どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
――オリジンたちが突入したあと12:30分。
市街地。
「避難先はあちらの方になります! 焦らず押さず安全第一で避難してください!」
「ゆっくりで大丈夫ですから!」
「重たい荷物がある人は手を挙げて。俺が運ぶんで。ああ、うん写真撮ったら避難してね」
ゾンビ軍団を蹴散らしたインゲニウムやホークスたちは避難誘導を始めていた。
ただホークスはランキング3位のヒーローであるため、知名度が高い。
それ故にサインやらファンサを求められているがそこは速すぎる男と言われてるだけあってそれらも速い。
それにNo.3が避難誘導に協力してるだけあってスムーズだ。
「新宿一帯を封鎖……思い切ったことをしますね」
「オールマイト並のヴィランが現れる可能性があるなら東京そのものを封鎖するレベルさ。そう考えればマシだよ……胃が痛くなってきたが」
「気持ちはすげー分かるっす」
「備えあれば憂いなし。むしろ何事もなければいいのだが……」
新宿一帯の封鎖。
それがホークスたちの仕事だ。
指示役であるホークス、塚内、インゲニウムは同じ場所で待機しつつもしもの時に現場に出られる位置にいた。
(しかし予想通り連絡手段は奪われている。これも緑谷くんの情報から考えられていたことだ。2時間経って誰も出てこなかったり連絡がなければ突入するというのは予め決めてあること。少なくとも緑谷くんがいるなら問題ないと思うけど……)
複雑な地形をしてることからすぐに終わるものではないのは分かっているが、先刻の地震が不穏さを醸し出している。
「全く、現場では何が起きてるのやら」
「どちらにせよ俺たちは俺たちの仕事をするしかないだろうな」
「ま、そうなりますかね」
◇
――12:25。
さて、なんか擬態してた岩のゴーレムっぽいのを一瞬で消し飛ばしたのはいいものの……何処だここ。
何処かの廊下だろうか?
多分最下層ではなく4階だろうが……。
とにかくこの場で待っていても仕方がないため、先を急ぐことにしよう。
ある意味ショートカットしたってことだろ、うん。
ロウソクが壁にくっついていて、本当にゲームのダンジョンを彷彿させるが歩いてるうちに白骨死体や爛れた死体、木っ端微塵になっている骨らしきものなど物騒なものが落ちてるのが分かる。
大人から子供まで。
実験に利用されたのか、それとも別の方法で殺されたのか。
いや、もしくは死体の廃棄場所にも思えるな。
ただ危険性があるというのは分かりやすくていい。
「部屋、か」
そうして暫く一本道を歩いてると、1つの部屋があった。
錠前でロックされていた鉄製の扉を錠前を破壊しつつ強引に開ける。
するとロウソクで慣れていた目が人工的な光を浴びて少し眩しく感じた。
材質はコンクリートだろうが、部屋の所々には装飾が成されていて絵画が貼り付けられてある。
しかしその割にはところどころに拷問器具のようなものや鎖などがあり、そのくせして全く使われてないのか汚れや血が付着してたりない。
部屋の主の趣味だろうか。純粋に拷問器具が好き的な。趣味はそれぞれなので別にいいとは思うが。
あとは換気のためか鉄格子がある。
拷問部屋というよりは監禁部屋という方がしっくり来るが、その割には部屋に入ってからというもの、香るフローラルな香りと小さく火が揺れるアロマキャンドルと思われるもの。高貴なところにありそうな天蓋付きベッドがそれらを否定する。
ただ天蓋が降りてるせいで詳しくは分からないが、人影が見える。
とりあえず何も分からないため、歩くと音が聞こえたのだろう。
影が動く。
「誰?」
女の子だろうか。
髪は長いことは分かるが、男の可能性もあるので否定は良くないだろう。
一応警戒はしつつ名乗るとしよう。
「オリジン。学生のヒーローだ」
「……! そう、オリジン。ステキな名前ね」
「君は?」
「私、ヴィオラ」
「ヴィオラか」
花の名前だろうか。
確かビオラという花がヴィオラと呼ぶはずだ。
そこから取ったのだろうか。
花言葉は「忠実」「信頼」「誠実」「少女の恋」「もの想い」「私を想って」とかだったはず。
使わないと思ってた知識がまさか出てくるとは。これ、出久のために詰め込んだ知識だけど使う要素が無さすぎてな……。
「どうしてここに居るんだ?」
「どうしてだと思う?」
「……普通に考えれば監禁されてる。けど俺は
「……へえ。根拠は?」
