どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
――転間はすごいやつだ。
初めて転間と会ったのは入学して間もない頃。
雄英に行くために登校していた時、たまたま目撃したのは交通事故になりかけていた現場を見た時だった。
その場に居た誰もが動けなくて、俺が気づく頃には遅すぎた。
そんな中で、誰より早く誰よりも冷静に飛び出して救出していたのが転間だ。
運転手も轢かれそうになっていた人も助けて、無断で個性を使ったからかお礼を聞く間もなく逃げてたけど雄英の服だったから雄英の誰かなのは分かっていた。
一瞬の交差。
俺が動き出そうとしていたとき、ほんの一瞬だけ目が合った。
緑色の髪にエメラルドのような瞳。
顔までは分からなかったけど、特徴を覚えていた俺は休み時間を縫って探していた。
けど思ってたより早く見つけることが出来た。
というのも――
『――馬鹿野郎!! お前にとって弟はなんだ!? 大嫌いな相手か? 憎しみを抱く相手か? 違うだろうが! 俺には分かる! お前は弟のことが大好きなはずだ! 兄だから全部飲み込めとは言わない。お前は俺とは違うからだ! だけど仲違いして、もし仲直り出来なければどうなる? その機会が永遠と失われてしまえば辛いのはお前自身だろう!』
『血の繋がった家族は他には得られない、1度失ってしまえば二度と得ることが出来ない宝物だ! 他には無い、唯一無二の存在だ! 弟より先に生まれたお前は弟より人生経験は豊富だろう!? なら弟の心情を理解してやることも出来ないのかお前は!! 兄なら弟のことを理解してやれ! 兄ならもっと向き合ってやれ! 互いに足を止めてたら永遠と仲直りなんて出来ないだろ! その1歩さえ踏み出せば解決するだろうにそれでもお前はお兄ちゃんか!?』
『ヒーローである以前に!! お前はお兄ちゃん失格だ!!!!』
『俺が1度お兄ちゃんってやつを教えてやる! 表出ろ!!』
『落ち着いて転間くん! 流石に言い過ぎだから!』
『邪魔するなねじれ! こいつはお兄ちゃんってやつを何も分かってない! 叩き直してやらなければ!! 弟を大切にできないやつがヒーローになれると本気で思ってんのか! このバカ!!』
『け、喧嘩は良くない……』
それはもう、凄く目立っていたからだ。
昼休みの食堂。
その中で上級生相手に、喧嘩を売っていた。
誰に注目されようと気にも停めず、女の子――後に知り合った波動さんがすぐにでも暴れそうな転間を後ろから羽交い締めで止めていたし。
俺の親友の環も止めてた。
環が凄いクラスメイトが居るって言ってたけど……彼のことだった。
あの環に凄いって言わせる相手は気になってたけど、同一人物だったなんて。
そういえば容姿も名前も一致する。
結局、イレイザーヘッドが来るまで転間の暴れっぷりは止まってなかったけど、物理的に暴れたら波動さんや環が危ないからか攻撃ではなく口撃だった。最終的には捕縛布に拘束されて連れて行かれてた。
これは後の話になるんだけど、上級生の人は食堂の1件で弟と仲直りしたらしく、そのことを転間に感謝を伝えて、食堂での1件が広まったのもあってしばらくの間転間のところでは家族悩み相談室が強制的に出来上がっていた。
何はともあれ、俺が転間と会ったのはそんな日だった。
そんな姿を見たら、やっぱり面白そうな“問題児”だと思っちゃうんだよね。
『やっ、転間! で、いいんだよね?』
『転間ってやつが他に居ないならそうだろうな。……で、誰?』
『隣のクラスの通形だよ、転間くんも見たことあるでしょ?』
『全然。いや、顔は見た記憶あるな……まぁいいか。なんだ、B組ってことは体育祭前に喧嘩でも売りに来たのか』
放課後。
帰ろうとする転間に話しかけると、名前までは覚えてなかったらしい。
クラスが違うから仕方ないし、まだ入学してそれほど経っていないのでその点は特になんとも思わなかった。
『いやいや、そうじゃないって! 俺さ、転間が登校時に人を助ける姿を見て話してみたい! って思ったんだよね!』
『そんなことしてたの?』
『蒸し返すな、俺はあの後先生に個性を無断で使用したことを言われたんだ。まぁ褒められもしたが』
『ふーん。私にも言って欲しかったなー』
『怒られるところが見たかったのか……?』
『なんでそう思ったの!?』
『そういうことかなって』
『全然ちがーう!』
目がぱちぱちと瞬きする。
気が付けば置いていかれていて、漫才のようなことをする二人に仲良しさんだなぁと俺は思った。
『で、結局お前誰だ? 何が目的だ?』
『そうだ、自己紹介がまだだったね! 俺は通形ミリオ! 目的ってわけじゃないけど、転間と友達になりたいって思ったんだ!』
『そうか、俺は緑谷転間だ。こっちは』
『波動ねじれ! 天喰くんから聞いてるよ〜通形のこと親友って言ってたしどんな人かなーって気になってた!』
『環から聞いてたんだ! よろしく! 転間! 波動さん!』
『よろしくねー』
『帰れ』
『うん、――って拒まれた!?』
『忠告しとくが、そういう詐欺は良くないぞ』
『いや詐欺じゃないから! 本気で思ってるだけだって!』
『突然友達になりたいって言ってくるやつは怪しくないか?』
『まあ私は既に友達以上だけどね』
『お前は何のマウント取ってんだよ。お前とも出会ってまだ1ヶ月とちょっとだろ』
胸を張ってドヤる波動さんとは対極で呆れたように目を向ける転間。
本当に仲良しさんだ。
それに何処か楽しそうにも見える。否定もしてないしね。
『うん、やっぱり思ってた通りだ』
『あ?』
『面白いね!』
『何がだよ』
それから俺は来る日も来る日も隣のクラスで転間に絡みにいった。
もっと知りたかったし仲良くなりたかった。
そうして分かったのは転間が面白いやつだと言うこと。すごいやつだということ。何より誰にだって優しくて、人を思いやれる人物だということだった。
本人は口では自分のためだとか言ってるけど、それは他人のために動けるということは変わらない。
だから俺は友達として尊敬してるし、
何より俺は転間を俺自身の手で笑わせたい。転間が基本的に笑うのは弟くんのことかヒーローとしての時だけで日常的に笑う機会の方が少ない。
だから十八番で笑わせようとしたんだけど、環も笑ってたし波動さんもお腹を押えながら笑ってたというのに、転間だけは真顔だった。
けど、なんだか俺たち三人を見守ってくれてるようにも感じたんだよね、なんでか分からないけど。
笑ってはないけど、微笑ましそうにしてると言えばいいのかな。
たまに家族のことで暴走するけど見守ってくれて頼りになる転間。明るくて楽しい空気を作ってくれる波動さん。ネガティブになることが多いけど、本当は明るくて楽しいやつで凄い才能を秘めてる環。
環も俺たちと居る時は明るくなってて、俺もまたこの3人と居る時は内側から今まで以上の元気と勇気をもらえた。
この先もずっと、これからも一緒に楽しく騒げたらって。
その思いも目的は今も変わってなくって。
転間は大切な友達だし親友だ。
それと同時に、俺たちより前を行くヒーローでもある。
やっと仮免取って追いついたのに転間は本免許をあっさり取って、サーの元でもサイドキックどころかサーと同等レベルの仕事をこなして、力量だけならやろうと思えばプロとしてやっていけるんだと思う。
その背中を見てると遠くて、でも諦めきれない。
だから。
だから――
「転間が……死ぬ?」
サーから予知の内容を聞いた時は、信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
俺の中で転間はオールマイトのように強くて、あの人に誰よりも近い人物とさえ思っていた。
サーから聞いてたけど、転間の未来は曖昧らしい。
原因は不明だけど俺の未来が変化したことが多々あるのも転間の影響だったとか。
だからこそ、ますます理解したくもなかった。
そんな未来だけが、その未来が正しいと証明するかのように曖昧ではないなんて。
仮説が正しいなら転間なら未来を変えられるんじゃないのか。転間じゃなくたって、そのエネルギーが集まれば。
なのに。
「嘘だ……転間はなんて!?」
「……そうか、と」
「ッ!!」
「待て、ミリオ! どこに行く!?」
その一言を聞いた途端、頭に血が上る感覚があった俺はドアノブに手を置いて、サーの静止の声で止まった。
サーには感謝してる。でもこれだけは、このことは俺と転間の、親友だからこそ言わなくちゃならないことがあるんだ。
「転間のところに行く。今すぐ会わないと!」
「ミリオ……お前も分かってるはずだ」
――知ってる。
サーが未来を変えられないということに絶望していたことも。
未来を変化させようと様々なことをしていたことを。
苦悩していたことも。
行き詰まっていたことも。
俺をインターン生として呼んだのは別の思惑があることも。
俺を視た時に酷く驚いていたところも。
希望を抱いていたことも。
転間だけが未来を変化させられたことも。
俺では変えられないことも。
全部全部知ってる。
だとしても。
「未来なんて、そんな未来なんて俺が変えてみせる! 絶対に……!!」
「ミリオ……未来を変えるのは容易ではない……。私が視た予知ではもう……!」
「だからって受け入れられるのかよ! サーだって本当は変えたいと思ってるんじゃないのか!?」
「それは……」
言葉を詰まらせるサーを見て、俺はドアを開けて出ていく。
「待つんだ! ミリオ、まだ話の続きが――」
目的地は転間の居る場所。
今ならまだ、間に合う。
俺にとって転間は“特別”なんだ。
友達である以上に、転間は俺にとってライバルで、そして――
◇
ある意味死の宣告をされたものなのだが、特別不安に思うこともなかった。
そもそも俺が死ぬなんてこと、自分で言っちゃアレだがあるのだろうか。
そりゃ無個性の状態にされて個性の暴力をされたら死ぬだろうが、よっぽど強力でもなければまず耐えるだろう。
なら今の俺より強くなったであろう俺ですら勝てないような相手が居たのか。
もしくはそうならざる得ない状況に陥ったか……。
例えば個性を奪われてしまった、とか。
考えても分からないな、いつの未来か分からないが死ぬ可能性があるとだけ覚えておけばいいだろう。
正直想像つかないが……ナイトアイの視たものを直接視えたら別なんだが。
ま、その時になれば判るだろ。
そうして思考を投げ捨てて筋トレグッズを地面に落とすと汗を軽く拭いて服を中途半端に着てる最中で扉が勢いよく音がした。
首を出すと、音の発生源はミリオだ。
「転間!!」
俺の姿を見るや否や、普段とは違う険しい形相で近づいてくる。
「サーから予知について聞いた!」
「……そうか」
なるほど、まぁ友人が死の宣告をされたとなればこいつが黙ってるわけないか。
「そうかって……! なんで冷静で居られるんだよ!? 転間は死んでもいいのか!?」
「そう言われたっていつか分からないんだから今更慌てたって仕方がないだろ。そんなことで神経をすり減らすくらいならもっと有意義に時間を使った方がいい。後悔の残らぬようにな」
「っ……!」
俺の言葉にミリオは拳を握りしめていた。
それどころかショックを受けたようにも見えて、次第に顔の表情がますます険しくなった気がして。
「ふざけるなよ! 転間!!」
ミリオは俺の胸ぐらを掴んで、明らかに怒っていた。
こいつがここまで怒りを示すのは珍しいとは思ったが、俺の感情は特に動いたりはしない。
そもそもどこにふざける要素があるのか。
「悪いが俺は真面目だ、ミリオ」
「この――!!」
それを伝えると、我慢の限界と言わんばかりに突き出された拳を認識しながら俺は
体が回ってうつ伏せになったが、起き上がりながらミリオを見つめる。
息を荒くしながら怒りに染まった珍しい姿に、自然と笑みが浮かんだ。
「そーだな。お前とはガチで喧嘩したことはなかったっけ……たまにはいいかもな」
体を起こした俺はミリオと対峙する。
こいつは会った時からやけに俺に好意的だった。
裏表もなく、純粋に仲良くなりたいという気持ちも伝わってきた。
口にはしないが――友達ってならたまにはこんなこともしないとな。
「かかってこいよ、ミリオ。ここなら個性だって使える。今のお前の力がどの程度のものか確かめてやるよ。俺に勝てたらお前の言うことを聞いてやる」
「言ったな、転間! 絶対勝って考え方を改めさせてやる!」
オート防御を解除し、ミリオは上に着ていたものを脱いでコスチュームに早着替えしていた。
――ところで考え方を改めさせるって
まぁいいや。
「ミリオ! 転間!」
「ちょ、ちょっと何の騒ぎ!?」
「これは一体……」
「邪魔するなよ、ナイトアイ。バブルガール、センチピーダーさん。これは俺とミリオの戦いだ」
「だが……」
「ナイトアイ、これも
「……そうか」
それだけ言うとナイトアイは納得したように引いてくれた。
しかしナイトアイの返答が予想外だったのかバブルガールがギョッとしていた。
「サー!? いいんですか!? ミリオくんと転間くんが戦うんですよ!?」
「……彼の言った通り、これは
「そんな……」
心の中でナイトアイに感謝する。
ミリオは既に怒りを宿しながらも冷静になっている。
――成長したな。
感情は確かに武器だ。俺も怒りを抱くと自分の想像以上の力が出ることがある。ただ消耗が激しくなる上、冷静に周りを見えなくなる欠点を考えれば火事場の力にしかならない。
しかし怒りを宿しながらも冷静な判断が出来ればどうだろうか。
その力を制御出来るなら、もっと先のステップへといける。
見せてみろよ、ナイトアイが見出したお前の可能性。
「行くぞ転間!」
「来い!」
律儀にも合図するように告げたミリオは、走りながら地面に落ちていった。
容赦なく個性を使うつもりらしく、本気だ。
地中に潜られたらいくら俺でも対処法はない。せいぜい地面ごと削り取るくらいだろうが、それはミリオも理解している。
オート防御を保てば問題ないが、それじゃ
「後ろ」
背後から現れたミリオに対し、俺は振り向きざまに腕を振るう。
次の瞬間。
「と見せかけて左」
真横に現れたミリオの一撃を頭を下げて避ける。
俺が攻撃するより早く地中に逃げたようだが、俺はすぐに手刀を振るった。
すると石ころが砕ける。
古典的な手段を使う。
俺でなければ当たってたかもしれないな。
「なんで分かったんですかね……?」
「予測に対しての逆予測だろう」
その通り。
ミリオの予測を上回る予測で対応したまで。
こちとらどんだけ難しい個性を使ってると思うんだ。
ナイトアイに師事してレベルは一気に上がって面倒になったようだが、まだだ。
その程度じゃまだ足りない。
もっと先に行けるはずなんだ。
「通用するとは思ってないさ! 最初から!!」
なにか策を講じてくると思ったが、正面から向かってきた。
カウンター狙いの拳を突き出すが、すり抜ける。
狙いは背後を取ること。
突き出したあとの体勢から反撃に移るのは難しいが、もとより全力で振りかぶったわけではない。
軸足を変えながら振り向きざまに拳を振るうと、今度はミリオの頬に直撃した。
透過を発動しなかった?
僅かに驚いた隙を突いてか、ミリオの拳が俺の胸を打つ。
踏鞴を踏み、顔を上げた時には既に接近されていて、腕を動かす前に肩を掴まれたかと思えば体重を掛けてきて押し倒される。
身体能力の強化をしてなければ肉体を鍛えてる俺とミリオでも体格差というものが出てしまう。
「転間!」
跨がるミリオが拳を握りしめる。
当然身構えるが、ミリオは拳を振るうことなく胸ぐらを掴んできた。
「なんで……」
「……?」
胸ぐらを掴んだまま小さな声が耳を通り抜ける。
何処か声に震えがある気がする。
「なんで諦められるんだ……!」
「……」
「俺の知る転間は諦めたりしない! いつも大胆不敵で……傍若無人で! 何からも逃げたりしなかった! 困ってる誰かを見捨てられなくて、ひとりで抱えて! それでも成し遂げるくらい凄くて、強くて!」
「それなのに、なんで今回に限って諦めるんだ、諦められるんだ!? 死んだらもう誰にも会えなくなるじゃんか! いつもの転間なら、そう簡単に受け入れたりしないだろっ!!」
拳を振るってくるが、俺は両腕を交差して防御する。
普段より威力が高い。
人間は本来の力を出し切れてないからだろう。
それが怒りというトリガーで解放されている。
普段の笑顔がなりを潜めて、感情がありのままに解放されている。
「受け入れないで、諦めないで、足掻いてくれよ! ヒーローだからいつか死ぬかもしれない。それは分かってるよ! でも抗うことと受け入れることは全く別だ!」
「俺は友達が死ぬ未来なんて信じたくない。受け入れたくないんだ! 転間が死んだら俺は、環は、みんなが悲しむと思わないのか!? 何より波動さんはどうなる!? 独りにするのかよ!」
防御してると、ぽた、ぽたと何かが落ちる音がした。
血かと思ったが、それにしてはやけに水っぽくて。
交差してる隙間から涙を流しているミリオが見えた。
なんでこいつは泣いているのだろうか。
そんな場違いなことさえ思ってしまう。
そもそもこの場においてねじれは関係ないはずだ。あいつの周りにはもう人は居る。
「俺にとって、俺にとって転間はっ……!!
ただこれはミリオの本音なのだろう。この言葉を俺は聞かなくちゃならない。こいつの本音を受け止めなければならない。
だから――
「憧れなんだ!!!!」
「……は?」
全く想定外だったことに頭が一瞬真っ白になった。
行き場を失ったかのように落ちる拳と交差していた腕が外れる。
視界内に映るのは涙を情けなく流しているミリオの姿で。
憧れ?
俺が? こいつの?
何処にそんな要素があったんだ?
「いつも周りを笑顔にして、明るく照らして、受け入れてっ!! 誰よりも強い――俺にとって超えたい壁で、憧れなんだ……。だから、だからその転間が簡単に諦めないでくれよ……抗ってくれよ……なぁ、転間……ッ!!」
そう言ってまた俺の胸ぐらを掴んで顔を近づけて来たかと思えば、懇願するように告げていた。
涙を流す姿を隠すことなく。俺の顔にぽたぽたと落ちている。
――確かにこいつはよく俺に挑戦を持ちかけてきた。
だがまさか、ミリオ自身が俺のことをそう評価してるとは全く思わなかった。
友人やライバルに向けるものとしか俺には思わなかったからだ。
「……ミリオ」
「転間が頼ってくれるなら、俺も何だってする……! なんで独りで抱えようとするんだ……! いつもいつも、独りでやろうとする! 一言、たった一言くれたらいいのに……俺はそんなに頼りないのか……!! 友達じゃ、親友じゃないのかっ……!!」
ようやく、何となくだが理解した気がする。
そうか。こいつは頼って欲しかったのか、俺に。
だったら。
「歯ァ食いしばれよ!!」
「ッ!?」
その刹那を狙い、俺は手のひらを構える。
威力は最大限にしてはならない。
これは殺し合いではない。
そのために必要なのは力の分散。
指ではなく全体を使って。
「赫」
だからこそ、圧縮ではなく範囲を広げることで強い衝撃波程度で済ませた。
跨っていたミリオが吹き飛び、俺は体を起こして立ち上がる。
加減してもなお、ミリオは既に一撃で大きなダメージを負っている。
これが今の俺とこいつの力量差。いずれはトップヒーローに並び立つだろうが、今のこいつは俺の足元にも及ばない。
「っっ……!」
「これが今の俺の
「……そうだろうね、転間なら」
「どういうことか問い質したいところだが、今はいい。そこまで言うならぶつけてみろよ、お前の全部を。殺す気で、全力でかかってこい!! お前の目の前に居る相手は、いずれ最強のヒーローになる者だ!!」
手をついて起き上がるミリオに、俺は拳を握りしめて構える。
今まで全く向けていなかった、抱いてなかった戦意と敵意を宿して。
ミリオは気圧されたかのように一歩後退っていたが、首を振ったかと思えば拳を構えていた。
「転間ァアアアアアアア!!」
「来い、ミリオ!!」
全てを吹き飛ばすように叫びながら押し出されるように想定以上の速度で接近してくるミリオに対し、口角が上がった。
そして踏み込み。
俺もまた同様に踏み込みながら拳を突き出す。
そうなった結果――互いの頬に拳が突き刺さった。
いわゆるクロスカウンター。
僅かに傾き、俺の拳がミリオの胸を打つと横腹に衝撃が走る。
すぐに腹部に向けて膝蹴りし、肺から空気が抜けるような音が聞こえたが頭部を掴まれたかと思えば頭に衝撃が走る。
個性に僅かな乱れが生まれ、俺とミリオの殴り合いが始まった。
個性も使わない、ただただ普通の友人同士が殴り合うような、何処にでもあるような喧嘩。
唯一違うとすれば、互いに血を出しながら殴り合っているところだろう。
「ぉ……ぉおおおおおおおッ!!」
気迫。
迫らんとする――否。超えようとするような、負けられないというような強い覚悟と意志。
それを宿した拳が振り抜かれ、俺は全身から力を抜く。
ボディブローが深く突き刺さり、軽く血を吐く。
しかし俺は倒れずに笑みを深くすると、全力の拳を振り上げ、ミリオの顎を打った。
体が浮き、ミリオの体が地面に落ちる。
乱れた息を整えながら見下ろすと、ミリオは大の字になりながら荒い呼吸を繰り返していた。
しかし表情は先程よりもスッキリしてるようにも見える。
「は、はは……っぱ……転間はすごいや」
「お前も昔に比べれば成長したよ、ミリオ」
「……いいや、転間は最後の最後まで個性を使ってないだろ。本気だったならまず俺の拳なんて当たらないよ。体術だって……加減されてた。はは、俺じゃまだまだ届いてないな……」
それは否定しないが。
「……全く、喧嘩はもういいのか?」
「ナイトアイ」
「サー……」
終わったと見たのか、ナイトアイたちが近づいてきた。
バブルガールが結構はらはらしているが、放っておこう。空気的に。
ミリオもナイトアイたちに気づいて起き上がっていた。
「サー……やっぱり未来は変えられないのかな……俺は転間に勝てなかった。転間に考え方を改めさせたくて、生きて欲しくて、諦めないで欲しくって――」
「ミリオ、それなんだが……」
ナイトアイが珍しく言いづらそうな、バツが悪そうな表情を浮かべている。
俺もずっと思っていたのだが、俺とナイトアイ。ミリオの中で話が食い違っているのだ。
わざと口にしなかったけど。
ただ言わなかった俺も悪いので、俺が言うと告げるようにナイトアイを手で制する。
「ミリオ、そもそも俺は別に諦めてもなければ死ぬつもりもないぞ」
「え?」
そう、前提としてそこが間違えるのだ。
あたもかも俺が諦めてるように思っていたようだが。
「お前、俺が弟を残して死ぬことを受け入れるとでも思ってるのか?」
「い、いや……で、でも。え? だ、だって転間言ってたじゃんか!」
はて、なにか言ってただろうか。
そんなことを考えていたのが諸に表情に出ていたのだろう。
ミリオが困惑し、狼狽している。
対して俺はいつも通りで、何のことかやっぱり分からない。
「何をだ?」
「死んでもいいかって聞いたとき! 慌てたって仕方ないって。後悔が残らないようにって!」
「……ああっ!」
ミリオに言われて合点が言った。
なんだ、そんなことか。
もしかして誤解の原因はここだったりするのだろうか。
「誤解だって。というか俺ちゃんと言ったろ」
「ご、誤解? え? 言った?」
「仕方ないな……もう一度ちゃんと全部言ってやる。よく聞けよ?」
「(俺が死ぬ?)そう言われたって(俺の死の未来が訪れるのが)いつか分からないんだから今更慌てたって(未来のことは対策しようがないから)仕方がないだろ。そんなことで神経をすり減らすくらいなら(強くなったり対策するために)もっと有意義に時間を使った方がいい。(その未来が訪れた際に準備不足や対策不足によって未来通りになったりしないように)後悔の残らぬようにな。ってわけだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………あれ?」
俺の個性は時間に関連したわけじゃないのに度々時間が止まるなぁ、なんて考えてたら、誰も何も言わなかった。
ただこめかみを押さえて下を向くナイトアイ。顎を開いて愕然としてるバブルガール。顔を押さえて上を向くセンチピーダーさん。わなわなと震えるミリオの姿だけがあって――
「分かるかーっ!!」
ミリオの叫び声だけが室内に木霊した。
うるさすぎてつい耳を塞いでしまった。
「私の話を聞かなかったミリオや伝え切れなかった私にも非はあるが……流石にこれは転間が悪い」
「転間くんが悪いと思うなぁ」
「ええ、同感ですね」
「転間は言葉が足りないんだ! たまに明らかに足りてない時あるんだよね!!」
味方が誰もいなかった。
「ごめん!! 俺が先走った!」
「いやいいよ、なんか俺も悪いみたいだし。自覚ないけど」
「ああ、ううん。だよね」
ミリオが頭を下げて謝ってきたが、気にしてないと伝えた。
それはそうとこいつ失礼では?
まぁいいか。
「……転間」
「あ?」
急に真剣な顔をして見つめてくる。
告白でもする空気出すのやめてくれないか。こいつらしくない。
「俺、憧れるのはもうやめる!」
いつもの調子が戻ったのか明るくそう宣言する。
まるで決意の証明のようだ。
「憧れていたら俺はいつまでも転間を超えられない。まだ実力が及んでないことは自覚してるけど、仮に並ぶほど強くなったって憧れてしまったら俺は勝ちたいと思いつつ、心の底では負けて欲しくないと願うから……だからやめた!」
「そうか……ま、その方がいいんじゃないか。その方が対等な感じがして、なんだ……友人って感じがするだろ」
「転間がデレた……」
「デレてねえよ」
「けど、うん。そうだね、その方が大親友って感じだ!」
また格上されてるんだが、このまま行ったら最後何になるんだ……。
「とにかく話を戻すと、ナイトアイの視た俺の予知は変えられないんだ」
「どういうこと?」
「考えてみろ、未来ってことは今の俺より強くて最強になってて弟愛がさらにパワーアップしてるはずの未来の俺が死を迎えたってことになるだろ?」
「うん、今より色々と成長してることが確定してるかみたいに言ってるけどそうなるね」
「つまり今の俺より最強になった俺が死んだってことは、この先の未来で俺はどう足掻いてもその未来は避けられない。だが、それは俺
「……! そうか、もしかして転間がそれっぽいこと言ってたのって!?」
「いや、殴られた時にちょうどいいなって。あれほど怒ってたらお前全力でやるだろ」
予想が外れたからかズコーン、とミリオは転けていた。
実際それまで大して考えてなかった。
「俺が変えられる未来は恐らくだが格下の相手のみだ。同格や運命力とでも言おうか。それらが強い者を相手にするなら未来を変えるエネルギーは俺一人では補えないんだと思う。そのように俺の未来を変えるには大きなエネルギーが必要になるんだろう。本当は一人でやるつもりだった……が、ミリオ。お前がそこまで言うならお前には強くなってもらう」
「……! うん、何だってするさ! その未来を変えるためなら!」
「じゃ、残り1週間覚悟しろよ。ギリギリまで追い込むからな。とりあえずトップヒーローとまではいかないが、個性を完全に扱えるレベルに」
言質は取ったので、指を鳴らしながら、それはもう素敵な笑顔になってるであろう俺の顔を見てかミリオは顔色を悪くした。
「お、お手柔らかに」
「無理だ」
ナイトアイたちに一言告げたのち、ミリオの首根っこを掴んで退室した。
こいつに必要なのはとにかく予測。
予測能力に関しては結局経験だ。経験則に勝るものはない。
予測と経験を身にさえつければこいつは必ず、立派なヒーローになれるのだから。
余談だが、悲鳴がナイトアイたちの仕事場まで響いてたとか。
◇
――絶望という言葉がここまで似合わない人物は彼ぐらいなのだろう。
死の宣告をされた、本人でもない私が冷静さを欠いているというのに、彼は普段通りの様子だった。
たった一言、納得したような言葉だけを告げて。
「緑谷転間。貴様は本気で受け入れるつもりか?」
だからこそ、言わざるを得なかった。
はっきり言って、この未来が訪れるのは最悪な未来だ。
まるでオールマイトの死の未来が、そのまま転間に移ったようにも感じられる。
いや……何故かそうなのだ、と確信してしまっている。
本来なら喜ぶべきなのかもしれない。ようやく変えられる、オールマイトの未来。
然し私はもう既に、彼のことを他人だと思っていない。
私に希望をくれた相手を、どうして見捨てることが出来ようか。
「それが最善の未来ならそれでいい。最悪の未来なら俺が変える。それだけの話でしかない。俺にとって生きる目的はたった一つだ。まぁけど、そもそも受け入れる受け入れないの話じゃないんだよ。俺はお兄ちゃんだぞ?」
簡単に言っているが、転間自身も未来を変えることは容易ではないというのはわかっているはずだ。
未来の転間は今の転間よりも強いはず。
私が視た未来は殺されていた未来であって、ほとんど結果しか視えなかったが。
「……今ユーモアは必要ないだろう。今度は本当に未来は変わらないかもしれない。少なくとも私には未来を変えることは一度たりとも出来なかった。私はオールマイトの未来を……」
「あんたもヒーローなら諦めんなよ。もう一度言うが、心で負けてちゃ何も変えられない。未来を変えたいなら、本気で変えたいと願うならその時が来るまで足掻いて藻掻いて這いつくばってでも足掻き続ければいい。どうしようもなくなったその時は、俺が未来を変える。捻じ曲げてやる。何度だってな。だから安心して突っ走って失敗しとけ。あと何よりあんたらは話し合え、次に何かが起きた時どうするんだよ」
「全く……貴様は簡単に言ってくれるな。私が視る未来は絶対だ。いや、絶対“だった”。話した通りだ。分かっているだろう、私の予知通りならば――」
「大丈夫だって。なんたって俺は
本当に不思議な少年だと思う。
彼がそう言うならば本当にそうなのだと思えてしまって、最強だと自身で告げる彼は傲慢のようにも感じられるが、優しさのようにも思える。
――彼の居る未来は、明るい未来になっている。
だからこそ、私も覚悟を決めることにした。
いつまでも仲違いしていてはオールマイトの未来を変えることなんて出来やしない。
彼が選んだ、本当の継承者。
オールマイトの未来。
転間の未来。
全てに繋がりがあるなら――今度こそ未来を変えるんだ。
一人では無理ならば、他から力を得たらいいと教わった。教わってしまったのだから。
私が諦めていたら未来が変わることはない。これからはどんな未来であろうと逃げず変えるために動く。
だから私はもう、決して諦めない。
その覚悟を宿して、振り向かずに手を振って部屋を出ていく転間を見ながら私はそう決意した。
緑谷転間――彼は、No.1になるべき、あの
……とにかくオールマイトに連絡するとしよう。
貴方にも見て頂いたい、象徴の代わりは、貴方の代わりを――それ以上になれる存在は、既に現れてるのだと。
彼は、希望と光を与える存在なのだと。
貴方の時代から、新時代がもうすぐそこに来てるのだと。
彼はいつか必ずなる。
平和の象徴――いや
その日を迎えられるように、私は未来を変える1歩を踏み出すことにした。
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい