どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
変わらない日々を送りつつ1年生とどう話すか考えていたら1か月など早くて、お兄ちゃんセンサーも発動しないことから出久は順調なのだろう。
それはそうと。
俺は嫌なのだが、仕方なくイレ先のために新1年生のところに向かうことになった。
ちなみに授業の出席はつくし評価も良くしてくれるらしいが、勉強は補習か自主的にやれとのこと。理不尽すぎる。*1
まぁ来年出久たちのクラスに何か教えろとか言われた時の参考になるか……。
「くれぐれも心を完全にへし折るなよ」
「俺がそんなやつだと思います?」
「思う」
普通に酷い。
俺たち、あんなに仲良くしてたじゃないですかイレ先。弁当も一緒に仲良く食べたしサッカーしたし一緒に猫カフェ巡りしたでしょ。*2
俺が懐かしいイレ先との一年間の青春の思い出という名の記憶*3を思い起こしていると、呼ばれたので教室に入る。
さて、新一年生はどんな者たちか。言い聞かせしやすい子たちならいいのだが――
なんだこの空気。
滅茶苦茶どんよりしてるんだけど。クラス暗いんだけど。このクラスだけ雨降ってる。完全に葬式。お通夜状態。
ダメだ、ミリオ呼んで来てくれ。俺だと力不足だ。俺にあんなつまらない一発ギャグは出来ない。出久に頼まれたらやるけど、それ以外じゃ無理だ。
俺、この中で喋らなくちゃならないの? 気楽にやろう、イレ先は厳しいけど優しいぞ。
俺ら問題児クラスを見捨てないでくれたからな。*4
仕方がない、俺がイレ先のフォローもしてやるか。
先生想いの生徒でよかったな、先生。
そう想いを込めてイレ先に視線を送った。
「う……胃が突然また……」
失礼すぎないかこの人。
まるで俺が常に渦中の人みたいなことを。*5
とにかく自己紹介か。
「ご紹介に与った緑谷転間です。ヒーロー科2年A組でイレイザーヘッドことイレ先の元生徒……なんだが、適当によろしく」
自己紹介しても、特に何も返ってこない。
どこかビクビクしてるというか、いつまた除籍になるか分からないからだろうか。
元生徒ってとこには驚いたみたいだけど。
「あの……これから何ばしようっとですか? もしかして除籍とかあったりすると……?」
「えー君は確か……」
「
勇気を出して口を開いてくれたのはこのクラスの代表だろうか。
ピンクがかった白いミディアムヘアーで、綿付きのピアスを身につけている女の子だ。
名前が出てこなかったが、見せられた名簿にそんな生徒が居たなと思い出す。
変わった言葉遣いだ。この近辺では聞いたことないが……ああ、前世の会社にも居たな。
博多弁だっけ。あんまり知らないのだが、興奮した後輩がよく口から漏れ出ていたのは覚えている。
入社時からクソ上司から庇ってたとはいえ、転職してなお俺のことを慕ってくれていた。ある意味弟みたいな子だった。*6
「不和さん。その質問に答えると、まず今日は除籍とかはない。俺が担当する以上、今日は俺が教師みたいなものだ」
それはともかく、本当に空気が重い。なんなら全員元気がない。除籍がないことに心の底から安堵の息を吐いているのが見てわかる。
イレ先さぁ……入学したてでこれはえげつないと思う。だから空気を変えるために俺を呼んだと思うのだが……。
おい寝袋に逃げるな卑怯者!
生徒に! 俺に!
全部押し付ける気か!? 俺が何をしたってんだ!!*7
「えー……まぁ、こんな人だけど本当にさ、この人は生徒のことを思ってやってます。みんなが除籍され、復籍したのは聞いた。俺が一年の時は
「いいか、ヒーローはいつだって命懸けだ。君たちも近いうちに職場体験で”ヒーローとは何たるものか“を経験する。そして死と隣り合わせだってことを嫌でも実感するだろう。
学生だからといって死なないと思っているか? 守ってもらえる立場だと思うか? そんなわけが無い。学生だろうとプロだろうと死ぬ時は死ぬ。プロも神様じゃないから職場体験に来た学生を守れない時もある。故にヒーローなら己の身を己自身の力で守り、人々を守らなくちゃならない。両方を守らなくちゃならないのがヒーローだ。”人を救うこと“は決して命を粗末にしていい理由にはならない」
「頭ではわかっていても死んだら人はそこで終わりだ。だからこそイレ先は覚悟を持てないようなやつを除籍する。
イレ先がそうするのは未来ある子供に死んで欲しくないからだ。ヒーローになれなくても人間は生きられるからな」
これでも前世は大人だ。
イレ先の厳しさを、そこにある誰よりも生徒を想っている優しさはわかっているつもりだ。
この人も何かあったっぽいしな、聞くつもりないけど。
「とまあ、ここまで言ってきた訳だが、ぶっちゃけ俺も一年先輩なだけで変わらないだろとか思ってる人はいると思う。俺の言葉も大して響かないと思う」
返事こそないが、何人か顔を逸らしたのは見えた。
うーん、浮つきすぎというか甘い考えを持ってそうな感じが凄い。先輩からの言葉は偉大だぞ、マジで。*8
俺が甘やかすのは出久だけだから厳しい行動をさせてもらおう。
「だけど一度除籍されたというのにここにいる以上、本気でヒーローを目指したいと思ってるのだろう。君たちの想いは俺は尊重したい。
──だから今日やることのメインはたった一つだ。要領の悪い子でも誰でも分かること。コスチュームに着替えたあと、グラウンドΣ*9に集合してから、俺と戦ってもらう。俺は
ただ威圧的に。
殺意にも近い圧を出しながらそう告げると、俺の圧に呑まれたのかほとんどの生徒は息を呑んでいた。
とはいったものの、一年生の個性知らないんだよな。なんとかなるか、たぶん。
将来出久が入学してくる高校だ。
お兄ちゃんはりきっちゃうぞ!!
グラウンドΣ。
平地となっているこの場は障害物こそあるが純粋に訓練に使いやすい。
的はボタン押したら生えてくる。設定を変えたら障害物や建物も生えてくる。
さすが雄英。予算がどこから降りているんだろう。
流石に制服でやる訳には行かないので、体操着に着替えた俺が待っていると次々と来た。
流石雄英というべきか、改めてコスチュームを見るとそれぞれの特徴が出るな。
最新鋭だし。
ちなみに俺のコスチュームは出久がいつ何時も怪我してもいいように医療用ばかりだ。申し訳程度に個性の負荷を軽減する機能があるけど、あんまり役に立ってない。俺の場合は取り込む情報量が凄いから脳みその負荷を軽減してくれないと。
許容範囲を超えると強烈な頭痛が発生するからな。最初に発現した本来の用途の方は問題ないのだが、”応用“との”合わせ技“の負担が強い。
それはそうと、ここにはイレ先もいる。
なんなら一応監督責任者だから居て貰わないと困る。
「あのー本当にやるんですか?」
「ああ、その方が早いだろ?」
「だけど先輩一人っすよね。いくら先輩でもこの数は無理じゃないですか?」
「だったらオールマイトは20人程度に負けるか?」
「それは……」
「オールマイトは別なんじゃ……」
「プロだし、No.1じゃん」
「確かに一度除籍されたけど……これでも入学試験に合格してる。私たちも実力はあると思います」
「だからやるんだ。その自信を打ち砕くのが俺の仕事だ」
「……怪我しても知らない」
「
次々と言ってくる面々にそう返すと、戦意が高まるのを感じる。
俺の挑発が刺さったのだろう。
確かにこれは、危ういな。この状態で職場体験は危ないかもしれない。
自分たちの身の程というものを知っとくべきだぞ。
「入試試験でも言われただろうが、ヒーローに合図はない。いつでもかかってこい」
「じゃあ遠慮なく!」
言葉通り遠慮なく次々と遠距離持ちの個性が飛んでくる。
空気圧、蔓、電撃、岩石、泡。
威力こそまだそこまで強くないが、当たればダメージになる。
個性を使わない以上、遠距離攻撃は防ぐに限る。
地面を全力で踏みしめるとアスファルトが隆起する。
それを盾にするように防ぐと、砕くように蹴り飛ばして破片で動きを阻害。
瞬時に駆け出し、撃ってきた面々だけに腹パンやらデコピンやらチョップやら拳骨して撃破した。
油断して攻撃動作をやめない。
戦えなくなったとしても現場にあるものが使えるものなら“何でも武器”にしろ。
これが伝わってくれたらいいな。
一年生らしいっちゃ一年生らしい。
なんて考えていたらカブトムシみたいな見た目をした異形型の子が突進してきたので、角を受け止めて放り投げる。ついでに俺の背後から来た鼻の特徴から考えて犬っぽい女子も投げる。*10
これで7人。
「さあ、ここからレベルを上げていくぞ。怪我したくないなら
「うそ……!」
「これで個性使ってないのかよ!?」
「それにまだ本気じゃなかったの……!?」
「こんなのどうしたら……!」
「む、むりだ……」
「……! みんな冷静になろう! 一人一人挑んだっちゃ勝てんばい! 力合わせて、連携した方がよかて思う!」
ようやく実感を得てきたのかクラス全体に混乱が広がる中で一人声を挙げていた。
そのお陰か他の子達も少しずつ冷静さを取り戻していっているのが分かった。
あの子――不和真綿だっけ。
リーダーに向いているというか、人をまとめる才がある。この中で一番上に行くかもしれないな。
「鉄銅くんは前に! 幻っちは撹乱! 磁力くんは鉄銅くんのアシスト!」
「任せろ……!」
「惑わせてあげる……!」
「わかった」
人間ってのは指示を貰うことで、どう動けばいいか分かるようになりスムーズに動けるようになる。
走ってきた男生徒の皮膚が銅鉄に染まる。重たくなってしまうのがマイナス点か。
それをフォローするように俺の目にはさっきまでなかった――幻覚が映し出される。
銅鉄の生徒が増えたのだ。
邪魔なので出久のことを考えて上書きし、掻き消した。*11
「影山くんと氷川ちゃんは妨害!」
「り、りりりょ、りょうかい……」
「凍れ!」
次に足が動かなくなり、地面を見れば影が伸びている。そこに追い打ちをかけるように凍らされていて、銅鉄の子が加速した。
磁力、名前の通りっぽいな。
つまり金属を弾く力か。
「クラスメイトのことをよく見れている。だけど悪いな。似た経験はしたことがあるんだ」
放たれた拳に合わせて首を傾け、カウンター。
技術も何もない力任せの一撃など当たるはずもなく、俺は個性を強制解除させながら吹っ飛ばす。
吹っ飛んだ先では綿のようなものがキャッチしていた。
それから地面を殴り、影を消しながら氷を破壊すると加速した俺は全員に腹パンしてさらに5人一気にKOさせる。
影を操るのはいいが、足だけじゃなく全身を封じれないとな。氷の子も同様。いい個性だが、経験とレベルがまだまだ足りない。
不和って子はまだ残すべきだと判断して残してある。
残り……えー、1、2、3──8人か。
一気に行こう。
そう地面を蹴って駆け出したところで。
「今!」
「星屑が舞う夜空のように──!」
なんか詩的なやつがいるな、と思ったらいつの間にか撒いていたのかキラキラした粒子が視界に入り、爆発した。
流石に個性なしだと避けられなくて直撃する。
「これなら!」
「“次に備える”こと。これもヒーローに必要なことだ」
「うそっ!? 効いとらん!?」
一発受けた。1年生にしては頑張っただろう。
残りの面々を一気にダウンさせ、残り1人。
「あ、はは……せ、先輩……流石に強すぎん?」
「伊達に仮免は取ってないんだ、これで終わりだな」
残り最後の1人である不和に腕を振り上げると、彼女は痛みに堪えるように目を閉じた。
力強く閉じられ、うっすらと雫が見える。
肩が僅かに震えているのを知りながら俺は容赦なく振り下ろす。
「けど、よくやった」
「……へ?」
こてん、と軽い手刀。
予想外だったのか彼女は目をぱちくりと瞬きさせている。
他の子達と扱いが違うのは活躍の差だ。
彼女が居なければ混乱が場を支配して冷静な判断が出来ず、各々好き勝手に行動したと思う。
何も出来ないまま俺にやられていただろう。
一番の功労者にはちゃんと褒美をあげないとな。飴と鞭だとイレ先から教わった、いや俺に対しては鞭と鞭だった……。
「クラスをまとめるってのは簡単に見えてとても難しいものだ。俺は出来ないし。だけど君はそれをやってみせた。それもまだ大した期間を共にしてない同級生を、な。実力ならいくらでも伸ばせるが、これは簡単に身につくもんじゃない。その点だけで言えば俺から見ても不和さんは凄いと思うぞ? このクラスの中じゃ誰よりもな。──頑張ったな」
ぽんぽんと軽く頭を叩いてやると、へなへな〜と文字が出てそうなくらい力が抜けたのか座り込んでいた。
余程怖い思いをさせてしまったのか、緊張が解けたのか、不和の目には涙が浮かんでいて顔も赤くなっていた。
泣かせるつもりはなかったので流石の俺も申し訳なく思えてきたが、その姿を傍目で見ながら声量を大きくする。
ちゃんと全員に届くように。
話を締めるために。
「君たちがいずれ受ける
俺とはたったの一年だが、この差だ。分かるか? 個性が強いと自負していたものもいるだろう。最難関とされる雄英の試験を突破したからと自信を持ってる人もいるだろう。同年代では上澄みだと調子に乗っていたやつもいるだろう。
だが君たちは個性を使わない、言わば無個性の俺に敗北した。逆に言えば俺が個性を使用していたら君たちは殺されていたとも言える。
そんなくだらない自尊心も自負もいらない。そんなのを大切にするくらいなら捨てて、自分たちはまだまだ弱いのだと、下なのだと思い続けろ。ヒーローに必要なものは何なのかを考えろ」
どっかの無駄に自尊心が高いやつにも言えることなんだが、そんなのに拘ってたら人間いつまでも強くなれない。
強いと思っているやつが上へ行けるはずない。
自分の実力がまだまだなんだと分かっている者こそ──雄英に合わせて言うならば、
「そしてこれを糧に前に進む覚悟があるならヒーローを目指し続けるんだ。
総括して言うぞ。ヒーローを目指すなら、
((((あれでも加減されてたの……?))))
「で、これでいいんですかね、イレ先」
「ああ……まあ、なんだ。言いたいことは全て言われたが、はっきり言ってこいつは一年時……いや入試の時から異常すぎて参考にならん」
「は?」
「だが言ってることは間違っていない。こいつの実力を身を以って体験したなら理解出来ただろう。この体験をしてもまだ浮かれた気持ちで居るようなら、甘えた気持ちでいるつもりなら俺は今度こそ容赦なく見込みなしと判断する。
ヒーローになりたいならば
「はっは〜。またまたそんなこと言って。今回の戦いを見て生徒たちに期待してるのはわか──絞まる! 首絞まってますイレ先!!」
決めたように言ったイレ先に俺が口を開いたら言葉を遮るように捕縛布を首に巻いてきた。
いつか俺の首に痣が出来るかもしれない。イレ先にマーキングされてしまう。いらなすぎる。今すぐにでも全部返品したい。
俺が抵抗していたら場が知らない間に穏やかな空気へと変わっており、さっきまでの暗さはどこへやら。
クラスメイトたちで話し合って、こう、熱気があった。
このクラスの本来の空気感がこれなのかもしれないな。
俺とイレ先は顔を見合わせた。
「俺、何かやりました?」
「大きな壁を見せたことでやる気を出させたんだろ。そのつもりだったとはいえ……ありがとな」
「イレ先のデレとか誰得だよ」
「お前後で職員室に来いよ」
「職権濫用って言葉知ってます?」
「こいつ……減らず口を──」
突然、イレ先が視界から消えた。
え……俺個性使ってないんだけど。誤爆して吹っ飛ばしてしまった? 昔ならいざ知らず、完全にものとしたはずだが……。
と、一瞬思考が止まってしまったが、気が付けば俺は生徒たちに囲まれていた。
「あ、あの!」
「先輩! 生意気言ってすみませんでした!」
「先輩の個性ってなんなんですか!?」
「そのパワーはどこから!?」
「やっぱり一年で仮免となると大変だったんですか!?」
「先輩のこと聞かせてください!」
「好きな人はいますか!?」
「個性を使わずして高い身体能力……興味深いわ」
「ねえ、どうやって私の幻覚から抜け出せたの?」
「個性について相談したいことが──」
「ふ、ふふふふ……影は照らされれば強くなるもの……」
「ぷくぷく〜ねー先輩はぁ、泡好きぃ? 私はねぇー。ふわふわ〜ってしてるのが可愛いと思うんだぁ」
「イレ先! イレ先ヘルプーー!!」
「──ハッ」*12
「おまっ! ちょ、みんなおちつ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
同級生たちならまだしも*13後輩である一年生を吹き飛ばすわけにはいかない俺は押され、波に呑まれてしまった。
虚しく天へと伸ばされた手を、イレ先は助けてくれなかった。
というか、1年生たちの勢い凄すぎるだろ。これが若さか……。
俺は力添えしただけなのに、こんな仕打ちあっていいものだろうか……?
早く出久に会って癒されなければ……使命感。