「簡単な話だろ。監禁されてるなら助けを求める。その割には外には白骨死体があった。他のやつが殺した可能性もあるが、恐らくそれだけじゃない。何回もこの部屋の近くを通ったような痕跡が廊下にはあった。この部屋には掃除されてるのかないみたいだがな。それに君からは怯えといった感情が何一つ感じられない。好奇心、といったところか。いや俺を見定めようとしている?」
「……あはっ! すごいすごい! ヒーローってよりも探偵さんみたい! 大ッ正解! 優秀なんだね、オリジンって」
あからさまに明るくなった。
彼女の個性が何なのかははっきり言って分からないとしか言えない。
ただ普通の人ならば知らない相手に怯えたりするし警戒するが、彼女からは一切感じられなかった。
「でも、その割には冷静だね。私が殺すかもしれないとか思わなかったの? 外には白骨死体があったり煤で汚れてたりしてたでしょ?」
「そうかもな。けど俺を殺せると思ってるのか?」
「どうだろ、ふふふ」
会話をちゃんとしてることから普通の人間なのかもしれない。
それに他のやつらと違って敵意というものが感じられないのが妙にやりづらく感じる。
ただ情報は聞けそうだ。闇雲に探すよりかはそっちの方がいい。
「ねえ、ヒーローさん。あなたは私を楽しませてくれる?」
「それは俺と敵対するってことでいいんだな?」
「えー。私はそんなつもりないな。私はあくまで遊びたいだけ」
「言ったろ、俺はヒーローだ。お前が人に危害を加えるってなら捕縛しなくちゃならない」
「それは誰が決めてるの?」
「……何?」
「確かに私は殺したよ。人をたくさん殺した。でも仕方ないと思わない? 私は私を守るために人を殺した。そうしなくちゃ私は私を守れなかった。私はこう見えて美少女なの。体つきも自身はあるよ? そんな私が大人しくしてたら? 傷だらけになってるかもしれない。傷物になってるかもしれない。それすら認められずヴィランだって判定するならどうすればよかったの? 助けを求めたってヒーローは来ないんだよ。こんな
「それは……」
悲しさと怒りを乗せたような声音で問いかけてくる。
持ち合わせる答えは1つ。
無理だ。
オールマイトですら全ての人を守ることは出来ない。
現に今も知らないところで知らない誰かが傷ついてるだろう。
「だからといって“今”お前が人を傷つけるなら俺は止めなくちゃならない。少なくとも俺が今、ここに来たからには。その前の件については誰にも裁く権利はない。ただその割には罪悪感感じてないだろ、お前」
「あは♡ バレちゃった。ま、最初はそりゃ平常心じゃ居られなかったけどね。長いことしてたら慣れちゃったんだ。だから仕方なくでもやりたくないとも感じなくなった、それだけ」
「慣れ、か……」
彼女も彼女で被害者のようなものか。
最初はってことは何度も繰り返してやって、それで完全に麻痺したのだろう。
だからといってこれ以上罪を重ねていい理由にはならない。それならそれでここから出せばいい話だ。
行先がないなら雄英でも保護出来るだろう。無理なら俺が何とかする。
「そんなことはもうどうでもいいや。やっぱり貴方は面白いね、期待通りだ」
「期待?」
「私ね、本当は貴方のこと知ってるんだよ。あの人に聞かされてきた。何より私自身が貴方を見てきたからね。渋谷でも隠れ家として用意してた施設を潰したでしょ? あそこを潰せるのってそれこそトップヒーローじゃなきゃ無理な戦力ばかり。乗り越えても施設の爆破で死亡、もしくは重傷。でも貴方は無事どころか無傷。惚れ惚れするような圧倒的な実力だったし体育祭でも他を圧倒してた。海での事件でも大活躍。職場体験でも同じ。しかも1年の入学してすぐの頃には、あの血狂いマスキュラーをフィジカルで倒してる。君ほどのフィジカルは私は1人しか知らないな。今はもう、思い出せないけど」
懐かしい目で何処かを見る彼女だが、会えないような相手でも思い浮かべてるかのようだ。
そこから考えるならオールマイトではなさそうだ。オールマイトもフィジカルモンスターだと思うのだが。
ただ想像以上に俺のことは知られてるらしい。
というか、何気にあそこそんな重要施設だったのかよ。
「ずっとずっと貴方のことが気になってた――だから、貴方は
腕が天蓋から出てくると、白い服を着てるのだけはわかった。
見える手のひらは真っ白で日焼けを全くしてないかのようだ。それに俺のような手と違って脆く細い。
そんな彼女は何かを握りしめるように手を閉じると――
爆発した。
当然の如く無傷な俺は涼しい顔で煙が消えるのを待つ。
爆発させる個性?
