どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
――なるほどな、道理で
調査が始まって数日、怪しい施設を見つけたため、ひとまず3箇所を一斉に襲う算段だった。
俺は地下の施設に向かったのだが。
俺の力を見せた次の日のいよいよ調査開始の時に二人から聞いた話を思い出した。
『不審な実験、ですか』
『なんでも宇宙人だの宇宙から飛来したものだの、人が消えたり謎の病に掛かったりなどきな臭いことが起きてるようでな』
『宇宙……それはまたスケールの大きいことで。まぁでも、人類だって今頃宇宙に進出しててもおかしくはなかったわけで生命体が居てもおかしくはないですね』
『思ってたよりかは冷静だな……少なくとも私たちが相手したのは人の形をしていなかったり歪だったりした。オリジンも気を付けるといい』
そんなこんなで妙な噂の大元を調べてるわけだが、ベストジーニストの警告は一応聞いていた。
その上で思うのが、ここに来たのが俺で良かったということだ。
他に誰も居なくて良かったとも言える。
というか見る人にとってはトラウマ不可避だろう。
蝗害といえば誰もが察するだろうか。
いわゆるバッタの大量発生のこと。
1万の大群で4000kmを移動し、広大な田園を七日も経たずに食い潰すということがあった。
繊維製のものならば何でも食うため、北海道の明治時代開拓期には衣服さえ齧られてボロボロになったといった記録が残っていたはず。というか被害が多すぎて世界中で起きてる。
文化次第では家まで食べるとか。
そもそも普通の孤独相のバッタは主にイネ科の植物を食べるのだが、群生相に変化したバッタは食性が大いに拡大し、被害は農作物のみに限らずあらゆる草本を食べる。
それどころか家畜や人間の毛まで食べてしまうらしい。
つまり、だ。
今俺を囲んで食べようと頑張ってるこの大量のバッタたちは俺を殺す気満々だということ。
これ俺じゃなかったら危なくないか?
ベストジーニストは人間相手には強いが、それ以外だと操れる部分は少ないので戦闘能力は落ちる。
エッジショットはこういった虫でも戦えるが、流石に1万はキツイだろう。
というか、多分これ1万超えてる。
プロの二人だからこんな逃げ場を塞がれた状態にならずにすぐに撤退するだろうけど。
俺は別に撤退しなくても避けなくてもいいからその場で留まってるわけで。
そもそも、こうなった際に対処出来るヒーローは限られるだろうなぁ。
オールマイトはまあどうせパンチで何とかするだろうし、スターはほぼ何でもありになってしまった*1ので何とかなるだろうし、となると火力的に考えればエンデヴァー?
ただここ地下だから地下で大火力はダメだろう。息が出来ない。
少なくとも寄せ付けないヒーローでなければ食い殺されるため、ランカーでもキツイだろうな。
俺もこの光景を見るのもキツくなってきた。
人間ではない。
個性か、それとも純粋にバッタを改造でもしたのか。
少なくとも分かるのは、普通のバッタの倍くらいにそれぞれでかい。
普通にホラー。
「蒼」
とりあえずいつまでも邪魔臭いので、引力による反応を生み出すと薙ぎ払う。
1万いるだけあって追加がやってくるが、次々と吸い込まれては圧死して木っ端微塵になっていた。
しばらくそうしてると数が減り、ついにはバッタの群集は居なくなった。
こんなものかと思ってると、暗闇の中で何かが光る。
同時に俺は背中から倒れ、頭上を何かが過ぎった。
「……虎、じゃないな。何者だ?」
虎だが、虎にしては異質だ。
普通の虎じゃない。女性のような体型をした人型。
異形型かと思ったが、それにしては生気がなさすぎる。
まさか死体とでも言うのだろうか。
何よりこいつからは、妙な感覚がする。
「何が目的だ? 侵入者の排除ってか?」
戦意が満ちる。
腹の底に響くような非常に低い重低音が発せられ、飛びかかってくる。
虎以上の速さを持っているのか想定より速いが、容赦なく顔面に拳を叩き込んだ。
「無視かよ」
回りながら吹き飛んでいたが壁に着地し、また飛びかかってくる。
体を傾けることで避け、鋭い爪が振るわれる。
普通に怪我しそうなので個性による防御をすると俺には届かない。
はずなんだけど、ちょっとずつ迫ってきてる。
個性を中和する個性でも思っているのだろうか。
恐らく時間を掛ければ俺に届くな、これ。
というわけで正体を確かめるためにも腕を掴んで足を掛けて体勢を崩すと、相手の背中に跨りながら腕を捻る。
後は拘束して事情でも――
「あぶな」
聞くつもりだったが、信じられない方向へ腕が曲がったかと思えば振るってきた。
直撃することはないものの、折れたはずの腕が凄まじい速度で再生している。
訝しげにそれを見ながら、起き上がろうとしてきたので頭部を掴んで押さえつけながら頸動脈に触れる。
「……!!」
脈がない!
こいつ、人間じゃないのか!?
脳無? それにしては見た目は異形型の女性にしか見えない。だが、再生能力は普通じゃない。
しかし異形型だとしたら俺の個性を中和してるのはおかしな話だ。複数持ちも可能性としてはあるが――。
そう考えてる間に唸り声をあげたかと思えば強引に体を捻って噛み付いてきた。
個性を中和する以上、当たるのは得策とは言えないので跳んで避ける。
着地と同時に両腕と両足の爪を出して次々と攻撃してくるが冷静に避けた後、隙だらけになった際に腹に一発。
普通に殴っただけとはいえ効いてるのか効いてないのか。
反撃してきたので受け止めて相手の懐に入ると、耳を胸元に当てた。
――やっぱ死んでるなこれ。
心臓が完全に停止している。
副作用ならあるとは思うが、異形型だとしても常に言語や思考能力すら失って本能で動くような存在にはなり得ない。その辺は人間と同じで、心臓が止まれば死ぬし脈がないなら死ぬ直前とも言える。
生物によっては心臓が複数あったりするかもしれんが。
とにかく拘束しても恐らく無駄。
死ぬまで動き続けるだろう。
本当は捕まえて大人しくさせるのが正解かもしれないが、死して利用されてるならそれは拷問になる。
なら俺にしてやれることは、一つだ。
「悪いな、いくらその力があっても実力が違いすぎた。お前じゃ俺には勝てない。だから――もう休め」
赤い衝撃を解き放って消し飛ばす。
再生しかけてるのが見えたが、耐えきれずに完全に消し飛んでいた。
弔問することは出来ないが、安らかに眠れるようにと両手を合わせて居るか分からない神に祈っておいた。
それから俺は地下の歩みを進める。
階段を降りる度に蜂が襲ってきたり、蠍が降ってきたり、蛇が襲ってきたり、コウモリが吸血しようとしてきたり、と普段見るサイズを優に超える、倍くらいのサイズばかりで普通に物騒だったが全部返り討ちにしてだいぶ降りてきた。
ここに来るまでノーダメージではあるものの、並のヒーローならば死んでいる。プロヒーローでも数人で互いに守っても厳しいだろう。
いや本当にここに来たのが俺で良かった。
「これは……」
扉を見つけて近づくと自動ドアのようで暗闇だった場が突然青い光で明るくなり、反射的に目を閉じると、目を開けた時には開けた場所に出た。
視線の先には数々の動物たちがカプセルに封じ込められ、何らかの液体に漬けられている。
その中には明らかに動物から逸脱しているのもあれば、何処か見たことがある変化をしている者もいる。
特に目玉が飛び出してたり四肢の一部がなくなってたり頭部が半分なかったりと痛々しい。
「何体かは生きている……のか? いや死んでいるか。誰が何のためにこんなことを? 人の気配はない。既に廃棄されている?」
とにかくこういった場ならば制御するはずのコンソールか何かがあるはずだと判断して探すことにした。
カプセルに触れてみるものの、特に変化はない。
しかしこのままにしてやるのは可哀想だ。出来るならすぐに楽にさせてあげたいが……まだ何も分かってないのに壊す訳にはいかない。
我慢を強いることに申し訳なく思うが、しばらく歩いていると上の方のガラスの向こうにコンピューターが見えた。
階段があったのでそこへ跳んで着地し、そのまま部屋を開けようとしてオートロックなことに気づく。
カードを通さなければ入れないようだ。
「壊すが」
拳を叩きつけて壊す。
これはそう、コラテラルダメージ。*2
それはそうと侵入に成功したので、周囲を見渡したあと起動出来るかどうか確かめる。
随分古い型のようだ。けどこれくらいなら問題なく操作出来る。
この施設についての情報はあるとは思えないため、まず組織についての情報を得る。
何のためにこんなことをしたのか、その目的。何より組織の正体。せめて名前だけでも知ることが出来ればもっと探ることが出来るはず。
そう思い、次々と目を通していく。
だいたいは日記? いや記録みたいなのが多い。
が、読んでる暇はないので後回し。
ただやはり、何らかの生命体を生み出すための施設らしい。じゃなきゃカプセルの中に様々な生物を入れたりしないだろう。
人間すら実験に利用してるし、胸糞悪い奴らだ。
ますますと正体を見つけねば面倒なことになりかねない。
すると、あからさまに怪しいファイルがあった。
計画書、というもの。
試しに開いてみる。
「……Tyrant計画?」
先の虎のことかと一瞬思ったが、それにしてはこんなザルな警備にはしないはずだ。
あれは試験体か何かだと考えるべきで。
とにかく続きを読む。
〇月×日。
いよいよ計画を開始することになった。
ヒーローに復讐するためにはヒーローが邪魔だ。
憎きオールマイトさえ討ち果たせば日本のヒーローの脅威は大きく減り、ヴィランの犯罪率も増加する。この世界を以前の形に、超常黎明期のような荒れた世界にすることが出来る。
父としては親子の繋がりなど一切感じてないが、父の研究だけは私は尊敬していた。
しかしある日、父の研究はオールマイトによって全て白紙にされてしまった。
だからこそ、私が引き継ぐことにした。
最強の生命体を生み出し、人類を更なるステージへと引き上げて支配する。
限られた優秀な者だけが生き残れる世界。
それを成すためにはオールマイトを超える生物を人工的に生み出す必要があった。
なぜならこの計画がヒーローに知れ渡った結果、再びオールマイトによって潰される可能性を私は考えたからだ。
何より人類の歴史に終焉を齎すには理を壊すほどの存在が必要だ。
終焉を齎したのち、荒れた世界で進化した新人類だけに依る理想郷を創造する。
そこで私自身がその世界を作り上げた神として君臨するのだ。
それこそが――
Tyrant計画。
その存在を生み出すための計画。
私は父と同じ失敗は決してしない。
だが進捗は良いとは言えなかった。資金源については問題なくともサンプルが圧倒的に足りない。
必要な施設や場所はあっても結果が生み出せなければ意味がないじゃないか。
△月〇日
私の計画を何処で知ったのか分からない。
しかし“あの御方”は興味があると私を支援してくれるようになった。
どうやらあの御方もオールマイトと縁があるようだ。
まさか都市伝説と思っていた存在が実在していたとは思わなかったが……。
そのお陰で研究が進むようになった。
賛同者を増やし、生物を増やし、薬物を試し、時に人を拉致して解剖する。
我々人類がさらなるステージに引き上がるためには必要な犠牲に過ぎない。
素体はやはり生物ではなく人型が良いだろう。
個性という素晴らしいものがあるなら個性を複数持てるようにするのが最適だと私は考えた。
どうやらあの御方たちも似た研究をしているようだが、私が目指すべき理想とは違う。
☆月▽日。
私は“神”に出会った。
いや、神にしては外見はあまりに悍ましい者。
しかし、ようやく私が理想とする存在と出会ったのだ。
外で妙な爆音が聴こえて辿り着いた先には、巨大なクレーターがあった。
隕石でも降ってきたんじゃないかというほどの規模。
様々な生物を見てきた私も、その生物は見たことがなかった。
どうやら既に絶えてしまっているようだが……これが俗に言う宇宙生物というやつだろうか?
私はこれを神と仰ぐことにした。
☆月×日
あの御方と協力者と名乗る方が見に来た。
どうやら私が発見した存在が気になったようだ。
反応としては上々。
あくまでデータでしかないが、スペックを見て満足した反応だった。低く見積ってもオールマイトクラス。全盛期のオールマイトには満たないが、もし生きていて万全の状態だったならば同等か、超えていたかもしれない。蘇生出来るように頑張ってみようと思う。
あの御方は期待していると仰っていたが、この日を境に支援がよりよくなった。
気前がいい人である。
必要なものがあれば用意してくれるようだ。
私たちの力では人を拉致するには危険性があまりに高いうえ、状態は悪い。スラムから居なくなっても問題ない人間を回収出来ただけだ。
私は生きた健康的な被験体を願った。
欲を言えば個性持ちで。
個性もまた遺伝子だ。その遺伝子を抽出する方法だって確立出来るはず。
優秀な個性持ちは厳しいだろうが、数年前に報道されていた子供を捕まえられればいいのだが……。
一応、あの御方から貰った爆弾ヴィランを使って狙ってみようと思う。
運が良ければ捕まえることが出来るだろう。
幼少の頃からあの場所であれほどの力を発揮したのは私も目が張った。あれを被検体として使えばオールマイトどころか全人類を支配出来るだろう。
〇日△日。
爆弾ヴィランは知らない間に殺されていた。
鳴羽田で大きな事件を起こすとのことでそのついでに人でも回収するかと思ったのだが、宛が外れてしまった。
ヒーローに見つかったのだろうか?
まさかあの少年を見つけたことはあるまい。それならば運命としか言いようがないが、人類の総数から考えれば99%有り得ない。
全く、報道するならばちゃんと名前も明かしてもらいたいものだ。私のようなサンプルに飢えた者によって拷問に他ならない。
爆弾ヴィランが居なくなってしまった以上、大人しく諦めるとしよう。それよりも研究を進めねば。
×月☆日
例の宇宙生物から未知のウイルスが検出された。
死んだかと思っていたが、この生物は生きているようだ。
今は活動を停止しているだけなのだろう。
研究していくうちに死んだ細胞を活性化させ、損傷した細胞を即座に修復する効力を持つことが判明した。
そういえば昔に、似た効力があるホラー映画があった記憶がある。
宇宙生物と呼んでいるが、宇宙にはやはり我々が知らぬ技術があるのか生物が居るのか、はたまた個性のようなものが存在するのだと思う。
しかし宇宙に進出するにはあまりに早い。我々人類はまだ個性を解明出来てないのだ、目的を見失ってはならない。
いつヒーローに見つかるか分からないのだ。
♤月◎日
あの御方が被検体を引き連れてきてくれた。
泣き騒めく子供があまりに煩かったので、見せしめとして薬品を投与してやった。
耐えきれずに体内から爆発してしまったため、どうやら調整しなければならないようである。
なぁに、一体消えたところでまだまだ素材はたくさんあるのだ。
これからじっくりと試していけばいい。
しかし『お母さん』だの『お父さん』だの友人らしき名前や『助けて』だの子供は喧しくて仕方ない。
助けなど来るはずもないだろうに。
□月♡日
多くの被検体が適合することなく死を迎えた。
全く最後の最後まで役に立たないやつらである。
しかしこの場所もそろそろ変えるべきか。長居して見つかってしまえば元も子もない。
いつか戻るかもしれない拠点としてこの日記は残しておこう。
器が耐えきれず物言わぬ人形になってしまったが虎の異形型の女に虎のDNAを掛け合わせてより本能と性能を引き上げ、中和の個性を与えることで偶然にも動けるようになった存在やDNAを弄って薬物を投与した生物たちが居る。
私やあの御方以外を迎撃するようにしてあるのだ、誰もこの日記を読むことは出来ないだろう。
それこそオールマイトでも来ない限り。
どんなヒーローであろうと1万を超えるバッタとありとあらゆる猛毒の持つ蜂や蠍、絞め殺したり痺れさせられるように改良した蛇や吸血蝙蝠を相手したならば犠牲が出るのは間違いない。
一体何人死者が出るのか楽しみだが、死体は出来る限り早く回収出来るようにしておこう。
私の計画は完璧だ。
まだまだ調べることは多々あるが、このペースなら4年後には究極の生命体が完成しているだろう。
この宇宙生物に個性を適応させれば、私が望む神が出来上がるのだから。
それまではN-ウイルスとでも名付けようか。これで再生力を増加させ、個性を2つ以上持つような戦力を増やす。
そのためにも、もっと被検体を集めねばな。
あぁ、しかしこの世に絶対はない。もしもの時はここを廃棄する手段は用意しておくとするか。
例えば、ここまで読んだ者には私から死というプレゼントを贈ろうか。
そこまで読んだところで、反射的に画面を殴りつけていた。
視線の先には、ヒビが入ったガラス面と拳から流れる血。
息を吐くと昇った血が戻っていくような気がした。
完全に壊さないように普通に殴ったのは自分の中で冷静な部分があったからなのだろう。
俺は確かに弟以外どうでもいいしどうなったって気にしない。
そんな俺でも吐き気のするような悪ってのは分かる。見ず知らずの人がどうなったって俺には関係ないが、人としての感情も人の心もあるつもりだ。
その上で、胸糞が悪いという感想しか浮かばなかった。
データは既に端末に移してある。
後はこの組織の名前を――。
『只今よりこの施設を廃棄処分致します。まだ避難が完了していない研究員はマニュアルに従い、直ちに避難してください。残り5分』
「……見つかったら証拠隠滅かよ!」
ビービーと警告音と共に施設全体の光が赤くなっている。
そもそも5分は逃がす気がない。
ここに来るまで一般男性が息切れを起こさず一定の速度のまま全力ダッシュしても数十分はかかる。
加速系の個性を持っていて外に出られたとて巻き込まれておしまいだ。
恐らく緊急脱出口があるのだろうが、俺が分かるはずもない。
これはその脱出口を使えば逃げられる時間なのだろう。
流石の俺も地中に埋められると不味い気もするが、何とかする。
それよりバイタルを見た限りどこも死んでいるのは確定だが、せめて薬物だけでも抜いてやらないと。
急ぎヒビ割れていて見ずらい画面を見ながら弄ってると、それっぽいのを見つけることが出来たのでプログラムを高速で書き換えてから窓ガラスへ近づく。
サポートアイテムを扱っていてよかったと割と心から思った。
『残り3分』
アナウンスが煩いが、カプセルが開いて落ちていく。
バイタル上は死んでるというのにゾンビのような動きで動いている。こちらには気づいていない。
とりあえず入口を封鎖した。
これでこの施設と共に完全に死ぬことが出来るだろう。
こんな場所で弔うことになってしまうのは申し訳ないが、カプセルが爆発に耐えれるほど頑丈なら死なないかもしれないし再利用されるかもしれないからな。
こんな施設を廃棄処分と言えば爆発くらいしか思いつかないし。
さて、どうせ脱出は間に合わない。
スマホもまあ、残念ながら圏外だ。
サラッと情報を流す手段まで対策しやがって。
ならやるべき事は、最後まで情報を搾り取ってやる。
誰もここには辿りつけないと思っていたようだが、俺という存在が居たことに気付けなかったことに深く後悔させてやる。
それに次の施設に移ったなら早く見つけてやれば、残っているかもしれない子たちを救えるかもしれない。
そう思ってひたすらにコンソールを弄りまくる。
何か情報がないか目を素早く走らせる。
『残り1分』
クソくだらないダミーまで用意されている。
とにかく名前でも分かればナイトアイやホークスなら見つけられるはず。
そう思って調べてるうちに、ロゴらしきものが出てきた。
西洋の盾のようなマークだ。
不死鳥のような鳥が描かれている。
創設者の名前はアルバート・アンブレラ。
恐らく日記を書いた人物の父親だろう。外国人だろうか。有名な某ホラゲーの元凶の組織みたいな名前をしている。
スターに調べてもらった方が早いか?
組織の名前は――
確かギリシア神話に登場する女神の名だ。
人間が神に働く無礼に対する、神の憤りと罰の擬人化、だっけ。
よく復讐に間違われているが、元来は『義憤』だとか。
英語では“天敵”だが、復讐という側面もありそうな名前だ。
これが組織名、か。
N-ウイルスとやらは頭文字ということか?
『残り30秒』
そうこうしてるうちに完全に制限時間が迫りつつあるらしい。他に何か出来ることがないか考えるが、これ以上情報を得ることは出来なさそうだ。
被験者リストとか狙おうとしていたリストとかないだろうか。
なんだか個性を欲してるようだし、AFO関係者なのは間違いないだろう。
――ん?
一覧の中に、“抹消”の文字があった。
イレ先の個性?
確かにあの個性は強いが……どちらにせよ×が書かれてるため、諦めたと見るべきか。
他にも強そうな個性の数々があるが見知った物はない。オーバークロックっていうなんか強そうなやつは〇が書かれてるが、これは成功したということだろうか?
それにこれ、“
生きている……? いやこんなことをしでかしてたやつらだ。死体か、もしくはその死体を――。
……このことは俺の胸に留めておこう。イレ先たちにとってこれは辛すぎる。俺が背負うべきだ。
もし似た存在が居て命を奪わなくちゃならなくなったとき、例え二人に恨まれて憎まれようが俺がこの手で殺す。
もし、もし助けられるならこの命に替えても。
ただトップヒーローたちはないようだ。
扱いやすさや狙いやすさなどもあるのだろうか。
『残り10秒』
超再生、筋力強化、加速、翼、火炎、斬撃、伸縮、引力、あべこべ、式神、水操作、植物操作、黒縄――などなど。
へえーそんな個性があるんだ、と呑気に見てるが、これらは何処から得たんだろうか。
『3』
ロクでもないやつらってのは分かったため、後は本拠点を襲撃するだけか。
『2』
大規模なことになりそうだ。
生体兵器がもし完成してるなら、オールマイトでも勝てないのかもしれない。
戦力は一応多い方がいいし、まず間違いなく討伐隊が組まれるだろうな。
そもそも改造されたやつらも実力だけでいえば中々の強さだ。
プロヒーローレベルといったところ。
俺からすればどれだけ居たってただの有象無象だけど。
『1』
最期に嫌がらせでここにある空間を蒼で削っておいた。これで仮にこの機械が無事という可能性の芽は潰せたわけだ。
そしてすぐに眩い光が空間を白く染めた。
◇
同時刻。
エッジショットとベストジーニストはハズレを引いてしまったのもあり、何の問題もなく合流することが出来た。
しかし距離があるとはいえハズレを引いているなら今頃オリジンはこちらに向かってきてるはず、とエッジショットは彼の連絡を入れる。
「繋がりませんね……」
「ならば引いたか、当たりを」
「急ぎましょう。オリジンの力ならば大半のことは問題ないと思いますが……」
オリジンという人物を知ってる者ならば彼は真面目でやることは必要以上に成果を出すというのは有名な話だ。
弟が関われば手が付けられないが、普段は優秀すぎるほどなのだ。
そんな彼がエッジショットの連絡を無視するということは有り得るわけがなく、繋がらないか出ることが出来ない状況に他ならない。
そのためオリジンが向かった方角へ走っていくうちに、突如として轟音が響いた。
音の発生源には黒煙が立ち昇り、建物が崩壊していく。
爆発が起きたということの証明でもあった。
何らかの事件ならば向かわなければならないが、その方角は。
「あの場所はオリジンが捜索予定だった場所……!」
「速度を上げるぞ!」
マイクロファイバーによって滑るように空中を駆け、エッジショットも加速する。
そうして辿り着いた場所はそれはもう酷い有様だった。
一般人は巻き込まれなかったようだが、 建物が完全に崩れた影響かコンクリート殻によって山が出来上がっている。
まず間違いなく巻き込まれたということは想像に容易い。
すぐに二人は瓦礫の山へと向かうが、目視出来る範囲には居ない。
となると、考えられるのは埋まったという可能性。
「とにかく探るしかないか……!」
瓦礫を次々と退かしていくが、姿どころかヒントとなりそうなものすら何一つ見つからない。
深くまで埋まっているのか、それとも爆発に巻き込まれてしまったのか。
しばらく捜索しているうちに、最悪な考えが浮かび上がり――。
「ていっ!!」
エッジショットの近くでコンクリートが天高く上がった。
すぐさま人影が現れ、トンっと着地音が響く。
全くコスチュームらしくなく、私服にしか見えない服装。
特徴的な緑髪からその人物を特定するのは難しくなく、
「無事地上っと。全く、俺じゃなかったら死んでたぞ……」
「無事だったか!」
「あれ、2人とも別のところを捜索してたんじゃ? というか大丈夫でした?」
「この有様を見て他人を心配するとはな……」
「???」
何を言ってるんだ、こいつとでも言いたげな表情を浮かべるオリジンに対し、二人はそう言いたいのはこちらの方だ、と心から思った。
しかし本人はこの程度全然何とも思ってないようである。
実際に問題がないからこそ無傷なのだろうが、普通のヒーローなら生き埋めになった時点で怪我じゃ済まない場合が高い。
良くて大怪我。最悪死亡。
無傷で居られるのなんて二人の頭の中にもオールマイトくらいしか浮かばなかった。
二人は知らないが、爆発程度で無傷で済んでいるのは流石アメリカのNo.1の攻撃を受けても普通に戦える変態っぷりである。
個性によるオート防御が発動したとはいえ、仮になくてもなんだかんだ地面から生えてきそうなのが転間だった。
そもそも個性をオート化するとか普通の人からすればその時点で意味不明なのだが、これも弟を愛する気持ちから生まれた
「そんなことよりエッジショット、ベストジーニスト」
そんなことで済ませられるのは彼くらいである。普通に大問題なのだがベストジーニストもエッジショットも彼が1年の頃にあの血狂いマスキュラーと格闘戦で真正面から殴り合って打ち勝ったということを知ってるとはいえ驚くのも疲れたので真剣な顔のオリジンと向き合って。
「探っていた組織の名前が判明しました。そして目的も」
オリジンは必要以上に成果を挙げていた。
驚くのも疲れていた二人だったが、こればかりは流石に驚いた。
自称最強とはいえ、改めてとことん規格外なのだと思い知らされたのだった。
というか、なんでこいつまだプロヒーローになってないんだ、と誰か言ってやるべきだろう。
まぁ強引にデビューさせたら痛いしっぺ返しが飛んでくるのは間違いないが。
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい