どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
――魔虚羅は起き上がる。
最後の最後まで抵抗し、己の上半身を消し飛ばした宿敵を倒すべく。
彼は二人の最強と戦って負けたことがあった。
呪力による強化があるとはいえ、自身ですら打ち負ける相手二人。片方は己を調伏した相手。片方は敵。
その片方は技術と呪力が。片方は術式と呪力が。互いに違うベクトルの強さを持っていた2人。
そんな魔虚羅だからこそ、分かる。
1度とはいえ己を殺した敵。
過去の最強たちと違って仲間と組んでいたというのもあるだろう。
しかし忘れてはならないのが、緑谷転間には呪力も術式もそれら全ての知識がないということ。
もし魔虚羅に対する知識があれば。
もし呪力の理解が深ければ。
もし術式に詳しければ。
個性という概念に囚われてなければ、あれほど成長する前に殺されていたのは魔虚羅である。
初見殺しが通用したから苦戦した。
初見殺しが通用したお陰で消耗した転間との復活後の戦闘で互角に渡り立てた。
それもこれも領域展開によって転間の力の大半を削いだからだ。領域に対する知識すらなかったのが大きいだろう。
もし知識があれば、領域対策をしてきてもおかしくはない。
だというのに領域内のバフがかかった状態の魔虚羅にすら近接能力は上回るのだから、恐ろしさすら覚える。
だからこそ魔虚羅は油断なんてしない。
確実に、必ず殺す。次に戦えば殺されるのはこちらだと理解している。
1度見た、別の茈の使い方。
かつての最強と同じ手を取ろうとしたからこそ、それを避けてこられた。
だがもし知ってなければ殺られていたのは魔虚羅だ。
本当にギリギリの戦い。
自身で最強と名乗るだけあり、今の個体である魔虚羅の記憶に存在する二人の最強と同じ世界に緑谷転間は辿り着きつつある。もし彼が、
個性で再現しようものなら。
彼はもう、本当の最強へと至ってしまう。
誰よりも何よりも、この場で殺さなくてはならない相手。
そもそも領域展開を領域対策無しのただの治癒のゴリ押しで乗り越えるどころか反撃でボコボコにしてくる時点で、おかしいのだ。
幾度も体中を切り裂かれるということは地獄のような苦しみを数分間耐えることになる。それに耐えられる精神力。
故に、魔虚羅は遠距離から殺すだなんて真似はしない。
もしこれが遠距離を誘われていたなら反撃で殺される。仮に意識を失っていても致命傷を外して起きてしまえば殺される。
近距離で、斬撃で、乱切りにする。
回復しないように。復活しないように。
瓦礫に近づく。
その足取りは酷く慎重だ。しかし確実に近づく。
既に意識がないということは魔虚羅には分からない。
その、僅かな時間。
その時間があれば。
「――業火燎原・ヘルファイアストーム!!」
No.2は間に合う。
巨大な炎の竜巻が魔虚羅に襲い掛かり、適応がリセットされた魔虚羅ならば消し飛ぶ危険性がある。
退くことで待避すると、その退避先に先回りする影があった。
「さっきのお返しだ!!」
ミルコだ。
魔虚羅の背中に強烈な蹴りが炸裂し、一気に吹き飛ばされた。
吹き飛んだ魔虚羅を追わず、ミルコはエンデヴァーに視線を向けると、エンデヴァーは既に発見したようだ。
同時にミルコも匂いで気づく。
「ここを壊せ、ミルコ!」
「わーってらぁ!」
ミルコの脚力から放たれる蹴り。
それらが下手に刺激出来ない瓦礫の山を一撃で吹き飛ばし、落ちてきた転間をエンデヴァーはキャッチし、丁寧に降ろしていた。
頭から血を流し、顔の半分は血に染まっている。体の方も切り傷の方が多く、細かい傷までは治してなかったのが分かる。
まず間違いなく、誰がどう見ても重傷な転間の姿があった。
息があるかどうかだけを確認し、無事なことを知る。
「どうやら生きているようだな。しぶといやつめ」
「生きてもらわないと私が困るからな」
「こいつはインゲニウムに渡せばいいだろう。それよりアレ、ネフィリム――いや魔虚羅だったか。1度死してなお復活するとはな」
「ああ、でもさっきより弱え」
「多方オリジンが消耗してただけだろう。有利な空間を作り出す厄介な力を得たとは聞いたが……使ってこないということは制約付きか?」
「その前にぶっ倒せばいいな!!」
「……」
それもそうだが、微妙そうな顔を浮かべるエンデヴァーだった。
間違ってはいない。
この場に来るまでに話を聞いてきたが、かなりの弱体化だ。
今度は適応前に殺すべく、エンデヴァーは敵を射殺すような目で見た。
「オリジンは!?」
「インゲニウム、来たか。無事だ。とっとと連れていけ。今からここは戦場になる」
「あ、ああ……分かった。感謝するよ、エンデヴァー」
「……ふん。ヒーローとしてやるべきことをしてるだけだ。そいつは気に食わんがな」
明らかに重傷なのに無事とは言い難いが、気に食わない相手でも助けるのがヒーローだ。
転間ですらエンデヴァーのことを気に食わないと思いつつも協力したように、エンデヴァーもまた気に食わないと思いつつも助けた。
その理由はヒーローという一言で十分なのだ。
◇
「……ここは」
「や、久しぶり」
何だか懐かしく感じる世界に何だか懐かしく感じる声。
両手をポケットに突っ込みながら覗き込むようにしてきたのは目隠しをした白髪の男性だった。
にやけ面。
その顔を忘れるはずもない。
「うっわ……最悪。まさか本当にまた会えるとは思わなかったな」
それはあの時、1度意識が引き込まれた時同様の現象で。
いつかは会えると思っていたが今だと思ってなかった俺は体を起こしながら思ったことをそのまま告げた。
俺が超えるべき壁。
真の最強へと至るために超えなくちゃならない相手。
あの目隠しバカだ。
……今、忙しいんだけどな。
「僕もまた会えるとは思わなかったけどね。でもかなり強くなったねー。肝心の力が使えない時点で僕よりまだ弱いけど」
こいつシバいてやろうか。
早速一言多いんだが。こっち一応死にかけてるんですけど。
「けどあの魔虚羅相手によくやってる。昔、僕と似た“六眼”と“無下限”を持つ五条家の人間が相打ちになったような存在だからね。なんでか知らないけど、アレは僕が戦ったことのある魔虚羅みたいだし宿儺みたいな力使えるし。その前の魔虚羅だって僕でも領域なしなら苦戦しただろうね」
「あんたが戦ったやつかよアレ。だから俺の力についてやけに知ってたような動き方だったのか。あんたが逃がすとは思えない。なんで生きてる?」
「……さぁ? なんで生きてるかって言われてもそれを言えば僕もだし、いくら
こいつでも分からないなら俺がもっと分かるはずもない。
ただ厄介なのを押し付けられたのだけは理解した。
「それにしても」
サングラスを外したかと思えばグイッと顔を近づけて見つめてくる。
だから近えって。
鮮やかなライトブルーの瞳は悔しいことに今まで見てきた物よりも美しく綺麗に見える。
しかも顔がいい。
くっ、そっちの趣味はないがそう感じてしまうとは。俺のブラコン力を持ってしても美しいと感じるなんて……!
殺せ……!!
「君、あいっ変わらず下手くそだね〜。呪力を全然理解してない。それじゃこれ以上強くなれないよ。てか、黒閃を経験しておいてこれ? 反転術式だけは僕から見ても凄い腕のくせにね。既にアウトプットも出来そうだし。下手したら硝子や憂太――いや宿儺クラスか? これは昔から使ってきたからかな。呪霊相手なら僕より向いてるんじゃない?」
「おい喧嘩売ってるって認識でいいよな?」
ただ当の本人の態度がアレすぎて、俺の堪忍袋の緒は切れそう。
こいつ喧嘩売りに会いに来たのかよ。ぶっ飛ばすぞお前。
てかアウトプットってなんだよ。黒閃ってのは名前的にあの黒いやつなんだろうが、反転術式ってなんだ?
「ハハッ、本当のこと言ってごめんね」
「お前やっぱ喧嘩売ってんだろ。しかもお前俺の知り合いに声似てるんだよ。余計にムカつく」
「えー僕ほどのイケボが居るの? そりゃ会ってみたいね。ま、僕の方が数百倍良いだろうけど」
「お前……その自信は凄いな。どこから出てきてんだよナルシストめ。つーか余計なもん他人に押し付けておいてその態度はなんだ。俺がこの世界に居なくてあんなやつ居たらネフィリムの段階でヒーロー全滅してた可能性の方が高いだろ」
「いやいや、そう言われても僕がやった訳じゃないし。まぁ領域展開されたはずなのに反転術式だけで生き残ったのは僕の世界の術師たちが知ったらひっくり返るだろうし君以外なら確かに死んでただろうけど。それに……ネフィリムだっけ? そいつは君の影響もあるでしょ」
「は? 俺?」
全く見覚えすらないのに俺の責任にされているんだが。
俺が居たからこそあれだけ戦えたわけで、もし俺が存在してなければマジでスターとオールマイトが殺す気でやらないと勝てないレベルだぞ、あれ。
「もしかしてマジで色々気づいてない? 前ちょっと説明した気もするんだけど」
「お兄ちゃんパワーを使ってるってことだけは理解しているぞ」
「なにそれ」
はぁ、とあからさまにムカつくような顔でため息を吐かれた。
今なら殴っても許される気がする。
お前弟をバカにしたな。
「してないよ」
「心読むなよ」
「顔に出てんだよ。まぁそんなことより」
「そんなことって……キレるぞ」
「君、面倒臭いとか言われない?」
「ブラコンとは言われるな」
「だろうね、脹相と話が合いそう」
「それは会ってみたいな」
よっぽど弟が大好きなのだろう。
俺レベルなら弟自慢勝負も出来そうだ。ついていけるなら友達どころか大親友になれるだろう。
「いい? 君――転間はその体に呪力を宿してる。だからこそ転間だけがこの世界で大きく歪んでしまった。ま、あのヴィオラって子は特殊みたいだけどね。転間を除けば唯一の術師に近い存在と言える。力を別の力に変換するなんて僕でも出来ないしね。その辺は変形自在の呪力がある里香に近いかな。でも君の場合はその個性ってやつと呪力の融合――ある意味僕たちに近く、ある意味僕たちとは異なる存在。それが転間だ。どちらの境界にもいる……狭間の存在。名は体を表すだなんて言うけど、それっぽいよね」
「……親が付けた名前に何を言われても知らんとしか。それより前も、さっきも言ってたな。なんだその呪力ってやつ」
「簡単に言えば、そのままの通り呪いの力。負の感情を糧にして自分を強化したり物に付与させたりとか色々。ほら、チャクラとか気とか念能力そういうの。僕たち術師は必要に応じて出せるように訓練して少量でも使えるようにしてる。転間はまあ、無意識に制御出来るようになってるし術師としての才能で言えば僕レベル。いや転間の場合は才能かどうかは怪しいな。どっちかというとイカレ具合で乗り越えてそうだ。ただ術師において才能は8割とされるくらいには大事なんだよ?」
「そりゃどーも。あんた程の実力者ならその称賛は最上級なんだろうな。でもあんたレベルの才能ならこんな苦労してないだろ。才能なんてないって。そもそも俺の個性にそんな力含まれてないだろ?」
「そうだね、含まれてなかった。なんなら僕とこうして会うこともなかった。本来はね。君は覚えてるんじゃない?
「死の瀬戸際……?」
そう言われて思い出すのは、やはり遊園地の時のことだ。
出久のために。出久が悲しまないために多くの人間を救おうとして、救った結果自分が死にかけてしまった出来事。
実際には俺はあそこで死んでいたと言える。涙を流す弟のためだけに生き返ったし。
あの時から俺は、ひゅーっとやってひょいって感じで治せるようになった。
「君の個性は収束。そこに間違いはない。断言してもいい。ただし“元”は、という言葉が前に付くけど。六眼があって今日やっと確信が持てたよ。
収束――その力が君に呪いを与えた。死の瀬戸際で呪力を掴んだ結果、有り得ないはずの力と有り得ないはずの現象。起こりえないはずの“バグ”を処理するために生み出されたのが、君の変異した個性だ」
「……そういうことか」
「もう理解したみたいだね、そもそも君の治す力は収束という範疇を超えている。傷くらいなら応用すれば使えただろう。でも脳を壊して治すなんて芸当は不可能だ。僕たち術師にとって高度な技術、君が幼いながらに使い続けた力は“反転術式”。負と負の力を掛け合わせることで正の力を生み出す高等技術」
「その原因が、世界に漂う負の感情そのもの、だな?」
「そういうこと。その地頭の良さは流石と言うべきかな」
遊園地。
あの時あの場にあったのは負の感情の塊だ。
憎しみや恐怖、絶望。恨み。後悔。怨嗟。殺意。嫉妬。疑心。猜疑心。軽蔑。嫌悪――幾らでも挙げれる感情の渦だった。
俺はその中で引き寄せる力を最大出力で解き放った。
人を助けるにはそうするしかなかったから。ヴィラン相手にぶっぱなすのではなく、救うために使ったからこそ精密な操作を必要とされた。
元々幼少期から使えてたのだってちょっとだったのに小学生にも満たない子供が限界を超えたらどうなるかなんて考えるまでもなく。
それ故に脳の処理が追いつかずにぶっ壊れ、半暴走した個性は漂っていた呪いと負の感情を俺自身に“収束”させた。
俺が生にしがみついたからこそ、瀬戸際で掴めたナニカ。呪いという概念を己の肉体に宿した。
偶然にも合わさった負と負の力が正の力へと変換され、俺の脳を治癒したのだろう。
俺はそれを無意識下で理解して使い続けていた。
あの黒い光が発生するまで。
「なるほど……結局俺は不純物ってわけだ」
異なる世界の魂を持つ人間。知識を持つ人間。
色んなイレギュラーがあったからこそ、今の俺があるのだろう。
多分、どれかが欠けてたら死んでた。
その中でも結局、俺を生かしていた存在は出久、か。
――やっぱ天使だろ。もう俺が幸せにするぞ出久!!
「個性でもなければ術式でもない。最も近いナニカに変換された。バグを修正した結果、といったところ。君がこの世界に来る前に、
懐かしい人を見るような目。
この人にとっては教え子的な存在なのだろうか。
ただ遊園地で起きた事件の結果、呪力とやらと個性が合わさって俺の力は目の前のこいつと同じ力になったってことか。
道理で収束という現象とは真逆の力を出せるようになったわけだ。
元々俺の力は引き寄せる力で、せいぜい他人を引っ張ったり自分を引っ張ったりしか初期性能はなかった。
それではあまりに弱すぎるため、俺はその個性を拡張していった。
その拡張した力がこいつと似たような力になってたからこそ、個性そのものが適した形に変化したのだろう。
「で、なんだ? 例えそれが事実だったとして俺にはどうしようもないことだろ。俺は俺の意思で俺の大切な弟を導くために存在している。誰かになにを言われようが、例え神を相手にすることになってもその使命から降りることはない。呪いの王だろうが悪魔だろうが邪神だろうが最強だろうとな」
「やっぱりいいね。そういうイカレ具合、やっぱり転間はこちら側だ。じゃあ本来の目的を果たそうか」
先とは違う、明確な敵意。
咄嗟に下がった俺はネフィリム以上の脅威を感じ取っていた。
口角をあげて、何処か嬉しそうに見える。
「改めて自己紹介しようか。僕は五条悟。特級呪術師で呪術高専の“先生”をやってた
「……緑谷転間。ヒーロー名はオリジンだ。ただの“お兄ちゃん”だよ。で、五条悟――面倒だから先生でいいか?」
「好きに呼んだらいいよ。僕にとっては生徒のようなものだしね」
「そうか。その割には生徒に対して殺る気満々に見えるんだが?」
そう返したら、ニィッと物騒な笑みに変わった。
何か言えよ。怖えって。
まるで当たってることを示すような笑みだ。
俺もかなり強くなったつもりではあったが、そんな俺ですら“本気”で行かねば負けると思うほどの圧。冷や汗が止まらない。
前はアレでも本気じゃなかったんだろうなと思わされる。
ただ不思議なことにこの空間では肉体も体力も回復してるみたいだから全快状態。
ここに来る前の枯渇寸前状態なら瞬殺されていただろうが、この状態なら今の俺なら互角に渡り合える、といったところか。
逆に言えば、俺はこいつに
――だからどうした?
「来なよ、時間ないでしょ。手荒になるけど僕が本当の力ってやつを教えてあげる」
「上等だ! 何が何だか分からないが1度あんたには負けてるからな。今度は俺が勝たせてもらう! あんたに勝ってこその最強だ!」
そう、こいつには1度負けた。
あの時よりレベルアップした俺はこいつに勝って本当の意味で“最強”に至らなくちゃならない。
深呼吸を挟み、手のひらを向けると先生もまた同じように手のひらを向けていた。
不思議だ。
俺とこいつは同じようで違う。
だが同じ。
故に今からやる行動は、互いに分かったのだろう。
起こりとも言うべきか、それが分かるのもあるが。
「術式順転――」
「「蒼!」」
以前は撃ち負けたが、今回は相殺した。
地面としての判定はあるのか土煙だけは発生していたが、空間は頑丈なのかヒビすら入っていない。あの領域とやらに近い性質の空間なのか?
どちらにせよ、以前負けたのに今回は互角。
それは俺のレベルアップを意味する。
瞬時にお兄ちゃんパワーを纏い、突っ込むと先生も似たように接近してきた。
互いの拳がぶつかり合い、俺が押し負ける。
チッ、魔虚羅と違って上手く使えてる証拠かよ。
弾かれた一瞬で来る追撃を逸らすと、反撃が逸らされる。
互いに攻撃が当たらぬまま捌きあいに勃発し、俺の拳が先生の白髪の髪を靡かせた。
「へえ、呪力操作は雑だけど格闘技術は僕より上。だから戦えてるってわけか」
「マズイ、全く分からん」
呪力とやらが理解出来なかった。
近接は俺の方が上でもパワーで負けてる上に使えば減る俺と違って全く減ってる様子がない。
先の攻防でも近接戦闘では勝っていたが、逸らしたり防御する度に俺にダメージが入っていた。
「君、最初から格闘技術を鍛える方向性で動いてたでしょ」
「そりゃ個性が個性だったもんでな。こんな使いづらい個性まともなやつじゃ使えねえよ。呪力とやらがあるなんて知らなかったし近接で勝つなら鍛える方向性はパワーより技術だ。筋力にはいずれ限界はあるが、技は努力次第。前世があるお陰で先人たちの技が頭にあるからな」
「ごもっとも。つーか六眼無しで使えてる転間が可笑しいの、自覚してる?」
「脳弄っただけだろ」
「脳はブラックボックスなんだっての。宿儺ですらポンポン弄れねぇよ。ほんとイカれてる」
「お兄ちゃんだからな!」
「意味分からねぇ、よ!」
加速した俺に対して同じ加速をした先生。
俺の体が唐突に引っ張られ、自らを頭上に引っ張ると蒼を纏った拳を避けることに成功する。
足に蒼を纏い、薙ぐように蹴ると屈まれて避けられた。
隙だらけになった俺に攻撃しようとしてきたが、そのまま空中で横にぐるぐると回転して軽い竜巻を巻き起こす。
すると先生は攻撃の動作をやめて即座に下がっていた。
着地した瞬間、消えたように視界から姿を消した先生だが、俺は咄嗟に振り向いて背中を曲げた。
今度は俺の髪が1部靡く。
「手足長いなおい!!」
リーチを見誤った。
そのまま倒れてバク転で距離を離すと、頭上からかかと落としして来たので似たように消えて背後を取り、拳を叩きつける。
消えた。
頭上。
消えて横から。
消えた。
背後から。
俺も背後から。
何度か繰り返す。
「いや面倒臭」
「そりゃ同感」
このままテレポート合戦しても仕方ないため、互いに地面に着地する。
短距離ワープって互いにやり続けるとこうも千日手になるものなんだなと学んだ。
いや学んでもこんな合戦することないだろうが。
しかも厄介なのが互いに防御が停止するため、普通の拳じゃ攻撃が入らないということ。
「そういう君にはこれをプレゼント!」
「はい?」
「こういう時に使える技術のひとつ。それが――」
地をかけて跳んできた先生を訝しげに見つめてると、何かを纏った拳を叩きつけてくる。
蒼ではないのは理解したが、不可侵に防がれていた。
「領域展延」
「げぇっ!?」
なのにも関わらず突破され、顔面を殴られて水切りのように跳ねて飛ばされた。
ゴリゴリと削られたかと思えば一瞬で破られた。
どうなってんだこの人の出力。
「分かった?」
「分かるか!!」
「先生のレクチャーは聞くもんだよ」
「個性で例えろよ。郷に従え郷に」
「そっちが合わせたら良くない?」
「この唯我独尊野郎」
「それブーメラン」
やっぱりこいつ殴らないと気が済まない。
鼻血を治しつつ今度は俺が加速すると、蒼を纏った拳を叩きつける。
片手で防御されたが、不可侵と蒼は矛盾が発生するため攻撃は入る。
俺が蒼を自分の近くに強い反応を作り出せないように、先生もそのルールからは逃れられないのだろう。
ゴリ押しで弾き飛ばすと、蒼を纏った状態で引き寄せる。
当然同じ出力で逆に引っ張られたら無効化される。
「歯ぁ食いしばれよ先生ェ!! そのニヤケ面外してやる!!」
「そういう割に蒼で来るって!? 残念だけどその技は僕がよく分かってる――」
話を聞く限りこの人の眼、六眼とやらは特別なのだろう。
だからこそこの人は必ず
それがどんなものか。
高度な技であることも。
それは必ず、隙になる。ほんの0.1秒の隙に。
俺との戦いで0.1秒は十分すぎる時間。
予想通り、気づいた。
「ッ!?」
拳がぶつかる直前、俺の蒼が変わったことを。
その変わる前に起きた“流れ”を見たのだろう。
ニヤけ面が驚愕に染まった一瞬を俺は
衝撃が駆け抜け、先生の肉体を一気に吹き飛ばした。
衝撃波を発生させる技。
蒼が衝撃を逃がさないのであれば、こちらは衝撃をそのまま相手にぶつける。
「エンデヴァーの技を見ていてよかったよ。使えるもんは使わないとな」
赫灼熱拳にバニシングフィスト。
この目で間近に見たからこそ、その技を貰い受けた。
まぁ思いついた技は蒼で引き寄せつつ衝撃を与える技なのだが、この人に蒼の引き寄せは無効化されるので衝撃波を与える技になった。
お陰で意識を飛ばすつもりだったが足りないな。
それでも普段使う蒼の倍以上の威力を誇るのが赫。その一撃は蒼を纏ったパンチを上回る。
「いてて、容赦無さすぎるでしょ。黒閃で殴ってきたようなもんか、これ。流石の僕も呪力を集中させてなければ僕の肝臓がヤバかったね」
「その割に治して来るんじゃねぇよ。でもニヤけ面は外れたな? 前のやり返しだ、俺は忘れてないぞ」
「根に持ちすぎでしょ。なるほど、拳が当たる直前で蒼から赫に切り替えたってわけね。言葉にすれば簡単だけど簡単に出来るもんじゃない。精密な切り替えが出来なければ自分自身を傷つける諸刃の剣」
その通り。
理論としては単純で蒼から即座に赫へと切り替えるだけの作業。
無論即座に入れ替える必要があるため、俺が今まで毎日やってきた蒼と赫を順番にやるペン回しがここで活きてきたってところだな。
あとヴィオラに力を貰った際の感覚を覚えてなければ俺の腕が吹っ飛んだだろう。
「すぐに看破するのは流石だな。シンプルに
「蒼赫拳、ね。僕の世界に転間が居たらまた違った結末を迎えていたかもな」
「あ?」
「こっちの話。向こうでは現代最強なんて言われてたけど、世の中は広いな。いくら同じ力とはいえ強烈な一撃を貰うなんて思わなかった」
「大人しく降りていいぞ、その称号は俺が貰っておく」
「ハッ、言うじゃん。じゃあさらにレベルを上げようか」
一段と速度が上がり、同じくお兄ちゃんパワーを高めて対抗する。
蒼を纏った拳を避け、懐に入り込んだところで同じ手は食わないというように蹴り上げてくる。
咄嗟に背中を倒して避けつつバク宙。
目の前に先生の顔があり、容赦なく拳を突き出した。
空振り。
誘われた!
「
「何――っ!?」
蒼の拳が赫に変化し、胸に凄まじい衝撃波が走った。
ごふっ、と堪らず血を吐きながら吹き飛ばされ、地面を転がる。
息ができない。誰だこんな技開発したヤツ。
えげつないほど痛い。
肺が死んだ。
「蒼赫拳。なるほど、こりゃいい」
胸に手を当てて肉体を治しつつ、立ち上がる。
視線の先には拳を蒼と赫に瞬時に切り替えている姿。
嘘だろ、この人たったの一度見ただけでコピーしてきたんだけど。
おかしい、この人簡単に出来るもんじゃないとか言ってたよな? 俺聞いたんだけど。めちゃくちゃ簡単にやってるんだけど。
理不尽の権化かよ。
「いやー新しい技を教えてくれてありがとう」
「そりゃどーも!!」
赫が落ちてくる。
殴られる直前で咄嗟に放った赫を見上げた先生が下がって避けていたが、瞬時に近づいた俺は先生を掴もうと手を伸ばす。
余裕の面。
「くたばれ!」
「マジ?」
防御を突破した拳が頬を穿つ。
滑るように背後へ強制移動した先生だが、俺は自身の手を見つめる。
なるほど、やれば出来るもんだな。
「なんでもう展延覚えてんの?」
「あんたに言われたくない」
「いやいや結界術どころか領域すら使えないのに使ってるの異常すぎるでしょ」
そう言われても出来たもんは出来たんだから出来たんだろう。
「ひとつ言っておいてやる。お兄ちゃんはな、弟のためなら何処までだって強くなれるんだ。例え相手が最強であろうと俺はさらにその先を行く!」
「弟のため、ね。全く、転間は呪術師向いてるよ、ある意味。本当に面白い存在だな」
そう言って好戦的な笑みを浮かべた先生の雰囲気が一気に変わる。
ああ、これ“本気”だなと。
お兄ちゃんパワーを最大出力へと。
同時に今までとは比にならない速度で跳んできた先生とぶつかり合う。
出力が段違いだ。
俺より遥かに精密で強い。
というか、パフォーマンスが全く落ちていない!
こっちは攻撃を防いだり避けるので精一杯で反撃が出来ない。
なら見ろ、見て学べ。経験しろ。
こいつの世界を。こいつの強さを。
その身に刻め……!!
「いいね、少しずつ良くなってきた。だけど隙だらけだ」
衝撃波が身体中を駆け抜ける。
咄嗟に赫で相殺したが衝撃そのものを無効化出来たわけではなく、弾かれた俺は着地と同時に両足を曲げて加速する。
加速しながら力を練る。
「術式反転――」
「「赫!!」」
再び同レベルの衝撃波がぶつかり合う。
元々打ち勝てると思ってなかった俺は飛び越えるように跳躍するともう1発赫を前方に放って急転換に急加速。
鉄山靠。
全く同じ動きで返された。
チィ、最強というだけある。
だが。
回転するようにズレ、何故かこの世界だと装備されていたマフラーを投げつけた。
停止した瞬間、即座に放った赫ごと頭突きする。
特殊な眼を持ってようが視界を塞げば無意味だ。透視できるわけじゃないだろ。
それに強化で負けていても赫を無理矢理頭で叩きつければダメージになる。
互いに頭から大量に血を流し、互いに治す。
「くぅ、っ……この、正気かよ。自分を簡単に切り捨てるか普通!! 無茶苦茶しやがって!!」
「どんな手段を取ろうと勝てば勝者だ!!」
「ヒーローらしからぬセリフだなァ!?」
一気に赫を纏った拳を何発も叩きつける。
防戦一方から転じて今度は俺が攻める。
出力が上がっていく。いや操作性か。
身体能力は迫りつつあるが、それでも足りない。なら工夫だ。
蒼を足元に複数放ち、拳を蒼に変えながら攻める。
顎を打つようにアッパーし、避けた瞬間に配置していた蒼によってテレポートしながら蒼を纏った蹴りで高速で数回位置を変え、攻撃を加えながら最後に蹴り飛ばす。
最後だけわざと受けやがったな。脱出のために。
蒼で囲めば赫は撃てない。何故なら他人と自分の蒼と赫が混ざり合えば茈に変わる危険性もあるからだ。
蒼を使っていたら俺も当てないようにするしか赫は使えないし俺が使ってたらこの人も使えないので同じので切り替えるしかない。
選択肢は互いに狭まられる。
それでも格闘能力は恐らく俺の方が上だ。どう頑張ってもこいつのパフォーマンスに勝つことは俺には出来ない。
ならボコれるうちにボコボコにする。
何が最強だ! 最強はお兄ちゃんに決まっている! 呪力? 呪い? そんなの関係ない。人の弟に対する愛を無礼んなよ!!
「もう慣れてきた! 俺の方が強いみたいだな! このまま仕留める!!」
一気に加速する。
なりふり構わない全力の一撃。
先生は笑っていた。
一瞬何かを企んでるのではと警戒するが、行動した以上は止まれない。
だが勝ちは確信している。
このまま――
「――黒閃ッ!!」
「ハァ!?」
咄嗟に両腕を交差するが、防御を突破どころか人の骨を砕きながら吹き飛ばしてくる。
髪を掻き上げて余裕の笑みを浮かべる先生。しかしすぐに煽るような表情を浮かべてきた。
そんな姿に――
「で、誰が誰より強いって?」
「殺す」
俺は全力で殺すことを選んだ。
腕を治して突撃するが、あっさりと顎を蹴られ、胸に衝撃が走る。
すぐに体勢を戻すと、頭部を叩きつけられた。
あまりの威力にバウンドし、蒼の光を纏う拳が頬に直撃し、腹部を駆け抜ける衝撃が俺に血を吐かせながら吹き飛ばしてくる。
クッソ、ボコボコにするつもりがボコボコにされている。
なんでこの人成長してんだよ。
あの黒いのずるい。
しかも。
「随分楽しそうだな!」
「鏡を見てから言えよッ!」
まるで戦闘を楽しむように笑う先生が何か言ってたけど俺は殺意を滅茶苦茶湧きながら力が漲るのを感じた。
今ならやれる気がする。
辿り着ける気がする。
この人の世界へ――。
前世の頃にも感じたことのある尋常ではないほどの集中力。
目の前のことしか今の俺は考えられないし映らなくなっていた。
漲る力に従うように、ただただ拳を叩きつける。
「「――黒閃ッ!!」」
互いが放った拳から黒い火花が散り、世界が大きく揺れた。
この人がそう呼んでたから無意識にその技らしきものの名前を叫んだが、本当に出るとは。
出力が戻る感覚。
これならまだ戦え――
「はいもう1発」
「ざけんなクソ先公ォ!!」
やっとの事で出したのにもう1発受けた俺は大量に血を吐きながら転がった。
多分現実世界なら直撃した時点で意識飛んでた。
転がりながら体を治し、再び拳を突き出した。
「いっっっ――てーな!」
黒い光が先生を吹っ飛ばした。
先生が痛みを和らげるように防御した右手を振り、即座に治すのを見ながら幾度かぶつかるが、先と違ってボコボコにされはしないが被弾は俺の方が多かった。
出力を戻したとてまだ完全にこの人の強化効率に追いついていない。
もっと深く。
もっと。
「これでェ!!」
「三度目――!」
黒の光が防御を貫く。
溢れる全能感。力が満ちていく感覚。
“ソレ”を理解していく。
そのまま追撃しようとしたところで顎を蹴りあげられ、叩きつけられた拳が逆に黒い光が発生する。
背中が地面であるため、力が流せずダメージが入る。
すぐに両足を突き出すと、先生は後方に転移した。
治せるとはいえ肋折れた……。容赦ねえ。
「くそっ、もうこれで決めてやる……!」
「お? いいね、一度ぶつかり合って見たかったよ」
このまま戦ってもラチがあかない。
最高の技で勝つ。
『”
同じ動作。
『”
同じセリフ。
『”
わかっていたことだ。
同じ技を持つなら、最強であるこいつがこの技に辿り着いていないはずがない。
『”
つまりそうなれば。
『虚式――』
打ち勝つのは練度の高いどちらか。
『茈』
全てを削り取る一撃が互いに放たれ、空気が爆ぜるどころか音が消滅する。
俺は思っくそ吹き飛んだ。
両腕どころか足すら吹っ飛んだんだけど。
クソ痛え。全身血だらけだ。
向こうはどうか知らないが。
というかこの空間ヒビ入るのかよ。
もう壊れそうなんだけど。
体は治そう。
「いやぁ、久しぶりに死ぬかと思った」
「そのまま死んどけよ、さりげなく普通に歩いてくるな」
「まあまあ。君も自分で最強と名乗るだけあるなって感じだ。僕が見てきた中でも転間は宿儺と同じくらい脅威に感じたよ。少なくともその歳で僕に匹敵なんて成長スピードだけなら僕たち以上」
さっきも名前らしきの言ってたけど誰だよ宿儺。こいつレベルまだ居るとか魔境だろ。
全盛期オールマイト+ある程度戦えるレベルが最低限になるくらいのクラスが居るとかこの世界に居たら詰みじゃねーか。
クソゲーかよ。流石にこの先生と同格を同時相手はどう足掻いても俺でも無理。大人しく世界が滅びるのを待とう。
「だけどもう終わらせようか。君が学ばなければならない技。僕が最後に教えられる技だ。君が真の最強へと至るには、これがなければ話にならない。呪術においての奥義。それが――」
頭の中が凄まじい警報を鳴らす。
手印というやつだろう。確か帝釈天の印のような指の形。
今すぐ消し飛ばせと俺の中で何かが囁く。
「領域展開」
「やらせるか!! 最大出力――赫!!」
練っていた出力を赫で最大出力で解き放つ。
この人の領域とやらがなんの技か分からないが、ここまで強い人の領域なんて絶対にやばいに決まっている。
魔虚羅ですらあの斬撃の嵐だ。
俺の最大出力に対しても先生は何か動く様子は見せず、そのまま赫が――
「――無量空処」
瞬間。
蒼の世界が暗闇に覆われ、世界が大きく変わった。
まるで宇宙空間のような世界。
先の蒼に覆われた世界とは全く異なる。
「――へえ。やっぱりある程度の耐性はあるか。宿儺でも10秒に満たない時間でもダメージはあったんだけど」
思考は動く。だが肉体がほんの少ししか動かない。
これは情報。
知覚と伝達? 何もかも見えるし感じる。
無限にも等しい情報量が頭の中に流れてきて、頭が割れそうだ。超高速で処理しきった直後に一瞬にして補完される。
これは防げるものではない。
おおよそ1秒で約二年半近くの情報量といったところか。
俺の脳を持ってしても情報の処理は追いつかず、パンクしかけている。ミリレベルで少しずつ動かせる程度なので高速処理モードに入るが、キツイ。
どれだけ経っただろうか。
数秒。数十秒。もしくは1分。数10分。1時間。時間という概念すら忘れそうになっていると、ふと何も流れなくなった。
酸素が無くなったのではと錯覚するほどに呼吸が乱れ、身体中の力が抜けて汗が止まらない。
世界が戻り、先生は俺の両肩に触れていた。
触れたら効果がなくなった。
逆にこの人が触れなければ――死んでいた。
力なんて関係ない。
発動した瞬間、完全なる死だ。行動不可で相手だけが行動出来る時点で戦場では死しかない。
これが、領域の展開。最強の力。
まともに動くために取れる対策なんて脳を瞬時に壊すくらいだろうか。
それでも数回やって死ぬが。
「これが領域展開。僕のは無限回の知覚と伝達を強制する術式効果がある。領域展開を防ぐのは呪術――転間でいう個性で防ぐか簡易領域で防ぐ、後は自動迎撃の落花の情。それがないならこっちも領域を展開して上書きする。上書き出来なくても中和は出来る。とまあ、それらが必要になるってワケ。転間がいくら強くても、例え僕と同じレベルであろうと領域内では必中になるからね。ま、それは身をもって経験したでしょ」
本当に魔虚羅が斬撃で良かったと心から思った。
もしこのような力なら、俺はあの場で死んでいただろう。
物理攻撃だからこそ生き残れた。
そしてもう、勝敗は決した。
「――降参だ」
これ以上戦っても、俺は勝てないと。
「ん? まだチャンスはあるんじゃない? 一応言っとくと、僕は今術式が焼き切れて使えない。領域展開は負担が大きくて一時的に使用出来なくなるからね」
「嘘つくな、俺と同じように脳を壊して再生出来るだろ。そうしたらまた使えるんじゃないのか。もう一回やっても同じことの繰り返しだ。それにどうせあの空間はあんたが有利になるんだろ」
「まーね。でもこの勝負はどちらかというと引き分けだよ」
どこから取り出したのか目隠ししていた。
サングラスどこいったんだろう。壊れたか。
「……どういうことだ?」
「そりゃ同条件ならまだしも術式も結界術も何もかも知らない相手に呪術における“奥義”を使ったって反則でしょ。君が使えたら話は変わってたし」
「どうだかな」
だがここまで戦って、この人の目的は理解できた。
この人は俺に“指導”するためだけに戦ったんだ。
――その割に人の技コピーしてきやがったが。あれ、さりげなく出されたがポンポンやれるもんじゃない。というよりは疲れる。
わかるのはこいつ、指導目的ではあったが本気で殺す気だったし戦いを楽しんでいたということ。
「さて……残念だけどそろそろお別れの時間だ。先の茈のぶつかり合いで間もなくこの世界は崩壊する。それに現実の君もそろそろ目覚めそうだしね」
「……」
やっぱりここは精神的な世界か何かなのだろう。
でなければ力が枯渇した俺がここまで万全で戦えるはずもない。
消費したってのにもう全快してるし。
「僕に出来るのはここまで。後は転間自身が開花するかどうか。本当の“最強”になれるかはね」
「言われるまでもない。俺はまだ生きなくちゃならないからな。そのために進化し続ける。何よりそうしなければ殺されるのは俺だろ。弟が待ってるんだ」
うっすらと見える景色が薄らいできた気がする。
俺が目覚めそうになっているのだろう。
結局最強を超えることは出来なかったな。
でも。
「……先生」
「ん?」
「ありがとうございました」
態度こそアレだが、この人のお陰で理解出来た気がする。
自分の個性を。
本当の力を。
ただきっかけさえ掴めれば、完全に理解出来るだろう。
だからこそ俺は前回の件も含めて、敬意を示して頭を下げて感謝した。
驚いたような様子で、しかし微笑んだような気もした。
俺に手本はなかった。
今までずっと自分の力だけで強くなっていた。この人が居たから、俺は更なる成長を果たすことが出来たんだ。
「だけど――
これは宣戦布告。
1敗1分け。
勝ち越しでないなら、完全に負けたわけじゃない。
「首を洗って待っておけよ最強。あんたから必ずその称号を剥奪してやる。今回は俺が挑戦者側だったが、次会う時はあんたが
「――そりゃ楽しみだ」
拳を突き出すと、何処か嬉しそうな笑みを浮かべて先生は拳を合わせた。
次に会える保証がないのは理解している。
だが俺はいつかの未来、再びこの人と出会うだろう。
不思議とそんな確信があった。
世界が薄らぐ。
「なら転間。
「ここで見てろ、数分も経たずにあんたの世界に立ってやるからな」
それを最後に、世界から弾き出されるように俺の意識は暗闇に誘われた。
◇
「――降ろしてくれ、インゲニウム」
意識を覚ました転間は動く視界と揺れる体。
そこから状況を理解すると、自身を抱えてダッシュするインゲニウムに呼びかけた。
「オリジン! 目が覚めたのか!?」
「話してる時間すら惜しい。早く離してくれ」
「あ、ああ」
重傷だというのにそんな様子が見えず、インゲニウムは従った。
本来なら止めるべきなのだろう。
だがまともにやり合えるのは転間だけで、不思議とインゲニウムは邪魔をしてはならない気がした。
「……どうする気だ?」
「魔虚羅を消し飛ばす。あんたは他に迷子を居ないか探してくれ。迷子の手を引くのがあんたの仕事だろ」
そう告げる転間だが、インゲニウムを見ていない。
いや、今の彼は誰も見てない。
その先にある、見えそうで見えない光。
薄ら見える掠れた世界だけが見えていた。
「分かった。でもこれだけは聞いてくれ」
「……なんだ」
「知ってると思うけど俺にも弟がいる。弟にとって兄は目標、みたいなんだ。弟を悲しませないように、死なないでくれ。自分の大切なものを見失わないでくれ」
「――誰に言ってんだよ。俺はお兄ちゃんとして指標にならなくちゃならない。俺が弟を忘れたことなんてねえよ。その時は俺が死んだ時くらいだ。じゃあな、任せたぞ」
その瞬間、凄まじい風圧を撒き散らして転間の姿が消える。
自身を遥かに超える速度。例え切り札を用いても、追いつくことは出来ない。
あれほどの速度を出せるのは全盛期のオールマイトか。いやもしくはそれ以上の速度になっている。
周囲が無事なのは彼のコントロール技術がイカれているのか、個性の力か。
それを見届けたインゲニウムは空を見上げた。
雲に覆われた世界は、徐々に晴れていく。
インゲニウムは確かに見たのだ。
緑谷転間は、オリジンは“別次元”になったのだと。
◇
エンデヴァーとミルコははっきり言って苦戦していた。
初戦で消耗、ここに来る前にも消耗していたのはあったが魔虚羅の“適応”だ。
生半可な火力では詰みになる。かと言ってタメの長い技は許してくれない。
「プロミネンス・ノヴァ!!」
何より厄介なのが、その斬撃。
世界に拡張された一撃は転間の不可侵に留まらず、ありとあらゆる全てを斬り裂く斬撃になる。
炎の球体が斬られ、舌打ちしながら避ける。
同時にエンデヴァーは歯軋りしていた。
――何故だ。やつに到達出来て、何故俺は未だ留まっている!!
届かない。
決して届かない世界。
オールマイトであれば、今の魔虚羅なら能力さえ伝えればもっと強烈な一撃と速度を叩き込んでいただろう。
それか全力の、本気の一撃でケリをつけたはずだ。
だが逆にオールマイトレベルの能力がなければ勝つことなんて出来ない。
風が吹く。
何かが凄まじい速度で接近する気配。
「なんだ!?」
「この匂い――」
この場の全員が戦いを止めるほどの気配。
咄嗟に振り返った、先。
エンデヴァーの横を横切る緑髪のボロボロな子供の姿があった。
スローモーションとなる中でエンデヴァーは確かに視た。
己すら見ず、ただただ敵に対して
一瞥をくれるわけもなく、転間はただ“敵”を見据える。
――なんだって出来る気がしていた。
回復すらしておらず、もはやまともに個性を使うことすら出来ない状態。
だというのに頭の中はクリアで。
自分の怪我も消費した状態も何もかも忘れてしまう。
確信があった。
その確信を確かめるための行動。
今なら、辿り着ける気がする――!!
やってきた存在が弱っていること。大した力がないことを魔虚羅は見抜く。
確実に殺すべく放たれる斬撃の数々。
今の転間なら避けられない。
だというのに、紙一重で全てを躱した転間は地面を削りながら魔虚羅の懐に入り込む。
斬撃。
間に合わない。
間に合わなくても己の剣で刺し殺せばいい。
腰を深く落とし、右拳に力を集中するように左手で覆うような構えを取っている転間は避けるという動作をするのは難しい。
故に、魔虚羅は間違えた。
間違っていない。
本来であれば剣が斬り裂いて終わりだ。治癒すらしてないのだからそれほどの力も残ってないのは間違っていない。
だが。
――黒い火花は相手を選ばない。
例えそれが、“最強”になる相手であろうと。
「黒閃ッ!!」
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間。
空間は歪み。
呪力は黒く光る。
稲妻の如く迸る黒い光は通常時の2.5乗の威力という驚異的な攻撃力を有する。
剣を破壊するどころか魔虚羅の顎を打ち抜き、上空へ遥かに吹き飛ばすほどの威力を発揮した。
空を覆う雲が、弾け飛ぶ。
「ッは……! やっぱりな、何となく出来る気がしていた……!!」
黒閃による攻撃力はぶっちゃけおまけである。
その本質は、潜在能力の解放。
失われたはずの出力を緑谷転間は再び得る。
そんな転間に対して魔虚羅は焦りが生まれながら一気に仕留めにかかる。
「赫」
放たれた赫によって上半身があっさり消し飛んだ。
完全適応はされてないとはいえ適応したと言うのに。
法陣が回転し、上半身が再生した一瞬で転間は接近している。
もう二人のヒーローすら置いていくほどの速度。
今この瞬間、転間と魔虚羅しか戦場には立てない。
「黒閃」
再び、火花が散る。
一度黒閃を出せば連続で出すのはそう難しいことではない。転間だって過去に3回連続で出している。
吹き飛ぶ魔虚羅がビルに埋もれた。
浮いて見下ろす転間は魔虚羅を油断なく見つめると。
「確かにお前は強い。成長に止めがないのだろう。いずれ誰も勝てないような最強の生命体になれるかもしれないな……」
魔虚羅にそんな言葉を述べていた。
ここまで追い込まれたのは初めてであり、事実魔虚羅は既に蒼に適応し、赫に適応しつつある。
だからこそ転間は魔虚羅を称賛する。己を追い詰めた、強敵を。これから先の未来、転間は魔虚羅を忘れることはないだろう。
だが、緑谷転間に敗北は許されない。
その命を散らすことは許されない。
「だけど俺には死ねない理由があるんだ。負けられない理由があるんだ。そのためにお前はここで俺が倒す!!」
その理由は、彼が死ねない、負けられない理由があるからだ。
ボルテージの上昇。
そんな彼を止められる者は、もう居ない。
斬撃をあっさり避けた転間が赫を纏った拳を連続で叩き込み、ビルが崩壊する。
地面を大きく削った魔虚羅が即座に転間を両腕で掴もうとして、両腕を交差した。
「黒閃ッ!!」
――三度目。
魔虚羅の防御を容易に貫くほどの一撃。
魔虚羅に比べて華奢とは思えないパワー。
ビルを幾つも貫通し、法陣が回転する。
治しながらも、蒼と赫に適応した魔虚羅は次に適応する対象は緑谷転間という
ただしそれは、
存在そのものに適応するには数秒では不可能。
特に彼ほど規格外であり、幾度も成長する相手に追いつくのはかなりの時間を有するだろう。
そんな時間は無いのを魔虚羅は理解している。
逆に高速回転し始める法陣に対し、転間もまた理解していた。
あれは自分の存在に対してだと。
故に。
次に互いが取る手段は、たった一つ。
無数の斬撃の嵐が周囲を薙ぎ払う。
転間はそれらを跳んで回避すると、着地と同時に魔虚羅の肉体に幾度もの殴打が突き刺さる。
唾液のようなものを吐き出し、数歩下がる。
法陣が回転するより早く、まるで4本の腕に殴られてるのではと錯覚するレベルの速さで打ち出される数百にも及ぶ乱打。
そして再び。
黒い火花が魔虚羅を大きく弾き出した。
「これは――」
なにかに驚いた様子を見せる、転間の姿。
既にボロボロであった魔虚羅は、ようやく見せた隙に最後の手段を取る。
手印。
焼き切れた術式は等に回復している。
そこから発動する力はたった一つであり、魔虚羅が唯一逆転出来る手段。このまま戦えば存在に適応より早く次の瞬間に消し飛ばされるのを完全理解したが故の、最後の足掻き。
魔虚羅が再び領域を展開する。
ニヤつく。勝利を確信した笑み。
これさえ決まれば、勝てる。この敵さえ倒せれば自分より強い相手はもう居ない。
迫りくる斬撃の世界。
それに対して緑谷転間はただ笑う。
かの最強のように。
自分の可能性に。
ハイになっているのも含まれているだろうが、それだけでは無いのは確かだ。
ようやく理解したのだ。
四度の黒閃。
それを得て。
「ああ、そうか……俺の個性は収束じゃなかったのか。俺の本当の個性は――!」
緑谷転間は
己の力を知覚し、理解し、ようやく辿り着く世界。
最強に等しい彼が最強へと辿り着くための力。
――イメージしろ。限界を超えた未来の自分を。最強に至る自分を!!
それは。
「――
全因解放。
己の個性因子そのものを解放する個性の極地。
本来それは複数の個性を持つ人間だけが辿り着ける個性の真髄。
だが彼は見たのだ。
魔虚羅の領域。
五条悟の領域。
特に後者の展開を間近で見たが故に、黒閃を得た彼はそれを“個性”として再現する。
個性は個性因子によって生み出される力。個性因子がなければ一般人とそう変わらず、特別な力を持たない。
ここで重大なのが個性因子というところ。
個性因子によって生み出される力ならば、自身の個性因子を世界へ拡張することも不可能では無い。
特に彼ほど覚醒した者ならば。個性の最終到達点へ辿り着いたならば。
魂の場所。精神の在処。OFA継承者たちが集う場所の存在を知ってるからこそ、イメージしやすい。
直接見たからこそ、イメージが可能だ。
呪術における奥義。個性における奥義。
知識を得て、ついに緑谷転間は最強の力を手に掴み取った。
それを証明するかの如く、彼の個性因子が溢れ出すように。力の奔流が表に出るように。
市街地から、景色が変わる。
緑谷転間の世界。緑谷転間の精神世界。緑谷転間の心の中を具現化した心象風景。
領域と領域によって発生するのは領域の押し合い。
だが初見だと言うのに、その領域は
より洗練された領域が勝つ。
そのルールは個性として再現されても変わらず。
斬撃の世界が、押されて。
そして――
「――
そして領域の押し合いは、緑谷転間の領域が、無限にも等しい
原作
-
入る
-
もっとお兄ちゃん読みたい
-
作者の好きなようにやって欲しい