゲがある気がするのは気のせいだろうか。
「まぁいいか……まずこっちは1年の不和真綿。俺が一学期の時に1年のクラスに行っただろ、その時に知り合った」
「えっと、不和真綿です。先輩にはいつもお世話になっていて……よろしくお願いします」
「で、こっちは知ってると思うけど同級生の波動ねじれ」
「よろしくね、真綿ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、はい。それは全然……話には聞き及んでます」
「そっか」
そうして出来上がる無言。
陽キャ同士だろお前ら。なんでこんな空気感になるんだよ。
ぶっちゃけ波長が合いそうな二人なんだが……なんでこんなぎこちないのだろうか。
いっそ俺は席を外した方が良いとかある? 女子同士の方が話しやすいか?
うーん……色々と分からん。
――転間くんを見掛けたのは本当に偶然。
必要なものを買い足すために買い物に来たら、見覚えのある姿が見えたから近づいた。
そうしたらその傍には何処かで見たようなピンク色の髪の女の子が居て、転間くんにくっついていたのが分かった。
転間くん自身も好きにさせてることから親しい仲というのは簡単に分かった。
隠すつもりはないみたいで、ファミレスに入った私は転間くんに紹介された。
不和真綿。
そういえば1年で凄い優秀な子が居るって噂になってたっけ。
知り合ったのはだいたい予想がつく。
確か4月くらいに転間くんがイレイザーヘッドにお願いされたから1年生に現実を思い知らせるために引き受けたとか。
いくら入学したてとはいえ、個性は個人差はあっても強力な力。
だというのに転間くんは無個性と同じ状態で圧倒したらしい。
その時知り合って、色々とあって今に至るんだと思う。
――そうだ。私はこの子を知ってる。
体育祭前に見たことあるし、その後に見たことある。
転間くんと一緒に訓練してて、一緒に逃げてた子。
そっか、この子がそうなんだ。
海でのあの一件で転間くんは私を頼る相手として認識してくれた。
嬉しかった。すごく。
実力はまだ及ばなくても、彼の元に近づけたんじゃないかって。
けれど帰る前にうみちゃんが転間くんにほっぺたとはいえキスして――その光景がなんでか深く残ってる。
思い出すと胸がギュッとなる。
私は転間くんの“特別”じゃないし転間くんもそう思ってないのは分かってる。
ただ置いていかれなくなくて、支えられるようになりたくて。
だけど彼は、職場体験を得て大きく成長した。
体育祭でようやく近づいたと思った実力はあっさりと突き放されて。
きっと焦りもあるんだと、思う。
うみちゃんのこと。真綿ちゃんのこと。
弟が大好きすぎて結局友達くらいにたどり着く彼だけれど、彼の良さが、魅力が知られてきてるんだって。
受け入れられる人にとってはそれも彼の良さなのだから。
――私がそうだし。
目の前にいる女の子の容姿は整ってると思う。
ちょっとギャルっぽいメイクだけれど、服装はオシャレして来たんだと思うしブレスレットもいい感じにマッチしてる。
何より転間くん見る目は、つい最近見たものと同質の感情。
――転間くん本人は全然気づいてないけど。時折鋭いくせにこういった好意には鈍いんだよね。まぁ、私の気持ちに一切気づいてない時点で予想出来たことだけど……。
分かってる。
ただ後輩の女の子と出掛けてるだけ。
なのに。誰かと親しくしてる彼を見てると、いつも胸が締め付けられる。
これが独占欲……なのかな。
それが簡単に態度に出てしまう。誰も悪くないのに。
感情に振り回されてばかりで、私がそうなるのはずっと君の前だけ。
でも彼の魅力を知る人が増えることに喜ぶ自分もいて、知ってもらえることに嬉しくなる自分もいて。
でもそれが苦しくて。嬉しくて、感情が無茶苦茶になる。
もっと近づきたい。触れたい。私だけを見て欲しい、だなんて。
注文したご飯の味がよく分からない。