「わあ、普通の人ならこれで死ぬんだよ?」
「普通じゃないからな」
「そう、じゃあこれはどうかな?」
彼女が腕を上げると天井が壊れ、瓦礫が降ってくる……が、静止する。
静止した後に再び爆発。周囲が次々と爆発して部屋のコンクリートが煤だらけになっている。
まあ、効かないのだが。
「ありゃ、すごい」
「満足したか?」
どういう原理かは分からないが、握りしめるという動作が発動条件か。もしくはブラフか。
「んーまだかな。次は本気で、殺すね」
「やれるもんならな」
「じゃあ……ドカーン!」
わざわざ擬音を口にして握りしめる動作をすると、俺の周囲で大爆発が起きた。
正確には俺に対して個性を発動してやったのだろうが、俺の個性の影響で俺の周りにしか効果がないだけだ。
ぶっちゃけここに来たの俺じゃなかったら詰んでたのでは?
遠距離から爆発させるとか、あのクソガキの上位互換だろ。しかも木っ端微塵だしな。
「で、どうだ?」
「――合格♡」
「は?」
急に意味分からないことを言ったかと思えば、天蓋から一人の少女が出てきた。
薄紫色の長い髪に付けた赤いリボンが特徴的で、何処かのご令嬢のような髪。*1
リボンと同じく赤いワンピース服と、長袖の白いシャツを着ており、胸元にはリボンタイを付けた服装だ。
自分で美少女と言っていただけあって容姿も良いようだ。
見下ろさないといけないくらいなので身長でいえば150辺りか。
「タネを教えてあげる」
出てきた彼女はグイッと近づいてきたかと思えば、そう真っ直ぐ言ってきた。
少なくとも今敵意はないようだった。
「私の個性は“破壊”。どんなものも簡単に壊せちゃうんだ。正確にはどこを握れば潰せるのかが分かるって言えばいいかな? 理論上は
俺に胸元に触れようと手を伸ばした彼女の手は止まっていた。
しかし、彼女もまた強力な個性だ。
謎に爆発を起こしてたのはその個性の力か。
俺が個性をオート化させてなければ俺にすら届いていただろう。
俺は質量・速度・形状によって判別するようにしてある。
爆発なんて言うまでもなく危険に決まってるだろう。
どうやら俺のバリアそのものを壊すことは出来ないようだが。まぁどっちかというとバリアってよりかは距離だし。
「例えばこんなふうに個性を使っても――ね?」
後ろの方で軽い爆発が起きる。
いや試されても俺じゃなかったら普通に危ないのだが。
とにかく降伏してくれると思っていいのだろうか。
正直、俺としても敵意がない人間をわざわざ傷つける趣味はない。というかヒーローとしてダメだろう。確かにこいつは人殺しではあるが、嘘は言ってないようにも感じられた。
個性を欲した者や純粋にこいつに魅力された者が居たのだろう。
故にやりづらい。
敵意や悪意があればぶっ飛ばせるしあからさまに人を傷つけていたらヴィランとして判定することも出来る。
過剰防衛とはいえ自己防衛と言われればそうだ。証言でしかない以上、証拠はないわけで。
助けがない以上は身を守るにはそうするしかないのもまた事実。酌量の余地は十二分にある。
少なくとも俺が問答無用でぶちのめすのはどうしようもないやつか出久を傷つけた奴くらいである。
「で……これからどうするつもりだ? お前じゃ俺に勝てないのはわかっただろ」
「うん。元々分かってたけどね。だから降伏降伏。はい、ヒーローさん捕まえて」
あっさり降伏を示す彼女は両腕を俺に向かって伸ばしていた。
怪しさしかないものの、まあ俺なら何があっても問題ないかと大人しく彼女の腕を掴んだ。
「――捕まえた♡」
その瞬間、腕を引っ張られる。
普通の人間とは思えない力に驚いた俺は俺の防御が反応しなかったことに気づく。
これは攻撃性のものでも危険な攻撃でもない。それならば無効化出来る。
ただ背中がベッドに吸い込まれるような感覚があった。
