どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!!   作:俺もお兄ちゃんだぞ!!

53 / 64
多分あと4話。



蒼穹魔境新宿超決戦 陀

――13:41。

 

ウサギの瞬発力で地面が砕ける速度で改造人間に迫るミルコだが、合わせるようにして俺も隣で駆けていた。

ネフィリムは改造人間の後ろにいる。どちらにせよ目の前の壁は壊さないとな。

 

「私の速度についてくるなんてな! なら最高速度でぶち抜くぞ!!」

「ついてこれます?」

「お前がな!!」

 

さらに加速するミルコに少し驚く。

俺の方が圧倒的に速いが、予想以上に速い。

元々ソロでトップ10に入る時点で実力者なのは分かっていた。

ま、追い抜くが。

 

「……!!」

 

いちいち相手するのが面倒なのでそのまま加速して吹っ飛ばしていく。

俺の相手はこいつらじゃない。二人もトップクラスのヒーローがいるなら二人に任せて大丈夫だろ。

 

「赫灼熱拳――ヘルスパイダー!!」

 

腐ってもNo.2なだけあって、俺のタックルによって次々と吹っ飛んでいく改造人間を10条の細い熱線によって燃やし尽くしている。

ただそれを続けてると、目の前には巨大な壁が出来上がる。

集合体か。

流石にタックルじゃ吹き飛ばせないため、殴り飛ばそうとした時。

俺を跳び超える影があった。

 

「踵月輪(ルナリング)!」

 

空中で開脚してからの前方胴回し回転蹴り。

たったの一撃で完全に粉砕するほどの一撃には凄まじいの一言だ。

ヒーローの中でも上位に位置する威力。

ただスターの火力を目の当たりにしたことのある俺からすればマシなのだが。

 

「やるじゃん」

「ったりめえだろ?」

 

それでも十分な威力だ。

想像してたよりかは彼女は強いらしいな。

俺は大人しく蹴りでぶっ飛ばすと、ようやく道が開けた。

数こそまだいるが、ついでにぶちのめしておけばいい。

 

「俺が行く!!」

「あ、おい! やつは個性を6つ持ってる! 斬撃と炎と水と植物操作! それと恐らく遺伝子操作……か、ストックしたやつを生み出す力のどっちか! 何よりそいつが持つ適応は1度適応されれば効果は大幅に薄くなる!! やるなら殺すつもりじゃなくて殺せ!」

 

炎を足から噴出させて加速するエンデヴァーに俺は叫んだ。

いくら嫌いでも気に入らなくても命がかかった場ではちゃんとする。

 

「個性を複数だと!? だが、一撃で消し飛ばせばいいだけだろう!!」

「出来たら苦労してねぇんだよ! このアホ! 全盛期オールマイト並の身体能力持ってるぞ、そいつ!!」

「……!」

 

ネフィリムが一瞬で肉薄していた。

炎を逆噴出させ、エンデヴァーは拳を避けている。

咄嗟に反応出来るのはNo.2だからこそか。

オールマイト未満でも流石の実力者だ。

ネフィリムが炎を吐き出す。

 

「その程度効くか!」

 

しかしエンデヴァーは炎を上から上書きしていた。

炎の出力はエンデヴァーの方が上らしい。

明らかな隙を逃さず、エンデヴァーは懐に潜り込んで。

 

「バニシングフィスト!!」

 

拳に集中した炎がネフィリムを貫いた。

生半可なヴィランなら考えるまでもなく即死だ。

炎系最強なだけあってネフィリムにも効果は充分あるのか、拡散するように全身を燃やしていくものの――

 

ガコン。

 

「む……!!」

 

ネフィリムが適応した。

そうなると思ったよ。

それで死ぬなら俺の蒼で死んでるんだよ、そいつ。

殺るなら本気のオールマイト並の火力出してくれ。じゃないと死なないって。

 

咄嗟に加速した俺は斬撃を出そうとしていたネフィリムを蹴り飛ばす。

吹き飛びながら俺に斬撃を放ってきたので、避けようとしたが先に蹴り壊された。

 

「あいつすげーな。エンデヴァーの今の一撃でもピンピンしてるぞ」

「あの法陣が回ったってことは適応されたってことだ」

「おい、やつのあの再生能力はどうなっている? 俺の出せる限りの最大火力でも死なんとは」

「知るか。あれが回ったら回復する。そしてめちゃくちゃ硬い。復活もしないように欠片も残さず消さないとダメなんだろ。俺がやるから大人しく帰って涙で布団でも濡らしてていいぞ」

「黙れ、次は俺の全てで確実に燃やし尽くす。貴様はそのためにチャンスでも作れ」

「それが人に頼む態度かよ。お前が俺の代わりに作れよ」

「めんどくせーなお前ら!! 私が殺る!」

「ミルコは戦いたいだけですよね!?」

「殺るつもりならいいだろ!」

「そりゃそうですけ……どっ!」

 

大量の魚がネフィリムの腹から吐き出された。

知らない力だ、これも遺伝子操作? それとも水の操作じゃなかった?

どちらにせよ、こちらに来るウツボのようなものを踏み殺し、大量の魚はエンデヴァーが焼き魚にしていた。

 

――式神。

ふと、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

水棲生物を操る力と言ったところか? 水の操作はその中に入ってる副次的な力かもな。

伸ばされ、拡散する枝をミルコは素早く避けながら利用すると宙に高く跳んだ。

 

「踵半月輪(ルナアーク)!」

「ジェットバーン!!」

 

ミルコの渾身の踵落としがネフィリムを地面に沈める。頭部が完全に壊れていたが、そこにエンデヴァーの炎が包み込む。

 

「やったか!?」

 

それフラグ。

そう言いたい気持ちを押さえつつも、改造人間を蹴ったり殴ったりで吹っ飛ばしつつネフィリムを見つめる。

普通の超再生なら死んでもおかしくないのだが――。

 

 

 

ガコン。

 

 

 

そんな音が響くと、あっさりと復活していた。

振るわれた拳をミルコは大きく後ろに跳んで避け、手を地面について勢いを殺していた。

 

「いってーな! 余波だけでこれかよ。確かにオールマイトレベルってのも嘘じゃねーな!」

「あれでも死なんのか!」

 

どっちに適応したのかは分からないが、ミルコは腕が掠っていたようだ。

血が流れている。

ウサギの生存本能ってのもバカにならないな、全盛期オールマイト並を掠った程度で済ませるのは素直に凄い。

それにしても1回の適応でもうかなりの熱耐性でも出来たのか?

本格的に一撃で消し飛ばさないといけないらしいな……。

 

「全く厄介な力だな……溜める時間さえあれば燃やし尽くせると思うが」

「だから言っただろ……仕方ない。俺が力を貸してやるからお前の全力で殺せよNo.2。今の俺じゃ適応されてて倒し切れるか分からん」

「どうやらそうするしかないようだな」

「しくじるなよ」

「貴様こそな」

「何だ、お前ら仲良いじゃんか」

「「仲良くない!!」」

「また真似しやがって……!」

「貴様だろうが!!」

「おい、来るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

――どこかの隠れ家。

モニターに照らされるのはオリジン、ミルコ、エンデヴァーの3人。

そしてネフィリムだった。

 

「見てくれドクター。アレは成功作であり、そして失敗作でもある。No.6は可能性を魅せてくれた。だがアレは僕たちに目指すべき到達点を教えてくれる。アレこそ、僕たちが目指すべき脳無の到達点だ!」

 

モニターに映るのはエンデヴァーのヘルフレイムに“適応”し、ミルコの“ウサギ”に適応したネフィリム。

だがオリジンだけは完了出来てないようで、変わらず近接で打ち負けている。

否、成長する度にオリジンが更(・)に(・)上(・)か(・)ら(・)捩じ伏せてるというべきか。

 

「確かにこれは凄まじいのう……問題はやはり誰にも御することが出来んということか」

「あれは僕ですら制御出来ない。それどころか脅威にすら成りうる。なぜなら扱うには自分すら巻き込む。いくら死んだとしても仮(・)死(・)状(・)態(・)になるとはいえね。だからこそ計画から外していたが、なかなか面白いことになっているね。けど周りのヒーローが邪魔だなぁ、緑谷転間――オリジン単体に戦ってもらわなくちゃ意味が無い。彼が今現在、どれほど力を扱えるか見極めるためにも、ね。少なくとも体育祭より遥かに成長している。彼自身の個性を少しは使えるようになってるみたいだけど、結局は指で数えれる程度。OFAに関しては既に90%以上……いや100%といったところかな。全盛期の彼を超えつつある」

 

ネフィリムに適応されたのは3回。

既に効果がないと考えてるのか、先ほどから近接でボコボコにしてるだけ。

むしろ適応されてなお、未だに近接で打ち勝ててる時点でバケモノなのだが、逆に言えばそれほど個性を使えないとも捉えられる。

これほど近接能力が高いのは、“オールマイトの後継者”と考えればおかしくはない、とAFOは思っていた。

あの脳筋の弟子なら弟子も弟子だと。

恐らく継承した際にオールマイトよりさらに強化されたOFAをそのまま扱えるようになったのだろう、と。

 

「ふむ……そのためにもちょっと力添えしてあげようか」

「何をする気じゃ?」

「戦況を変えるのさ。脳(・)無(・)の(・)試(・)験(・)体(・)を出す。一体は炎の耐性を詰め込んだ個体。もう一体は身体能力が高い個体だ。オールマイトレベルではないが、エンデヴァーとミルコはそっちを相手しなくてはならないようにね。このタイミングならアレを出しても彼の責任になるさ」

「なるほどのう。確かに試験体とはいえ足止めにはなるか。それに従来の脳無と違い、脳無のような外見もない。ただの改造人間として処理される……ということじゃな?」

「その通り。ただこのままだとカメラが壊れるかもしれないね。まぁ結果さえ分かれば十分だろう。だが、彼は辿り着いてるのかもしれない。オールマイトと同じ超人(世界)へ。何より、辿り着くかもしれない。僕のように、個性の終着点へ」

「個性因子を自らの手で全解放する、先生の技をか……? 有り得ん。まだ17歳の子供じゃろうて。個性の深淵を理解すらしてないはず。“覚醒”すら怪しい」

「フフフ、覚えておくといいよ、ドクター。いつの時代も魔王に立ち向かう勇者は魔王と同等か近い力を持つものさ。ただし、僕は物語の魔王のように勇者に負ける魔王じゃなくて、誰にも負けない絶対的な“支配者”だけどね」

 

――彼らは知らない。

アレは勇者(OFA)の力でも何らかの使命を受け継いだわけでも何でもない、ただの限界ブラコンであることを。

そのブラコンがただバグったようにとんでもない力を得たことを。

そう、アレは決して勇者なんかではなく――ただの“お兄ちゃん”なのである。忘れてはならない。彼が今ここまで頑張ってる根本的な部分は人のためではなく弟のためだけだということを。

彼は弟のためなら人をあっさりと見捨てられるくらいにはドライであり、自身の周りに関しては大切にするウェットな人物であることを。

それを知ることは、ない。

何故なら残りのカメラは全部、1分も経たずに壊れる運命なのだから。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「退け! 巻き込んでも知らんぞ!」

「感謝くらいしろよっ!」

 

ネフィリムを俺がバウンドさせ、ミルコが上空に蹴り飛ばして退避する。

 

「ヴィランよ、これで終わりだ! 復活が出来ないほどに跡形もなく燃やし尽くしてやる!」

「赫灼熱拳――プロミネンスバーン!!」

 

全身から極大の熱線が放たれる。

腐ってもNo.2。

全力の一撃は俺の赫に相当する威力だと感じさせられる。

あっちはあっちで街が壊れるから正直あんまり使わない。

それでもあれなら倒せるだろう。俺から見ても高火力だ。No.2なのも嘘ではないらしい。大事なもんさえわかって殻を破ればオールマイトを超えられるかもしれないだろうに。いやそれは無理かも。近づけはするだろうけど。

少なくとも適応されていても倒せる。

そう確信したが、炎に包まれる前に黒(・)い(・)ナ(・)ニ(・)カ(・)が見えた気がした。

 

なんだ、誰かの個性か?

俺以外に気づいてる様子はない。

訝しげに見つめながら爆発が晴れるのを待つと、全身が焼け、黒く染まった巨体が落ちてきた。

 

「ふん、他愛もない……。だが流石に冷却が必要だ」

「なんだ、もう終わりかよ」

 

熱が籠ったのか息を吐くエンデヴァーとつまらなそうにするミルコ。

上空を見上げる。

おかしい。

今落ちてきた個体は法陣が存在してない。

消し飛ばしたならなぜ、これが落ちてきた?

あの黒いのは?

それにこの外見、どっちかというと昔に見た爆弾ヴィランに近いような……。

いや、まさかあいつの仕業か!? どこからか見られてる!

 

「見つけた……!」

 

遥か上空、小さくて見えない位置に小さなドローンが見えた。

瞬時に跳躍してワープした俺はドローンを掴んで見つめる。

カメラが動いている。

エドワードが居ない今、誰が動かしていた? まず前提として誰がネフィリムに個性を与えた?

決まっている。

この先にいる、AFOだ。

俺が気づいてることを悟られるわけにはいかないため、訝しげな顔をしつつ握りしめて壊す。もしかしたらまだ残ってるかもしれない。

だがマズったな。あれでトドメを刺せてない以上――

 

 

 

ガコン。

 

 

 

ネフィリムの適応は進む。

加速してこっちにきたネフィリムの攻撃をガードすると、一気に叩き落とされた。

すぐに立ち上がると、その場でバク宙して落下攻撃を回避すると追って殴りかかってくるのを次々と後転して避け、蒼で自分を引っ張ることで距離を離した。

 

「バカな、俺の最大火力を受けてなお倒せないだと!? ならそこの死体は……!」

「ナニカが盾になったんだろうな。あんたは冷却が必要なんだろ、あとは俺がやる」

 

黒焦げから熱気が放出される。

仕方ないのでミルコとエンデヴァーの肩を掴んで防いだ。

 

「うお、あつく……ねーな」

「説明が面倒なので俺のバリアと思ってください。多分あの個体、火耐性持ちだ。エンデヴァーのあの攻撃を受けて生半可なヴィランが生きてるとは思えない」

「あのネフィリムとやらが生み出したのか……?」

「……さぁな」

 

あれは間違いなく脳無の試験体か何かだろう。

俺の記憶にある脳無にかなり姿が類似している。脳みそは出てないが、失敗作というべきか。

エンデヴァー対策に火耐性もりもりでついでのゴミ処理しに来たってところか。

人をゴミ処理に使いやがって、覚えてろよパチンコ玉野郎。

 

「とにかくさっさとぶっ飛ばす!」

「あ、ちょっと!」

 

人が熱気から守ってたというのに突っ込んでいくミルコ。

そんな彼女に降ってくる影があった。

ミルコが足で迎撃するも、互いに弾かれる。

 

「不意打ちとはいい度胸だな、おいっ!」

「もう一体居たか……」

 

今度は筋肉が明らかに膨張してるので、まず間違いなく脳筋型だろう。

両方の特性に合わせた脳無、か。

なるほど、どうやらやつの指名は俺らしいな。いや、AFOが俺の力を試したいってことか?

残りのカメラがもし残ってたら情報を取られるかもしれないが――問題ない。スターも言っていた、分かっててもどうにもならないのが“最強”だってな。

どうせ情報なんてそのうち流れる。

正直今更といえば今更だが、この戦いが終わったら嫌でも有名になるだろうからな。

どこかで撮られててもおかしくないし。

 

「ミルコ、エンデヴァー」

「ん?」

「……なんだ」

「ここは任せた。ネフィリムは俺が責任を持って倒す。どうやらそいつらはあんたらを指名らしいからな。そしてあいつは、ずっと俺を狙ってる」

「……チッ、どちらにせよ俺は冷却が必要だ。いいかクソガキ小僧。俺が戻るまで時間を稼げ。無理なら逃げろ」

「誰が逃げるかよ」

「しゃーねぇな。約束忘れんなよ」

「いやそれはちょっと」

「ああっ!?」

 

恐らくエンデヴァーの火力はもう効果がないと見るべきだ。

前に出た俺は息を大きく吸い、吐き出して睨むように見つめる。

 

「死ぬんじゃねーぞ」

「誰に言ってるんですか。大丈夫ですよ、俺最強なんで。なぜならそれが“お兄ちゃん”ですから」

「なんだそれ」

「理由になっておらん」

「さて……本気で行くか」

 

残りの力を出しても長時間は不可能だ。

短期決戦で終わらせるべく、俺はお兄ちゃんパワー全開かつ蒼による超加速でネフィリムが反応するより早く吹っ飛ばした。

背後を一瞥し、すぐに追いかける。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

――なんだあのガキは。

 

エンデヴァーの手が自然と力強く握りしめられる。

それは手から血が流れるのではというくらい、強く。

速い。

速(・)す(・)ぎ(・)る(・)。

エンデヴァーの目を持ってしても捉えることが出来ないほどの超加速。対峙したとすれば、経験による回避しか出来なかっただろう。

それはさながらオールマイトの背中を見てるようで、エンデヴァーはオリジンにオールマイトの姿を幻視した。

若い頃の、あの高き壁を。

未だ己が挑み続けている高き壁を。

 

――貴様は、貴様もそうなのか。貴様は向こう(オールマイト)側なのか……!

 

まだ本気ではなかったという事実。

オールマイトの本気と同等レベルの力。いやもしかしたら超(・)え(・)て(・)い(・)る(・)力。

エンデヴァーが長年辿り着けなかった領域に子供が、オリジンが立っている証拠だった。

他の誰でもない、1番オールマイトの背中を見てきたエンデヴァーだからこそ、分かるのだ。

彼の実力を1番知るのは他でもない自分なのだから。

 

妙に大人びた雰囲気。余裕すら感じられる佇まい。

その通りだったのだ。やつはまだ余力を残してるからこそ、あのように自然体だったのだと。

 

それはミルコの蹴りを見ても。それはエンデヴァーの本気を見ても。それはネフィリムの適応を見ても。

 

――ふざけるな。ふざけるなよ。

 

握りしめられた拳が震える。

それは怒りか。それとも執念か。はたまた憎しみなのか。

起き上がったエンデヴァーは目の前の敵を見据えた。

 

「あいつ……おもしれーな。エンデヴァー、大丈夫なのか?」

 

より好戦的な笑みを浮かべるミルコとは対極で、ただ佇むエンデヴァーの姿にミルコは声を掛ける。

 

――俺はずっとオールマイトを超えるべく鍛錬に時間を注いできた。だが未だ超えられたとは思わない。

 

『大事なもんが分かってないお前じゃ俺と戦っても勝負にすらならねえよ』

 

思い出されるのはここに来て言われた一言。

エンデヴァーには“大事なもん”というものが分からない。それが間違いなくオリジンの強さの理由であり、そしてオールマイトの強さでもあるのは間違ってない。

なぜなら二人に共通するのは“誰かのために”戦うことがあるからだ。

オリジンもオールマイトも、名誉も名声も喝采もお金も、見返りを欲して戦うことはしない。

いつだってふたりは、人のために個性を使って使命を果たそうとしている。

エンデヴァーはいつだって、“自分のため”でしかない。

 

――にも関わらず考えてしまった。

ヤツには勝てないんじゃないかと。オールマイトと同じ景色を見てるんじゃないかと。

大事なものなど知らん。ただ言えるのは俺の半生も生きてない子供がオールマイトの領域に居るなど認めて諦めてしまえば、俺の心は折れてしまう。俺が未だ手の届かない世界に学生が足を踏み入れてる――その事実に指をくわえて諦めて、眺めるようになってダメなのだ。

そうであれば吸収しろ。理解しろ、そして奴らを超えろ。エンデヴァー!

俺に無くてアイツにあるもの。俺に無くてあのガキにあるもの。

それを見極めなければならない。

オールマイトを超えるためにも……!

そのためなら俺は、クソガキ(オリジン)でも利用するまでだ。もう俺は引き返すことは出来ないのだ……!!

 

「力を貸せミルコ。こやつらを瞬殺してオリジンとネフィリムを追う」

「私もあっちの方が戦いたいからな、賛成だぜ。それにオリジンに死なれたら私の楽しみが無くなるだろ」

 

目的は違えど、利害は一致した。

黒焦げになった異形は未だ動けるのか立ち上がり、黒焦げの異形と筋肉質な異形。

ミルコとエンデヴァーの戦いが人知れず始まった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

蒼には既に3回適応されている。

効果は薄い。

近接では勝っていても、何度も何度も続けばいずれこっちが押され負ける。

ならば、適応完了前に蒼で実験する。

上手く行けば勝てる。失敗すれば完全適応。

けど適応されたところで蒼なら逆利用出来る。

なぜならその場合、こいつは蒼による引力の影響を受けなくなるからだ。

だからこそ、適応されてもいい。

むしろ中途半端な適応の方が使いづらくなる。

それらを計算に入れながら俺は追いかけてきた俺に対して両腕でガードするネフィリムのガードの上から拳を叩きつけて破る。

パンチの際に蒼は込めてないが、ガードを失ったネフィリムを踏むようにしながら加速し、そのまま地面に踏みつけると蹴り飛ばすようにしつつ後方回転して距離を離す。

これからやることは周囲の建物を壊すことになる。

けど、どうせ俺がやらなくても壊れる。

 

「出力最大――」

 

起き上がるネフィリムに出力を最大限まで練り上げる。

やることは単純だ。やつの体を引き裂いて粉々にして潰す。

人間には使えないが、こいつなら問題ない。

さっき思いついた技だが、やってみる価値はある。

 

「蒼」

 

そして最大出力の蒼を解き放った。

そのまま当てるだけではさっきの焼き直し。

だからこそ、避けようとしたネフィリムの動きが鈍くなる。

その理由は相手の背後に最大出力の蒼を生み出したからだ。完全に引っ張れないのはほとんど適応が完了してるからだろう。

だからこそ、今放った蒼が辿り着いた時、ネフィリムを前後で挟みこんだ。

さらに追加で左右から挟み、さらにまた斜めから押し潰す。

ひとつでは効果が薄いならもうひとつ用意すればいい。

それで足りないならもうひとつ、またひとつ――つまり脳筋戦法。

低出力ならともかく最大出力となると消耗は激しいが、圧縮される光球の中で肉体が限界を迎えたのか弾き飛んだ。

いつまでも残してたら自分も巻き込みかねないし建物ばかり吸い込むため、消す。

しかし最大出力を複数放ったせいで周囲の建物は崩壊してしまった。

無事に引き裂くことは出来たので、あとは――

 

 

 

ガコン。

 

 

 

再生共に殴りかかってきた。

おおよそ予想通りだったため、回避しつつ手を握り締めるように引っ張る。

――効果なし。

 

「チッ、やっぱり殺せないし完全に無効化されてる」

 

引っ張れないということは蒼を纏ったパンチで威力は上げられるが引き寄せながら殴ることが出来ないため、実質的に威力の低下を意味する。

そして体を引き裂いても死なないということは、こいつを殺すには木っ端微塵じゃダメということだ。

完全に理解した、こいつの攻略方法。

それは初(・)見(・)の(・)技(・)に(・)し(・)て(・)完(・)全(・)に(・)葬(・)る(・)。跡形もなく。

ふざけやがって、こんなの初見で分かるかよ。俺じゃなければ技が適応されて終わりじゃねーか。そもそも肉体スペックオールマイトにも匹敵なら適応以前の問題で経験不足のヒーローじゃ即死だ。俺のお兄ちゃんパワーもパクってるのかさらに身体能力最初の方に上がってたし、もう余裕でオールマイト以上だろ。初見殺しにも限度があるだろ、1度攻撃したら終わりとか理不尽の塊だ。

文句しか出ねぇよこんなの!

もとよりその知識があったなら脅威ではないが。

……今出せる赫だと倒しきれるか分からないな。こうなってくると試すわけにはいかない。予め知ってたなら最初からやってたんだけど、これほど面倒臭い能力とは。

どう時間を稼ぐか、それが肝か。

だんだんと避難区域に近くなってきてる。これ以上はまずい。

 

「……!」

 

飛んでくる斬撃を避け、蹴りをガードする。

近くの電柱を掴んで回りながら勢いを殺すと放ってきた火を跳んで避ける。

すぐ真下では電柱が溶けてることからかなりの熱量だろう。下手したら溶岩並じゃないか。熱量は適応されててもバリアで防げるけど。

それに実力も実力だ。だんだんと俺を超えるレベルになってきている。

 

隙だらけの俺に高速接近するネフィリムは次々と拳を突き出してくるが、ギリギリで避けながら大ぶりの一撃を大きく弾き、拳を叩きつけ――嫌な予感に従い、自動ではなく完璧にガード出来るマニュアルでバリアを展開するのと同時に鮮血が舞う。

 

「こいつ……!」

 

切断された右腕を見るに、恐らく空間――世界に拡張された斬撃。

俺の弱点を的確に突いてきたということを意味し、鱗を剥がされたことを意味する。

再び斬撃を放たれたら斬り殺される。

自分の命が危機に晒されたことに冷や汗を欠きながらもネフィリムが次の動作に出る前に、即座に切断された腕を引き寄せると掴んで殴りつけた。

ついでの追撃に顔面に俺の腕を投げつける。

まともに大ダメージを受けたのは久しぶりだが、斬られた部分を見つめつつ腕を治す。

動くか握ったり離したりして試し、問題ない。

少し速かったが、防御を突破されることも織り込み済みだ。

次はどうなる、完了したら終わり? 出してない力まで適応する? それとも俺の存在にでも適応するか?

どちらにせよ、もう時間は掛けられない。

 

すぐに向かってくるネフィリムを迎撃する。

火を手で受け止め、搔き消しながら迫ると次々と放たれる斬撃を避ける。

水球を蹴り壊し、植物を押し潰し、邪魔な式神を突進で消し、ネフィリムの剣が肩に刺さりながら全力で蹴り飛ばした。

しかし吹き飛びながら複数の斬撃を放ってきたため、避けようとしたら足が枝に拘束されて動けなくされる。

さらに斬撃に追いつくほどのスピードでこちらに帰ってくるため、俺は斬撃を無視してネフィリムを迎撃した。

胸を僅かに大きく斬り裂いて全身に多くの切り傷が生まれる。しかし地面に叩きつけ、蹴り飛ばすことで距離を離した。

斬撃は致命傷さえ避けたら問題ないが、問題は――

 

「くそ……流石に厳しくなってきたかもしれないな」

 

個性をいくら使われようが問題ないが、問題は戦えば戦うほど成長されるというところだ。

防御を突破されようがそれで負ける俺ではない。問題はやつ自身がだんだんと強くなるというところ。

何より俺が万全では無いこと。こいつの攻略方法を知るのが遅すぎたこと。オールマイトでも初見撃破出来なければ厳しいだろう。

それでも倒す策はある。

あるが。

 

「こいつを倒すには……だが時間が足りない……! こいつの相手を俺がしないと避難先に行くかもしれない……!」

 

そう、時間が足りないし今のこいつを単体で引き止める実力があるのは俺くらいだ。

これほど成長すればエンデヴァーでも不可能。

倒すにも俺の技はそんなポンポン撃てるようなものではなく、どうやっても数秒のチャージを必要とする。

格下相手ならそもそも使う必要がないため、同格相手や上回る相手ならどう作り出すか考えなければならない。

一応それをするための策も数個はある。

しかし初見時ならともかく、今のこいつに大きな隙を見せたら俺の胴体は真っ二つだ。既に本気を出してる俺と互角になっている。

でなければ俺がこいつにダメージを受けるわけがない。

今のこいつは俺と同等ということは全盛期オールマイト以上ということになる。身体能力だけでなく、技術までが。

倒すにはそれこそワン・フォー・オール100%+オーバードライブ状態+発勁の出久レベルを要求されるだろう。

 

さてどうするべきか。倒すには赫ではもう出力が足りない。今の出力はかなり落ちてる。当てたところで適応されて終わり。だからこそ赫も積極的に利用していける。

だが、限界がなくこのまま俺の存在にでも適応された時はそれこそ終わりだ。

あの呪詞ってやつをすれば可能性はあるが……つーかこういう時にこそ出ろよ黒い稲妻。お前なんの為に存在してんだよ。狙って出てくれないかな。未だにあれが出る条件が分からない。

アレを発生させれたら出力が戻ってくれるんだが。

 

「――話は聞かせてもらったぞ、オリジン」

「今までよく頑張ってくれた」

 

悩みに悩んでると、声が聞こえて振り向く。

が、ネフィリムの攻撃の存在に気づいて咄嗟に蒼を放とうとして無意味なことを思い出した。

仕方ない、両腕を犠牲にして反撃の赫でぶっ飛ばそう。

 

「させるかっ!!」

 

音速を超える刺突がネフィリムを妨害し、繊維が拘束した。

その隙に蹴り飛ばす。

お前ちょっと邪魔だから空気読んでしばらくどっか行け。出来るなら俺が監視出来る範囲で。

でも近接も効き目悪くなってる気がするな。何だこの理不尽。キレそう。

光の速度で殴ったら消し飛ばないかな、俺にそれほどの速度は出せないが。

出せたとしたら俺の腕どころか体が千切れる。

 

「どうして二人が?」

「こちらも片付いたものでな、あれだけ派手に暴れていたら場所など分かる。それより君がそれほど怪我をするとは……」

 

そういえば肉体を治してないことに気づいた。

別に隠してるわけでもないため、普通に目の前で治す。

 

「ネフィリムの適応が厄介ですね、初見殺しだ」

「話は聞いている。それだけではなく、ウイルスの件も覚えているか?」

「ああ、N-ウイルスだとか……あれ、それってネフィリムか?」

「そうだ。やつから培養したのだろう。先の施設に居たのはそれの適合した存在たち。それにやつ自身にも何か投与されていると先の施設の資料室に残ってあった。ウロボロス・ウイルスと言うらしい。効果はどんなものか分からないが……ネフィリムが唯一の適合者だと。恐らくそれが生物としての限界を超えさせている」

「そうですか……」

 

ただでさえ面倒なのにこれ以上厄介事を増やされるのは困るな。

ウロボロス。

死と再生を司るらしいが、完全に復活するパターンだろこれ。

おい初見の攻撃でしか殺せないのに復活は有りなのか。少なくとも一度死ぬってことは適応が一からになるだろうが。

どちらにせよ枯渇した状態で相手だけ万全は流石に殺されるぞ。

ますます力を使い切る前に消し飛ばさないと行けなくなったな。二戦目用に力は必要だ。

三割ほど残す前提で組み上げる。

 

「オリジン、君には策があるのだな? 君がここまで苦戦するということは私たちで倒すのは厳しい」

「ならば君に賭けるべきだ。俺たちの個性が通じる間にオリジンの一撃で倒す」

 

それは確かに合理的だ。

イレ先も恐らく合流するだろう。

合流すれば抹消の効果で適応を消せる。そうすれはネフィリムの脅威度はせいぜい現在の強さである身体能力全盛期オールマイト以上、技術面において本気の俺レベルに落ちるだろう。適応があるからこそ、時間経過でそれ以上になるだけ。

しかしその間、俺が戦闘から離脱すること。チャージに普段以上の時間と確実に倒すための威力補正をする必要がある。やったことないから時間掛かる。あまりやると雄英崩壊するから練習する機会がなかったしな。

俺がひたすらフルボッコにしてたから向こうも消耗はしてると思いたいが……やっぱりだめだ、戦力が足りない。

この二人だけで抑えられるほどの敵じゃない。

そのことを告げる。

 

「だけど戦力が足りないでしょう!? 発動まで時間が掛かる! イレ先が合流しなければ時間稼ぎですら――」

 

無理だ、と言いかけた時、巨大な影が降りてきた。

あれは、リューキュウ。

となれば他のやつらもいる。

タイミングいいな、おい。狙ったか?

 

『大丈夫!!』

 

回復したのか飛行していたねじれは自分で降りてきて、ミリオと同タイミングで発していた。

狙った訳じゃないみたいでふたりは顔を見合わせていたが、すぐに頷いた。

 

「転間くんは準備をして! ここは私たちが時間を稼ぐから!」

「確実に倒すには転間の技しかない……!」

「転間みたいに戦えないとは思うけどさ、ちょっとくらいは俺たちにも背負わせて欲しいんだよね!」

「お前ら……」

「オリジン。“彼女”からネフィリムについては聞いてある。アレを倒せるのは君くらいだろう。既に我々は大きく消耗している。それが無くても、まともにやり合えるとは思えん」

「ここに来る前にエンデヴァーやミルコも言っていた。適応には気をつけろ、と。学生であるお前に全てを任せることになるのは心苦しいが……頼む」

「……ナイトアイ。イレ先」

「心配すんなって、俺らも居るからよ!」

「ええ、誰一人死なせないわ」

「マイク先生。リューキュウ……」

 

ネフィリムの方角を見つめると、こちらを警戒するように見ている。

悩んでる時間はないか。イレ先がいる以上、振り切られない限り適応はされない。

一か八か、だな。

 

「……分かりました。やつは既に俺の蒼にも適応してます。そのせいでやつは防御無視の斬撃をやってきます。それと個性は6つ。斬撃、火、海棲生物を生み出すのと水。植物操作。恐らく遺伝子操作……と言うよりは自分の体は使ってないので改造人間のストックを出す系統の個性。適応。その中でも斬撃にはくれぐれも気をつけてください」

「なるほど、1つ増やされていたか。情報感謝する」

「オリジン、必要な時間は分かるか?」

「5分。いえ、2分41秒で練り上げます。それまで時間を稼いで欲しい」

 

ベストジーニストとエッジショットの言葉に俺は時間を算出して答える。

ただの技ではない、その更に上の段階をやる。

俺の今の出力でも確実に倒せる、最強の一撃で。

 

「約3分か。分かった……それまで私たちはオリジンを護り、ネフィリムを足止めする!」

 

無駄話をしてる時間がないからだろう。

各自戦闘態勢に入る姿を見て、俺はゆっくりと宙に上がる。

蒼。

赫。

俺のふたつの力を合わせることで成す、全盛期オールマイトを見据えた一撃必殺。少なくとも消耗していたとはいえ以前の俺の力でも全力の赫はスターの火力に匹敵するのは分かっている。

とにかく準備を始めようとした時、すぐ傍で上がってくる人物が居た。

 

「お兄様」

「ヴィオラ? お前もいたのか」

 

初めて会ったときに比べて服装はボロボロではあるが、怪我らしき怪我が治ってる。最後見た時は怪我してたはずだが、自(・)分(・)で(・)治(・)し(・)た(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)?(・) 不思議なやつである。

 

「ええ、あの人たちに情報を与えたのは私だから」

「そっか……ありがとうな」

「……罪滅ぼしになるか分かんないけどね。あれを生み出したのは私が原因でもあるし。でもお兄様の為なら何だってするわ」

 

そうは言いつつも、笑顔の奥には暗い影が見えた。

気にしてるのだろう。

 

確かにこいつの個性が破壊だというなら、ネフィリムを試すためにも彼女を利用したのだろう。

そもそも他に頑丈だったやつは彼女を使っていたのかもしれない。再生するかどうか確かめるために。

だが、やり直そうとしてるなら話はもう別だ。彼女はもう、ヴィランではない。

彼女はもう守るべき人物になる。

誰かが手を伸ばさなければヴィランの発生は止まらない。実力だけでは今の時代と、オールマイトの時代と何も変わりはしない。なら俺が手を伸ばせばいい。

まだ無理でも、いつの日かみ(・)ん(・)な(・)が(・)手(・)を(・)伸(・)ば(・)せ(・)る(・)ように、その手本になれるように。

ヴィラン相手にだって――。

それがきっと、最(・)高(・)の(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)なのだから。

ヒーローだけじゃなく、一般人も。

全員が手を伸ばせるようになれるように。

そんな俺の背中を見た出久が、俺を超える最強で最高のヒーローになれるように。

その時まで俺に最期が訪れることは回避しなくちゃならない。

 

「十分なってるから心配するな。情報ってのは武器だ。あると無いとじゃ全然違う」

「……うん、ありがと」

 

だからこそ、悪くないと。俺の手が届けばと。その気持ちが伝わればと。

気にするなと彼女の頭に手を乗せて少し動かした。

そうして表情が少し柔いだのを見て、手を下ろす。

 

「それよりここにいるってことは手を貸してくれるんだよな」

「もちろん。でも私の力は適応されてるから戦力にはなれないわ。お兄様は何を考えてるの?」

「ダメ元で200%の技を今から作り出す。やったことはないから出来るかは分からないが……」

「そう……お兄様、私を信じてくれる?」

「ん? 別にそれくらい良いぞ。命預ければいいのか?」

「即答してくれるんだね……うん、やっぱり私お兄様のこと好きよ。結婚したい」

「……どーも」

 

なんて返せば正解なのか分からないため、有耶無耶にするしか俺には出来ない。結婚云々はともかく、せめて段階を踏んで欲しい。

だが、何か策があるということだろうか。

 

「今から私の魔力をお兄様に流すわ。私ならお兄様を補助出来る。私の魔力を変換して、“呪力”にするの」

「……魔力? 呪力?」

「ええ。昔、私に似た長生きの知り合い――私の師匠が呪霊を退治する時に使ってたの。本人曰く“迷子”だったみたいだから、もうこの世界には居ないけど。何故かお兄様にはそれがあるみたい。あの摩虎羅も元々は向こうの世界の住人だし、何処からか持ってきたのかしら。遺伝子も縁(えにし)も全く関係ないのに」

 

そう言われると前世くらいしか思い浮かばないが、特段特別な力を持たない人間だった。

……収束が関係してるのかもな。

 

「できるのか?」

「ふふん、私を誰だと思ってるの? 私は魔女よ、そしてお兄様の奥さんだもの」

「結婚した記憶はないんだが!? ん? 魔女?」

「そっ、今年で83年くらいは生きてる、ね」

 

そこは驚いたがまあうみちゃんのところに妖精さんが居たし、何ならあ(・)る(・)村(・)には神木に存在する付喪神(守り神)的なやつも居たため、たまにそういった存在はこの世界にも居るらしい。

あまりないとはいえ、物語としてはそういった超常的な存在が居た記憶はないが、それを言えばそもそも俺の存在もないので今更か。

 

「とにかく私なら呪力を、出力を戻せる。お兄様の力を引き上げられると思うの。でも失敗したら……」

「大丈夫だ」

 

よく分からないが、失敗すれば危険だってのは分かる。

俺自身失敗したことはないが、怒りで乱れる感覚は抱いたことがある。

おそらくお兄ちゃんパワーの制御をミスしたら内側から壊れるのかもしれない。

 

「俺の強さをお前は知ってるんだろ。安心してやってくれ」

「……分かった。私も他人にやるのは初めてだから気をつけてね」

「分かってる。頼む」

 

手を出してきた彼女の手を握ると、ヴィオラはネフィリムの位置や戦闘が見えるように俺の隣に立ち、彼女の全身に無色のオーラが迸る。

無色のオーラが青色に変化し、それから俺の手元に青いオーラが溢れ、次第に俺の全身に纏われていく。

何となくだが、あの黒い稲妻を出した時に近い感覚を感じた。

流石にあの時ほどの全能感は全くないが、力が満ちるというべきか。

これなら確かに、200%を出せそうだ。

足りないところは、呪詞とやらで補おう。

あのバカ目隠しの置き土産まで借りるような、自分一人の力じゃないのは悔しいが……いや、出久の兄である俺なら、“らしい”のかもしれない。

出久がOFAを受け継いだのと同様に。

それすら自分の力にする。例え借り物の力であろうと、知識であろうと。

 

「ふへ……ふへへ、お兄様の中に私の魔力があると考えると興奮してくるかも♡ お兄様と私が繋がってる、身近に感じられて――最高♡」

「……真面目にしてくれ」

 

向こうは向こうで戦闘が始まってるのに、台無しにする言葉に思わずため息が出た。

仕事はちゃんとしてるのでいいのだが。

とにかく俺は俺でお兄ちゃんパワーを練り上げ、必殺技を組み立てていく。

完成まで2分41秒。短いようで長いが……必ず作り上げる。

最強を殺す存在。

オールマイトを超える存在。

結構なことじゃないか。この一撃を持ってして、今日最強を超えてみせる。

これが通用すればつまり、最(・)強(・)を(・)超(・)え(・)る(・)最(・)強(・)ということになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これより2分41秒後。時刻にして14:00ジャスト。

緑谷転間の200%。

“究極の一撃”が新宿に戦跡を刻む。

 

 

 

 





天井組に既に全盛期オールマイト以上だと思われる一般家庭から生まれた変態がいるらしい。
ヒーローとしても原作でもラスト辺に辿り着いた世界にいるのが今のお兄ちゃんです(ヴィランに手を伸ばす云々)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。