会話という会話がないまま食べ終わって、転間くんが困ったような表情をしてるのが分かった。
「――ん?」
すると、電話が鳴り響いた。
私でも、真綿ちゃんでもない。
スマホを取り出した転間くんは怪訝そうな表情を浮かべている。
知らない番号から掛かってきた? それなら転間くんは無視すると思うし……。
「悪い、ちょっと出てくる。すぐに戻ってくるから――戻ってきたらちゃんと話そう」
それはきっと、私に向けて。
長くいるのもあると思うけど、私がいつも通りではないのがバレてるんだと思う。
ずっと心配するような目を向けてくれていたことを、私は気づいてるから。
君のそういうところは、やっぱり変わらないなぁ。
去っていく転間くんを見送った私たちは目が合う。
「あ、あの……」
話題を探すように視線を右左させている真綿ちゃん。
私と彼女は初めてで、友達の友達という関係でしかないから仕方ないと思う。
私は一瞬だけ、目を閉じて覚悟を決めることにした。
聞けるのきっと、彼が居ない時しか無理だから。
私もちゃんと話さなくちゃ。
いつまでも後輩に気を使わせてたらダメだ。
「真綿ちゃん。聞きたいことあるんだけど、いいかな?」
「は、はい……」
この子はなんだか鋭そうだし、きっと気づいてるんだと思う。
それでも。
「正直に言うとね、私は転間くんが好き。友達じゃなくて異性として、恋人になりたいって思うし、ずっと傍に居たいと思ってる。転間くんは確かに見た目は優れてると思うけど、そうじゃなくてね。彼の全部が好き。不器用なところも、優しいところも、弟が大好きなところも、人の内面を見てるところも、目標に向かって行くところも、面倒見がいいところも。そういった彼の内面や声や目や手――そういった外見も全部」
「……!」
あからさまに動揺したのが分かった。
「あ、誤解しないでね。牽制ってわけじゃないから。ただ聞きたいんだ。真綿ちゃんが転間くんのことをどう思ってるのか」
そう、私は自分がそうなりたいとは思ってるけど転間くんが私以外を選ぶならそれでもいいと思ってる。
今も胸がギュッとなる時は多いけど、1番は転間くんが幸せになることだ。
もちろん嫌だ。私を選んで欲しいとは思う。それでも呑み込む。せめて友人として彼の傍に居られるなら。
だからこそ私は私で彼女が本当はどう思ってるのかを知りたい。本気なら本気でいい。
だけど冗談だと言うなら、遊びだと言うのなら、ううん誤魔化したり話題を変えようものなら本気じゃないようにしか聞こえない。
からかい目的だとかだったら以ての外。
もし、その時は――。
「……ありがとうございます」
「え? えっと……何もしてないよ?」
そう思ったら、何故か感謝されてしまった。
色々と聞きたい衝動に再び駆られるけど、押さえる。
今は真剣な話の最中。それは後ですればいい。
タイムリミットは短い。
「いえ、そんなことなかと思います。私も同じですけど、想いを伝えるのって簡単そうに見えて簡単ではなくって、こういうことを正直に話すのはもっと難しかかと。でも、波動先輩は本音でちゃんと向き合ってくれたばい。だから私も、ほんまの気持ちで応えたいと思ったんです」
真剣な顔で、真綿ちゃんはそう答えてくれた。
変わった口調だけど、九州方面の子なんだと思う。
標準語じゃないのが、より彼女の本気さが分かった気がした。
「私も……私も波動先輩と同じです。私は先輩――緑谷転間先輩という一人の人間のことを異性として慕っとります。
波動先輩より先輩といる期間は短かと思うばってん、それでも私は先輩のことが好きなんです。
この気持ちだけは誰にも譲りたくないですし、譲る気もありません。私は本気で先輩のことが好きばい。
家族を大切に思うところも、優しくて賢くて強いところも……何よりその温もりが」
真っ直ぐに射抜いてくる瞳。
それが決して揺るがないものだということは私にも分かる。
ううん、きっと同じだから。
だから分かるんだ。
この子は本気、なんだって。
「そっか……うん、いいと思うな」
「い、いいんですか? だって波動先輩って私よりも……」
「私は転間くんの友達だけど決めるのは転間くんだし、彼のことを
「そ、それはそうやけど……」
「大切な人が悪く思われるよりよく思われた方が私も嬉しくなるもん。まぁ――転間くんは自分のことは全然気にしてないけどね」
気にしてたら弟くんに対する愛を叫ばないからね。それに自分を貫こうとしない。
普通は空気を読む。でもしない。
だから私は転間くんを好きになった理由の一つでもあると思う。
我を通すのは転間くんの魅力の一つだし、見てると面白いから私は好きだけど。
ただ彼は誰かの評価で自分を変えることのない、確立した“我”を持ってる。
変わることがあったとしたら弟くんに嫌われた時くらいじゃないかな〜。そもそもそうなったら生きてるか心配。
「波動先輩……」
「……転間くんってね、別に天才でもないんだ」
「どういう……?」
「あ〜ある意味“努力の天才”ではあるけどね。想像も出来ないくらい努力して身につけて、色んな勉強をして今の彼がいる。多分だけどね、私たちじゃ想像出来ないくらいの年数を。だって転間くんの個性は
転間くんの個性は確かに強い。強いけど弱い。
脳の負荷。
制御の難しさ。
体力の消費量。
それこそ天才的な才能や適応力があれば変わるかもしれないけど、それでも今の彼レベルには至らない。どれほどの才能を持ってしても、あれは年数によって築き上げられた別の才能とも言える。
転間くんは昔から修行してたと言ってた。
急にレベルが上がったのだって去年の職場体験で、そこから停滞してて今年で一気に上昇したし。
最初の頃は1日数回程度しか出来なかったって冗談かと思うくらい。
「凄いよね、凄いと思う。その努力を自分のためじゃなくて誰かのためにやったんだよ。かっこいいなって思ったもん。転間くんはいつだって誰かのために動く。私の時もクラスメイトの時も職場体験だって。そしてきっと、1年生たちにも」
「……はい。簡単に想像できます。先輩はいつもそうやったし、私も――私たちも先輩と出会えたおかげでここまで成長できた思っとります」
「うん、だから彼の凄さは、魅力はもっと知られるべきだと思うんだ。ただたまに、たまにだけど胸がキュッと締め付けられる時はあるけどね。真綿ちゃんを初めて見た時――体育祭前で、真綿ちゃんが転間くんに抱えられてた時とか」
「へっ!? み、見てたんですか!? あ、あれは個性使いすぎて動けんくなって……と、というか、波動先輩。それってもしかして嫉妬じゃなかと……?」
知られてるとは思わなかったようで恥ずかしさからか、思い出したからか顔を赤くしてたけれど、真綿ちゃんに嫉妬だと言われて不思議と腑に落ちた気がする。
嫉妬。
確かに転間くんが誰かといい感じになってたら面白くないと感じることは多々あったし、羨ましいと思うこともあった。
転間くんがうみちゃんにキスされた時なんて、何も考えられなくなって冷静じゃいられなかった。
ただ焦りだけがあって――
「そっか、これが嫉妬なんだ」
誰かにこんな感情を抱くことなんてなかった。
転間くんと過ごす日々は刺激的で知らないことばかりで、私の知らないを教えてくれる。
「……波動先輩って可愛いですね」
「かわいい?」
「はい。しっかりしとるように見えて、初心なところがあるというか……あっ、いや、容姿はほんまに綺麗やと思いますし……同性の私でも見惚れるくらいだと思っとるっちゃけど!」
「そうかなぁ。そう言われたのは初めてかも。ありがとう」
「い、いえ。でも先輩って波動先輩でもダメと?」
「うん、そうなんだよね〜分け隔てなく接するのも良いところではあるんだけど、もっと意識して欲しいなーとは思うんだよね」
「わかります。下心が全くなくって邪な目なんて向けて来ませんし……。守ってくれるんはドキッとするんですけど……こっちばっかり意識しとる感じなんですよね」
「ね〜くっついても全然普通でしょ?」
「はい……」
普通異性にくっつかれたら何らかの反応はすると思うの。
私だってするし、きっと真綿ちゃんも。
「何より先輩はズルすぎて……」
「それはすごくわかる! ふとした時に欲しい言葉をくれたり行動をしてくれたりしてくれるんだよね。ズルいなーって思うよ。もっと好きになっちゃう」
「私も同感ばい!」
これに関してはきっと私たちだけじゃないと思う。
というか、クラスメイトですらブラコンを発揮してない時の転間くんはズルいって言ってたからね。
「でも私もそうやけど……波動先輩も告白、してませんよね」
「……うん。1度言いかけた時はあったけどね、それっきりそんなことないし、結局言えなかったと思う」
海に行ったあの夜。
線香花火をした夜。
雰囲気に呑まれちゃって告白しようとした。
でもタイミングが悪くて言えなかったけど、改めて言えなかったんじゃないかって今は思う。
「よろしければ聞いても……?」
「……そうだね」
その理由は私が好きになった日から、実力の差を思い知った時から変わってないのかもしれない。
だってそれは、私が強くなりたいと願う理由でもあるんだから。
「私はね、転間くんを支えられるようになりたいの」
「支えられるように……ですか?」
「そう、どこまでも私たちの前を歩く転間くん。もし付き合うことが出来たら好きな人と一緒になれる。それは嬉しいけどね、私だって転間くんを守りたい。支えられるようになりたい。でも今の私じゃきっと支えることはできなくて、守られる立場だと思うんだ」
そう語る私の言葉を黙って聞く真綿ちゃんだけど、彼女は少し驚いている。
一緒に居られるようになるのは幸せだし嬉しいと思う。
けれどそれは、転間くんに寄りかかるだけの関係性になると思う。少なくともヒーローを目指す私は、私が支えるには今の私じゃダメなんだ。
「転間くんはきっとこれからも強くなる。彼の傍に立つには同等の実力を持つことは出来なくても近づく必要が、彼を支えるくらいは強くならなくちゃ。だってそうじゃないと――転間くんは
オールマイトをも超えるヒーローになるのは転間くんだとずっと見てきた私には分かる。
好きな人、という部分を差し引いても転間くんは期待の新生だと世間で評価されてる。
それは私たちのクラスもだけど、それは転間くんが居たからだ。
居なかったら私も環も通形もまだまだ弱かったと思うし。
「だから私は強くなりたい。今よりもっと。横に立ちたいとは心から思ってるけど、それが無理ならせめて足手まといにならないくらいに。彼の負担にならないように」
「波動先輩……」
「それに転間くんは多分今は気持ちに応えてくれなさそうだしね。今は目標のことでいっぱいいっぱい見たいだもん。だから私もそれまでは自分の目標に向かって行かなきゃ。けど何もしないわけじゃないよ? 少しでも意識してもらえるようには頑張るから、これからも。この想いがいつ溢れるかは、私にも分かんないから、それまでは。特に……嫉妬してるってわかったし」
今すぐにでも伝えたいという思いもある。
でも転間くんには転間くんの目標があって、それに我武者羅に向かっていってる。身を削ってまで、って言えばいいのかな。
「波動先輩の気持ち……私にも分かります」
「真綿ちゃんも?」
「はい。先輩は確かにばり強かって思います。体育祭の映像も凄かったですし、既にプロヒーローの資格も持っとーし、先輩はきっと、もうトップヒーローの域にいて、次元が違う強さを持っとると思います」
私じゃなくて真綿ちゃんの目から見てもそう感じるということは、間違いないんだと思う。
私たちですらまだ仮免。なのに転間くんはなろうと思えばもうデビューだって出来る。
――来年のことを考えたらするはずないんだけど。
めちゃくちゃ楽しそうにしてたからね、4月中旬の時点で。
弟が入学してくるって、確信してるように。まだ入試すらしてないのに転間くんは信じて疑わない様子だった。
ううん、転間くんは自分だけは何があっても信じようと決めてるんだと思う。
誰が否定しようとも分からないと言われても、絶対に合格すると曲げることなく言い分を貫いてるから。
そんなところも良いと思えるのはもう、私は彼しかダメなんだろうなと思うけど。
惚れた弱みって言うのかな。悪い気持ちではないけど。
「でも……先輩を見てると、たまに不安になるんです。なんていうか先輩って、ここやなか遠くば見よー時があるっちゃうか……どこかに行っちゃいそうな雰囲気もあって……それに先輩は自分のことをあんまり考えてない気がするんですよね。自分のこと勘定に入れとらん言うか……やけに大人っぽいところがあるばい。それが理由かもせんけど……」
「だから私も波動先輩と同じで強うなりたかて思いよーとです。なんも出来んで守られるんは嫌やけん、支えたいって願っとるんです。横に立つなら、先輩に恥ずかしくない女の子になりたかって」
本当にこの子は転間くんのことをよく見てるんだ。
それに鋭い。
さっき驚いてたのは私が真綿ちゃんと同じ考えを持っていたから。彼女が持つ好きは、きっと私と同質のもの。
本気で傍に居たいと思ってるからこその、想い。
「何より先輩がみんなば守るヒーローになるなら、誰が先輩を守ってあげるんやろって思うんです。居らんけん、私が少しでも先輩を守れるような人になれたらって……ちょっと、生意気かもしれないですけれど」
「ううんそんなことない。私は素敵だと思うな。私と真綿ちゃんは同じみたいだから。結局転間くんって頼りになるから、最終的には頼られがちなんだ。むしろ逆でね、転間くんなら大丈夫だって思われてると思う。クラスメイトたちにも先輩たちにも、もしかしたら先生たちにも」
転間くんの強さを考えたら仕方がないと思うけど、実際に本気で守ろうと考えてるのは多分少ないと思う。
転間くんと仲が良いイレイザーヘッドとプレゼント・マイクとか生徒想いな校長先生くらいかも。セメントス先生もそうかな。
「……なんだか波動先輩とは仲良くなれそうばい。噂話だけやったのもあるけど、高嶺の花ってイメージがあって……」
「え〜何その噂? 全然そんなことないよ。でも私も真綿ちゃんとは仲良くなれそうだと思うな。だってこんなにも転間くんのこと想ってくれてるし解ってくれてるもん!」
「波動先輩……あの、提案があるんですけど」
「提案?」
ちょっと緊張してるようにも見える。
そうなる話を切り出そうとしてるってことだよね。
どんなことかまでは予想つかないけど……なんだろう?
「はい。正直、先輩って全然意識せんというか、意識せんようにしとるというか……とにかく一人じゃ全然意識してもらえんと思うんです。それどころか、これからも変わらんかもしれんばい。ですから、波動先輩と私で協力して先輩を落とせばよかんやなかって。その……一応ライバルばってん……私は波動先輩と争いとうなかですし、波動先輩さえ良ければ仲良くしたいので……」
真綿ちゃんが提案してきたのは、いわゆる共闘協定だった。
確かに転間くんは手強いというか、全く意識して貰えない。
水着姿で膝枕までしたのに普通だった。
すぐに目を逸らされちゃったし、これでもプロモーションは悪くないと思うんだけど。転間くんならもっと見てくれてもよかったのに。
それどころか1年の頃からアピールしてても友達としては進んでも、異性としてはちょっとくらいしか進展してない。
頼ってくれるようになったことから、去年よりかは全然意識してもらえてるとは思うけど……。
それに――。
「うん。そうしよっか。私も真綿ちゃんと仲良くしたいしひとりじゃ無理でもふたりなら、だよね。この前、海に行った時に転間くん別れ際に頬っぺたにキスされてたし――」
「キッ……!? えっ、いつですか!? 相手は!?」
「えっと、私も詳しくは分からないんだけど昔転間くんに助けられた女の子みたいで……真綿ちゃんの一つ下の子かな。とってもいい子で可愛い子だったよ?」
転間くんを利用しようだの考えてもなくって、純粋に好きって感情を全開にしてた、私には出来なかったことをしてた子。
悪いことを企んでたらアレだったけど、あんなにも真っ直ぐな子だからこそ憎めない。
それどころか私が抱いてるのは羨ましいという気持ちはあるけど、そこは大半が転間くんにキスしてたことだと思う。
他は純粋に大切な友達という感情の方が大きい。
それに彼女はヒーローじゃないから横に立つ、という考えではなくて別の考えなのだと思う。
まだ中学生なのに自分なりの支え方を見つけてるのは凄いなと思った。
それもあるからあそこまで真っ直ぐに感情を出せたのかな。
「せ、先輩……どうして先輩は……! うう、先輩ん魅力が知れ渡るんはええことばってん、ライバル出現は喜ぶべきなんか……ううん、先輩の良さを知ってもらえる子が増えたなら、喜ぶべきやよね。でもキスって、私だってまだそこまでは……波動先輩! その子がええ子なら、今度私も話してみたいです。どんな子か知っておきたいけん! 話せるなら、先輩の良さを語り合いたいばい!」
「うん、伝えておくね。でも面白そう! 私も参加したいなー! 普段は話し合えないからね。ほら、転間くんって全然意識してないみたいだけど、歩く時とか道路歩く時とかさりげなく守ってくれてるし」
「分かります。先輩って、それが当たり前みたいな行動をようしてくるんですよね。しかも口説いとるつもりやなくて、ただ本心で思うたことをストレートに言うけん……それが本気だって伝わってきて、余計にドキドキするというか……というかなんでモテてないと?」
真綿ちゃんがそう思うのも不思議ではないよね。
嘘を全然言わないからこそ、転間くんと安心して話せる。
ふざけて言う時くらいにしか嘘を付かない。普通の会話では嘘をつくのは面倒臭いとは言ってたけど。
それはもう、本気で。
「うーん。ほら、転間くんって中身もそうなんだけど見た目もいいでしょ。入学した当初はそんな暇なくて誰も気にしてる暇なかったんだけどね。私たちのクラス、イレイザーヘッドだったから。でもこう、落ち着きを取り戻してからはモテてたんだけどあまりに弟くんに対しての愛が凄くてね、うん……」
「あぁ……私はそげん先輩素敵やて思うっちゃけど、確かにそれが諦める要因になる人も多そうやけんね。それに他んことは鋭かとに好意には鈍うて……」
転間くんのブラコンっぷりは筋金入りだからね。
たまに暴走するくらいに。
でもそれは、家族のことを本気で大切に思ってなければしないこと。
「けど、それが転間くんだなって思っちゃうんだよね。1番になれないのが殆どだと思うけど、やっぱり遠いというのもあるんじゃないかな。転間くん大半のこと出来るし……でも私は弟くんのことを語る転間くんは嬉しそうで楽しそうで、こっちまで温かくなるから好きだよ」
「やっぱり波動先輩とは、私の先輩に対する考え方というかスタンスが似とりますよね。あの……もっと波動先輩のことが聞きたいです。普段の先輩の姿とか、一番よく知っとーとは波動先輩やろうし……波動先輩自身のことも、色々教えて欲しいばい!」
「うん、私も真綿ちゃんのこともっと知りたいな。あっ、それなら私のことはねじれって呼んで? その方が友達って感じするし、私たち仲間だもん。敬語も全然いらないからね?」
「わかりま――わかったばい。ならねじれ先輩で」
「うん。それでいいよ! ねえねえ、それでね。聞きたいこと聞いてもいい?」
「はい、答えられることでしたら!」
「じゃあじゃあ真綿ちゃんのことになるんだけど――」
――人が電話から帰ってきたらさっきまでの空気が嘘のようにワイワイはしゃいでる二人を見た時の俺の心情を述べよ。
よかったな。仲良くなれると思ってた、ぶっちゃけ。
話し合いは必要無さそうだ。流石に電話を無視する訳には行かなかったからあのままなら何とかするつもりではあったが。
「どうやら仲良くなったみたいだな」
「あ、先輩」
「うん、真綿ちゃん可愛いし良い子だし。転間くんは電話長かったけど大丈夫だったの?」
「まあ、だろうな」
「へっ!?」
なんか変な声が聞こえたので真綿に視線を向けると、顔を逸らされた。
何か悪いこと言った?*2
「電話に関してはちょっとな。近々何か起きるかもしれない」
「何か?」
「ああ。と言っても俺もまだよく分かってない。ただ俺が呼ばれる可能性があるんだと。プロヒーローとして」
「プロとして……転間くんが?」
「あくまで可能性の話だ。そんなことはどうだっていい」
何かが起きようとはしてるらしいが、俺を呼ぶなんてよっぽどのことか。
オールマイトが呼べない以上、ホークスが俺に電話をするのは保険なのだと思うが。
「よ、ようはなかて思うけど……」
「可能性の話をしたって仕方ないだろ?」
「それはそうっちゃけど」
「それより今は食事の方が大事だ。頼みたいなら好きなの頼めよ、俺も追加で頼むし。金は俺が払うから心配する必要はない」
「いいの? 私も出すよ? 私勝手についてきたし」
「女子の方が何かと入用になるだろ。俺は金の使い道なんて全くないし弟のために使う金とは別の俺の資金だから心配ない。それにこういった場では男が出すのが相場ってもんだ」
「じゃあ転間くんがいいなら……」
「本当によかと?」
「二言は無い。スイーツでも全部頼むか?」
「太るからやだ」
「同じく嫌たい! それとも先輩はまさかそっちが……?」
「いや相手の体型を否定するのは良くないだろ。好きか嫌いかと言われればどちらでもないが、そもそもお前ら全部食べようとしたら食えるのか……?」
俺も甘党だが、流石に全メニュー制覇は無理だぞ。
あれか、スイーツは別腹ってやつか。
確かに美味しいとは思うけど、血糖値的にやばそうだ。
「何でもええん?」
「好きにしろ」
「えっ、先輩を好きに――」
「俺を食べても美味しくないぞ」
「そげな意味やなかばい!?」
「転間くんって美味しいの?」
「人の話聞いてた? その口に指でも突っ込んでやろうか」
「クリーム付けて」
「止めろよ」
「せ、先輩。私も!」
「おまえは何を言っているんだ」
「転間くん転間くん! それならあーんして!」
「自分で食えよ」
「じゃ、じゃあ先輩には私が……」
それ結局真綿食えないだろ。
面倒になったので、とりあえずねじれの口には俺の注文したオムライスをスプーンで掬って突っ込んだ。
「ほら、頼みたいなら早く頼め」
「はーい」
そういえば普通に流したけど、そういう意味では無いってことはどういう意味なんだろうか。
ハッ! まさか俺を調理して……!?*3
俺、カニバリズムはどうかと思う。
「違うけんね、先輩」
「心読むなよ」
「顔に出てると思うけどなー」
「なわけ」
ということで追加で頼んだ分――自分の分のパフェを掬って真綿に食わせることにもなったが、それはそうとお会計をして、さりげなくオールマイトグッズを手に入れた俺はポーチに入れた。
出久の土産にしよう。俺だけならいらないから手当り次第に近くの子供にあげてたところだった。
というか真綿とねじれに渡されたのを渡した。
誰がオールマイトグッズなんかいるか。1個でも持ちたくない。殺意しか湧かん。
それ言ったら二人して『えぇ……』みたいな反応されたけど。
なんだ、俺がファンだと思ってるのか。誰があんな筋肉ダルマファンになるか。あいつは俺がぶっ飛ばすって決めてるんだよ、幼少の頃から。
「さて昼も食べたわけだが、どうする? 俺は別に行きたいところもないしやりたいこともない。どうするかは任せるが」
元々ねじれとは合流するつもりはなかったため、俺を連れてきた真綿に決める権利があるだろう。
帰っていいなら俺は素直に帰るぞ。やることはたくさんある。俺はまだまだ勉強もしないとだしお兄ちゃんパワーを鍛えないといけない。
あと治癒する力を他人にも出来るようにしたい。出久が怪我をした際に痛みを感じるより早く治すお兄ちゃん。
まさしく最高のお兄ちゃん……!
「私が決めてもよかと?」
「ああ」
「じゃあ……後の時間は3人でデートしませんか?」
「いいの? 真綿ちゃん」
「はい。ねじれ先輩のこともっと知りたかですし3人ならもっと楽しかかなって」
帰るという選択肢は端からないようだ。
なんでもいいけど。
せっかくなら楽しんで欲しいと思うのは年配としての気遣いか人間故に持ちうる感情か。
これもまあ、結局親しい仲だからこそ思うことだろうけれど。
「ありがとうーっ!」
「わぷ!?」
嬉しいのかねじれは真綿を抱きしめていた。
なんだろう、大型犬がこんな感じだろうか。ペット飼ったことないけど。
後輩のインコは面白かったな。
何故か俺の名前を連呼してたけど。思えば未だにあれは謎だな……彼女に聞いても誤魔化されてしまった。
でもインコとは名前を呼び合って仲良くなれた気がする(?)。
頭に乗られてたし。
なんて考えてると、二人からの視線が集まっていた。
「なんだ?」
「な、なんでも……」
「女の子が二人いるのに別の女の子のこと考えるのはよくないと思うなー?」
何故バレたし。
「先輩は私たちよりもその人の方が大切ばい……?」
「いやいや。そういうわけじゃないって。それにどっちが大切かって言われたらお前らの方だろ」
この世界に居ない相手を大切に思ったところで虚しいだけで、それなら自分の“日常”にいる者たちを守った方がいい。
そもそも俺は彼女に対して大切な部下という感情以外は持っていない。年齢的に一回り離れてたし。
そう思っただけなんだけど、急に二人して挙動不審になった。
何かあるのか……? いや特に敵意とか悪意とかそういった気配は無いな。
「せ、先輩……そげなところ」
「何が?」
「転間くんは分からないなら考えなくてもいいの。それよりデートしよ?」
そう言ってねじれが真綿に視線を向けて頷いたかと思えば、両サイドで腕を組んできた。
そんな拘束しなくても逃げないのだが……あと3人で出掛けたらデートとは言わないと思う。
「……まぁいいか。で、何するんだ?」
「そ、そうやね。せっかくだしアレ、撮りませんか?」
「アレ?」
「確かにいいかも! 行こ!」
2人は何か分かったようだったが、全く俺には分からないがついて行くことにした。
連れ去られた方が正しいかもしれない。
その結果、プリ……なんたらってやつを撮った。
どっかで見たような気もするが経験がないからだろうか、写真を撮るものだということくらいしか分からなかったがどうやら3人て撮るなら狭いみたいでかなりくっつかないといけなかったらしい。
果たしてそれは男女で撮っていいものなのだろうかと思ったが……知らない俺が何かを言うのは違うと思ったので大人しく撮った。
ただ安定で俺を真ん中にするのはなんなんだ。
その後は連れられたり近くでやってたイルカショーのイベントに参加してピンポイントでびしょ濡れにされたり*4と遅くなるまで遊んだ。
イルカのヒーローはいたけどシャチであるギャングオルカは居なかったようだ。
いたら仮免の恨みを言いに行くところだったな。*5
けど傍から見てても2人は仲良くなったみたいだし、やっぱりウマが合ったのだろうな。
ただスキンシップ多くなった気がするが……やっぱり水に濡れて寒くなったのだろうか。
もう少し気遣ってやるべきだったのかもしれない。
異性同士で肌と肌が触れ合うのってあんまりよろしくないだろうし、流石に二人にされると意識を逸らすのが難しくなるから困る。
そういった邪な感情なんて向けられたくないだろうし。
まぁ友人と後輩に手を出す訳にはいかないので、結局理性なんて簡単に押さえつけられるんだけど。
ある意味これは前世の自分を使えるからこそ、か。
原作
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入る
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もっとお兄ちゃん読みたい
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作者の好きなようにやって欲しい