どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
「間違いない。緑谷転間。貴様は――9代目OFAの継承者だな?」
「はい?」
――はい?
な、何を言っているんだ……この人。
俺がOFA継承者? オールマイトの弟子だと言うのか……?
真面目にそんなの嫌すぎる。
そういえばユーモアを大切にしてるとか言ってたっけ。
ああ、なんだ。この人も冗談とか言うんだなぁ、面白い冗談だ。
はっはっは。
「体育祭の映像は観させてもらった。他の追随を許さない圧倒的なパワーとスピード。特に速度だけならば全盛期を知る私でもその時のオールマイトに匹敵すると思うほどだ。パワーに関しては全盛期のオールマイトを考えれば少々物足りないが、これからだろう。それでも今のオールマイトを継ぐには十分すぎるほどのパワー。さらに貴様自身の戦闘センスは私から見ても舌を巻くほどのもの。ミリオにこそOFAを継がせるべきだと考えていたが……どうやら私は君という原石を見逃していたようだな。君ならば十分、OFAを継ぐに値する」
いやこれ本気で言ってるな……。
褒められてはいるのはわかるんだけど、俺一切OFA使ってないんだよなぁ。というかオールマイトに会ってすらいない。
会おうと思えば会えるが、その時は俺の拳が飛んでいくことだろう。
無論お兄ちゃんパワーフルパワーだ。恐らくこれからの人生を含めても最大のパワーで。
「私はてっきりオールマイトは実力も及ばぬ未熟なヒーロー精神だけを持つ者に継がせると思っていた。無個性の中学生に継がせると聞いていたからな。しかし間違えていたのは私だったようだ……」
マズイ、このままでは取り返しのつかないことになってしまう。
いや、割と惜しいんだけど。OFAを継いだのは俺の弟だし。まぁ? 実力もあって可愛くもあってかっこよくもある俺の弟は精神面も実力面でもいいが?
そもそも何故俺をOFA継承者だと思うのか。
個性が全然違うだろ。年齢も違うし。いやまあ、この人からしたら無個性に継がせると信じたくなかったのかもしれないが。
俺の個性は収束であり、空間に作用するタイプの個性だ。まぁお兄ちゃんパワーは多分収束の“力を集める”という部分から派生した……副次的なもので、
脳や体とか血を含めて治すやつ?
それはあれよ、お兄ちゃんパワーだろ。*1
それより誤解を解かねば。
「待ってください」
「ん?」
「さっきから何の話をしてるんですか……?」
ここはちゃんと知らない体を貫く。
俺が知っていたとしてオールマイトに確認取られれば終わりだ。基本嘘はつきたくないが、こればかりはつかねばならない。
下手したらオール・フォー・ワンの味方と思われかねない。俺はあいつも殴らなければならないのでそれは嫌だ。
「え?」
「え?」
そうして出来上がる無言の空間。
なんですか、これ。コントかよ。
「いや……貴様の個性はOFAだろう?」
「いえ、ただの収束ですけど。なんですか、その昔にスローガンにあったような名前の個性」
「まさか、知らないのか。OFAは継いでいても元々持っていた個性は使うことができる」
「そもそもOFAを知らないんですけど」
「……オールマイトから貰っただろう?」
「雄英の生活で忙しいのにNo.1に会えるとでも?」*2
「……超パワーは?」
「自前ですね」
「……超スピードは?」
「自前と個性ですね」
「あのタフネスさは?」
「自前と個性ですね」
「爆心地や他の個性に囲まれても無傷で居たのは……?」
「個性ですね」
「…………」
「…………」
ちーん。
なんか急にナイトアイが顔を上に向けて固まったかと思えば、意識でも失ってたのかハッとした直後に身を乗り出してきた。
「であるなら、なんだ!? 私が貴様の継承者だと勘違いしただけで、貴様はOFAのこともオールマイトの秘密も知らないと!? いやだが! どう考えてもあの力はOFA以外では説明が……!!」
「いやぁ、そう言われましても。俺が強いからとしか。 てか、オールマイトの秘密って
「……!」
これは全部ブラフ。
俺はオールマイトの秘密も継承先も何もかも知っている。しかし前世の記憶で知ってるだの言えるわけもなければこの世界は既に物語の世界ではない。目の前で人は傷つくし絶望だってする。真逆に希望を得ることもある。
が、それだけでなくこの目で見ても、あっ弱ってんなーとは分かるのだ。全盛期は今の俺を持ってしてもバケモノだと思うが……無論仮に戦ったとしても今の俺なら負けないけど。
「少なくともオールマイトは何もないのに腹を押さえてたことがあった。最近はあまりないですが、古傷か何かが痛むんですかね。それとオールマイトの活動が俺が子供だった頃よりも少ない。個性に制限がかかっているか、オールマイトの身になにかあってヒーローとして活動できる時間が減ったのか。
そのどちらかで確定だと思うんですけど、それが秘密に関連したりします?」
「そこまで……気づいていたのか……」
「あくまで予想ですよ」
「……仕方がない。最初に話してしまったのは私だ。象徴に相応しい者が受け継いだのだとらしくもなく興奮した私に非がある。だが、貴様にも秘密は隠し通してもらうぞ」
「いいんですか、オールマイトと俺は無関係でしょう?」
「中途半端に情報を渡して言いふらされるくらいであるなら貴様を共犯者に仕立てた方がいい」
「俺がその情報を話すのでは?」
「貴様のその頭でオールマイトの、平和の象徴の秘密という危険性を理解してないはずがないだろう」
「ごもっともで」
象徴の弱体化はオールマイトの存在で保っているこの世界に大きなヒビが入る。
俺としてもあと3年くらいはNo.1で居てもらわなければ困るのだ。出久がヒーローになる前にこの世界が世紀末のように荒れてしまえば出久に辛い思いをさせてしまう。
特にOFAを継いだ出久はそれがバレればオールマイト同様の期待を世間から集めるだろう。
改めて思うが、このヒーロー社会は脆すぎるな。
簡単に崩せてしまう。そもそもちゃんと機能していたならばヴィランがここまで増えるはずもないか。
上層部から変えないとどうにもならねーよな。ホークス、お前公安だよな。お前がなれ。*3
そしてナイトアイから語られたのはオールマイトの秘密だ。
知ってることだけど、驚く演技はしておく。
簡単に言えば昔ある巨悪と戦って大怪我を負ったこと。度重なる手術などで胃袋全摘を摘出したこと。1日の活動時間が短いこと。パワーもスピードも全盛期に全く満たないこと。
そしてオールマイトは元々無個性でOFAという遥か昔から培われてきた力の結晶を受け継いだこと。それを新たなる希望へと繋げるために後継者を探していること。
それが無個性の少年に継がせると聞いて目の前のナイトアイはそれをミリオに見出したことを。
「確かに実力はまだないが、あいつには人を笑顔にする才がある」
「そうだ。私はユーモアなき世界に明るい未来はないと思っている。だが私は貴様を知って、オールマイトはいい後継者を選んだと。No.1を、オールマイトを、平和の象徴を継ぐのは貴様でもいいと思っていた」
ナイトアイは俺を高く評価してくれていたようだった。
元サイドキックのこの人がそれほど評価するのはよっぽどの事がなければないだろう。
だが申し訳ないと思うが、俺は幼いながらに自分がNo.1に相応しいと思ったことは一度たりともない。
ミリオもそうだが、環も真綿も――そしてねじれも。
みんな俺にはない特別な“才”というものがある。
俺が彼らに期待しているのはそこだ。ぶっちゃけ彼らの実力はどうだっていい。どれほど強くなったとて、俺が彼らを上回るからだ。彼ら彼女らがピンチならば俺が守ればいいし勝てない相手なら俺が戦えばいい。けれど、あいつらの持つ特別な才ってやつはきっと俺にはないヒーローになるための力になる。
俺はきっと最強のヒーローにはなれるだろう。いや、ならなければならない。しかしそれだけだ。
何より俺はNo.1ヒーローになるのは出久のような人を思いやれる優しさを持つ人間にこそ相応しいと思っている。
俺はそれまでの礎になれたらいいとしか思っていない。俺が実力をつけているのも出久を守るためだし。出久にとっての最高のヒーローになりたいだけだ。
俺は恐らく最強にはなれる。最高にもなれる。だけど
その資格があるのは、きっと出久のような人間なのだから。
「……だがまさか違ったとは」
「なんかすみません」
「いや……私の早とちりが原因だ。ミリオからも話を聞いて、君に継いで欲しかったと思ったのは本音ではあるがな」
「それなんですけど、仮にオールマイトから提案されても断ってましたよ」
「それはどういうことだ?」
俺は出久を取られてるのでオールマイトを毛嫌いしてるが、それ抜きにしても前提としてOFAを俺は継ぐことが出来ない。
理由は3つほど。
1:寿命問題。
俺の個性は既に育ちすぎている。そこに更なる強大な力であるOFAは俺という器を間違いなく破壊する。
仮に俺がオールマイトを超える最強のヒーローになったとして長生き出来なければ俺が存命中は落ち着いても俺の死後、ヴィランはより強大に組織的に進化してしまうこと。
それまでに悪意と力を蓄えるからだ。
2:個性の制御。
そもそも俺の個性は扱いが難しく、あの黒い稲妻を出してから制御はより出来るようになったがOFA+歴代の個性を使うのはオーバーキルすぎる。ヴィラン死ぬだろ。
だからこそ、受け継いだところで俺はOFAを全て扱えずOFAと収束の2つだけになってしまうこと。
受け継いだ瞬間に100%も使えるし全盛期のオールマイトよりさらに強い出力、つまり上限突破もするだろう。
引き換えに俺の代でさらに高まる影響で次の代は居なくなってしまうが。
ついでに俺の個性も超強化されて蒼が今の赫レベルの出力になって赫は下手したら街1つ消し飛ぶレベルに成長しかねない。必殺技に関しては世界壊れそう。ブラックホールみたいになったりしない? 大丈夫?
何より、これ以上俺の個性が強化されると制御むずいのに使いづらい。ただでさえ無理くり頭弄ってんだからこれ以上は真面目に死ぬ。
自分の個性は封印になるだろう。
3:俺に力が集まりすぎること。
俺という存在にだけ力を集めたらパワーバランスが崩壊する。俺に何かあればこの時点で詰む。
例えば長期間別世界に飛ばされたり封印されたり殺されたり。
発展途上の俺にはそれがないとは言い切れない。
4:純粋にオールマイトを体に入れたくない。*4
このうち、話せる2の制御が難しいという部分と3の力が一人に集まりすぎるという部分だけ話した。
発現してない歴代の個性を話したら怪しすぎるし、分かっていないOFAの秘密を話す訳にもいかない。
既に出久に渡した以上、わざわざ話す意味もなければ勝手にオールマイトか歴代が調べ上げるだろう。
「なるほど、確かに先天的に耐性を得ることが多い自前の個性ならまだしも、そこに別の強大な力を宿せば自らを壊しかねない、か」
「そういうことです。ちなみにそれはミリオにも言えるので、OFAを継がせるのは得策じゃないかと。個性は1つで十分強力だ。遺伝も関係なく受け継ぐには危険性が多すぎる」
「……つまり、無個性が良いと?」
「そうなりますね。持たざる者が最高の力を引き出す資格があるんじゃないかと。いいや、持たざる者が本来の力を発揮出来るようになった、と言うべきですかね? 考えて見れば分かるでしょう、オールマイトのあの力を個性ある者が受け継ぐのは危険しかない。もしかしたら過去に受け継いだ人も早死した人とか居たかもしれませんね」
ついでにミリオからも逸らしておこう。
「何よりミリオはOFAなんてなくたって
「……そうだな。私が信じなければダメ、か」
ミリオを認めてないならこの厳しそうな人が見てる気がしなかったが、図星だったらしい。
あいつ人たらしだよな、お前実はラノベ主人公だろ。*5
「さて、話はそれだけですかね?」
「いや、まだある」
「ん?」
「話ではなく頼みになるのだが……無理強いはしない」
「言ってみてくれ」
OFAを継いで欲しい以外なら大体のことは聞けるだろう。
ただこの人が初対面の俺に頼みってなると想像はつかない。
一体なんだろうか。
「最初の話を覚えているか?」
「最初? ……ああ、俺を何者だと聞いたやつか? さっきも言ったが、俺はお兄ちゃんだ」
「それはもう分かった。必要ない」
拗ねるぞおい。
「頼みの前に言っておこう。私の個性は“予知”だ」
「……予知? まさか、未来でも視えるってか?」
「そうだ」
過去視でなくて心底良かったと思ったが、それはそうと素で驚いた。
未来が視えるなら強力で済む話ではない。
あまりに逸脱した、それこそスターと同様の理の向こうにある力だ。
話を聞いてると、どうやら対象者近くの視点からまるでカメラのフィルムのように対象の未来の行動を見ることができ、その気になれば数分先から数年先の未来までいけるという。
ただ“1時間”という制約があるため、全ての未来を視ることは叶わず取捨選択しなければならないらしい。ただ遠い未来になるほど時間的なブレが大きくなりいつ起きるか把握出来ないらしく、一度発動すれば再使用に24時間のインターバルが必要だとか。
でも早送りとかは出来るらしい。
ビデオかよ。
しかし強力だと言うのは分かったが、それがどうかしたのか。
俺に使いたいってことだろうか。
「私の予知は絶対だ」
「絶対? それはおかしくないか。例えば俺が数秒後違う行動をすれば、それだけで未来は変わるだろう」
「確かに未来は無数に分岐している。例えるなら枝分かれした小枝が分かりやすいだろう。小さな枝は分岐し、いくつもの世界を作る。だが太い枝は別だ。いくら枝分かれしようと、最終的に1本の未来へと辿り着く。私だって何度も未来を変えようと試したが結局は無意味だった。多少先送りにする事はできてもその後必ず帳尻合わせが来る」
なるほど、つまり辿り着く未来をXとしよう。
そうなった場合、A→B→C→Xとなり、これを正しい流れとして未来を変える。
そうなった場合、辿り着く前に変えようとした行動がDとすれば、BかCを変えなければならない。
この場合Cを変えるとすると、A→B→D→D→C→Xと結局未来はCに戻されてしまうということか。
Dを挟んで先送りすることは可能。簡単に言えば過程を変えることは出来るが結果は変えられない。
それは難儀な個性だ。
例えば誰かの死を予知すればこの人だけ先に結末を知ってしまう。それを伝えるのも辛いことだ。
「変えられない未来、か」
「そう
「……何?」
過去形?
それに分からないってのはどういうことだ。
「私がミリオをインターン生として受け入れようとしたのはOFAの継承者として育てるという理由があった。だがミリオに初めて会った時からというものの、予知した未来に“歪み”が発生し、ズレることが多々あった」
「へえ」
ミリオには未来を変える力があったのか。
主人公かな?
出久ならばまだ分かるんだけどな。OFAあるし、ほら歴代のパワー的な。何より天使だし。
「最初はミリオに未来を変える力があると思っていた。だが検証を進めるうちに違うとわかった」
違うのかよ。
あいつの個性透過だし。
いや透過だからこそ概念すら透過出来るのでは?
「予知通りに進むこともあったが、逆に予知と異なる進み方をする時がある。その違いは何か? 異なる方向へと進む原因を私は徹底的に調べ上げた。その結果、分かったことがひとつ。それが君の存在だ」
「? ……? ……!?」
ナイトアイが指差すのできょろきょろと周りを見渡したが俺以外誰もおらず、自分を指差したら頷かれた。
え、俺?
「私が視た未来ではミリオはここまで成長していなかった。スターの来訪についてもな。私の未来にはそんものはない。しかし君という存在が関わったとき、
射抜くような眼差しを向けられる。
しかし心当たりは……ない。
俺は確かにこの世界を物語として知っている。もう記憶にはほぼない。ある意味イレギュラーではあるだろう。
だがそれだけで未来が変わるとは思えない。色んな世界線があったとして、個性社会なのだから誰かが転生という個性を持っていてもおかしくはないだろう。
なら1度死にかけた時? この個性の影響? それとも幼少の頃に目覚めた治す力?
というかスターのこと知って……オールマイトの関係者だもんな、知っててもおかしくないか。
「……分からないな。俺の未来を視た方が早いだろ。条件は?」
「……いいのか。もしかしたら君の“死”を視る可能性だってあるんだぞ」
「そんな先まで視るのかよ」
「いや直近のみだ。私だって未来あるヒーローの未来を確定などしたくない。しかし数ヶ月後、もしくは1年後に死ぬ未来だってあるかもしれない」
「ないな。俺は誰にも殺されないし死なない。いいから視ろよ。あんたの頼み事もそれなんじゃないか」
「それはそうだが……」
俺が死ぬ時は出久に嫌われた時くらいだ。
少なくとも出久を最高のヒーローにするまで何があっても死ぬ訳には行かない。
「視るのはあんただ。嫌ならやめたらいい」
「……いや、頼んでも、いいだろうか。もし本当に“可能性”があるなら私は賭けたい」
そう言うナイトアイは、どこか追い詰められてるようにも見えた。まるで縋るような、誰かの未来でも視てしまったのだろうか。
彼が絶望するほどに。学生に縋るほどに。変えたくても変えれない未来を幾度も視たからこそ。
――勘弁して欲しいものだな。そういう顔は腐るほど見てきた。
そしてそれを見たら俺は、
「どうすればいい?」
「手を出して、目を合わせてくれ」
「分かった」
興味がないと言えばある。
この先の未来、俺がどう生きているのか。
最悪な未来になってなければいいが。
考えても仕方ないため、手を差し出すと彼は席を立って手を握ってきた。
スーツで分かりにくかったが、手がガッシリしてるし力も強い。この人はちゃんと鍛えている。
予知という個性である以上鍛えなければ戦闘は出来ない。もちろん戦闘でなくてもヒーローは務まるが、分かってて鍛えるのは十分凄いことだ。
多分ミリオより強いんじゃないか、肉体的に。
まぁ俺の方が数段強いが。
そんなこと考えていたらナイトアイが目を見開いて、手を離された。
もう終わったのだろうか。
「これは……まさか、有り得るのか……こんなこと……」
「どうした?」
何を視たのか分からないが、信じられないといった顔だ。
よく分からないが、悪いことでは無いのだろう。
「……曖昧だ」
「……曖昧?」
「ああ、今まで私は予知の中でその人物が死ぬ未来を見た事もあったが……それでも死ぬまでの過程を見ることはできた。しかし君だけは違う」
まさかの言葉に困惑した。
この人の言葉と行動から察するに触れて目を見るのが条件のはずだ。
それさえ終われば無条件に未来が視える。
死ぬ未来も視ることが出来たなら俺のそれはおかしいだろう。視えるなら俺の死の未来を視たと言えばいい。この人にとって嘘をつくメリットがないからだ。
「うーむ……どんな感じなんだ?」
「なんと言い表すべきか……未来は視える。しかし映像の中にノイズが走ったり、観ていたはずの映画のフィルムの中に別の作品のコマが差し込まれ、確定した未来が視えないというべきか……」
「つまり俺の未来は常に変化し続けているってことか? それこそ太い枝そのものが分岐し続けてるように。世界線を増やしてるという感じか?」
「そうだ。こんなことは初めてだ。心当たりはあるか?」
「いや……」
可能性だけならいくらかある。
あのバカ目隠しが言っていた、呪力とかいうやつ。もしくは俺も未だよくわかってないけど使ってる治す力。
それか俺の個性がオート防御に入ったか。
そして何より――愛だッ!
俺の溢れんばかりの出久に対する愛――ふ、ついに未来に影響を与えるまで進化してしまったようだ……。
これが俺のお兄ちゃんパワー!
出久が最高のヒーローになる未来を強く望み、抗い、今も尚出久がそうなると信じて疑わない俺のお兄ちゃん力――やはり俺の強さの根本は個性なんかではない。
俺という存在が成長したのも俺が強くなれたのも出久が居たからだ。出久に対する愛を抱き続けているからだ。
つまり世界一弟を愛してるのは俺だと言っても過言では無いッ!!*6
「緑谷転間……教えてくれ」
改めて出久に対する愛とこのお兄ちゃん力の偉大さを再確認していたら、ナイトアイは深刻そうな表情を浮かべていた。
流石にこの状況でお兄ちゃん力とか言える自信はなかったので、ちゃんとしたそれっぽい答えを考えることにしよう。
「未来は変えられるのか……? 未来は本当に変えることが出来ると思うか……?」
それはきっと、この人にとって視えない未来はなかったからだと思う。
ミリオすら視えて、彼の周りでも視えて、唯一違ったのが俺。
ある意味この人にとっては最後のチャンスかもしれなくて、
なら俺は、この人を救わなくちゃ最高のヒーローになんてなれないだろ。
「さぁ。俺には未来なんて視えない。だけどこれだけは言える。未来を変えたいなら最後の最後まで足掻けよ。結局未来が変わらないって思ってるのはあんたの心があんたが視た未来に押し潰されてるからだろ、絶望っていうやつにな」
「未来ってのは結局先の話だ。とうに過ぎた過去は変えることなんて出来ない。未来を変えるには自らの意志で勇気を持って立ち向かうことが大切だろ。強く未来を望み、ビジョンを描く。そうしなければ未来に影響を与えるなんて出来るわけがない。少なくとも俺はどんな未来だろうと気に入らない未来が決まっていたとしてもこの手で捻じ曲げる。最後の最後まで足掻いて、な」
そう、俺は俺の望む未来がある。
その未来のためならこの命すら燃やし尽くしていいと思うほどに。
それが俺の、俺がこの世界に生きる意味なのだから。
それ以外に俺は望まない。それが叶ったあとのことは考えてないが、それまで寄り道をするつもりはないのだ。
「最後まで足掻く……か。そうだ……私は心の底では諦めていたのか。運命は変わらない。いくら方法を探したとて変えることが出来ないのだと。……改めて確信した」
「緑谷転間……やはり貴様の存在が未来を――」
辛そうだった彼の顔は穏やかになっていて、瞳に光が見えた気がした。
「運命を変える鍵なのだな」
「どうだかな」
「少なくとも私はそう思うことにした。だからこそ、頼む。どうか彼を――オールマイトを救ってくれ……!」
わざわざ机から離れて俺の前に来たナイトアイは、突如頭を下げて予想外の言葉を述べてきた。
オールマイトを助ける? オールマイトの実力なら大半のヴィランは問題ないだろう。
オール・フォー・ワンくらいか?
それでもあいつだって全盛期以下だし。今の俺ですら勝てるだろ、多分。
「何が何だか分からないって顔だな。それもそうだろう。私は以前、オールマイトの未来を視たことがある。私が視た未来ではヴィランと対峙し、凄惨な死を迎えていた」
「私がこのことを伝えても彼は止まらなかった。止められなかった。運命は変えられない。変えることなんて出来なかった! だが私がいれば彼は変わらず無理を続けてしまう、だから私は彼の元を離れた……! そうして未来を変える方法を今まで模索していた……!」
そう語るナイトアイの拳は強く握られ、震えていた。
いや、拳だけじゃなく身体全体が震えている。
この人にとってオールマイトは出久と同じような感じなのだろう。
部屋中にも俺が必死こいて探し出した超レア限定グッズもあるし。
「その時に君を知り、君に会った。唯一未来が変化していた君と。オールマイトに並び立てるほどの実力もあり、決して諦めることのない心の強さを持つ――ヒーローに相応しい君に。緑谷転間。君なら……君ならば運命を変えられる! 未来を変化させられる! オールマイトを、いいやオールマイトだけでなく、これから訪れるかもしれない最悪の未来だって、君ならば捻じ曲げられるかもしれない!!」
室内に声が響き渡る。それも声が裏返るほどに。
それがどれほどの想いを込められているのか。
出会って数分程度の子供にここまで真剣に頭を下げられる大人などそうそうに居ないだろう。
「頭を上げてくれ、ナイトアイ」
「……っ」
ゆっくりと、恐る恐る頭を上げるナイトアイを見て、俺は部屋中を見渡した。
本当にオールマイトが好きなのだろう。
俺とは対極だ。俺はオールマイトが好きではない。単純に俺から弟を奪っているからだ。
お兄ちゃんとして嫉妬している。
しかしオールマイト自身のことを本気で嫌ってるわけではない。
弟が関係しないならオールマイトはヒーローとして尊敬に値する存在なのだ。
ひとつの世代を築いた彼は十分喝采を受けても良くて、もう
彼の時代は、もう終わりでいいのだ。
大人しく隠居して、手が届くところで俺の弟を守ってくれればいい。
これからの世界は、これからの世代が築き上げていく。
「……俺にはさ、2つ離れた弟が居るんだ」
「……ああ」
「その弟がさ、オールマイトのことが好きなんだ。兄である俺がオールマイトを羨ましく感じるほどに大好きで憧れていて、立派にヒーローになるべく邁進してる。弟にとっては目指すべきヒーロー像は、俺なんかじゃなくてオールマイトなのだと思う」
幼少の頃から何度も動画を見直してグッズも買って、オールマイトのレアカードを引いた時は目を輝かせて喜んでいた。
後方お兄ちゃん面をしていたが、内心はオールマイトに対して憎しみの言葉を呟きまくっていた。
それでもいいのだ。
出久にとってそれが憧れで目指したいものなら俺は応援するだけ。
寂しいけど例え俺でなくたって、出久にとって目指したいものがオールマイトならそれでいい。
俺はその道をお兄ちゃんとして照らして作り出すだけに過ぎない。間違えた道を歩ませないために俺が先に道を歩むだけ。
そのためにも――
「だからこそオールマイトには生きてもらわなくちゃならない。ナイトアイ、あんたに言われるまでもない。オールマイトは誰にも殺させない。弟の憧れには憧れのまま居てもらわなくちゃな。運命を捻じ曲げるだの変えるだの、大それた理由なんていらない。俺はただお兄ちゃんとして、弟のためにお兄ちゃんを遂行する。その中に、たまたまオールマイトに生きてもらわないといけないってのがあるだけだ」
それにオールマイトをぶっ飛ばすのは俺だ。
他の奴らに殺されてたまるかよ。
だからこそ遠回しに気にするなと伝えたのだが。
「……ありがとう」
「……はて、なんのことやら」
どうやら俺には俺のやらなくちゃいけないことが増えてしまったようだ。
ただまぁ、弟のためを思えば俺はいくらでも頑張れるだろう。
それが俺の生きる意味であり、力になる。
「私も諦めないように頑張るとしよう。それがきっとより良い未来に繋がると信じて」
「そうか。ミリオはどうするんだ?」
「変わらず育成する。彼は必ず立派なヒーローになれると確信している。何より君に殴られそうなのでな」
「しねーよ」
俺の拳はそんなに安くない。
俺の拳は弟のためにあるのだ。バカにしたヤツらを全員懲らしめる。
「ふっ、そういうことにしておこう」
「……で、俺は?」
「インターンとして受け入れる。と言っても、プロの資格を持っている君をインターン生として受け入れるのは少々違う気もするが」
「別にいいんじゃないか、デビューしてないしな」
「ならばこの事務所のメンバーを紹介しなくてはな。早速3人を呼ぶとしよう」
「ああ」
本題のインターンに関しては受け入れてくれるらしい。
しかし未来、か。
今までずっと出久のために動こうとしか考えてなかったから考えたこともなかったな。
もしかしたら家庭を持つ未来とかもあるのだろうか。
……想像出来ないな。
俺は大人になっても出久に対して変わらぬ愛情を抱くだろう。それを許容出来る人の方が少数なんじゃないだろうか。
もし俺のそういう部分を許容出来る人物が居るならば、そんな未来もあるかもしれない。
どちらにせよ、今は出久を最高のヒーローにするべく活動するだけだ。それまで恋愛などしてる暇はないしするつもりもない。仮に人を好きになったとして俺は自分を殺す。押し殺すことは慣れているし、出会いなんてそのうちあるだろう。
もしかしたら既に出会ってるかもしれんが、結局俺には未来は分からないのだ。
有り得ないが、死んでるかもしれないし。
いや待て、出久に嫌われたら生きる気力無くすからガチめにヤバい。その時が俺の死か……!
出久ー! 俺を嫌いにならないでくれー!!
お兄ちゃんは出久のためなら何でもするぞ!!
誤字確認の為に読み返したらお兄ちゃんの感情の振れ幅に書いた本人である自分がついていけない。
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい