どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
──君はヒーローになれる。
僕にそう言ってくれたのはNo.1ヒーロー。オールマイトだった。
登場以来、犯罪の発生率は年々減っていき、一気にNo.1の座に躍り出たトップヒーロー。
名実ともに平和の象徴である男が、『ヒーローになれる』と言ってくれたのだ。
支えとなってくれた兄以外に初めて、あのオールマイトが。
ヒーローになれないと自分の夢を否定してきた人たちの声と顔を思い出しては、消えていく。
憧れのヒーローが言ってくれたのだ。
──これ以上の衝撃があるか……!?
これ以上の──
「君なら私の力、受け継ぐに値する!!」
「──へ?」
………なんて言った?
「なんて顔しているんだ!? 『提案』だよ! 本番は此処からさ! いいかい少年!」
オールマイトの言葉が、僕にはよく分からない。
力? 受け継ぐ? 提案?
何を言っているんだ、オールマイト。
オールマイトの個性は週刊誌などで説明出来ない身体能力に幾度も『怪力』だ。『ブースト』だ、と囁かれてきた。
決まってインタビューでは常に爆笑ジョークで茶を濁し、オールマイトは自分の個性の話を煙に巻いてきたほどだ。
顔に出ていたのか、オールマイトは話してくれる。
「私の”個性“は、聖火の如く歴代の継承者によって受け継がれてきた物なんだよ」
「受け継がれてきた……もの……!?」
「そう、そして次は君の番という事さ!」
「ちょっ! ちょっ待っ………待ってください!?」
「オールマイトの個性は確かに世界七不思議の一つとして喧々囂々と議論されてきた。ネットじゃ見かけない日はないくらいにでも、個性を引き継ぐってそれはちょっと意味がわからないというかそんな話今まで聞いた事も無いし議論の中でも推測されていないわけでソレは何故ってつまり有史以来そんな個性は確認されてないからっていうかそもそもアレは生まれつきの固有の身体的特徴であって自己を確立する要素だからこその
「──君はとりあえず否定から入るな! ナンセンス!」
「ナ……っ」
オールマイトに言われてから考えが口から洩れていたことを今悟った。
「私は隠し事は多いが嘘はつかん!
一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い、次へ。そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた――力の結晶!!」
そうやって、オールマイトにとって大事な秘密を、今まで”明かされたことの無い個性“のことを僕に語ってくれた。
一人はみんなの為に。
今の時代じゃあまり聞かなくなった、チームワークが大切だというスローガンの一部。確か元は外国の小説だった気がする。
「そんな大層なもの何で………なんで僕に、そこまで──」
「”無個性“で只のヒーロー好きな君はあの場で誰よりもヒーローだった! ……元々後継は探していたのだ。そして君になら渡して良いと思ったのさ!! ……まあ、しかし君次第だけどね! どうする?」
話が大きすぎて整理するのに時間がかかるけれど、また出そうになった涙を力強く拭う。
ここまで言ってもらえて。僕なんかに大事な秘密まで晒してくれて。
……あるか? 断る理由なんて……! ない! あるわけないだろ!
「お願い……します!」
「即答……! そう言ってくれると思ったぜ」
強い意志を宿して受け継ぐことを承諾すると、オールマイトはしなびたトレードマークの髪を掻き上げながら何処か嬉しそうに言っていた。
結局ねじれに付き纏われた俺は帰るのに少し時間が掛かってしまった。
だというのに、出久の帰りが俺よりも遅い。
既に太陽は沈み、もう夜となっているのだ。今まで夕方になることはあれどここまで遅くなることはなかった。
も、もしかして何かあったのでは!? 俺が察知出来ないようなことが起きた!?
俺にはまだお兄ちゃん力が足りないのか……!?*1
心配な気持ちが強すぎて、リビングをひたすら行っては戻っては何度も往復する。
気持ちだけが焦る。
迎えに行くべきか。それとも待つべきか。
「転間、心配なのは分かるけど出久だってあと一年で高校生よ?」
「だけど母さん!」
あの天使だぞ!?
この世の存在とは思えない可愛さと優しさを兼ね備えた上にピュアに育ってくれた完璧な存在が誘拐される可能性なんていくらでもある!
それでもし出久の身になにかあったりヒーローになれないような後遺症や”最悪“になれば、俺はこの世界を滅ぼしてしまうぞ……!!
出久の居ない世界なんて要る? 要らないだろ。
それに口ではそう言ってはいるが、母さんも手は全く進んでいない。
そういえば母さん、原作では太ってたけどこっちでは太ってないんだよな。
うーん、ダメだ……そうなった理由すら頭の中から消えてしまっている。
まあ美人って褒められてるし悪いことじゃないか。
「ハッ!」
出久の気配が近くにする!!
猛ダッシュでリビングから出た俺が玄関に近づくとちょうど鍵が開けられたところで。
「お母さんただい――まッ!?」
「出久大丈夫か!? 怪我は!? 誰かぶちのめしに行くべきか!?」
瞬時に抱きしめた俺は出久の怪我がないか体に触れて確かめる。
怪我は特に無さそうだ……ヨシ。
勘が問題ないと言っていても”もしも“がある可能性があるからな。
「お、お兄ちゃん……帰ってたんだ。大丈夫。僕は大丈夫だよ」
「そうか……ならいいが。それにしても……なんかいいことがあったか?」
俺が二回も危機を感じ取った割に帰ってきた出久はどこか嬉しそうで。
ただ目元が少し赤くなっている。
泣かされた? 爆豪がなんかやったか? 処す? その後に何かあったのか出久が機嫌良さそうだから今回は許してやるか……。
あんなやつでも俺の天使が悲しむならせいぜいボコボコにする程度しか出来ないし。
「そっ、そうかな!?」
「俺から見たらそう見える」
「そ、そっか……うん、ちょっとね」
言いたくないならこれ以上は聞かない。
お兄ちゃんは弟を尊重するものだからな。
ひとまずリュックサックを受け取り、代わりに持って行ってやる。
はて……出久の機嫌から考えるとこの時期って何かあったっけ。もうすぐオールマイトと出会うはずだが。
つまりワンチャンダイブ発言もされたのでは? もしそうだったら出久の機嫌が良くなかったら殴り込んでたところだった。
結局オールマイトと会う時って詳しい日付は書いてなかったはずだしなぁ。
まぁ幼少の頃に決めたように、出久の器は既に完成している。
俺の見立てでは個性に慣れたら……つまり入試時点で10%までは使用可能なはずだ。
あとはフルカウルをどう習得するか、だな。
俺としては全部教えてやりたいけど、教えるだけじゃ良くない。
弟の成長を見守るのもお兄ちゃんの
ご飯を食べたあとは出久はさっさと部屋に戻ってしまった。
なんでも今日ニュースになっていたヒーローの記事をまとめるんだと。
うんうん、頑張ってる出久も最高だな。
「転間、風呂入っちゃいなさい。もうすぐで沸くからー」
「りょーかい」
着替えを持って風呂場に行こうと思い、立ち上がったところでスマホの通知音が鳴った。
無視してもいいが、何か大事な要件だったら困る。
立ったままスマホを手にして起動するとLIKEを開く。
「甲矢?」
メッセージが来ていたのはクラスメイトだった。
桃色に染めているショートヘアと、ピアスが特徴的なボーイッシュな女子でこいつも俺と同じクラス。
ねじれの親友らしい。
『聞いたよ。明日ねじれと喫茶店に行くんだって? どうせアンタのことだから忘れてるでしょ?』
……そういえばそんなこと言ってたな。
普通に忘れてた。
なんでわかったんだよ。
『なんで知ってる?』
『ねじれから聞いた。それ明後日に出来ない?』
『なんで?』
『察しなさい』
これもうモラハラではないだろうか。
何を察したらいいんだ。
明日の帰りに寄ったらいいものでは? 一日遅くしても変わらないだろ。
『理由を』
『察しろ』
『理由を』
『察しろ』
『そんな機能はない』
『女子には女子の準備ってものがあるもんなのよ。どうせ空いてるんでしょ?』
『空いてるが』
『やっぱり空いてない』
『空いてるのね』
『ふざけるな、俺には弟を見守る大事な使命がある』
『弟さん、約束破る人どう思うんだろうなー』
『馬鹿野郎。明後日でいいに決まってるだろ』
『ちょろすぎない? ねえ、私から言っといてなんだけどちょろすぎない?』
別にレスバで負けた訳ではない。断じて負けたわけではない。
よくよく考えたら今日誘っておいて大して何も決めてないのに早速明日行こうなんてどうかと思っただけだ。普段気にせずに行ってるけど、明日はたまたま俺も気分じゃないだけだ。それに明後日なら金曜日だしな、うん。学校ないし遅くなってもお互い平気だし。*2
『ねじれは問題ないのか』
『私から伝えとく。ちゃんと待ち合わせするように! 時間厳守だかんね』
まあいいか。
何を考えてるかは分からないが、風呂入らないといけないし好きにさせよう。遅くなろうと早くなろうと約束さえ破らなければ怒られないだろう。
そう思ってスマホを閉じようとしたら、ふと吸い寄せられるように一つのニュースが目に入った。
強力なヴィランに抵抗し続けたタフネスの中学生のことが話題に取り上げられており、オールマイト登場直前友達らしき中学生が飛び出したらしい。
へえ、そんなニュースが……ん?
近辺。
商店街。
オールマイト。
タフネス。
「商店街!?」
「えっ! 急にどうしたの!?」
母を驚かせてしまったが、そんな場合ではない。
まさか、と俺は急いでスマホでニュースについて調べる。
すると出てきた情報から俺は今日のことを全て理解した。
一度目の危機を察したのは恐らく出久が帰り道で襲われたということ。
そして二度目は爆豪を助けるために駆け出したということ。
出久の機嫌が良かったのはオールマイトと無事に出会い、後継者として選ばれたから。
これに関して俺は助けに行ってはならない。
俺ならヘドロをぶちのめすことが出来るが、そうすれば出久は後継者として選ばれなくなる。
だから現場に辿り着いてたとしても俺は頑張って我慢していただろう。何とか、多分。
いや我慢した結果、出久が駆け出したあとは間違いなくヘドロボコボコにしてる。多分原型無くす。ヘドロからミニヘドロにさせてしまう。
そうか……確か二日後だから4月8日か。
ん?
二日後。
継承予定日。
俺。
予定。
ある。
仕方がないとはいえ、ただでさえ何もしなかったのに。
監修したのは俺で、器を完成をさせていると知っていてもお兄ちゃんとしては心配で、だというのに呑気に友人と出掛けるお兄ちゃん。
出久に嫌われる……!?
あっ、あっ、あっ、そんなの死ぬ……。
「あ……あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!」
ゾンビのような呻き声を出した俺は、口から魂が抜けていく。*3
「転間!? 大丈夫!? 転間!!」
「お母さん、どうし……転間兄ちゃん!? 何があったの!?」
この後、心配する母と騒ぎに気づいて出てきた出久が心配してくれて、抜けつつあったことに気づいた俺はちゃんと口の中に魂を戻した。
出久には明後日友人と出掛けることを話したら不思議そうにしながら嫌いにならないと言ってくれたし。*4
心底安心した。
首を傾げる出久、最高にかぁいい。
全回復した。
二日後。
兄は今日友人と出かけるらしくて、遅くなるらしい。
なんだかいつもの太陽に陰りがあって沈んでいた。
何か悩み事があるのかな……僕に解決出来るなら力になりたいけど。
「やあ、来たね緑谷少年」
「オールマイト!」
朝6時だからか誰も居ない。
海浜公園は漂着物が多くて、そこにつけ込んで不法投棄もまかり通っている。
だから地元の人は寄りつかなく、人気はない。
ゴミばかりで掃除も出来ないため、そのままになってしまっている。*5
「さあ、始めようか!」
「はい!!」
僕はあの日、受け取るかどうかの返事したあとに、
僕は昔から兄のお陰で身体だけは鍛えられていたのもあり、オールマイトもすぐ継承出来る状態だったことに驚いていたのは記憶に新しい。
お陰で発現するまで時間がかかり、すっかり夜になって兄や母に心配かけちゃった。
それからというものの、昨日から特訓が始まっていた。
内容は主に個性『ワン・フォー・オール』の威力制御だ。具体的には、海浜公園に不法投棄されたゴミの掃除をする。
学校に行く前に行い、学校が終わったあとにもやる。
そしてこの海浜公園には缶やペットボトルといった軽いものや冷蔵庫や室外機など大きなものまで、大小様々なゴミが棄てられている。
必要に応じて個性を使用し、出力のコントロールをより良くして行くというもの。
というのも、僕はまだオールマイトの100%を使えない。
昔転間兄ちゃんが『完全に身体が出来上がってない状態で全力を使えば痛い目に遭うから、ちょっとずつ出力を上げることで制御出来るように体を慣れさせているんだ』と言っていた。*6
だから使ってみよう、と言われた時に初めて使う僕ならオールマイトと同じ威力を出して腕が壊れるんじゃ……とオールマイトに言ったらオールマイト自身も『確かに!!』と言っていた。
それから一昨日はOFAが馴染んでからゆっくりと引き出す練習をして、昨日は学校や家に帰ったあと以外は一日制御に時間を注ぎ、なんとか終わるギリギリで5%を引き出すことに成功した。
怪我をしないように、本当にちょっとずつだったから劇的なパワーじゃないけどオールマイト曰く一日でこれなら十分過ぎる成果とのこと。
本当に転間兄ちゃんには感謝してもしきれない……。*7
もしかしたら腕を壊してたかもしれないもんね。
しかし特訓の内容こそ簡単に見えるが、実はこれが難しい。僕としては生まれて初めて授かった個性だ。兄や幼馴染という参考に出来る相手はいてもあくまで見ていただけ。
他の人が幼少の頃から慣れているものも僕は今から身につけていかなきゃならない。
当然使い勝手は分からず、慣れてすらいない。
だから無理に出力を引き上げるのではなく、個性に慣れるところから始める。
そうじゃないと力のコントロールが上手くいかずにダメージになる危険性が高いからだ。
そのため今引き出せる、安定した出力の5%を使う。
そうして荷物を運んでいくけれど、やはりと言うべきか途中で集中力が途切れてOFAが切れてしまう。
持ち前の筋力で何とか地面に落とし、深呼吸を挟んで両腕に5%。
また走っていく。
やっぱり使う筋肉以外にも全体に負荷がかかる。
まるで全力疾走しながらダンベルを持ち上げてるかのような感覚とでも言うべきだろうか。
コントロールに意識を割きつつ、ちゃんと前の情報を取り入れなければゴミや砂に足を取られて転んでしまう。
これはかなり大変。
だけど雄英入試まであと10ヵ月!
オールマイトもずっと付きっきりで見てくれる訳じゃない。
だから頑張るぞ!!
二年生になったのもあり、一年生の頃よりも本格的なヒーロー科の授業だ。
一番下だった俺らも先輩になり、自覚を持つようにとのこと。
そしてここからは仮免許を取得することを目的に動いて行くらしい。
まあそこはどうでもいい。
実は俺は他の面々と違い、既に仮免許を持っている。*8
というのも非常に
こんなことならトップヒーローのところに行けばいいだろとか適当に選ぶんじゃなかった。
その
しかも俺一人だけ一年生で周りは全て年上な上に経験も上とかいう苛めを受けた。
体育祭で個性バレしているため、上の先輩方に教えてもらったが雄英潰しということで狙われるんだと。
そこに一年生の俺が居たらどうなる? 経験の浅い一年生*10を誰だって狙う。なんなら俺も狙う。
つまり、だ。
俺は見事雄英以外の全員から襲われてしまった。
なんでも雄英側としては特例で俺を出したんだと。もう一年くらい待てよ。
結果はまあ、免許ある時点でお察しだ。なぜ合格したかって? あれは一年前に遡っ──てると一日が終わるのでやめとこう。
簡単に言えば出久が『一年で仮免試験!? 転間兄ちゃん凄い……! 頑張って!』と言ったんだ。
じゃあ合格するに決まってるだろ。俺を誰だと思ってるんだ。お兄ちゃんだぞ?
弟の期待に応えてこそだ。
しかし早くに仮免を持ってるとはいえ、サボるわけではない。
イレ先から『お前仮免許持ってるなら来月俺が担当している一年の面倒見ろ』とか言われたからだ。なぜ。
どうやら個性把握テストの時に見込みなしと判断して除籍指導によって
男のツンデレとか出久以外可愛くないぞ。
というか来月って、体育祭控えてるのだが……。
そもそも俺の時はそんなことしなかっただろ……。*11
とにかく来月は新一年と対面だ。何言うべきか考えとこう。
今は──忘れかけてたけどねじれと喫茶店行くから放課後のことだな。
出久がOFAを継いで怪我しないかは心配だが、お兄ちゃんセンサー*12が反応を示してない限り大丈夫だ。反応があれば今回は全速力で突撃しよう。
邪魔するやつは居ないし。
……いきなり100%を使わせて怪我させたら許さんぞ、オールマイトォ!!
そう、呪いに近い想いを込めといた。
「うう……なんだか寒気が……。気のせいかな?」
約束通り放課後に指定された場所で待っていると、ねじれが手を振りながらこちらに向かってきているのが見えた。
わざわざ着替えたようで雄英の制服ではない。
俺はこんなことのために待たされたのか……。
そもそも制服って汚れると面倒だからまだ分かる方か。
ちょっとでも汚れがあったりよれてたら言われるビジネススーツよりかはマシなんだけど。
ん?
『ちゃんと褒めること』
……甲矢、お前の仕業か。
一体何をさせたいんだろう。
いいだろう、乗ってやる。
「お待たせ〜」
「10分くらい待った」
「そこは今来たところって言うところじゃないの〜? 有弓そう言ってたよ?」
「友人同士で出掛けるなら気遣う必要ないだろ」
「それもそうだね!」
恋人や出久に対してならまだしも。
それはそうとねじれを見つめる。
まだ春になったばかりで少々冷える。白い長袖の服に水色の二重フレアスカートといった服装。春服って感じだろう。
褒める言葉か、褒め言葉……。
「(出久の方が数百倍可愛いけど)可愛いぞ」
「絶対思ってないよね」
褒めたはずなのに機嫌が悪くなった。
入学したてのねじれを思い出す機嫌の悪さだ。あの刺々しい頃は懐かしいな。
しかし本当のことを言っただけなので俺は悪くないだろう。嘘は良くない。何より俺にも譲れないものはある。
確かにねじれは一年の時にミスコンに出ていたくらい世間じゃ美少女という分類らしいが、出久の方が可愛いのは事実だしなぁ。
ちなみにミスコンはサポート科の
負けて悔しそうに俺に色々言ってきたから覚えてる。
あれも毎年盛り上がってるイベントなのもあり、ねじれに誘拐された……ために巻き込んだ環とミリオたちと一緒に見てたが、そりゃあの人相手に派手さで挑んだら勝てないだろう。
学校一の美少女を決めるってよりかはパフォーマンスで印象を残したもん勝ちだからな。
「それより、早く行こ!」
「道分からないだろ」
「だから早く連れてってー」
「仕方ないな」
手を引っ張って連れていった俺は席に座って注文した後、届いた品を見る。
飲み物は珈琲にした。あとガトーショコラ。
ねじれはジャスミンティーとフルーツタルト。
各々食べることにしたが、評判通り美味い。珈琲も良い香りだ。
ねじれもジャスミンティーに満足してるみたいだし。
出久もここに連れてこよう。
疲れた脳や体にはちょうどいいだろう。
ちょっとお値段はするが、俺の小遣いと働いてもらった金の七割は出久のために使ってるから問題ない。残り三割は友達付き合いと出久のプレゼントやら必要な経費。
昔は親から貰うしかないから貰った有り金の全部使って出久の限定オールマイトグッズのくじを引いたり夏祭りや新年の屋台の景品を手に入れたりUFOキャッチャーやったりで溶かしてたが。
そんなお兄ちゃんムーブする俺を心配してか母さんは欲しいものをないか聞いてたけど、出久の喜ぶ顔があったら十分だった。
そもそも前世の記憶を持つ人間だから欲しい欲が薄れているしな。
『食べさせ合いっこしろー!』
通知が来たので見たが、無言でスマホの電源を落とした。
友人同士でもやっていい事と悪いことがある。そのうち、恋人がやるようなことはだいたいアウトだろ。
というか何処からか見てやがるな……。
後で特定しとこ。
「転間くん?」
「なんでも。ほら、俺のも食っていいぞ」
「いいの?」
「ああ」
「わーい!」
ねじれは置いてあったフォークを取ってガトーショコラを口に運ぶ。頬に手を当てて、物凄く機嫌が良い。
ただ、なんで俺が使ったフォークで食べたし。
いや、フルーツタルトの方で食べたら味が混じるか。新しいの持ってきてもらうのも面倒だしな。
「でもどうして? 転間くん甘いもの嫌いじゃないよね」
「カロリーオーバー」
母が作ってくれる晩御飯を考えれば一日に摂取していい量を超える。
今日はそんなに運動してないから控えめにしないと。
別に食べてもいいけど、元々機嫌取りのために来たから食べたい気持ちはあんまりないし、ねじれが美味しそうって言ってたのも聴き逃さなかったから頼んだだけ。
一口食べてこの店は出久を連れてきていい味と分かったしな。味に関しては出久と楽しむとしよう。
そう思いながら言っただけなのに、ねじれが固まった。
目が開いたままだし無表情なのがなんというか、こう……怖い。
「うん、そっか。うん……」
「?」
「はい」
「これは?」
「食べて」
何故かタルトの方を俺に渡してきた。
いや、いいけど。
もしかして味がイマイチだったのだろうか。
そう思ってフォークを使うのは気が引けたので手で食べたら、普通に美味かった。
いい果実を使ってるのか味が負けてないしそれぞれ甘みが凝縮されていて単体で食べてもいいし、上手く味が混ざるようにされてるのか一緒に食べても美味しい。
人それぞれ味覚は違うから何ともいえん。
「俺は雛鳥じゃ──ん?」
今度はガトーショコラを刺したフォークを突き出してくる。
まるで雛鳥みたいだ。否定しようとしたらねじれの背後の窓から何かが見えた。
『た べ ろ !』
プラカードを見えるようにか両手で掲げている。
何やってんだ……あいつら。
てっきり甲矢だけかと思ったら何人かクラスメイト居るぞ。環だけ非常に申し訳なさそうにしてることから、あいつは巻き込まれたんだろう。
不審者ってことで警察に電話してもいいんじゃないだろうか。環は流石に可哀想だから許してやろう。他はギルティ。
「転間くんが食べたらこっちは私が食べるね」
「最初に食べたから良くないか?」
「ちょっと多いから食べて欲しいなーって」
そう言われたら断れないので、大人しく食べた。
後ろで盛り上がってるヤツらはあとで殴りに行こう。誤解してるだろうしな。
そして結局俺がフルーツタルトを。ねじれがガトーショコラを食べた。
なんだかんだ半々になってしまったが……仲良しか。
フルーツタルトに関しては俺は手で食べることになったが、食べ終わって少し雑談したらお金を俺が払ってねじれを連れて店の窓から見えた場所──より少し離れた場所に向かう。
「そこにいるのは分かってるぞ」
「やば!?」
「え? 有弓? それにみんなも……なんでなんで? みんなも一緒に食べたら良かったのに!」
それは俺の財布が死ぬからやめて欲しい。
「い、いやー、これはその、尾行してたわけじゃなくて。たまたまね! じゃ、じゃあ帰るからごゆっくり〜」
「ああ、またな――と言うと思ったか? 逃がすかっ!!」
「うわああ! 逃げろー!」
この後、ねじれが追いかけっこに参加するだとか言い出したせいでただの追いかけっこになったが、俺は忘れず拳骨は与えておいた。
人のプライバシーに関わるからな、良くない。