どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!!   作:俺もお兄ちゃんだぞ!!

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蒼穹無垠

 

 

全因解放(領域展開)――蒼穹(そうきゅう)無垠(むぎん)

 

全てを覆い尽くす無限の蒼の世界が斬撃の世界を呑み込む。

形成されるのは、青空。

水面と青が広がる、名前と見た目通り蒼の世界。

それは何処か地球が海の星と言われてるように地球そのものを具現化したようで。

一切の曇りもない、ただただ一つの目的のために行動する転間を表すように。

そこに闇は何一つない。

ただ無限にも等しい蒼の世界が広がっている。何処までも何処までも、果てがない様に。

領域の展開。

本来であれば押し合いがなされ、それが続けば中和される。

しかし黒閃を経たとはいえ初見で使用して他者の領域を塗り替えるなど普通は出来る芸当ではない。

魔虚羅は適応だ。適応によってそのレベルは過去の記憶に近しいレベルまで引き上げられている。

かの呪いの王の神業を再現するほどの練度には及ばないにせよ、それでも初心者の、初めて使用した者に負けるほど弱くは無い。ちょっと領域が使える程度の相手に負けることもない。特級の、上澄みとされる面々でようやく押し合えるレベルだ。

だが結果は、負けた。

押し負けた領域は存在しなくなり、必中効果は防ぐ術がなく魔虚羅に刺さる。

魔虚羅に分かるのは、動けないということ。

魔虚羅の領域は斬撃の嵐を浴びせ続けるだけの必中効果。それでも他のヒーローなら全滅させられる。

五条悟の領域は無限回の情報の知覚と伝達。分かりやすく言うとコンピューターのように処理落ちをさせる必中効果。呪霊に効き目は悪いが、一般人なら0.2秒の領域展開でもまともに社会復帰するのに半年はかかるほど。

領域はその人の心象風景、生得領域そのものを具現化する力である。結界という形で体外に創り出して敵を閉じ込め、その結界に発動者本人の術式を付与する事で術式に基づく攻撃を必中とする結界術の一種。

転間はこれらを個性で再現したが、その効果は全くの同じ。

彼の力もまた、内側に強く外側は脆い。

あくまで術式の代わりに個性で代用しただけ。

だが心象風景ということからわかる通り、それは似たような力であろうと全く同じ力であろうと領域の能力はそれぞれ異なる。

緑谷転間の領域展開。

それは。

 

「悪いな、どうにもならないのが“最強”なんだ」

 

()()()()()()()()()()である。

元式神ではあるが、今呪霊に近い魔虚羅に対しては効果が薄いものの、その力はちゃんと発揮される。

行動停止という部分は同じだが、緑谷転間の場合は脳に五条悟ほどの負荷を与えない。

まず術師はヒーローではない。しかし緑谷転間はヒーローである。

そんな脳に尋常じゃない負荷を与える力などヒーローにとっては使えない力でしかない。

いくらブラコンでもヒーローを目指す部分は変わらないため、そこが反映されたのだろう。

ならば行動停止の効果は何なのか。

緑谷転間の必中効果。

それはひとつに纏めて分かりやすく言ってしまえば、()()()()()

“距離”、“方向”、“感覚”、“相対方向”。そういった移動に関連する概念そのもの消失させ、相手の体感速度や判断能力を低下。

浮遊感と落下感の狭間を常に与えることで相手の平衡感覚を狂わせる。相手にとっては動ける動けないのではなく、平衡感覚が分からなくなってるせいで動いてるつもりが動けないのである。

そこに体感速度や判断能力の低下のデバフまで強制的に与えられる。はっきり言って、食らえば抵抗不可能脱出不可能である。

五条悟が処理落ちなら、こっちは高負荷。

五条悟が情報ならば、こっちは距離。

初期の力である“収束”を最大限まで進化させ、成長させた力。

 

ヒーローと術師。個性と呪術。

その狭間の存在である転間だからこその力。

無量空処が発動してヒットすれば勝ち確のように、彼の領域展開を防ぐ手段は同時に領域展開して押し合いに勝るか領域で中和するか、ヒット前に簡易領域を使うのみ。

だが特級の上澄みということは、彼の領域は五条悟に近いレベルは最低でもある証拠。

押し合いに負けた魔虚羅は、適応があれど必中効果を打ち消すことは出来ない。

緑谷転間という存在ではなく、最優先に必要な領域の適応に変わるが、蒼や赫に数回必要だった魔虚羅に奥義である領域展開の適応はそんなあっさり出来るわけもなく。

 

「俺一人ならきっと勝てなかった。この(個性)に目覚めて、弟を守るために人生の全部を捧ぐつもりで弟の為だけに生きてきた。周りにどう思われようが興味なかったし自分が強ければいいと思っていた。でも成長はある日止まってしまった」

 

限界が来たのだと思った。

雄英に入る前、発動出来たのはマニュアルでの防御と蒼。赫は昔から反転出来たから使えたが、今ほどでは無い。

これでは弟を守れない。オールマイトを殺せないと思っていた。

それでも転間は学生にしてはプロと戦えるレベルではあった。

ただし、目標には程遠いが。

 

「それから雄英に入って、色んな人と出会って、気が付けば周りに人集りが出来て。2年になって成長し続けるようになった。そこでもたくさんの人に出会って、たくさんの人に助けられたから俺はここに居るんだ」

 

――ねじれや環やミリオ、クラスメイトたち。

1番のきっかけは、セルキー船長とシリウスさんたちとの出会いとあの海での事件。

それから教師陣や校長、イレ先やマイク先生。デニムの人やNINJA。

スターにホークス、ナイトアイ。

後輩の真綿と沫を筆頭とした後輩たち。

うみちゃんやヴィオラ。

 

精神面的な方でも肉体面でも転間が成長出来たのは誰かが居たから。

その者たちの顔が次々に浮かぶ。

 

「そして今日、あの人に、先生に教えられてたどり着いた“最強”の力。

一人で生きるつもりの人間が結局周りに助けられてしまった。

お前が誰かと組んでいたなら、この戦いは違ったかもな」

 

それから、五条悟。

転間の人生において最大最強の超えるべき壁。

そして先生でもあり、師匠のような人物でもある。

 

「誇れ、お前は強い」

 

そう、魔虚羅は強かった。

復活したとはいえ、ネフィリムの段階では転間を追い詰めるほどの実力。

複数人を相手にしても圧倒する力。

魔虚羅になったあとも過去の最強たちの記憶があったとはいえ転間を苦戦させ、領域展開によって大きく消耗させた。

 

「ただそれ以上に俺が強かった」

 

しかし転間は負けなかった。

 

「言葉にすると、そうだな」

 

その理由は、酷く単純。

彼には――弟が居たのだ。

緑谷出久。

いずれ最高のヒーローになる物語における主人公。

転間は昔も今もこれからも、やるべき事は変わらない。

彼が最強になり得たのは、才能よりも努力ではあるが、1番は純粋たる弟に対する愛(純愛)によって辿り着いたのだ。

もし彼が居なければ、緑谷転間はただの凡夫で終わるどころかこうしてヒーローとして立つことはなかっただろう。

もしくは、AFOをも超える最凶最悪のヴィランとして君臨していたか。

こう見えて彼は緑谷出久という存在が居なければ今のような性格になっておらず、むしろ何もかも疲れ切って心が潰れかけていた人間だ。

ちょっとした悲劇が、それこそ大切に思っていた母親の身に何かが起きれば世界を憎んで行動するようになってもおかしくはなかった。

可能性だけならば幾らでもある。

だが出久の存在が彼をヒーローにした。

弟に誇れる兄で在りたいと思わせた。

その結果が、今。

彼は最強のヴィランではなく、最強のヒーローになった。

結局のところ、転間は最強になる運命。

それでもやはり、弟の存在は彼の全てを変えるほどに大きな存在。

何故なら今こうして、今も夢に向かって努力する弟を思えば彼の力は()()に溢れるのだから。

 

「――天上天下唯我独尊」

 

その意味はただ一つ。

自分こそが唯一無二の“最強”だという発言。

そしてそれは、魔虚羅の知る二人の最強にも該当する。

彼らもまた、唯我独尊。

緑谷転間は、その境地へと至った。

 

「今度こそ完全に仕留めてやる。俺の最高の、最強の技でな」

 

油断も慢心もない。

だが今の転間なら動けない魔虚羅などあっさりと消し飛ばせる。

だと言うのに彼は、時間のかかる技を選択する。

 

『位相・黄昏・知恵の瞳』

 

それは蒼を生み出すための詠唱。

それによって全てを無に吸い込む蒼が空間に生み出される。

 

『位相・波羅蜜・光の柱』

 

それは赫を生み出すための詠唱。

全てを吹き飛ばす放たれた赫に対して。

 

『九綱・偏光・烏と声明・表裏の狭間』

 

必殺技である完全詠唱を成す。

そこから生み出されるのは、領域展開によって強化された200%を超える最大最強の技。

 

『虚式』

 

なぜこの技を選択したのか。

それは転間にとって魔虚羅に最大限の称賛を示すものであり、ある意味の礼儀でもあった。

己が最強になるきっかけを与えてくれた、現実世界では一番の強敵に。彼の人生における二番目の強敵に。

それを知る由もない魔虚羅は命の危機に抵抗を試みるが、やはり動けない。

必中効果を消さない限り動くことなど出来ず。

 

『茈』

 

()()()()()が蒼に覆われた世界から色を消し去った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14:19分。

長きに渡った戦いは終結を迎える。

解除された領域から抜け出してきたのは転間ただ1人。

法陣すら跡形もなく消し飛び、魔虚羅はついに完全消滅した。

戦いを終えた転間は空中で街並みを見つめる。

あれほど栄えていた新宿の街は街としての機能を完全に失い、転間の仲間たちもボロボロになっている。

それは今この場にいるミルコやエンデヴァーも、転間自身も例外ではない。

 

「終わったというのか……」

「匂いもねぇ。そういうことだろうな」

 

ミルコの嗅覚が魔虚羅の消滅を決定づける。

だがエンデヴァーは見ていた。

ただ真っ直ぐ、何の感情も宿さない表情で浮く転間を。

同時にエンデヴァーは理解した。

誰よりもオールマイトを見てきたからこそ。

――アレはもう、“超人”を超えたのだと。

アレはもう、人という領域を超えた、“怪物(ヒーロー)”なのだと。

 

エンデヴァーの握りしめた拳から血が流れ、歯軋りするエンデヴァーは振り返って去っていく。

そんな姿を横目で見たミルコは特に追うわけもなく、至った転間を見て好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

街並みを見つめていた転間が気づいた頃には、既に事後処理が始まっている。

 

「緑谷!!」

「転間ー!」

「転間くん!」

「転間……!」

「緑谷くん!」

「オリジン!」

 

次々と呼びかける声。

そこに視線を向けると、イレイザーヘッドやあの場でネフィリムと戦った者たちが集まって見上げていた。

全員ボロボロだ。

少なくとも病院に行くことになるのは間違いないだろう。

皆の元に戻るように、転間はゆっくりと着地した。

 

「緑谷……か?」

「――イレ先。みんな」

 

以前と異なる雰囲気を持つ姿に思わず聞いてしまったが、転間は何かを決断したような様子でもあった。

普段からは考えられない表情。

それに気づいたイレイザーヘッドは口を開こうとして。

 

「全部終わったよ」

 

それを隠すように転間は戦いが終わったことを告げる。

長きに、本当に長きに渡った戦い。

たったの数時間の出来事とは思えないほどに濃く、長く、そして生きるか死ぬかのギリギリの戦い。

腕を押さえながらさりげなく隣に来たヴィオラが覗き込むように見つめる。

それは何処か心配を含んだようで。

 

「お兄様……」

「大丈夫だ、俺は俺であることを捨ててない。ありがとうな」

「うん」

 

そのことを言われずとも理解していた。

今度は自分の意思で白いオーラを作り出した転間はヴィオラの頭に手を置くと、彼女の傷を全て治した。

 

「反転術式のアウトプット……その力、分かったんだ」

「ああ、もう全部理解してる。使い方もな」

 

先の全能感がようやく抜け切り、自覚した力を転間は見つめる。

今までは黒閃の効力を失えば、はっきり言ってそこまで扱える状態にはならなかった。

それは転間の知識不足だ。と言っても発動前に比べれば世界が変わるレベルでは成長したのだが。

だが彼はもうこの力を完全に理解した。だからこそ今まで以上に扱えるしより精密に使えるようになったのを自覚している。今なら自分に対してなら死なない限り幾らでも。他者に対しても生きてさえいれば何とかなりそうだ。

自覚した力が分かるからこそ、転間は改めて思った。

自分の本当の個性は。自覚したこの力は凄まじく。

やはり――お兄ちゃんパワーは最強だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事後処理。

事件が終わったあと約束を果たすために女の子に会いに行って少し話したあと、事情を説明したり治癒したりヴィランという立場であったため、今は何故か味方に居るヴィオラのことを説明したりとまあ色々と終わったあとも忙しかった。

それから死んだはずのエドワードが逃げたことを転間は警察から聞いていた。

魔虚羅の調伏。

あれはそれに巻き込まれた結果であり、それによってエドワードは死ぬのではなく仮死状態になった。

対象を誰にしていたかは分からないが自分を狙い続けたってことは自分なのだろうと何となく転間は理解していた。

魔虚羅に対する知識も今の転間にはある。

周辺の捜索はしたらしいが一切その姿がないことから緊急時における対策はしていたのだろう。

転間の治癒能力によってヒーローの怪我は回復したので問題ないが、一応念の為にと病院へ。

一方で転間は病院に行く必要がないので、次の日にさりげなく警察と共に施設に戻って捜索。

特に証拠もなく、ロクでもない施設でしか無かったので再利用されないように転間はまとめて施設を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

そうして三日後。

 

 

何処からか撮られていたのかオリジンのことがニュースになっていた。

エンデヴァーやホークス、ベストジーニストやエッジショット、リューキュウなど名だたるヒーローばかりが集っていたのもあるのだろう。

こんな個性溢れる世界なのだから誰かが遠距離から撮れてもおかしくはなく、彼の予想通り元々話題性のあった転間は一躍有名人になってしまった。

まぁ当の本人は全く気にしてないのだが。

 

だが転間本人が気にしてなくても他は違う。

家に帰ったら母には泣きつかれたし弟に心配かけて泣かせたという事実にネフィリムや摩虎羅以上のダメージに匹敵する大ダメージを精神的に食らって数時間寝込んだり、イレイザーヘッドには説教されつつもよくやったと言われたりホークスは新宿の惨状に胃を痛めつつ転間の力にドン引きしたり、エッジショットやジーニストは唖然したり、ナイトアイは理解者面したりと。

それぞれ反応は違っていたが、約束していたクリスマス会は残念ながら無理になってしまった。

まあそもそも呑気にクリスマス会なんてやってる暇は――。

 

「えーということで今年もあと2日で終わりということでね! 遅くなったけどメリークリスマス!!」

 

ないはずなのだが、転間の治癒でピンピンしてるミリオは音頭を取っていた。

それはそれ、これはこれ。

お祭り事大好きな雄英の生徒たちはそんなの関係ないと言わんばかりに学校を巻き込んでいた。

学校史上トップレベルの問題児学年(7割ほど1人の人物)を無礼てはならない。

 

「ねじれ、怪我は大丈夫なの?」

「うん、もうへーき!」

 

当然彼ら彼女たちの話は雄英にも広がっている。

大半はわざと話題にしなかったが、親友の甲矢はねじれが心配で声を掛けた。

 

「そっか、緑谷は?」

「……うん」

 

あからさまにねじれが元気を無くす。

本来主役みたいな存在というか存在感が強すぎて主役を奪い去る中心である転間の姿は今ここにはない。

パーティには参加しているが、離席中と言うべきか。

 

「転間くん、全く怪我とか後遺症もないんだけど様子おかしいの。なんだろう……元気がないって言うのかな。ずっと何かを考えてるみたい」

 

あれで全然後遺症がないのもおかしな話ではあるが、騒いでる会場内で窓を見つめると、そこには転間がただ夜空を眺めているだけ。

 

「じゃあ行きなさい。そういう時こそねじれが力になってあげなくちゃ!」

「え、ちょ……ちょっと有弓!?」

 

背中を押してベランダに無理矢理押しやった甲矢によって外に追い出されたねじれは閉じられた。

 

「あっちゃー。甲矢さん、強引すぎない?」

「あんな緑谷、逆に気味悪いでしょ。1番近くに居たのはねじれなんだから、ねじれでも無理ならどうしようもないわよ」

「確かに……あの時から転間はおかしい」

 

他の生徒もどう話せばいいか分からなくなってる様子だ。

いつもはブラコン拗らせてる転間が静かなのだから落ち着かない。

少なくともここ二年間。

弟のことで騒ぐ転間は雄英にとってそれが風物詩みたいなものだ。

現場にいたミリオも環も心配なのか窓の方を見ているが。

 

「あと進展しろとも思ってる」

「う、うーん」

「ま、まぁ……本人たちのペースも、ある」

「いやいや全く動いてないでしょ。アキレスと亀じゃないんだから」

 

無理矢理するつもりはないが、はっきり言ってこの場にいる誰もが思ってることだろう。

なんで未だに進展してないんだ、あの二人と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか冬の寒い時期にベランダに追いやられてしまったが、鍵は閉まってないので出ようと思えば出ることは出来る。

しかしねじれは覚悟を決めたように前に出た。

 

「転間くん?」

 

ねじれが声を掛けると、転間は気づいてなかったのか少しびっくりしていた。

珍しい無防備さだ。

いつもは簡単に気配に気づく転間がねじれが近づいても気付かなかった。

隣に辿り着いたねじれは傍で外を見つめた。

残念ながらクリスマスが終わったため、クリスマスらしい装飾は最低限だ。

転間から何も話すつもりはないのかひたすら無言が続くと。

 

「て……転間くん。この服! どう?」

「……ああ、似合ってるんじゃないのか」

 

話題に困ったのかねじれはサンタ衣装に身を包んでるため、全身を見せるように両腕を広げて姿を見せる。

話しかけられたからか転間はそれを見ながら普段通りに返していた。

 

「よく着れるな、寒い中で」

「うん……それは否定しないけど、着る理由もあるから」

「そういうもんか。ほら」

 

サンタ衣装はサンタ衣装でもミニスカだ。

真冬の夜にはあまりに寒い。

しかしあからさまな、チラッと転間を見つめるような視線。

当然の如く気づかない転間はねじれに手を差し伸べると、ねじれはちょっと頬を膨らませながらその手を取る。

今も個性を貼り続けてるのか、寒さが一気に消えた。

 

「どうかしたの?」

「何が?」

「ずっとおかしいよ、転間くん。いつもと違う。他の人もみんな思ってるし、そこまで分かりやすくなくても私は誤魔化せないよ?」

 

本題に入る。

普段も気遣いこそするだろうが、こういった場ではどちらかと言うと保護者をすることが多い。

その役目すら今の転間は放棄している。

 

「別に何かある訳じゃない」

「うん……」

「これからも俺は弟のために生きる。たださ」

 

重ねられた手が握られ、ねじれは僅かにドキッとした。

それでも話を聞く姿勢は崩さない。

 

「俺は自分が思ってたより周りに助けられてたんだなって思ったんだ」

「うん……え?」

「一人じゃ強くなれなかった。お前ともそうだが、雄英に入らなかったら俺はここまで強くなることはなかったんだろうな。そこが少し複雑だっただけだ」

「転間くん……」

「同時に“何でも出来る”自分になった俺は独りになる気がしてな。ま、その時はそれでいいんだろーけど。俺の使命は変わらないしな」

 

それは“最強”へと至った故の悩みなのだろう。

けろりと平然を装っている。

しかし、ねじれは理解出来なかった。理解出来ないのだ。

彼女の実力では転間に遠く及ばない。

ねじれが悪い訳では無い。誰もが、遠く及ばない。

あの場にいた各ヒーロー。

エンデヴァーやホークス、エッジショット、ベストジーニスト、ミルコ、リューキュウ、といった上位のヒーローですら。

その世界を見られるのは最強と称されるヒーローのみで、スターアンドストライプやオールマイトのような存在だけが彼を肯定していい。

ただ彼らも理解出来ないだろう。

スターには支えてくれる人が居り、オールマイトは元より自分が孤独などとは思わない人物だ。

それに彼らよりも前を行く転間とは、違う。

その領域は誰も近づけない。

それはさながら、近づいても近づいても届かない彼の個性のように。

当然のようにねじれにその資格は、ない。

 

「私は……」

 

それでも、握り返すように指の間に指を入れて強く握るようにしたねじれは転間を引っ張るようにして向き合うようにすると、ただ真っ直ぐに見つめる。

翡翠の瞳。

何も変わらない、ねじれが綺麗だと感じる目。

その光は以前より輝きを増しているように感じられる。

例えそれが、錯覚であろうと。

 

「私は転間くんと一緒に居るよ。これからもずっと、私は君の傍に居る。雄英を卒業した後も、プロヒーローになっても、転間くんと居たいの! 絶対絶対離さないから、転間くんから離れないから! 独りになんて、絶対させない!」

「ねじれ……」

 

何処かに行きそうな雰囲気があった。

ただそれだけの理由だけだったが、それが嫌だった。

転間は少し驚いて。

 

「なんか告白みたいだな」

「へ……」

 

ふっ、とした柔らかな笑みを浮かべて今の言葉について感想を伝えていた。

その時、自分が何を言ったのか自覚したのかねじれはみるみる顔が赤くなっていく。

 

「いや、あのっ……」

「ま、ありがとうな。お世辞だろうとその言葉だけで十分だ。素直に嬉しかったよ」

 

ほぼほぼ告白したようなものだが、それは好意とは判断しなかったらしい。感謝するようにねじれの頭を撫でた転間は何かに気づいたように見上げる。

 

「お兄様、浮気ー?」

「きゃあ!?」

 

まるでコウモリのようにぶら下がるようにして現れたヴィオラ。

驚くねじれと違って転間は全く驚いていない。

 

「どっから現れてんだよ。俺の周り、変なところから現れる連中ばかりだな」

「えへへ、お兄様がいるところに私ありってね」

 

舌をちろりと出した彼女はくるりと空中で反転し、彼女はドヤ顔して胸を張った。

彼女はクリスマスの服――ではなく、何故か悪魔、吸血鬼のような衣装に身を包んでいる。

翼が動いてることからギミックがあるのか魔力で操作しているのか。

多少の起こりは見えるようになったが、流石に先生の六眼のような力はないため転間には分からない。

 

「……何で吸血鬼なんだ?」

 

当然の疑問だった。

 

「夜の王と言えば吸血鬼じゃない?」

「そうか……そうか?」

「1番はお兄様の好みかなって♡」

「いや、悪くはないと思うが特にそう言った趣味はないな」

「そぉ? ざんねーん。でもほら」

 

あっさりとヴィオラは転間の背後に回る。

今の転間は余裕で目で追えるため、彼女がどこに移動したのか簡単に気付くが、ねじれの目からすれば消えたようにしか見えない。

 

「かぷ」

「ちょっ!?」

「普通に痛い」

 

気付くのが遅れたねじれは思わず声を挙げる。

というのも、ヴィオラが転間の首筋に噛みついたからだ。

僅かに血が流れるものの、殺意も敵意もないからか普通にスルーしていた。

実際に危害を加えるつもりはないようで、すぐにヴィオラは首筋から口を離す。

 

「マーキングにはいいでしょ、お兄様♡」

 

歯型が残っている。

少し着いた血を舐める姿は長年生きてきただけあって妖艶ではあるが、転間はヴィオラに何かを言うわけではなく、相変わらず妙なことをしてくるな、と苦笑するだけだった。

まぁ今の彼からすればだいたい治せるため、気にしてないのはあるのだろう。

10年以上無意識にとはいえ反転術式を使用してきたのが転間である。その練度は呪術界においてもトップクラスだ。

しかし今ので転間は思った。

これだと吸血鬼ではなく。

 

「吸血鬼というよりサキュバスでは……?」

「ふふふ、じゃあ、お兄様を搾り取っちゃおうかな〜♡」

「な、ななな何言ってるのヴィオラちゃん!?」

「えー? なんだろうねー?」

「良くないことは分かるよ……! 止めるからね!?」

「あははっ! 貴女じゃ無理でしょ。弱いし〜?」

「よわ……!? 私に負けたのに!?」

「そりゃデバフ増し増しだったもの。ま、解放された私でもお兄様には流石に勝てないけれど。でもお兄様に1番近いのは私。つまりお兄様に相応しいのも私♡ ねー♡」

「まぁ実力面は確かにヴィオラの方が圧倒的に上だな。今の俺でも好んで殺し合いたくは無い」

「転間くんはそっちの味方なの!?」

「正直に答えただけなんだが……」

「それは私もだね。ってことは私とお兄様は両想い……♡ 今夜は寝かせないからね、お兄様♡」

 

わざわざ転間の耳元で囁くヴィオラだが、若干擽ったかったのか耳を押さえる転間の姿がある。

それを見たヴィオラは意外そうな顔をした後、それはもういい笑みを浮かべた。

いいものを発見した、と言わんばかりの。

 

「ヴィオラちゃん!!」

「きゃー怒ったー。こわーい。お兄様助けてー♡」

「なんで転間くんに助けを求めるの!?」

「なんで俺の周りで騒ぐの?」

「あれ、なんか楽しそうなことになってんじゃん!」

「こんな困ってるのにお前の目には何が映ってんだよ」

「転間の周りは賑やかだな……こうでないと」

「お前もどうした環! 大丈夫か!?」

「ねぇ! やっぱり俺と環じゃ対応違うよね!?」

「え、なにちょっと待って。誰この合法美少女ロリ? また増やしたの緑谷!?」

 

いつものように、騒がしくなる。

それを聞き付けてか転間が元に戻ったと、次々とクラスメイトたちが出てきたので、ヴィオラはまだ一応秘密にされてる立場なので離脱していたが空から見下ろすようにその姿を見ていた。

なんだかんだブラコンだと問題児だと言われてる割には、色んな人に慕われて人脈のもある姿を。

だが、彼女にだけは理解出来る。

強さの果てに、強者だからこそ抱える闇そのものを。

“最強”である者の共通点を。

それがいずれ彼も感じることを。

それと同時に彼女は改めて決意をした。

 

「もしもの時は私だけはずっと傍に居るから大丈夫だよ、お兄様。貴方は絶対、私が孤独にしない。私だけは貴方を理解出来るし理解する。ずっとずっと支えるからね。私が貴方を愛してる気持ちは本当だから。それでいいんだよね、これはもう、間違ってないんだよね。師匠――悠仁お兄ちゃん」

 

かつて不老に悩まされ、裏切られ、何もかも信じられなくなった自分に再び信じることを思い出させてくれた大切な兄のような人。

彼女が未来に絶望せず全てを破壊し尽くす破壊神にならなかったのは、虎杖悠仁という人物のお陰だった。

戦い方を教えてくれて、親身になって助けてくれた。

あの人は呪物になる目的を果たせただろうか。

あの人ならきっと大丈夫だと、ヴィオラは思い馳せる。

いつかは会いに行こうと。

その時は、自分自身が一生この人だけを愛すると決めたお兄様と一緒に――と。

 

――悠仁お兄ちゃんのかつての“先生”と同じ力、ね。ふふふ、どんな反応するかなぁ、面白い反応しそうで、楽しみ♡

 

()()を司る力を持つ力を見て、どんな反応をするのか少し楽しみにするヴィオラだった。

なんだかんだ人の反応を楽しむ性格は生来のものだったらしい。

しかしまあ、年越しするまではあの中に参加出来ないのはヴィオラは少し不満だった。

他の人はどうでもいいが、転間の近くにいけないことに。

しかし決め事は決め事であり、庇ってくれた愛する人の信頼を裏切りたくないヴィオラは今は大人しく見守るだけだ。

転間の姿を記憶の中に保存しつつ、後で寝室に潜り込んでたっぷり甘えようと密かに計画を進めながら――

 

 

 

 

 

 

 





次回のエピローグで語るつもりでしたが、終わり方的に語ると終わりが変な感じになりそうなのでここで。

以前発表すると言っていたテーマです。
緑谷転間の物語の全体的なテーマは『青春』です。
喧嘩したり無茶苦茶やってたり。
ラブコメ要素が多かったのもこれが理由であり、“蒼穹”魔境や生得領域が蒼の世界だったり、そもそも彼の物語を書こうと思ったのは『青のすみか』から発想を得たものでした。
ただそれだと凡作になりかねない。というかシリアスになりそう。シリアスブレイク出来るイカれた主人公にしたい。
脹相の要素を入れよう。
出久のお兄ちゃんなら無下限を開発しても違和感はなくない? 出久がそもそも発想力が評価されるキャラだしって感じでした。

あとは領域展開。

元のテーマから、緑谷転間の領域は青空が広がる蒼の世界にしよう。
五条悟の要素、瞳の六眼が青色だ。
青春といえば青空。
そもそも緑谷転間が成長したのも雄英での青春ありき。
物語の全体のテーマも含めたい。
そして出久は転間を太陽のようだと言っている。
なら彼の世界は、青のすみかと言うべき世界ではないとおかしくないだろうか?
名前は青空と無下限の無限をイメージさせられる名前にしよう。

こんな感じで生まれたのが、蒼穹無垠。
転間の名前がそもそも『転じる』と『(あいだ)』の意味もあること。
『垠』には『果て』やら『限り』の他にも『境』の意味があることから、彼の領域は蒼が広がる無限の世界へ。

能力は行動の強制停止。
正確には境界の消失であり、蒼を最大限まで進化させて強化させた力。
青空の世界であるため、引き込まれた相手は浮いている。落ちてる。その感覚を常に与える他に移動に関連するものが消失するので無量空処同様回避不可能のクソ技です。

ただしなんだかんだ判断能力なども低下させるため、一般人を巻き込んだらそれはそれでダメージはあります。
無量空処が0.2秒で社会復帰に半年なら、一般人相手なら0.2秒で半月ほどじゃないかな。
脳の負荷こそ無量空処に劣りますが、逆に拘束力は無量空処より強く、脳に対するダメージは無量空処より弱いというイメージ。
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