何が目的なのか……あと関係ないけどこのベッド凄いふわふわしてるんだけど。
よっぽど高いものを使ってるのだろうか。
真綿の綿に包まれてる時みたいな感じ。やめろよ、寝るだろ。
そんな呑気なことを考えつつ。
「私の運命の人。いいえ、お兄様♡」
「……はい?」
俺を押し倒した彼女は人の腰部に跨りながら高揚した顔を浮かべているのが見えた。
「ずっと見てきたの! 初めてお兄様のことを知ったのはぁ、数ヶ月前。あの人から話を聞いてから気になってっ。そして今日初めて会って話して! どんな人かな、どれくらい強いのかな、なんて考えて考えて、私の想定以上だった! 予想以上に素敵な人だった! 嘘を見抜く洞察力に推理力。圧倒的な実力に逞しい体。予想外のことでも狼狽えることなく冷静でいる様。もうね、すぐに分かったんだよ。ああ、これは運命なんだって。だからこんなステキな旦那様を逃すなんて以ての外でしょ? ね、お兄様? 私と結婚しよ? 幸せにする自信あるよ?」
「――」
どうしよう。
まっっったく意味が分からない。
何故俺は突然求婚されてるのだろうか。
何より俺はこいつのお兄ちゃんではない。
「私ずっとずーっと決めてたんだぁ。私の運命の人は、私の結婚相手は私より強い人だって。決して壊れない人だって。その相手がテレビの向こうにいた、一目惚れした人が今日ここに来て、私と出会って、話して――期待以上の人だった。それって運命だと思うの♡ あの人が言ってたようにここで待っててよかった。利用されてきてよかった。ああ、心配しないで? 私、ちゃんと純潔は守ってきたの。キスもえっちなことも全部全部初めて。こういうことは初めてだから分からないことたくさんあるけど、今日は危険日だからね。もう子供は産める体だし処女だから――」
「早く私と子供を作りましょう? 愛しのお兄様♡」
そう告げた彼女に、俺はようやく合点がいった。
これは敵意も害意もない、ただの“好意”だからこそ俺の防御をすり抜けたのだと。そもそも初対面かつ互いに全然知らないのに好意を向けられてることは理解出来ないのだが……。
ただ例え好意だとしても俺を“傷つける”ことをしたら発動はするだろう。
今彼女がやったのはただベッドに押し倒すということをしただけ。脅威でもない。
それも傷つける意思がなく、ただの好意だ。
好意と思い込んで殴ったり斬ったりしてくるやつも居るものか。後でもう少し改良しとこう。
なんて呑気に解析していたが、まずい。
気が付けば彼女は自分の服をはだけさせながら人の服を脱がそうとしていた。
このままでは少年誌から大人向けになってしまう。
いや何言ってんだ俺は。今まで生きてきてなかった出来事に若干錯乱している。
「大丈夫♡ それが終わったら道案内でもなんでもしてあげる。もちろん罪も償うよっ? だけど先にお兄様とたくさん愛し合って求め合っていっぱいいっぱいお兄様とひとつになりたいの♡ ここに
手を掴んで動きを止めようとしたが、妙に力が強い。
息が荒いし正気じゃないし瞳の奥にハートマークが見える気がする。捕食者の目とはこのことだろうか。
生まれて初めて、前世を含んで身の危機を感じる。
いや命じゃなくて。
「抵抗しないでお兄様」
「俺はお前のお兄ちゃんではない」
「何言ってるの? 貴方は私のお兄様でしょう? だってずっと一緒だったもの。誓い合ったでしょ、病める時も健やかなる時も共にって♡」
「してないが!?」
全く見覚えのない記憶を当然の如く言ってきた。
なんだこいつ。
最悪衝撃波で吹き飛ばすことを考えていたら――
「“アレ”と出会えばお兄様は殺されるの。だからここに居てたくさんイイコトしましょう? 大丈夫♡ 初めてだけど気持ちよくさせる自信はあるから♡」
さらっと気になることを言ってきた。
アレってなんだ……。会えば殺される?
俺の実力を知ってるであろうヴィオラがそう言うってことは……例の宇宙生物とやらが完成してるってことか?
「ヴィオラ。そいつはどこにいる?」
「抵抗やめてくれたら教えてあげる♡ ね、お兄様? 恋人繋ぎ出来るのは嬉しいけど、そろそろ諦めて欲しいなー♡」
「…………」
膠着状態とはこのことだろうか。
そもそもこの状況が未だに意味分からないのだが。
上にいる奴らはまともじゃなかった。
だからまともに会話出来るのこいつくらいだし、俺ですら死ぬ危険性がある存在が居るなら探し回って俺以外が見つけるより道案内させて俺が対峙した方が確実なのは間違いない。
被害を減らすためには場所を知ってるであろう彼女に聞くのが1番だ。無力化したら案内させられない。
それに――手を伸ばせるなら手を伸ばしたいと思ってしまう。全員をヴィランだと判定してぶちのめすのは簡単だが、そうしたところで真の平和は訪れず今と変わらない世界になるだけなんだ。
誰かが手を伸ばさなきゃヴィランという存在は消えない。会話も出来ないようなやつは仕方ないが、彼女は話し合える。
話を聞く限り心から悪いやつではないはずだ。俺に対して問答無用ってわけでもないし。
「もう、どうしてここまで抵抗するのお兄様。私はこんなに求めてるのに。お兄様も本能に従ったらいいのよ。お兄様だって興味があるでしょう? ほら、力を抜いて? ああ、服が着たままの方がいいとか? 仕方ないなぁ、このまま動いてあげる♡ それとも私の身体を好きにする方が好き? お兄様ってば、えっちなんだから♡」
勝手に自己完結したヴィオラが体重を掛けてきたため、力が強くなっていく。
とりあえず真剣に身の危険を感じてきたため、体を起こそうと力を入れた。
「あっ♡ そんなっ、力強っ……♡」
俺と拮抗してる時点でヴィオラのパワーも相当だが、どこからそんな力が出ているのか。
ここに来てから色々と奇怪なことばかりだ。
「んふふふ♡ ますますお兄様のこと欲しくなっちゃった♡」
ヴィオラがある意味無敵すぎて困る。
やっぱり拘束して自分で探すことにするか。話は後ほどすればいい。
実力はある上に下手な攻撃は上層の皆に被害が行くせいで時間はかかるだろうが。
「その目、いい♡ お兄様になら傷つけられてもいいかも……♡」
――いや、めちゃくちゃやりづらすぎないか、こいつ。
真剣に誰か助けて欲しいと心から思う。この世界に生まれ落ちてここまでやりづらい相手は初めてだ。感情に疎いらしい俺すら好意が伝わるって。
とにかく1度離れたい。
多少の情状酌量の余地はあるだろうからこういうやつが大人しく罪償って協力してくれたら心強いのだが……それ言ったら聞いてくれたりしない?
「大人しく罪償ってくれ、狙われてるならその方が守ってやれる。今俺は急いでるんだ」
「それも魅力的だけどぉ……正直我慢の限界だからえっちなことしてくれたらいいよ♡」
ダメっぽい。
そもそも皆が戦ってる中でそんなことしたら味方にすら殺されるだろ。手段として使えるものは何でも使いたいとは思うが、そんな時間は無い。俺も未経験だが、そんな短時間で終わるものではないはずだ。
前世の俺も相談を受けたくらいしか経験はない。相談されても困ったが。何より俺は体だけを重ねる関係にはなりたくない。色々と面倒にもなるだろう。
だが、例の生物が完成してるなら余計に早く行かないと。
仕方ない。
――落とすか。
お兄ちゃんパワーで力を強めるとヴィオラは驚いたように目を見開いて、突如力が抜かれる。
強めた反動で逆に押し倒すことになったが、手が離れた影響で離れることが出来る。
そう思ってたら、腰が引けず逆に引っ張られる。
個性の影響下にあるうちに足を回してホールドして来たらしい。
しかも俺が強めたのと同じように同じく力が強まっている。
全然抜け出せない。こんな華奢な体からどうやってこれほどの力を?
こいつ、まさか個性2つ持ってるのか? 余計に時間掛かりそうだ。
問題はそっちより、こいつ
俺の個性を前情報があったとはいえ、一瞬で把握している動きだ。
「私はこのままでもいいよ? 変な気分になってきちゃうけど♡」
「チッ、面倒な」
「んふ、お兄様ったらやさしー♡ 他の人たちのことを気遣ってるから私なんかに苦戦してるんだもんねー? 弱い奴等に気を使うのは疲れるよね、本当に♡ 気持ちは分かるよー? お兄様だけならもっと楽だったのにね?」
「…………そうかもな」
確かに弱い奴等に気を遣うのは疲れるものだ。
ヒーローは色々と加減しなくてはならない時がある。殺しにくるヴィランと違って無力化を狙わなくてはならない。
俺の攻撃は割と範囲攻撃になりがちだから当然巻き込む危険性も高い。
一般人になんて気を遣うことは多いから疲れるものだ。
弱者生存。それが社会のあるべき姿で、ヒーローとは弱きを助け強きを挫く。
「さて、と。続き、しよっか♡」
だけど俺はこの世界の全員が弱者だとは思っていない。
最強は出久で次点で俺なのは揺るがないが。
少なくとも――
「……何? この音――あっ!?」
聞こえていた音から確信を持った表情で見上げると、天井が崩壊していく。
ヴィオラが気を取られた隙に抜け出した俺は大きく後方へ跳び、着地すると。
「やっと見つけたーっ!!」
天井から突進するように降ってきたねじれを受け止めた。
いや、やっと離れられたかと思ったのに今度はお前かよ。
すぐ離れてくれたからいいが。
というか寝床壊しちゃったんだけど、これ結局責任取らなくちゃダメでは?
やっぱ雄英か家で面倒見るしかなくなりそうなんだけど。
「無事か!?」
「遅いっすイレ先」
「そんな軽口叩けるなら大丈夫だな」
「こっちとら求婚された上危うく襲われてたんですよ、性的に」
「求こっ……襲っ……!? えっ!? て、転間くんどういうこと!? そこ詳しく!!」
「揺らすな。全部未遂で済んでるって。いやちょっと危なかったが」
「そ、そっか。よかった」
「お前……何しでかしたんだ?」
「なんで俺が何かした前提なんですか!? こっちが聞きたいくらいだよ」
「……て」
それより二人しかいないということは上は他の面々に任せてきたってところか。
まあイレ先は出来たら1番奥まで連れていきたいしな。
「私のお兄様から離れてッ!!」
今までよりも大きな爆発が起きる。
俺の近くに居たため、俺が反応出来ないわけもなく防いでいる。
「今のは……」
「彼女の、ヴィオラの個性です。多分応用して視界に入れた場所を任意で破壊出来るのかと」
「はぁ……今の一瞬でそれに気づくお兄様は素晴らしいけれど、今はちょっと面白くないな」
「……さっきも言ってたな。お兄様?」
「転間くん……?」
「勝手に呼んでるだけだ! 断じて呼ばせてないし俺に弟以外居ない!」
彼女が初めてそう呼んだ時は一瞬海外に居る父さんが不倫でもしたかと考えた時はあったが、もしそうだったらボコボコにするだけなのでいい。
弟1番な俺だがそんな俺でも母さんは宝物だ。
ただ不倫だったとしても子供に罪はないので子供の方は受け入れるが。
事実だったら父さんはボコる。
「と、とにかく。悪いなヴィオラ。俺は先に行かなきゃならない。遊び相手なら罪償って人を傷つけないと約束するならいくらでも遊んでやる」
「こんな私でも手を伸ばしてくれるのね、やっぱりお兄様は優しい。でもね、お兄様。私は貴方が欲しいの。遊ぶだけじゃ満足なんて出来ない。だから――お兄様の周りを全部壊しちゃえば、私の物になるよね?」
「させるか!」
手を向けてきたヴィオラに対してイレ先が抹消を発動させた。
オート化してからは受けてないから分からんが、オート前は俺ですら無効化されるんだから当然ヴィオラも同様だ。
個性を発動出来ていない。
不思議そうにしている。
「最後の警告だ。このバカをどうしようが勝手だが」
「おい。生徒を守れよ先生だろ」
「痴情のもつれに関しては専門外だ。責任は自分で取れブラコンバカ」
急に褒められると照れるな……。*2
「それはともかく、ヴィオラと言ったか。大人しく投降しろ。手荒な真似はしないと約束する」
「――個性因子に干渉してるんだ? 視た対象の個性をしばらく一時的に停止させてるってとこかな。無条件は強すぎるし、多分目を開けてる間だよね? 出来るのは発動型や変形型だけかな? 常時発動型でも一部は消せるのかな、例えば猫耳とかあったら動かなくしたりとか」
「……!」
驚いた反応をしたイレ先と同じく俺も驚いた。
イレ先の抹消は個性が使えなくなる。
普通は個性が消滅したと思ったり焦るのが普通だろう。個性だって今は目を隠してるから分かりづらい。
俺はすぐに理解してたけど。
こいつ、やっぱり本気出せない俺が面倒だと感じるだけあってヤバいな。トップヒーロークラスなんじゃないか。
「ふぅん……なるほどね。じゃ、こっちでいいや」
咄嗟に身体能力を強化した俺はイレ先の前に出ると拳を逸らした。
拳の圧がコンクリートで出来たはずの壁に穴を空けている。
かなりの威力で強化してなければダメージを負っていたのは俺かもしれない。
攻撃するつもりはないが拳を握りしめると、彼女はすぐに距離を離していた。
「あは、流石お兄様♡」
「イレ先!」
「個性は封じている!」
封じていてこの身体能力?
そもそもこいつの存在もよく分かってない。
見た目の年齢的には中学生から高校生だが、その割にはそれ以上生きてるようにも思える。
なんだろう、俺に似てるようで違う感じだ。俺は前世があるからその経験で人生経験が他よりあるが、彼女は少し違う。転生者ってわけでもないだろう。
分かることはこいつは俺と
ただ、ここの施設がどこからどう見ても普通の人間が居ないため、彼女も人間ではあるが普通ではないと考えるべきだ。
こんな封印されてるような場所だしな。
身体能力に関しては元々この施設が変な存在や宇宙生物とやらがいるらしいから個性じゃない力が存在していてもおかしくはないとはいえ……。
俺のお兄ちゃんパワーみたいな感じか? あれ今は個性由来かもしれないけど小さい頃、芽生えた時はあんなのなかったし。
「仕方ない。ここは俺が引き受けるんで、ねじれやイレ先は最下層に――」
「ううん、転間くんは先生と行って」
「……ねじれ?」
俺が残る選択をしようとしたらねじれが俺の前に出てきた。
「この子の狙いが転間くんなら余計に残せられないでしょ?」
「それはそうだが……」
「大丈夫! 私を信じて?」
「……分かった。無理するなよ」
彼女の真剣な顔を見ると、もう残るという選択を取ることは出来なかった。
なら俺は進まなくちゃならない。
「うん。それに――この子には負けてあげられないから」
特に因縁とかなさそうなのだが、何かあるのだろうか。
本当に真剣な様子だった。
「波動。無理だと思ったら逃げろ。負けても生きていたらそれでいい」
「先生も転間くんのことお願い」
「いや逆だろ。俺がイレ先の面倒を見て――」
「そんなわけないだろ」
なんだと?
普段だらしない上に効率を求めて楽な食事にするから弁当作ってるのは誰だと思ってるんだよ。
俺だが!?
せめて人前に出る格好にはさせたりしてるのも俺だろっ! なんなら洗濯やら掃除までするが???*3
「ね、転間くん」
「なんだ?」
「個性切ってくれる?」
「……? ああ、切ったけど」
危うくイレ先と喧嘩する気満々になってたら、ねじれにそう言われたので個性を解除する。
オート化を切ったため、今の俺はマニュアル以外では普通にダメージを食らう。
何か意味があるのかと思ってると、こつんと胸辺に軽い衝撃と温もりを感じる。
端的に言えば、ねじれが抱きついてきた。
すりすり、と擦り付けてきて、そのまま離れる。
「……うん! 充電完了! ありがとう、転間くん」
謎の動物みたいな行動に人がよく分かってないままでいたら、ねじれは満面の笑みを浮かべていた。
抱きつく意味はあったのだろうか。
汗も多少掻いてるから気にするんじゃなかろうか。
「転間くんならどんなのでも平気だよ?」
「お前人の心読みすぎだろ」
なんだこいつ。
波動の個性でそうなったりしてんのかよ。
映画のルカリオじゃあるまいし。
まあいいや。
「
「! 任せてっ!」
気合いの入ったような声が響く。
俺とイレ先は頷き、道が分からないので地面を掘って5階へと向かっていく。
「――話は終わり? お兄様に抱きつくなんて……貴女は余計な虫なのね」
「大好きな人の温もりを感じて何が悪いの? 私にとっては大事なエネルギーになるもの」
「ふふふ、そう、やっぱりそうなのね。いいわ。貴女はタダでは殺さない。苦しめて死にたいって懇願するまで酷いことをしてあげる」
「それは嫌かな。私は転間くんになら何されてもいいけど――彼の隣に居たいもん。ううん、これからもずっと居る!」
「――いちいち気に障る。お兄様の優しさにつけ込んでるだけのくせにっ!!」
12:45。
――そして俺たちは。
「迷ったんですけど」
「……だと思ったよ」
「まあ待ってください。言い訳ですけどね。言い訳ですけどね?」
「こんなの分かるかァッ!!」
どこもかしこも同じ光景で大量の分かれ道しかない空間に俺とイレ先は見事なまでに迷った。
東京駅か新宿駅か梅田駅か!? ここ新宿だけど!
5階が最下層じゃねぇのかよ! スターのうそつき!! 後でクレームのメールしまくるからな!?
「これは誰でも迷う。気にするな」
「くそぅ! 出久を探すのだったらこんな空間でも簡単に答えが分かるのに!」
「それはそれで怖えよ」
「面倒臭くなったら道全部消し飛ばしますね」
「絶対やめろ。出来ないやつが言っても問題ないがお前はそれが出来るんだから困る」
「いやだってこれ絶対個性じゃん。仕事ですよイレ先。空間ごと個性を消せない?」
「無茶を言うな……」
「やれやれ、これだから修行不足は……」
「あのな、俺はお前じゃないんだぞ」
「おい人をなんだと思ってんだあんた。空間ごと消し飛ばすくらいしか出来ませんよ俺も」
「それが出来るなら十分だろ。全く……個性なら個性でその相手を探すぞ」
「はーい」
「……緊張感ないな」
「俺とイレ先が組んで勝てない相手が居たら誰でも勝てないでしょ。オールマイトでも無理無理」
「……」
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい