どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
おかしいな、8話くらいのはずだったのに。書き終えて最強に至ったので最強タグも入れました。
原作入る前に原作だけ読みたい人用にキャラ設定だけ書きます。と言ってもこの主人公居る時点でどう足掻いても希望ですけど。
本編は多分今まで以上というか今作随一の情報過多回。
ヴィオラがやけに詳しい理由はこういうこと。
キーキャラ、動きます。
2分41秒。
普通であるならば短い時間だ。
しかしそれは、オールマイトクラスならば話は違ってくる。
全盛期。
オールマイトは日本中を飛び回り、平和の象徴となったのは有名な話だ。
それも彼は、銃弾より速く駆け付けるスピードと言われている。
さらに地上を走るだけでもマッハ10は出ているという。
そしてこのネフィリム、元はある“最強”の存在が半分以上の力を取り戻して倒した存在。
さらにまた別の“最強”が無制限の技で倒した存在。
はたまた宇宙からやってきた“最強”と渡り合う強さを秘めた存在。
単体でもそれほど強いというのに、ある存在と融合したその強さはこの世界においても、その世界においても、“最強”に並び立つポテンシャルを秘める。
オリジンとの数分の激闘。
この世界においてオリジンは学生の身でありながら、“最強”の一角だ。
オリジンに知識がなく初見殺しというアドバンテージがあったからこそだが、その数分だけでネフィリムは――彼がいる世界に立っていた。
消えるような速度。
咄嗟にこの場の全員を引っ張ったジーニストによって回避出来たが、彼も見えたわけではなかった。
「イレイザー!」
「既に抹消している! 素でアレだ!!」
抹消による個性の制限。
それをしてなお、オールマイトに匹敵かそれ以上の速さに驚愕を隠せない。
エッジショットの音速を超える変形によって成される瞬間移動のような刺突。
環の再現による範囲攻撃。
ジーニストによる拘束。
ねじれによる波動。
プレゼントマイクの音波。
バブルガールの泡。
ナイトアイの判子。
それぞれが持つ遠距離として使えるものを使ったが、ジーニストの拘束を即破ったネフィリムには当たることがなかった。
「これなら!!」
背後から現れたミリオの一撃が空振り、反撃の一撃をギリギリのところですり抜けた。
予め予測してだからこそだが、それでもギリギリ。
「
両手から放たれる円筒型の波動がネフィリムの体を包みこむ。
が、1秒の拘束を成せただけであっさりと無力化される。
個性が使えず、原因を見つけたのだろう。
ネフィリムが瓦礫を手に取ってイレイザーに投げつける。
もとより狙われることは理解していたため、護衛にいたリューキュウの一撃が瓦礫を壊し、プレゼントマイクの音波が反撃に出る。
跳んで避けるネフィリムに再び総攻撃。
爆煙に呑まれ、姿が消える。
――10秒。
たったの10秒が濃い時間だ。
全員万全ではないとはいえ、万全だったとしても勝てるかと言われれば不可能と言わざるを得ない。
まだ個性は使えない。
出てくるネフィリムの身体能力はもはや弾道ミサイル。マッハの領域。
先読みで避けることしか出来ない。
すぐさまタコのような足がネフィリムを覆い尽くし、一瞬にして壊される瞬間にミリオの一撃が顎を打つ。
追撃にエッジショットの一撃が突き刺さり、センチピーダーの突進、からのリューキュウの爪が押し潰す。
離脱した瞬間をまたしても遠距離組が仕掛け、次々とネフィリムにダメージを与えていく。
が、そもそもダメージにすらなっていない。この程度の攻撃が効くならばオリジンか苦戦するわけがない。
突進。
ジーニストが繊維を操ることで動きを阻害して避けられるギリギリの速度まで落としていた。
バラけて動き、透過出来るミリオが錯乱させるように動き回る。
鬱陶しくなって拳を振るわれても、すり抜けて当たるのは地面。
30秒経過。
そのタイミングで抹消の個性が一時停止し、法陣が瞬時に回転した。
ガコン。
適応を意味する音と共に、再びミリオに拳が振るわれる。
転間同様複雑な個性ではあるからか一発では適応されなかったが、避けた後の反撃はあっさりと読まれていた。
さらに個性が解除されたということは個性が解禁されたことを意味し、次々と生やした木々がイレイザーの視界を妨害する。
「こいつ、視えないように視界を!!」
「間違いない。斬撃が来る!」
予知ではない、予測。
ナイトアイの声に全員が警戒する。
無数に放たれた魚のような式神。
それらの対処をしつつ、無数の斬撃が全員を襲う。
咄嗟に避けた者。掠った者。
誰かが切断されることはなかったが、 戦線が崩れる。
「先生!」
「くっ……ダメだ!!」
すぐに波動が木を破壊するが、イレイザーが捉えるより早くネフィリムから放たれた火が視線を妨げつつ避けることを強いられる。
「動かさせるわけにはいかねぇ!」
「1秒でいい、動きを止める!」
音波による攻撃が回避され、ジーニストの繊維が捕えられない。
同時。
背後から迫った環の手にはタコに覆われたシャコの腕。
正面からはミリオが構えたまま接近し、頭上からは全身に波動を纏ったねじれが槍のような形を生成している。
ミリオの体をすり抜ける判子が二発ネフィリムの動きを僅かに妨害し、合間を縫ったエッジショットが貫く。
しかし人間ならまだしも、ネフィリムを貫いたところで大したダメージにはならない。
「
「クラーケン+シャコパンチ!」
そこを三人の攻撃が襲う。
タコとシャコで攻撃力を上昇させた一撃。頭部には槍のような波動。正面からはミリオの拳。
まず間違いなく現状最強火力。
ガコン。
「ッ!?」
そんな攻撃すら防御すらせずフィジカルで防ぎきったネフィリムによって突き出された拳がミリオを襲う。
転間にボコボコにされた甲斐もあり、反応したミリオが透過を発動させる。
しかし弾かれるように吹き飛んだ。
当たってない。が、当たりかけたというべきか。
まるで透過を解除した時同様、弾かれてしまった。
「ミリオ!」
アサリと亀の甲羅を一瞬にして出した環がネフィリムの腹から出てきたウツボによって吹き飛ばされる。
それによって防御が壊されたが、瓦礫に叩きつけられた程度。
致命傷ではない。
動き出そうとしたネフィリムを突如巨大な手が拘束する。
次々と細かい斬撃が切り刻み、血が舞う。
鱗があるため、この中でも比較的硬いリューキュウですらあっさりと斬られる。
「リューキュウ!」
「ぐ、ぅっ。イレイザー!!」
「分かってる……!!」
抹消。
それを発動するには視界に対象を捉える必要がある。
そんなイレイザーを妨害するように空から熱帯魚が食い殺さんと落ちてきた。
理解さえされてしまえば対処が比較的簡単なのが欠点だ。
それをオールマイトクラスの、いや現時点でそれ以上の強さを誇り、オリジンと互角に渡り合えるネフィリムにとっては脅威としては低め。
フォローするようにバブルガールやセンチピーダーは式神の対処。
次々とエッジショットやプレゼントマイクが殲滅するが、リューキュウがついにネフィリムに押し負けて吹き飛ばされていた。
「っ、この……ッ!!」
リューキュウの姿を見て怒りを抱くねじれの波動が放たれるより早く炎が襲いかかり、波動を横に放つことで推進力として回避するものの、凪がれる。
攻撃よりも移動を強いられ、攻撃が出来なかった。
ガコン。
「!!」
地中から出てきたミリオが咄嗟に身を躱すと透過を無効化した拳が掠る。
掠っただけで腕が腫れ、ダメージがあったということは完全適応を意味する。
放たれた蹴りを避けようとしたミリオの足に枝が絡みつき、動きを止められた。
迫り来るのは殺せる力を秘めた蹴り。
死を覚悟させる。
「まず……っ!!」
「ミリオ!!」
「サー!!」
押し倒すようにミリオを抱くナイトアイによって空振り、衝撃が二人を大きく吹き飛ばした。
転がりはするが当たってはいないため、大きな怪我はしていない。
せいぜい呼吸が出来ないほどの衝撃に噎せたくらいだ。
「よ……予知通りで助かったとはな……!」
「ごめん、適応された……!」
「それだけミリオの個性が脅威と思われていたということだ」
ガコン。
「動きを、止める……!!」
「頼むぜイレイザーァ!!」
「ナイスだマイク……ッ!」
繊維の拘束と音波攻撃後の抹消の発動。
適応の方が早く、個性の無効化は成された。
成された、が。
この時点で、50秒経過。
「これで個性が――」
「全員避けろ!!」
ジーニストの叫びが木霊した。
その瞬間、抹消されたはずの個性が、斬撃が周囲を薙いだ。
支援役に徹してるお陰か、間に合わない者をジーニストが救助出来た。
ただ繊維が切り裂かれてちょっと空中から落ちることになったが、死ぬよりかはマシだろう。
――ネフィリムは“適応”する。それは相手だけではなく、自分にも影響を及ぼすのだ。
まず第1。身体能力の向上。オリジンに対抗すべく手に入れた呪力強化。
第2。呪力の変質。これにより不可侵を中和する。
第3。世界を対象とした空間を切り裂く斬撃。
3番目に関しては転間が自身の不可侵を一度破られた経験があったからこそであり、油断や慢心をしていたなら死んでいたのは彼である。
こういったように、ネフィリムは能力を拡張させる。
今回した適応は、
ネフィリムは個性ではなく、己の身体能力。それを強化する“呪力”。
呪力を用いることで発動する力。
それ即ち、“術式”。
個性でない以上、抹消の対象外となる。
「クソッ、先の適応か……!」
そう、他は使えない。
適応も使えない。火も水も植物も改造人間も何もかも無理だ。
しかし斬撃だけは、可能。
先の攻撃で何人かダメージを受けてる。
大きなダメージがないのはイレイザーヘッドとねじれのみだ。
「イレイザーを攻略されるのが1番の最悪。私とエッジショットが前に出る!」
「承知」
「私は出来る限り支援に徹する。でなければやられるのはこちらだ……!」
こう見えて実はこの戦線を保てているのはジーニストのお陰でもある。
彼が繊維を操って引っ張ってなければもっとやられていただろう。
残り1分40秒ほど。
たったの1分近くでここまで追い詰められているが、全盛期のオールマイトが数秒間あればチンピラヴィランが数十人居ても足止めにすらならないことを考えれば、歴戦の彼らやオリジンを見てきた学生勢でも厳しいのは事実。
そして、ネフィリムが再び動く。
定めた狙いは、宙から見下ろすオリジン。
転間は当然気づいているが、何もすることはしない。
未だ渡されている魔力を変換した呪力を練っている。
それを予測出来ないナイトアイではなく、予めジーニストが貼ってあった繊維の網がネフィリムを包む。ゴリ押しで潰されるが、一瞬でも動きを止めた。
音波攻撃。
放たれた斬撃を避けなければならないため、すぐに消える。
ねじれの波動が弾かれ、ナイトアイの判子が壊される。
突撃したエッジショットを迎撃しようとしたが、彼は攻撃することなく戻ることで攻撃を空振りさせた。
「まだ俺も、終わってない。お返しだ……!!」
環は喰らったものを再現出来る。
例えそれが、個性由来のものであろうと。
先のウツボが再現され、ネフィリムを喰らわんとした。
ウツボを殴り殺し、その前にウツボを透過してすり抜けていたミリオがネフィリムをすり抜けて背後から首を締める。
体中に蛇やらタコやらイカやら葉がある植物といった系統を再現することでネフィリムを包み込み、さらに上からねじれの波動とジーニストの繊維がネフィリムを閉じ込める。
「よし、 捕まえた!」
「すぐに出てくるぞ……!」
ミリオが透過で脱出し、数秒後にはフィジカルだけで拘束が崩壊する。
その衝撃で環が弾かれ、一瞬にして肉薄されたミリオが吹き飛ばされた。
適応済みとはいえ透過自体の効果は消えない。
落ちるという性質のお陰でダメージは軽減出来たが、叩き落とされていた。
「ぐっ……!」
落下しつつ無数の斬撃が地上を襲う。
身体能力自体は普通であるナイトアイやプレゼントマイクは切断されるのは避けるが、土埃が発生した。
ガコン。
再び個性の解禁。
植物を操る力によって枝による攻撃に巻き込まれ、二人が吹き飛ばされる。
ナイトアイの予測も動きが見えないなら効果はない。
何に適応したのか。
複数人で戦えばそれを予想することが難しくなるが、エッジショットとジーニストが動いた。
イレイザーの個性は必ず必要だ。
残り1分18秒。
オリジンの元に跳躍するネフィリムに対し、エッジショットの瞬間移動じみた加速。
ネフィリムですら瞬間移動並の速度は出ない。
しかし、ネフィリムは避けた。
「紙原!」
斬撃が襲いかかる。
咄嗟に変形させたことで致命傷を避けるが、無傷とは行かなかった。血が宙に舞う。
即座に繊維を伸ばすジーニストだが、投げたであろうネフィリムの剣が肩に突き刺さった。
あまりの威力に地面に叩きつけられるほど。むしろ切断されなかったのが奇跡に等しい。
体勢を整え始めていたメンバーに追い討ちをかけるように、無数の式神と吐き出された複数の改造人間が生み出される。
空中で改造人間は波動に巻き込まれたが、式神は数が多すぎて迎撃しきれてない。
「しつけェ!」
プレゼントマイクが音波で迎撃。
足りない。
捕縛布で移動していたイレイザーが再び抹消したことで供給は止まったが、残る式神たちを相手しなければならない。
無傷といかず式神たちを片付ける環やナイトアイ、プレゼントマイクにジーニスト――。
残り、1分を切ろうとしていた。
「まだなのか緑谷!!」
「っ、あともうちょっと!!」
長い長い時間。
このままでは足りないと、イレイザーが捕縛布を伸ばしてネフィリムを拘束する。
あっさりと掴まれ、投げ飛ばされてしまう。
すぐに電柱やら信号やらを使って移動していき、再び斬撃を飛ばそうとしたところでリューキュウがタックルで吹き飛ばしていた。
「リューキュウ! 大丈夫なの!?」
「ねじれ、貴女の今出せる最高火力の波動をあいつに与えて!」
「……分かった!」
宙に浮いていたねじれは全身に波動を纏う。
すぐにリューキュウが駆け抜け、復帰したミリオも駆け出した。
それを見て、鳥の羽を生やした環がミリオの後を追う。
「頼む環!」
目線だけで意図を伝え、頷いた環がミリオを掴むとその場で回転しながらミリオを放り投げる。
人間ミサイルとなったミリオの一撃がネフィリムの腹部に突き刺さるとさすがに少しはダメージになったのか僅かに怯む。おおよそ0.1秒。
そこをリューキュウが爪を立ててネフィリムを突き刺した。
しかし次の瞬間、リューキュウとミリオが殴り飛ばされる。
堪えたリューキュウに対し、彼女と違って耐久力がないミリオは意識を飛ばされたようで受け止めた環がその場に降ろすと、代わるように向かっていき、ネフィリムがリューキュウを蹴り飛ばし、環に肘打ちでぶっ飛ばすと斬撃が容赦なく二人を斬り刻む。
再現の上から。鱗の上から。
個性を保てず、出血しながらその場に倒れてしまう。
ネフィリムは興味を失ったのかそれ以上追撃はせず、再び動こうとした時にエッジショットの一撃がネフィリムを貫く。
ガコン。
花畑が生成される。
それは誰もが目を奪われ、戦意が削がれる。
分かっていても気が緩んでしまい、変形から戻ったエッジショットを掴む。
謎の適応は彼の個性に対するもの。
ネフィリムがイレイザーに投げ飛ばすと、その速度は人間が視認するのが難しいほどの剛速球。
「しまっ……!」
効果は薄いのかすぐに戻ったが、イレイザーが巻き込まれて共に吹き飛ばされてしまう。
残り、1分3秒。
もう戦線は、崩壊しだしていた。
式神を排除したナイトアイやプレゼントマイク、ジーニストが攻撃を仕掛ける。
しかし炎が全てを呑み込み、地面から伸びた枝が彼らの体を貫く。
ギリギリで避けたナイトアイやジーニストでさえ、水の球によって建物に叩きつけられていた。
デバフを与えまくって、ようやく全盛期オールマイトレベルに落とせるネフィリムだ。
個性が発動出来るならば、身体能力オールマイト以上、技量オリジン以上の無限に成長するバケモノになる。
残り、1人。
1分。
もはや絶体絶命に近い状態にまで追い詰められている中、波動を溜めていたねじれに狙いが定められる。
――来る!! 間に合わない……!
脚に力を入れ、曲げる動作。
加速してくるなら、いくら転間の速度を見てきたねじれでも対処は厳しいだろう。
チャージし切れてないため、ダメージは期待出来ない。
しかしもう撃つしかないと撃とうとした瞬間、ネフィリムは既に接近していた。
想定以上の速さ。
拳を振りかぶる姿に冷や汗を掻きながら目を見開く。
世界がゆっくりとなるような感覚をねじれは感じる。
体は動かない。
抵抗が出来るわけでもない。
ただただ世界がゆっくりと動くような感覚だけで、拳が迫ってくるのだけを認識している。
死。
加速も合わさった一撃は人を殺し得る一撃。
感じられる死の気配にねじれは目を閉じそうになって――突如、ネフィリムの体がねじれの視界から消え去った。
ふわり、とフローラルな香りが鼻腔を擽る。
スローモーションの世界から通常速度の世界に帰ってきたねじれは、認識する。
「まったく世話が焼ける!」
薄紫色の綺麗な髪に赤いリボン。赤いワンピースは所々破れていてボロボロな上、白いシャツの長袖の部分も1部肌が露出している――
「ヴィオラちゃん! 助けに来てくれたの!?」
「ふん、お兄様の為よ、貴女のためじゃないんだから」
ねじれの窮地を救出したのは元々は敵だったヴィオラだった。
「でもなんで……」
「言わなくても分かるでしょ、お兄様が私に時間稼いで欲しいってお願いしてきたから。それより私の力は適応されたまま! その上殆ど枯渇気味! だから私でも数十秒が限界! ほら、早く溜めて!」
「……うんっ!!」
ねじれの“火力だけ”は認めてるヴィオラは残り時間を稼ぐにはそれしかないと見ている。
殴り飛ばされたネフィリムが建物を足場にして加速する。その余波で建物が崩壊し、通った周囲の建物やガラスは割れる。
それを睨むように見たヴィオラは同じように加速した。
異なる力を持つ同士がぶつかり合う。
ネフィリムの拳と華奢な細い手から放たれる拳が衝撃波を生み出し、ヴィオラを弾くように少し吹き飛ばした。
無数の斬撃の追撃。
すぐに体勢を戻した彼女は斬撃が見えてるのか反応して必要な斬撃だけ避けることで掠り傷で済ませ、懐に潜り込む直前に地面から伸びてきた枝の檻を視界に捉えつつ握り締めて破壊。
壊れた際の爆風を利用して背後へ周り、水と炎の球を空中で回転することで避けると振り向いて腕を振るったネフィリムを自身の身長の低さを利用して身を屈めて避ける。
すぐに手のひらを腹部に押し当てる。
その瞬間、内側から爆ぜるように爆発が起こされた。
人なら即死する、内側の破壊。
しかしネフィリムに意味を成さず、蹴りを宙返りで避けつつ掴もうと伸ばされた腕を小さな体格を活かして身を捻って回避。
伸ばされた腕に足を引っ掛けて、強引に体を回転させた。
その状態にも関わらずドリルのように突進してきたネフィリムにヴィオラは自ら後方に跳びながら大きく弾かれ、地面に着地する。
だが弾かれた際に腕から嫌な音が鳴り響いていたのを聞き取っていた彼女は、唇を噛み締めた。
「っ、これと渡り合うなんて流石お兄様ね……」
右腕が折れたように宙ぶらりんとなり、左手で押さえていた。
万全の彼女なら折れることはなかっただろうが、彼女の持つ“魔力”はほぼほぼ転間に渡したあと。
彼女が渡り合えるのは己の経験と微弱な量の魔力だ。
身体能力そのものは誰よりも消耗した状態の彼女はそれほど高くない。
まるで梯子のように出された無数の斬撃。
回避不可のそれは人を簡単に殺す。
「でも、
ヴィオラは瞬時に破壊し、壊し切れなかった斬撃が体中を傷つける。
最悪生きてさえいればいいと頭や首や心臓付近といった急所だけに限定して守り、切断されないようにしたのだ。
赤いワンピースの下に着込んだ白いシャツが赤く染っている。
腕や脚、太もも、腹部や胸。小さな切り傷ばかりが出来ており、むしろこれで済んだのは彼女だからこそ。
もし他の誰かが同じような状態なら死んでいただろう。
しかしダメージはある。
明らかに動きが鈍くなった彼女は左腕を咄嗟に動かして胸を守り、殴られたのと理解するのと同時に横腹に強い衝撃が走る。
内部にまで響く威力。
微弱な強化では防ぎ切ることが出来ずに大きく吐血しつつ、一瞬にして反撃の蹴りを連続で加える。
後退するネフィリムの顔面を掴み、地面に沈めるのと同時に効果がないと理解しつつ破壊を発動して煙で視界を遮り、ネフィリムを蹴り飛ばしていた。
「っ、ふぅ……ふぅ……。あー……しんど……」
流石に出血が響いたのか膝を着いた彼女は息を吐く。
他人のために戦うなど、彼女はもう数十年ほどしてなかった。
退屈になって引きこもって、ただただ時が過ぎるのを待ち続けていただけ。
そう、ある人と別れて少しの年月が過ぎた、その時から。
「でも、悪くないね。うん、せめてこの命に替えても、お兄様の道を作らなきゃ」
故に充実感。
結局強者であった彼女の孤独を埋めるのは、彼女が愛を向ける緑谷転間を除けば強者との戦闘。
そして脳裏を埋めたのは。
『いつか出会うと思うよ、ヴィオラも。俺もさ、仲間たちの死を見てきたから気持ちは分かる。周りは死んでも自分は死ななくて見送る立場になるって辛いよな。けど
いつかの出会いと言葉が思い浮かぶ。
それは自分より年上の兄のような人。兄のような人であったが、ここまで自分を強くしてくれた師匠。ピンクの髪をした、不老ではなかったが不老に近い体質を持っていた人。
それは緑谷転間と同じくらい強く。いやそれ以上で。
そして彼は、
何故今思い出したのか。
それは分からないが、全くその通りだ、とヴィオラは笑った。
言われたはずの言葉を忘れて、そのまま繰り返してしまった。
その笑みは、傍から見れば余裕の笑みにしか見えず。
「ヴィオラちゃん!」
「ちゃんと当てなさいよ!」
現実に引き戻されたヴィオラは地面に左手を置くとネフィリムの周囲を壊した。
揺れ、平衡感覚を奪いつつ地面が沈んでいく。
離脱するようにねじれの方へ飛んでいき、ねじれは即座にフルチャージした波動を解き放つ。
「
スパークしている球体から放たれるのは極太な波動。
以前体育祭で見せた時は転間のマニュアル防御を突破するために三方向に拡散したが、本来はこっち。
ひとつの極太な波動はネフィリムが両手で受け止めていた。
しかし動きは止めれている。
それでもパワーはネフィリムの方が上。
段々と押し返され、ねじれの体が少しずつ空中に押し出されていく。
「う、ぅううううっ……ッ!! 押し、切れない……!!」
「もう……お兄様が見てるところで情けないんだから!」
折れた腕を強引に戻しつつ後ろから両手を伸ばしてねじれの両手の上に重ねる。
すると波動が少し強くなった。
「もっと気合い入れて! 私に殺されたくなければッ!!」
「う、うん……ッ!」
押し返されてた波動が拮抗し、二人が強く押し出すと波動がネフィリムに直撃する。
煙に紛れて見えないが、少しして風に流される。
その威力は胴体を消し飛ばすほどの威力だった。
切らした息を整える二人だが、ヴィオラの顔は険しく、がくつく体にムチを打ってねじれのコスチュームの首根っこを掴んで背後へ投げ飛ばす。
「チッ、貴女は邪魔ッ!」
「ヴィオラちゃ……っ!」
ガコン。
再生共に跳んできたネフィリムがヴィオラに拳を叩きつけていた。
先とは真逆の左腕の骨が折れるほどの一撃でガードを破られ、蹴り飛ばされる。
口から血を吐き出し、吹っ飛びそうになる体を無理矢理停止させると、俯いた状態に強制的にさせられた彼女が顔を上げると隙だらけとなったヴィオラに斬撃が迫る。
今までよりデカイ。
真っ二つにせんと縦に繰り出された斬撃。
数秒も経たずに真っ二つにされる。
――あーあ、ここまでかな。
間違えて間違えて間違えて、そして間違い続けた。
その間違いを今日、やっと間違いを正した。
本当の強さを持つ者の光に当てられて。翡翠の光に充てられて。
自分と師匠でありながら兄のような人だったあの人は、似た道を進んでいたと今の彼女は理解していた。
自分の手でやった訳では無いのに、多くの人を殺してしまった人。多くを殺すしか無かった自分。目の前で大切な人たちを救えなかった人。目の前で救えず、裏切られた自分。
諸悪の根源にすら手を伸ばした人。
奇しくもそれは、多くを殺めたヴィオラに手を伸ばした緑谷転間が同じで。
『この先何が起きるか分かんねぇじゃん。不老だって無くなるかも。そんで死ぬ時は大勢に囲まれた方がやりきったって思えるだろうしさ。それに、知ってる? 宇宙人だって実在するんだぜ。そんな未来があったんだから、ヴィオラが生きたいと強く思うような出会いもきっとある。本当に何が起きるか分かんねーと俺は思う。運命って言うのかな、それと出会ってさ、その時に生き様で後悔はしたくないだろ?』
懐かしい記憶の扉が次々と開かれ、渦に呑まれる。
ただ
――そんな未来、糞を食らえだ。
『いつか俺の先生みたいに“最強”になる人もいると思う。その時はヴィオラが力になってやってよ。どれだけ強くなってもやっぱり、独りってのは辛い。独りでいるとさ、最初は平気だって思っていてもそのうち心は擦り減っていく。その気持ちはヴィオラが1番分かるっしょ? 俺は結局、最期まで先生を理解することは出来なかったんだと思う……。だから、ヴィオラには同じ思いをして欲しくない。いつかの時は、ヴィオラが理解してやってよ、その人を。支えてやってよ。俺も結局、独りになって間違えちゃったからな』
いつかの約束だ。
運命というものを信じるなら、その出会いが訪れた時はその人を独りにしない。同じ辛さを与えない。
自分だけは必ず傍にいて、その人を永遠に護ろうと。
ここに関してだけは歪に歪んだ後でも、記憶を忘却していた後でも、そこだけは履き違えていなかった。
自分だけは傍にいる、と。理解することを。
「生き、なくちゃ……もう見失いたくない……!!」
ようやく見つけたのだ。
その相手を。自分より強い相手を。受け入れてくれる人を。
壊すしか出来ない破壊の力。
一か八かの賭けに出るように、世界を切り裂く斬撃にヴィオラは手を伸ばす。
迫る。
迫り来る斬撃。
対象を壊すべく握りしめる、直前。
赤い光によって斬撃が消し飛ぶ。
そんな芸当が出来るのはこの場に1人しかおらず。
「おにい、さま……」
「転間くん!」
落ちかけたヴィオラに一瞬で距離を詰めた転間は横抱きで抱えることで落ちることを防ぎ、ヴィオラに優しい表情を向けていた。
「みんなを守ってくれてありがとう。お前が居てくれてよかったよ。ねじれもよく頑張ってくれたな……後は俺がこいつを祓う!」
近くに来たねじれにヴィオラを預けると、転間は振り返る。
先より身体能力が上限突破している転間にとって、今のネフィリムの速度は余裕で目で追える速さ。
襲い来るネフィリムを先よりも、万全の正真正銘の本気の蹴りがネフィリムを地面に引き戻し、クレーターを生み出すどころか地面に沈めた。
追うように地面に着地した転間は、長き戦いに終止符を打うべく、その力を発揮する。
――それは同じ力なのか。
はたまた似た性質なだけなのか。
それを知る者は誰も、緑谷転間ですら知らない。
それでも、世界の異物でありながらバグのような能力を持つ緑谷転間だからこそ起こり得た現象。
世界の壁という隔たりを魂が一度、二度渡ったが故の、現象。
突如緑谷転間の脳内に溢れ出す、
舞を踊る巫女。楽を弾く年寄り。結界を貼るメガネを掛けた男性。
その中心は、青い瞳を持つ白髪の男性。
『”
『”
『”
『”
それはかつて、スターアンドストライプと戦った際に起きた現象。
脳裏に浮かぶは呪詞と手印。
違うことがあれば、その姿が見えたこと。
現代の緑谷転間の姿と声が異なる世界の存在と、二人の最強の
そう、それはある家に伝わる秘伝の技。
これは緑谷転間が己の可能性を具現化し、長年自身の個性に時間を費やすことで自らの手で掴み取った“最強”の技。
『虚式』
収束する蒼。
その力を反転させ、発散する赫。
収束と発散、異なる性質が合わさることで初めて生み出される仮想の物質。
“最強”と“最強”が持つ、必殺の一撃。
200%の――
『茈』
引き寄せる力と弾く力、それぞれの力を衝突させることで生成された仮想の物質。
その名の通り、紫色の極光。
人も街も個性も空間も、文字通りの全てを呑み込むブラックホールの如き光球がネフィリムに迫る。
今まで見せたことがない全力の抵抗。
斬撃も火も水も植物も全部が出し切るような本気で破壊しようとしていたが、これはただの茈ではない。
変換したとはいえ、異なる力を取り込むことは命を奪いかねない行為である。緑谷転間は元の個性が制御しづらい個性が故に、未来の弟を大切に想い、過去から現在未来にかけて守るという目的のためにブラコンパワーだけで脳を弄くり回すというイカれた行為をして、その辺の繊細な操作は神業に近いレベルまで引き上げられている。ある意味、前世という魂を知覚してるが故に成すことが出来た業。
故に可能にした200%。
無理矢理押し上げたそれは、容赦なく新宿ごと個性を壊していく。
無理だと悟ったネフィリムが両手で受け止める。
しかしそれを受け止められるのであれば、緑谷転間が切り札として必殺技にするわけが無い。
仮想の物質はネフィリムの抵抗も虚しく、容赦なく全てを削り取った。
「……お兄様、すご」
その威力はヴィオラが思わずそう呟いてしまう威力だった。
辿り着いている世界は既に己の師匠と同じなんじゃないか、と思ってしまうほどに。
跡形もなく消し飛んだネフィリムの肉体。
法陣すら消し飛ぶ力。
地中から地上の建物までエグい削れ方をしてることから威力のやばさが分かる。
間違いなく――
その力を使ってなお、緑谷転間は力を使い切ってなどいない。
国家を転覆出来る。
その自信は偽りではなく、本当にそれほどの実力を持ってるからこその言葉。
もし彼が本気で全てを壊そうとしたならこの威力が途切れることなく次々と飛んでくるのだ。その上、防御を突破しなければならない。
そんな相手を
ただし彼自身が危惧してたように、新宿は悲惨な状態になってしまった。
というか見えないだけで新宿の先まで突っ切っただろう。
「みんなは……無事か」
「転間くん……終わったの?」
「さあ、終わったと思いたいが……とにかくみんなを避難させよう。例のウロボロス・ウイルスとやらの効果が分からない以上、名前から察すると一度復活してくるかもしれない。ちなみにヴィオラは知ってるか?」
「……いいえ。でも不死の研究をしてたから。私は不老だからそのために置かれてただけだし。ただウロボロスの元の意味を考えたら死と再生。完成したというのは聞いたことないから不老不死は完成してないと思う。1回くらい復活してもおかしくないけどね」
「そうか、流石に不老不死となるとお手上げだが、一度復活程度なら何とかなるな」
「あれを相手にしてそれ言えるの、転間くんだけだと思うな……」
「初見殺しなだけだしあいつ。適応前だったら元から適応されてたヴィオラはもちろん、エンデヴァーでも本気の火力を当てれたら勝てただろ。俺と戦ったあとだったからエンデヴァーが居た時も強化されてて難しかったが。何はともあれ、本当によく頑張ってくれたな」
最終的にタイマンで残り時間を稼いだヴィオラは功労者と言えるだろう。
転間は協力する理由なんて別になかったのに命を懸けてくれた彼女の頭を撫でる。その際に漏れ出た白い力は、彼女の傷ついた肌を癒した。
本人は全く自覚してないようですぐに手を離して、他の者達を探そうと歩みを進めていたが。
「やっぱり、反転術式のアウトプット……かな」
「じゅつ……?」
「こっちの話。早く進んで」
「私もクタクタなのに!?」
本人が自覚してたら完全回復まで使ってただろうが、あくまで切り傷が治った程度だ。
少なくとも彼女に傷が残ることはないだろう。
おんぶする形になったまま歩くねじれは少し不満そうだった。
服も別に特別なものでもなければ彼女自身が幼女体型みたいなものなのでねじれでも重たくは感じないのだが。
「転間くん! 私まだ撫でてもらってなーい!」
倒れた仲間たちをひとつにまとめたり歩いてくるイレイザーヘッドやらエッジショットにドヤ顔する転間にねじれはヴィオラをおんぶしたままそう叫んで追いついていた。
なお主にイレイザーヘッドにだが、転間は自慢中なのでガン無視していた。
ボロボロなイレイザーヘッドに対して比較的無事な転間は出力が戻ったのもあり、あまりにウザくてイレイザーヘッドは若干イラついていたが。
なんだかんだ転間は自ら世話するくらいなのでイレイザーヘッドに対する好感度は高いのである。
前世を含むと話しやすいのもあるが、転間にとっては一切自分を見捨てることがなかった先生というのが大きいのだろう。
それこそイレイザーヘッドの身に何かあればブチギレる可能性もある。
「とりあえずホークスに連絡ですかね、呼んで意識ない人から先に運んでもらいますか」
「それが1番だろうな……」
突然冷静にまともなことを言い出した転間についていけなくなったイレイザーヘッドは肯定マンになった。
転間は一瞬この戦闘にホークスを呼ぶべきだったのでは、と思い出したが、結局呼ぶ時間がなかったのと最終手段の逃げることが出来なくなるため、やっぱりダメかと思い直した転間はホークスに連絡を入れ――
――摩虎羅。オマエはもう■■■ではなく俺の影だろう。魅せてみろ!!
呪いは、また廻る。
蛇のような形をした黒いナニカが空へと飛び上がり、消滅する。
その時、本来の
「なっ!?」
「転間くんの一撃で消し飛んでたのに……!」
「…………」
「……やっぱり」
その姿に驚く中、ヴィオラと転間だけは驚いていない。
そしてどこからともなく現れた摩虎羅に転間が皆を下がらせて前に出る。
心配かけさせないためか、普段とは変わらないような、どこか余裕を感じさせる様子で。
「……おいおい。第二形態とか出していいのは魔王とかラスボスだけだろ。マジで復活しやがって」
ギギギ――ガコンガコンガコンガコンガコンガコンガコンガコン――。
「例のウロボロス・ウイルスってやつか? あの蛇みたいなのは消滅したみたいだからもう効力はないと見ていいとは思うが……適応される前にぶっ飛ばす!!」
蒼による超加速と蒼によるパンチ。
抵抗せずただ殴られただけ。
そんな姿に転間が訝しげにする中で、法陣はひたすら回り、回り回り回り回り回り回り回り回り回り回り回り回り回り――
そして、
全因解放。
己の因子を全開放することで初めて使える個性の極致。
否、これは個性ではない。
“術式”として変換されたその力は――
「なんだ!? 影みたいなのが広がって……!?」
「っ、お兄様! 領域の展開には必中必殺の効果が――!」
唯一知っていたであろうヴィオラが叫ぶが、追いかけてきた緑谷転間だけを巻き込んで、世界は塗り替えられる。
それはかつて唯一摩虎羅を調伏した■■■■の領域展開を彷彿とさせる力。
ただし違うのは、
つまり領域を展開して得られる必中効果は――たった一つ。
――今までとは比にならない、無数の凶刃が不可侵を破る。
原作
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入る
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もっとお兄ちゃん読みたい
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作者の好きなようにやって欲しい