どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
地下迷宮を探索していた俺とイレ先だったが、どこ行っても全く分からない。
真面目に面倒になっていたら、ボス部屋みたいなところにたどり着いて入ってみれば檻に入れられた怪物が三体。
ただ探索中に出会っていた者たちよりも明らかに待遇が違うのでお気に入りか何かなのだと思った。
侵入者が入ってきたら檻が外れる仕様なのか襲ってきたので、イレ先が抹消で個性を消してる間にちょうど道を開けたかったから滅茶苦茶久しぶりに必殺技をドカーンとしたわけである。
そしたら能力見せることなく死んだし道が開けたし迷路が消えたしで着地したら何か変な生物とボロボロなみんながいるしで、全く意味が分からない。
イレ先に聞いても分からないらしい。全く俺が居なきゃダメだなぁ、イレ先は。*1
「とりあえずそいつらって敵ですか?」
「あ、ああ」
「了解」
外見からして味方ではないとは分かっていたが、一応確認してから出力を大きく高めつつ広範囲の赫を解き放つ。
ざっと300体くらいだろうか。
かなり広くなったな。まだまだいるけど。
目的は合流のため、これで十分だ。
案の定駆けつけてきたので合流出来た。
「たったの一撃でこれって……」
「全く……何をしていたんだオリジン。遅すぎるぞ」
「え、ナイトアイ。これ俺が悪いんです?」
「確かにひたすら左行ってたのはお前ではあるが」
「困ったらクラピカ理論使えって。イレ先だってついてきてたでしょ」
「状況は考えろよ。それにお前が勝手に行くからだ」
そう言われても道が無数にあるしRPGのダンジョンのように敵が居たから仕方ないと思う。そのくせして宝箱はないんだからゲームとしてはクソだ。
流石に俺でもあれは解き明かすことは出来ない。なんか問題みたいな感じのやつのヒントっぽいのはあったけど。
本来はあれを解読するんだろうな。
「状況教えてデニムの人」
「全く君は……。ここは最下層で先のは既に死んでいる改造人間。そしてあれがエドワード・アンブレラだ」
なるほど、手短で助かる。
外見が人間には見えないから容赦なく殺ったけど問題なかったか。
むしろそうなってしまえば殺すしか救えない。
いやまあ、ヴィオラが他に人間は居ないとか言ってたから人間じゃないんだろうなとは思ってたが。
「ば、バカな……」
「ん?」
声の先を見つめる。
自分が王とでも言いたいのか高台から信じられないような様子で見下ろしていた。
頭が高いなあいつ。王様気分かよ。
あれがエドワードとやらか。そんな強そうには見えないな。
それより隣のカプセルらしきものから妙な気配がする。
ザワつくというかなんというか……。
「データ通りならプロヒーロー数人がかりで倒せるような個体だぞ!? 私のお気に入りの兵器を、優秀な個体を、こうもあっさりと片付けたというのか……!?」
「いや、そいつら一撃で死んだから全然強いかどうか分からないんだけど」
「いち、げき……?」
ショック死するんじゃないかって言うくらい驚いている。
顎外れないかな、大丈夫?
戦う前に一瞬で終わったけど、元々道を開けるつもりだったから普通に戦っても瞬殺してたと思う。
前の廃棄施設とは違って加減せずに殴ったり個性使えるし。
「で、でたらめを言うな! そいつを殺せ!!」
嘘は言ってないのだが、信じてもらえなかったようだ。
でも良かった、びっくりして死んじゃったらどうしようかと思ってたからな。せめて今までの犠牲者の分、一発でも殴らせてもらわないと。
上から見た時の数だと推定500体以上が向かってくるので、前に出る。
元々の数はさっき死体消し飛ばしたから正確には分からない。
ただここにいる全員、主にボロボロのベストジーニストとエッジショットは頑張ったのが分かる。
「オリジン――」
「休んでいてください、危ないんで。皆も怪我したくないならそこ動かないで」
一応警告してスタンピードのように向かってくる改造人間を見つめる。
子供から大人まで。
表情が変化したり声が聴こえたりと思考能力が残ってるのだろうか。
それは分からないが、苦しそうだというのは伝わってくる。
ここに居るやつらはだいたいがそうだ。生き物たちですら死にたいと思ってるように見える。
こいつらは戦闘力自体はそんなに高くないだろう。
苦しませずに一気に弔うとしよう。
「蒼」
一定の距離に入った瞬間、巨大な蒼い光球を生み出す。
出力としては半分くらい。
俺が生み出した蒼に吸い込まれ、次々と吸い込まれては圧殺していく。
それから身体能力の強化をして、ひたすら駆け回った。
高速かつ一撃でその命を奪う。
90秒にも満たない時間。
おおよそ300体くらいはこの手で殺したが、姿形を残すのも可哀想なのでそのまま呑み込む。
すると、もう何も残らなかった。
「苦しかったよな、辛かったよな……全員助けられなくて、ごめん」
俺に死した者を救うことは出来ない。
ただ死ぬ間際、大半の者が救われたような顔をしていたのは分かる。
だからこそ、救えなかった分――
「その代わり、アイツは俺が絶対ぶちのめす」
見上げる。
それと同時にワープした俺は空中に立ちながらエドワードを見下ろした。
「ひいっ……!?」
「降りてこいよ、お前如きが見下ろしていいと思ってるのか?」
「わ、分かった。待ってくれ!」
胸ぐらを掴み、軽く殺意をぶつけただけで怯えたような顔をしていた。
いや、もしかしたら軽くのつもりが今までで一番の殺気を出してたかもしれない。
――だが、さっきの人たちはもっと恐怖していただろう。怒りが通り過ぎて感情が表に出なくなっているのが分かる。
カプセルと共に徐々に下がって、下がりきったのを見た俺はそのまま地に足を着ける。
「話せ。生き残りは? お前のバックには何が居る? 何が目的でこんなことをした? まさか神とやらのくだらない顕現のためにこんなことしたわけじゃないだろうな?」
「い、生き残りはいない。全部殺した! きょ、協力者が上にいる。会ったはずだろう!?」
ヴィオラのことか。
その割には彼女に対して力を試すようなことはしてたようだが、最強の生物とやらを生み出すために彼女の個性を利用してたってとこだろうな。刺客を送り込んで力を見極めようとしてたのか。いやこいつのことだから殺せればその時は有効活用するつもりだったのだろう。
――こいつぶっとばすだけじゃダメな気しかしないな。
まあいいや。
「とりあえず一発」
被害者たちのため、代わりに握りしめた拳を叩き付ける。
コンクリートに顔面をぶつけていたが、加減してるので意識も失っていない。
死にかけの髪を掴んで無理矢理起こすと、血は出てるけどまあ大丈夫だろ。鼻は折れてると思う。
カプセルに関しては下手に触れて目覚められても困るし、とっととこいつを捕まえてこの事件は終わりだ。
「ベストジーニスト」
「ああ。エドワード・アンブレラ。お前を捕縛する。今までやってきた悪業の数々、晒させてもらうぞ」
ベストジーニストのマイクロファイバーによってエドワードが拘束される。
俺はその間にカプセルを見つめるが、やっぱり妙な感覚がある。
こいつ……
目がないから視線じゃ分からない。にしては動く様子もないしな……。
「――ふ、ひ」
「……何がおかしい?」
「うひひひひひ、お前たちは何も分かっちゃいない!」
突然変な笑い声を挙げたかと思えば、妙なことを言い出した。
何が分かってないのかというのか。
「研究は続いている! あの御方たちもまた別の研究をしている! お前たちヒーローに安息はなく、いずれ日本は支配される!! そしてこの場で貴様ら人間共は死ぬのだ!」
「何が言いたい?」
「簡単な話さ――私が死ねば神は蘇る。知っているだろう、神に贄は必要だと。私は既に準備を整えていたというわけさ……!! さぁ、目を覚ませ! 天より落ちし者――“ネフィリム”!!」
「させるわけないだろ」
リモコンのようなものを取り出そうとしていたのに気づいた俺は蹴っ飛ばす。
カプセルを起動するようなものだろう。
「いい反応速度だ。阻止したつもりだろうが……もう遅い」
「何?」
しかしリモコンを無くしてなお、エドワードは笑みを深くするだけだった。
「ひ、ひひひ……オールマイトだろうとエンデヴァーだろうとおしまいだ!!」
「ありとあらゆる“事象に適応”する究極の生命体!! 宇宙の神秘をとくと味わえ、ヒーロー共!!」
その瞬間、カプセルにヒビが入る。
不思議と目が合ったような気がして、確信する。
やっぱりこいつは目醒めている、と。
何かが伸びる。
咄嗟にベストジーニストに触れて後ろへと下がると、エドワードは剣のようなもので貫かれていた。
「ごふ……。ふ、ふふふふ……ハハハハハハッ!! こ、これで……全てが、終わりだ……。さ、先、に……地獄で、待って……い、る……」
その遺言を終えるのと同時にカプセルが弾けるように割れた。
カプセルの中に入っていた液体が流れていく中、異形――ネフィリムとやらが出てくる。
「――全員ここから退避しろ!! こいつは
そいつが手を向けてくると、今まで感じたこともない嫌な予感を感じ取った。
最近感じられることがなかった、“脅威”だと思うような猛烈な気配。
何か来る。攻撃なのは間違いない。
どんな個性だ。範囲は?
ダメだ、何もかも分からない。分からないが――
「しゃがめ!!」
俺が迎撃出来るような状態になってもらうために叫ぶと、巨大な斬撃が見えた。
全員が身を屈める中で反応の遅れたバブルガールと念の為にボロボロなファットガムを押し倒すと、斬撃は通り過ぎて施設の壁を大きく斬り裂いた。
あの切れ味からして、人間の首なんてあっさり飛ぶだろう。
究極の生物とかいうだけあって威力もとんでもないようだ。
挨拶代わりの一撃がこれかよ。
振り向いてネフィリムの位置を見ると、やつは頭上を見上げ、一気に跳ぶ。
跳ぶのではなく、飛ぶのような速度だ。
天井をあっさりと貫いているのが見える。
向かう先は、まず間違いなく地上。
エドワードが予め命令を出していたのかどうかは分からないが、人間を殺す気なのだろう。
どうやら今度こそ俺の出番らしい。
「助かった、オリジン」
「いえ。あいつは俺が追います。皆さんは至急人々を避難させてください。守りながら戦える相手じゃない」
起き上がったエッジショットが、一応俺のインターン先のヒーローだからか声を掛けてきたため、即座に指示を出した。
遠回しに邪魔だと言ってるようなものだが、気遣いながら戦えるような相手ではないと俺の勘が告げている。
「……君がそこまで言う相手とは」
「嫌な予感がするんです。あいつは恐らく……並のヒーローが勝てるような相手じゃない。それこそトップヒーローか、オールマイトクラス。それも全盛期の。俺も加減出来るか分かりません。少なくとも分かるのは……あれは明らかに人間じゃない。常識で考えない方がいい。もしかしたら個性だって複数あるかもしれません」
エッジショットの隣に立つベストジーニストが驚いたような声音で告げていたが、俺もありのまま感じたことを告げた。
やつがオールマイトでもおしまいだと言ったこと。あのネフィリムから感じられるただならぬ気配。
やつが言っていた“神”なら俺たちの常識は通用しない。
少なくともどんな個性か分からない以上、絶対防御を持つ俺が相手すべきだ。
それが無くても実力で何とかなる俺がやらないと危険だろう。
「分かった……ならお前に任せるぞ、オリジン」
「私たちは至急地上に戻って人々を避難させる。あのネフィリムとやらはオリジン、君に任せよう」
「……ありがとうございます」
道は既に開けている。
ネフィリムが地上までの道を開けてくれている。
ここにいる者たちもリューキュウが地上へ上げるだろう。
「転間……」
「転間、俺も行くよ!」
「いやお前らは残ってろ。心配すんな、二人とも。俺を誰だと思っている? むしろ一般人を巻き込む危険性があると俺の力が出せないんだ。そっちは任せたぞ」
「分かった……無理はしないでくれ」
「転間……そうだね。転間なら大丈夫だよな。でもさ、出来ることあったら言ってくれよ!」
返事するように手を挙げると、両足を強化して一気に跳ぶ。
推定オールマイトクラスの敵。
必ず仕留めなくっちゃならない。
俺たちが逃がせばいずれ脅威になるのは間違いない。
こっちとら来年には弟が入学するんだ。出久に背負わせてたまるか。
◇
13:26。
地下4階。
未だ戦い続けているねじれとヴィオラ。
その戦いにも決着がつこうとしていた。
「もうボロボロね。さあ、終わらせましょう。貴女の個性因子を壊したら貴女は絶望する? 刃向かえないようにするならそれが一番かな?」
「まだ終わってないのに勝った気で居ないで欲しいな!」
「なら、ここから逆転する手は浮かんでるの?」
放った波動はあっさりと手で弾かれる。
もはや個性で壊すことすらしていない。
「貴女はもうこの程度の出力しか放出出来ない。結局私には届かなかったね、おねえちゃん。ふふふ」
コスチュームは所々裂け、そこら中に傷や汚れているねじれに比べてヴィオラは幾つか傷や服が破けてたりはするが、比較的無事なヴィオラ。
彼女の言う通り、余裕があるのはヴィオラだった。
「貴女の分まで私がお兄様の隣にいるわ。そうだ、それを見せつけるのもありかな? その方が絶望するよねっ? その方が辛いよね? だからこれでおしまい。誇るといいわ、貴女は強かった。でもそれ以上に私が強かった。それだけなのだから――ねッ!!」
勝負を終わりにすべく、ヴィオラは天井やねじれの周囲を崩壊させる。
それによって起きる爆発がねじれを襲い、天井の瓦礫が降り注ぐ。
砂埃に隠れてしまったが、ヴィオラの目は彼女が逃げたり避けたりしてないのを油断することなく正確に捉えていた。
「死なないようにはしてあるわ。後で治療はしてあげる。それより早くお兄様のところに向かわなきゃ」
殺すつもりはないため、身動きが取れない状態にはなっているだろう、と確信したヴィオラは下の階層に向かおうとして正しい道の方へ行こうとする。
二人が無理矢理道を作ったのは迷路になっていることを彼女は知っているからだ。
今頃は最下層に着いてるだろうと確信してるのもあるが、また会いに行けることに彼女はテンションが上がっていた。
思わずスキップしたくなるような気持ちに駆られ、そのままスキップで行こうかと考えたその時。
ヴィオラは背後から感じられる気配に振り返る。
「――これを練るのはね、時間がかかるしすっごい疲れるの。でも貴女は強いから、これを使うまでもっともっと時間がかかった」
煙が晴れた先には瓦礫に押し潰されることなく、むしろ宙に浮いていて瓦礫が完全に消滅していることから波動が消し去ったのは分かる。
問題はそこではなく、波動の大きさだった。
それは螺旋。
無限に回り続ける二重螺旋のような密度も高い超巨大な波動のエネルギー。
「こんなエネルギーをどうやって……違う。ずっと溜めてたから、だから威力が弱かった。溜めながら戦ってたってことね……!?」
「すぐにわかっちゃうなんて凄いなって思う。でもね、負けられないから。負けたくないから、私も加減なんて出来ない。これが私の本当の全力。私の本気!!」
両脚からも放出されてるエネルギーが全て両腕に集約し、さながらドリルのような形を作り上げる。
実力があるからこそ、その波動がどれほどの密度か。どれほどの威力を誇るのかヴィオラは理解した。してしまった。
「だとしても……だとしても、私はやっと見つけたの。やっと退屈を消してくれる人に会えた! 私は私の欲しいものをこの手に掴む!」
しかし彼女は逃げなかった。
意地といえば意地だ。
道を知ってる分、逃げることは出来ただろう。彼女の身体能力と個性なら辿り着く前に何とかなる。
そうすれば全力を放って隙だらけのねじれに勝つことは出来る。
でもそれは彼女のプライドが許さず、なおかつ同じ“女としての意地”が彼女をここに縛った。
「いいわ、最後の勝負と行きましょう。貴女の一撃が勝つか、私が耐えられるか――それだけだもの!!」
その結果、ヴィオラはねじれを真っ直ぐに見据えた。
その瞳は覚悟の目で、挑戦の目でもあった。
人によってはくだらないと蔑むだろう。切り捨てるだろう。
しかし二人にとってはそうではなく大事なもので、不思議とそれは互いにそれらを理解していた。
だからこそ、ねじれも応える。
ヴィオラも応える。
互いに引けない大事なものを抱えてるから。
「これが最後の一撃!」
「来なさい、壊してあげる!!」
そして――
「
ねじれの両手から本気の、超巨大な波動が解き放たれる。
迫るだけで凄まじい圧を起こすそれを、ヴィオラは握りしめて壊す。
波動が消え――再生する。
壊して、再生して、壊して、再生して、壊して、再生して、壊して、再生して。
――壊れない!? いや、壊れた先から増えてる! 無限に!!
そうして理解する。
この技の本質。
この技は波動ねじれが持ち得る、全ての想いが形となった技である。
技のイメージが転間であること。2年近く溜め込んだ彼女の想いが込められていること。願いと希望によって形成された波動はもはやただの波動ではなく、底知れないエネルギーを秘めた波動へと昇華した。
それ故に、彼女の“壊す力”で壊せても、壊した先から補うようにエネルギーは再生する。
もしこの技を破るのであれば、緑谷転間が持つ最高の技のように全てを消し去るか、もしくはねじれの体力が尽きるまで壊し続けるしかない。
それとも、本体ごと壊すか。
――ああ、そう。ある意味彼女も私と同じ。似て似つかない執着心を持ってるけれど、全てを諦めた私と違って、彼女は今も
全部失って、捨てられて。弱いからダメなんだと思った。私が弱くて役立たずだから捨てられたんだって。ただ強くなりたくて、でも畏れられてただけなんだと気づいて、気が付けば誰も居なかった。より恐れられて、畏れられて、取り返しがつかなくて、絶望して、世界が嫌になって、 その時に必要とされたから、ここに引きこもるようになった。何も期待しなくなったから。
だからお兄様をテレビやネットで初めて見た時、凄く強かったあの人を見て自分を重ねてた。この人なら私も一緒に居させてくれるんじゃないかって。
やめたはずの期待をお兄様にしてしまった。そして出会って、お兄様は一度も私を否定しなかった。手を伸ばしてくれた。引き返せない私を。
だから欲した。傍に置いても壊れないから。守ってくれる気がしたから。だからあの人に恋した。一目惚れだとしても、生まれて初めて恋した。
それはきっと、間違ってない。
この想いだけは、やっと出来た宝物だから。
「――今回は……負け、かな」
この技を壊すことは出来ない。
それを確信したヴィオラは潔く諦めるように目を閉じ、逃げることなく波動を受けた。
少しして波動が消滅し、既に力が入らないのか脱力気味になりながらふよふよと落ちてきたねじれがヴィオラの傍に座り込む。
ヴィオラは大の字で倒れており、衣服も先と比べ物にならないくらいボロボロになっていた。
互いに、ボロボロだ。
「……やるじゃん、おねえちゃん」
「そういう貴女も……強かったよ。本当に、ギリギリだったから……。貴女が私を殺す気だったら、負けてたのはきっと私。それに本気じゃなかったのは私でも分かるよ」
あの一撃を受ければ意識が消えてもおかしくはないが、保っているのは彼女が本当に強いからだろう。
ダメージの大きさから動けないだけだ。
ただそれでも、ねじれは彼女の強さを理解していた。いや、身近に強すぎる人がいるからこそ、気づけたというべきか。
本来は自分が勝てる相手ではない、と。
「殺す気がないのは……お互い様でしょ。でもまあ……言ったじゃん。私、お兄様を傷つけたくないもの。あと私の寝床なくなるし。何よりこの施設のこの階以外を壊すことは契約違反。知ってる? 私の実力があっても、それこそお兄様の実力があったとしてもね、“縛り”って結構面倒なのよ。自らならともかく、他者間はね」
「契約違反……縛り?」
「……簡単に言えば、破った側には相応の“ペナルティ”が課されるということ。下手したら制限受けたり力を剥奪されるかもね。破る気もないから知らないけど」
「そうなんだ……」
ねじれにとってはそれが何なのかは分からないが、彼女なりに何らかの制限を掛けられていたと勝手に解釈した。
別に頭は悪くないのだが、聞いたこともなければ約束とも違うとなれば分からないとしか言いようがないのである。
ヴィオラは理解されてないと知ったようで、ため息を吐いていた。
ただ何も知らずそう簡単に結べるものではないのでいいかと諦めた。
「――私、波動ねじれ。貴女は?」
「急ね」
「そうかな? 貴女とも仲良くなれると思うの。転間くんが貴女に手を伸ばしたのはきっと分かり合えると思ったからなんじゃないかな。本当に悪い人には転間くんは容赦ないから」
「……ヴィオラ。ただのヴィオラよ」
「ヴィオラちゃん」
「一応年上なのだけれど」
「さんがいい?」
「ふん、別に」
転間のことを挙げればあっさり名乗っていたが、素っ気ない態度だ。
まるで過去の自分を思い出すようで、ねじれは苦笑した。
「私、お兄様を諦めてないから」
「うん、いいと思う。だってそれは、ヴィオラちゃんだけの感情でしょ。誰かに強制されるものじゃない。だから私も私で、転間くんを好きで居るから。負けないけどね」
「可愛い顔して意外と生意気なのね、貴女」
「可愛いのはヴィオラちゃんだと思うけど」
「まあ? 老いることもなければ貴女と違って“大人”だから? 尚且つ美少女だし? お兄様も若くて大人の女性が良いと思うの」
「む、そんなことないもん。私も大人だし」
「高校生は子供でしょ。せめて大学生になってから言いなさいよ」
ツンツンしてるだけで仲良くなれないようわけではなさそうだった。
ねじれは甲矢との会話で、こういう人を『ツンデレ』と言うのだと聞いたことを思い出していた。
言ったら殺されそうなので言わなかったが。
どちらにせよ暫くねじれ自身も体力の回復に努めなければならないため、動けそうにない。
そんな時、二人が居るところから少し離れた場所が風穴を開けられたように地面がくり抜かれた。
そこからひとつの異形が現れる。
「「ッ!?」」
その姿を二人は捉える。
蛇の尾のように伸びた後頭部と法陣。3〜4mほどの巨体。
その異形が着地し、あまりに強い気配に冷や汗を掻く。
「アレは!?」
「……アレはあの人、エドワードはネフィリムと呼んでいたわ。元々は異なる世界の漂流者って言えばいいのかな。『
「5つ……!?」
ヴィオラが説明していたが、全く予想もしてなかったことにねじれは驚く。
そんな彼女を気にせずにヴィオラは警戒していたが、ネフィリムは二人に反応することなく、1度見ただけで無視してあっさりと上の階層へと向かっていった。
その際に崩れた天井が降り注ぐ。
咄嗟に波動で壊そうとしたねじれだが、出力が出なかった。
活力を大きく消費した後だ。
このままではマズいとヴィオラが壊そうと手を伸ばすが、あまりのダメージに上手くいかない。
それでも壊すべく握りしめると、完全に破壊が出来なかった。
大きいものは壊したから命に別状は無いかもしれない。しかしここで怪我をするのは良い結果とは言えない。
――やばい。
二人の思考が一致し、互いに互いを守ろうと行動しようとした瞬間、蒼の光が瓦礫を呑み込む。
ネフィリムが空けた穴から一人の男性が現れる。
「あれ? ここ4階か。俺、こんな道知らないのだが……もしかしなくともこっちが正しい道?」
「お……お兄様ぁぁぁ♡」
「人をその呼び方をするのは――ヴィオラか。ねじれも無事みたいだな、そっちも終わったか」
「お兄様やっぱり好き♡ 結婚して?」
「段階すっ飛ばされても。普通付き合ってからだろ」
「そういうとこは初心なの可愛い♡」
何を言っても無駄そうだ、と転間は諦めた。
というよりここまで好意を表に出される相手に慣れてなさすぎてどう対応したらいいか分からないといったところ。
「大丈夫か?」
「……動けないの。疲れて」
ねじれが頬を膨らませて拗ねたような反応をしてるが、転間は首を傾げつつ納得したように頷いた。
「そうか……どうしても無理そうならリューキュウが後で来るから乗せて貰え。俺はネフィリムを追わなくちゃならない」
「ダメ、お兄様。アイツは危険よ。お兄様を殺せる可能性を秘めてる」
「いやそもそもお前の兄ではないが。心配はいらないって。俺はお兄ちゃんだからな、弟が安心してヒーローを目指せるようにその道を作るのが俺の使命だ」
「でも……」
「だからこそ、俺は1人のプロヒーローとしてヴィオラから情報を聞かなくちゃならない。これが終わったら俺からも知り合いの警察を説得する。今度は正しく生きよう。俺に出来ることならなんだって力になるからさ」
「お兄様……」
転間がヴィオラに近づくと説得するような言葉を伝えながら頭をそっと撫でる。
それはまるで、言わなくても分かってると言うように。
「じゃあ……今度ミミズ人間の映画、付き合ってくれる?」
「ああ、その代わり正しく生きるって約束してくれよ」
「……うん。お兄様のためなら」
そんな転間にヴィオラは大人しくなって外見相応な少女のような笑みを浮かべ、転間もよし、と笑みを浮かべて頷いた。
ヴィオラは見惚れてるかのようにじっと見つめていたが、突如彼女が体を起こした。
咄嗟に転間は自動防御をONにすると、ぶつかる前に静止する。
ただわざとではないようで、ヴィオラは驚いたように自身の手を見つめて握ったり開いたりを繰り返していた。
「体が起こせる……? それどころか、動く……それに今の――」
「ねじれ。というわけでここは任せるぞ」
「あ、うん。無理しないで」
「無理をしたのはお前だろ。ほら」
ねじれの手を取って起き上がらせたあと、転間は言いたいことを言い終えたようにそのままネフィリムが開けた穴を利用して跳躍して追い始める。
それを見送ったあと、立ち上がって埃を払ったヴィオラはねじれに視線を向けた。
「ねぇ、お兄様って何者?
「え? 転間くんは転間くんだと思うけど……あとヒーローだよ?」
「そう……」
ヴィオラはこれでもこの世界にとっては長く生きる魔女である。
故に気づいたことがあった。
自身の肉体が
その際に
それが自身の体に伝わったことを。
それはねじれに触れた時も同様で、長く生きているヴィオラは“ソレ”を見たことがあった。
――お兄様。貴方はもしかして、気づいてないだけで
緑谷転間の個性は“収束”である。
それは当然情報を探りに探ったヴィオラすら知っていることで、あまりに
目視したのはこれが初めてではない。
一度力が押し負けた時に見た、
あの時驚いたのは転間のパワーもだが、こっちの意味でもあった。
ヴィオラの場合は同じ力を持ってるわけではないが、魔力を持つが故に目視出来る力。
それを持つということを意味するのは、
「――どんなことがあっても転間くんは変わらないよ。誰よりも弟が大好きな凄い男の子なんだから」
思考を読んだように話すねじれに、ヴィオラはあからさまに不機嫌そうな顔でそっぽ向いた。
「貴女に言われなくたって分かってる。お兄様の理解者面しないで。ムカつく」
「ほら、私達もここに居たら潰されるかもしれないし早く行こ?」
「はいはい。力を出せなかったなんて言い訳だもの。結果的に負けたことに変わりはないわ。大人しく従うわよ」
手を取るねじれに身を委ねるヴィオラだが、ふと思ったことがあった。
――こうやって誰かに手を取られたのは何時ぶりだろうか、と。
そしてさらに過ぎった。
――お兄様の温もりが欲しいなぁ、とあまりにブレない思考が。
「お姉ちゃんになったらこんな感じなのかな。なんだか不思議! 庇護欲を抱いちゃう。変なのっ」
「は? 殺すわよ。私の家族はお兄様だけよ。ずっと一緒に居たもの。ええ、私の記憶にはそう刻まれてるわ。小さい頃には結婚の約束もしたもの。幼稚園から小学校、中学校――」
「えーっ! ずるい! いいもん、私幼い頃の転間くんの写真あるし……」
「聞き捨てならないことを……ッ! ちょっとそれ寄越しなさい」
「やだ」
「戦争しましょう。今から貴女を殺すわ。ええ、今度こそ本気で殺してあげる。ここを出れば全力が出せる。今度は一切の加減はなしよ、肉体の破壊もするから」
「それもやだ!」
――どうやらウマが合うようなことはなさそうである。
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい