どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
「ねーねー、今日の放課後、一緒に特訓しよ!」
「予定ある」
「俺も……すまない……お腹が痛い……」
「胃薬イレ先から貰ってくるか?」
「それは大丈夫だ……多分。というか……まだ持ってるんだな」
「ええーっ! 天喰くんはともかく転間くんが?」
「まるで俺がいつも予定ないみたいに言われるのは心外すぎる。俺のスケジュールは常に埋まってるんだぞ」
「本当に〜? じゃあじゃあ、どんなの?」
「知りたいなら教えてやろう」
「絶対ロクなやつじゃないでしょ」
甲矢が何か言ってるが無視して俺のスケジュールを伝えてやろう。
朝:5時に起床し、眠気を覚ましてランニング。筋トレなど諸々やる。
6時前。出久を優しく起こす。“ 優しく”起こす。
7時。出久とご飯を食べる。口元を拭いたり見守る。癒される。
7時半過ぎ。学校に行く。中学と違って教師が全員プロヒーローなので出久のところに行けないこの世の残酷さに嘆きながら雄英に向かう。
8時半。HR始め。
残り学校。
放課後。
特に予定がなければ即行で下校。
17時〜22時。出久を見守る。シャッターチャンスは常に逃さない。
最後は就寝する出久がちゃんと寝ているか確認し、毛布がかかってなかったらちゃんと掛けて俺もやること終わらせて寝る。*1
「どうだ、俺の立派なスケジュール」
「ほら!! 弟くんのことばっかじゃん! 予想通りすぎる!」
「家族と過ごすことって埋まってると言っていいのだろうか」
「ねー空いてるでしょ? 私と特訓しようよ〜」
馬鹿野郎。何よりも優先されるのは出久に決まってるだろ。
これだから素人は困る。お兄ちゃん力を鍛えた方がいいぞ、環。
出久の可愛さはそのうち癌にも効くようになる。
流石俺の天使。誰にもやらん。ただ俺は別に出久の幸せを妨害したいつもりではないから出久の“大切な人”は例外だ。
ちゃんと幸せにして大切にしてくれる相手ならいい。
そう言った人物と出会ったのに、許さんぞ!!はお兄ちゃん失格だ。弟の幸せこそ一番良いものだからな。
反省しろ前世の部下のアホ親。
それはそうと本気かどうかは確かめさせてもらうが……家族として信頼におけない相手に宝物は渡せない。*2
ただお兄ちゃん離れはしないで欲しい。寂しくて泣くぞ、俺が。
母も出久も涙の量的に脱水症状起きないか心配になるくらい涙を流すせいで前世の記憶を思い出した直後に初めて見た時はあわあわと慌ててしまったが、俺は生まれてこの方、正確には前世が戻ってからは全く泣いたことがない。
母と出久は水溜まり作るからな……。
俺は多分普通。それかもしかしたら個性の影響で水流ビーム撃つかもしれない。
試さないけど。
だが真面目な話、予定があるのは事実だ。
1週間の間は真綿の個性特訓に付き合う約束をした。
「また今度な」
「むー約束だよ」
「それは面倒」
「なんでー!?」
約束をしたら果たさなければならない。
約束破る人間なんてお兄ちゃんどころか人間として最低だろう。俺は約束だけは破らないと前世の頃から決めて生きてきたんだぞ。
予定が急遽入ったならまだしも。
いくら俺でもそういった部分はまだ残ってるつもりだ。*3
「ねじれが約束言ってるんだから約束しなさいって」
「発言が過激派すぎる。ねじれのなんなんだ」
「そりゃもちろんねじれの幸せを一番に願う親友よ」
「有弓〜!」
ねじれが甲矢に抱きつく。
よほど嬉しい発言だったのだろう。
甲矢は勝ち誇ったようにドヤ顔して胸を張ってくる。
なんかムカつくんだが。
「これで2:1よ」
「ふふーん。勝ったら約束してもらうよ〜?」
「お前ら二人いたら強制的にそうなるだろ」
「悔しかったら同数にすることね。それとも勝てないから逃げる?」
「環。お前は俺の味方だよな?」
「天喰くんもこっちの味方だよね!」
「えっ!? お、俺は――み、ミリオ、助けてくれ!!」
板ばさみになった環は堪らずその場から逃げ出してしまった。
当然俺は追ったのだが、何故かその後面白そうだとかでクラスメイトが全員参加して投票で決めることになってしまい、俺は見事負けた。
女子全員が敵に回ってるのが謎すぎる。というかどっから嗅ぎ付けてきたんだお前ら。
面白そうやら楽しそうだからって理由で俺で遊ばないで欲しい。しかもB組まで集中砲火してきた。
普段のやり返し?
……おかしいな。俺は何もしてないと思うが……?
ただ出久に対する想いを爆発させてるだけだ。*4
約束の時間となった俺は真綿が待つ場所へ向かう。
この1週間でどこまで仕上げられるのか分からないが、やることになってしまった以上は出来る限り力になるつもりだ。
「あ、先輩」
「待たせて悪いな」
「大丈夫!」
「そうか。じゃあやるとしよう」
「うん! 私頑張るっちゃけん!」
既に体操着にも着替えて妙に気合いが入っているみたいだ。
それはいいのだが、あまり肩に力を入れられても上手くいかない。
ひとまず深呼吸するように伝えつつ一歩ずつやるため、数を増やすことから始めることにした。
暫く見守っていると、なんというかこう、メルヘンな光景になってしまった。綿で溢れた世界観。
あちこちでバスケットボールくらいの大きさの綿がふよふよと浮いている。
どうやらある程度操作出来るらしく、維持することも可能らしい。入試試験はロボだし救助と撃破で合格したのだと分かる。
触れてみても、もふもふしている。一度生み出したらそのままの状態に保たれるのは大きいな。
弾力性のある物を生成すれば瓦礫を退かすくらいのパワーもある。
冬には是非とも欲しい力だ。今年の寒い時には真綿にお願いして包み込んでもらおう。本人が良いって言ったらだけど。
ただ生み出す量にも限界があるらしくて今は座り込んでしまっている。
「おつかれ」
「あ、ありがと〜」
水を渡すと真綿はすぐに水分を補給していた。
改めて周囲を見渡す。
数はかなりのものだ。今あるのでおおよそ50個くらい。多分。多すぎて数えづらい。既に消えたものもあるし。
ただ入学したての1年生にしては扱いも上手い。ミリオみたいな難しい個性ではないってのもあるか。
「ふー……ねえ、先輩」
休憩時間を設けて暇だった俺は読書していたら声を掛けられる。
本を閉じて顔を向けた。
「どうした?」
「ほんとに全身からなんて出来んとかな?」
「個性は身体能力の一部だ。逆に言えば”体“であれば理論上可能ということになる。やれるかどうかはそいつ次第としか言いようがないな。俺は基本的に手から発生させるが、鍛えた結果今は全身からやることも出来る。やれないと思っていたらずっと出来ないぞ。その先入観は捨てるといい」
「先入観を捨てる……やってみる」
そして分かったのは、見た目に騙されがちなのだが、真綿は凄く真面目だったということ。
俺が言ったこともちゃんと学習するし、訓練も真剣に取り組む。
ただ俺はアイデアを出しただけで何もしていない。
――どうやら俺に教える才はなかったようだ。勉強や仕事とはまた違うからだろう。仕事は作成したマニュアル渡して分からないところを教えるだけだったし勉強も似たものだ。
まったくお兄ちゃんとして情けない話である。お兄ちゃん力を高めなければ出久に教えることなど夢のまた夢。
任せろ出久。お兄ちゃんは今は教え方が下手だがこの経験で誰よりも上手になってみせる!
出久のためなら俺はどんな弱点だろうと克服して見せるぞ!! なんたってお兄ちゃんだからな!!
「先輩の熱意がすごか……」
「手を緩めるな。俺は厳しくしかしないぞ。時間は有限ってイレ先もよく言ってるだろ」
「確かによう言うとるちゃけど」
「次は攻撃だな。速度を上げていく特訓だ。とりあえず全力で俺に撃ってこい」
「え、ばってん……」
「今の真綿だったら俺には絶対に、断言できるほど当たらないから心配はいらないぞ。 トップヒーローなら話は変わると思うが」
「せんぱい。よか『規格外』って言われん?」
思わず真顔を浮かべる。
正気か?
今の弱体化オールマイトと戦っても勝てるか分からない。なんなら個性が通用しなきゃ負ける。
しかし全盛期のオールマイトを倒せないと真にお兄ちゃんは名乗れないだろう。何を言っているんだ、真綿は。*5
「俺のことはどうだっていいだろ」
「私にとってはどげんでんよかことやなかだけどなぁ。先輩んこともっと知りたかし」
「じゃあ課題をクリアしたらその数だけ質問に答えてもいいぞ」
「ほんなこつね? 約束、とよ?」
「それは面倒」
「なんで!?」
「早く個性を動かせ」
「絶対約束させちゃる」
気合いが入ったようで何よりだ。
次々と発射される綿を俺の
無論そんなことを繰り返しても溜まっていくので、防ぎながら地面に落ちた綿は吹っ飛ばした。
暫く続けてると限界を迎えたらしく、また座り込んでしまっている。
というか、許容範囲超えたっぽい。
その場から崩れていたし。
「はぁ、はぁ…… もう動けん……。先輩スパルタすぎっちゃろ……ほんと、キツか……むり……」
汗もかなり出ていて頬が上気している。
見ていて本当に限界なんだろうなと分かったため、俺は吹っ飛ばした綿をまとめて
まあ1日目では十分だろう。1週間後には化けると思うぞ、1年でトップになれるくらいには。
少なくともうちのクラスというか2年のヒーロー科は3年より強いと言われているからな。*6
この残った綿はサポート科に送りつけて残りは火種にして処分しよう。
というか、サポートアイテムありきだがコットンとかなら相手を発火させることもできる?
攻撃手段としては後で教えておこう。知識があるだけでヒーローの世界はだいぶ変わるってジャパニーズNINJAの職場体験先でたまたま出会い、チームアップすることになったどっかのデニムのやばい人も言ってた。*7
「個性は限界まで使った方がいい。筋肉の超回復と同じで個性もそうすることで伸びるからな。林間合宿でやらされるからその経験が出来たと思っておくといい」
あれは中々に地獄だった。
遠距離持ちの個性を全部俺に向けて撃つように指示してきたんだぞ。ほんの少しして許容範囲超えてぶっ飛んで一人だけボロボロになったが。
自分でもよく生きてたなと思ったな、あの時。
人をサンドバッグか何かと思ってるのかイレ先。
まぁ、俺は俺なら大丈夫だというイレ先の信頼と思っている。
やっぱりあの人はツンデレだ。素直さだけ出した方が生徒に好まれますよ。
「……立てるか?」
「だ……だっ、め……かも……う、うう……」
息を整えるだけで精一杯と言った感じで、持久走を走り切ったあとみたいな感覚かもしれない。
飲み物は渡すが、個性も全然出なくなったことから完全に1日の限界だろうな。
体力尽きたの二度目だし。
ただ雄英の敷地内とはいえ真綿を1人残すわけにはいかない。セキリュティは強固だが、何があるか分からない世界なのは事実だ。
雄英のセキリュティを破れる存在もいるかもしれないしな。
何より、ここで座ってても休みづらいだろう。
「じゃあ抱えて行くか」
「……へ?」
座り込んでいる真綿を俵のように抱える。
つまり俵担ぎ。
「ちょ、ちょっと先輩ぃ!? こっ、こればり恥ずかしか! そ、それに私重たかかも……!」
じたばたと暴れる真綿を無視する。
こんな元気があるならまだ個性を使えそうだが、止め時も大事だ。
それにスカートだったら流石に別の抱え方にするが体操着だから問題ないはずだ。
面倒を見る以上はちゃんと面倒を見ないといけない。
準備が完了した俺は諦めて大人しくなった真綿を見てから瞬間移動した。
厳密には障害物を無視することは出来ないから完璧な瞬間移動とは言えないが、使えないところでは普通に歩いた。
──偶然だった。
息抜きついでに飲み物を買いに来た私はふと知り合いの声が聞こえた気がして視線を移す。
「え……転間くん?」
予定があると言ってた。
その予定までは聞いてなかったけど、転間くんのことだから“出久”という名前らしい弟くんのことなんだろうなって。
なのに。
「……誰? 誰かを抱えてた……。女の子みたいだけど、見たことないかも……予定ってあの子と?」
ピンクがかった白い髪の女の子。一瞬だったけど、私から見ても可愛い子だと言うのはすぐにわかって。
目に映る光景に頭が真っ白になった。
変な抱え方をしてたのは不思議に思ったけど、弟くん以外に全然興味がなさそうな彼が誰かと、女の子と二人だけで居るなんて思えない。
この期間中なら特に。同級生なら、まだ分かるけど。
でもあとから誰かついて行ったりもしてないってことはきっとあの子と予定があったからなんだ。
──二人っきりで?
誰と仲良くしても転間くんの勝手なのは分かってるけど、胸の中がぐちゃぐちゃする。
「……──むぅ」
怒ってる? 悲しんでる? 驚いてる? 気になってる? 不安になってる?
感情の整理が出来なくて戸惑う。
ただ分かるのは、漠然としない曖昧な感情が渦巻いてる。
まるで胸の中がモヤモヤーって曇り空に覆われたみたい。
不思議。
今までこんな思いをすることはなかったのに。
弟くんのことを語る彼はいつも生き生きしていて、幸せそうで、太陽のような笑顔を浮かべる。希望に満ちた顔を浮かべてる。そしてみんなを巻き込んでる。暖かい世界に連れ込んでる。
みんなそれを知ってるから転間くんを受け入れて、面白がって、B組すら巻き込んで中心となっているのが彼。
クラス同士に敵対心が一つもなく団結出来てるのは間違いなく転間くんの存在だと、みんな口には出さずとも思ってると思う。
私は私や友達、同級生たち以上に彼が家族を大事に想ってる姿を見たって何も感じなかった。誰とも平等に接して、仲良く出来る姿を見たって何も感じなかった。
だって、その姿こそが転間くんの良さでもあったから。
そうじゃない転間くんなんて転間くんじゃない。
なのに今日だけは違う。
どうして? なんで?
「ねじれー? 何かあった?」
「あ……今行くね〜」
有弓に呼ばれて顔を挙げた私は戻っていく。
でも心の中は晴れない。
不思議だけどもやもやする。
もやもやするのが不思議なのかも。
よく分かんない。でも、なんだか“イヤ”だなって思っちゃった。
なんて言えばいいのかな。
ザワザワする。
悪くないって分かってても──ムカムカする。
──あれから日付も経ち、最終日となると個性の限界値も上昇したし発射速度もかなり上がっていた。
連射出来るようになったし、今は最終目標として掲げた手から生成するというものを頑張っているところ。
ここまで一気にレベルアップさせたということは俺も指導者としてはレベルアップしたのではないのだろうか。
お兄ちゃんに任せてくれ出久! 雄英でお兄ちゃんはずっと待ってるぞ!!
「わ……先輩! 見て! 見て! できたっちゃん! 本当に出来たばい!」
1週間の期間でようやく出来た真綿が喜びのあまり飛んできたみたいだが、距離が届かずに落ちた。
出久のことを考えてたせいで急なことに反応が遅れ、手を伸ばそうとした時には手遅れだった。
明らかに今のはジャンプ力不足だったし、そういえば身体能力はあまり鍛えてないなと今更思い出す。
まぁ個性で何とかなるだろう。
「い、いたたたた……」
「大丈夫か? 突然飛び込んだら危ないぞ」
手を伸ばすと真綿が俺の手を取ったので起き上がらせてやり、付着した土を手で払ってやる。
しかし真綿は涙目のまま頬を膨らませていた。
「ばってん、嬉しかったっちゃもん……。もっと褒めてくれてもよかやない……?」
「まぁ確かに最終日だし頑張ったとは思うが……俺にどうしろと?」
「先輩は女心が分かってなかことよ……」
「男だからな」
「そげん意味じゃなかと」
「……そういえば誕生日が5月10日でとっくに迎えたんだったか。じゃあこうしよう。体育祭で優勝したら誕生日プレゼント買ってくるってことで。祝いの言葉もそこで送るとする」
「ほんと? 今度こそ約束!」
指切り、とでも言いたいのか小指を突き出してきた。
小指と真綿を何度か往来して、仕方なく小指を出すと絡められる。
指切りはちょっとされたくないし果たさないと行かないな……。
「忘れんといてよ? 先輩。
「約束は忘れないぞ。真綿が優勝すればな──ん?」
なんか今さらっと俺の言葉が改変されたような気がしたんだが、気の所為か?
そう思って見ると、真綿は目をぱちくりとさせて。
「どしたん? 別に
嘘も何もなさそうな、無垢な満面の笑みを浮かべながらそう言っていた。
本人もそう言ってるし、考えすぎなのかもしれない。
なら気の所為か……。
何はともあれ、それでモチベーションになるならいい。
せっかくなら優勝して欲しいしな。約束の期間は終わりだが、面倒を見た以上は良い結果を出して欲しいものだ。
「まぁ真綿は自分でも分かってるだろうが、俺と鍛える前だとかなり強くなっている。だからって慢心はしないようにな」
「うん。改めて……1週間ん間、ほんとにありがとうございました、先輩。大丈夫! 先輩ん言葉は忘れとらんよ。ただ……また会いに来てもええと?」
お辞儀までして感謝したかと思えば、今度は不安そうな目で見つめてくる。
忙しいやつだな。雄英にいる以上必ず何処かで会うのだが。
「それは好きにしたらいい。個人の自由だ」
「! じゃあ連絡先交換しよ?」
「連絡先? そういえばしてないか……ほら」
「え……わわ。……無防備すぎん?」
スマホを軽く投げると驚いたように慌てて受け止めていた。
スマホが何度かぴょんぴょん跳んでたくらいだ。
楽しそう、いや待ってくれ。壊されると俺がまたあの世に逝く。バックアップは二つくらい用意してるからこの世から消えることは無いと思うが。
普通に渡した理由と無防備と言ってきた理由は単純だ。
俺のスマホは元よりロックをしてないため、誰でも画面が開ける。
「バレて困るものはない」
「やっぱ先輩変わっとるね〜。そげんところもおもしろか。はい、終わったばい」
俺よりも圧倒的に速い速度でスマホを弄る真綿は相当慣れているのだろう。
俺はパソコンなら得意なのだが……。スマホは写真さえ使えれば良くて基本使わないからな。
すぐに渡されたので、そのままポケットに仕舞う。
「先輩、人脈広すぎっちゃねぇ……」
「ぼっちと思ってたか? ヒーロー科全員入ってるぞ。卒業した先輩方とか今の3年とかもな。あとプロヒーローか」
どうやら俺の連絡先一覧を見たらしい。
あの長ったらしいのを短時間で見たのか、真綿。地味にスゴイぞ、その技術。
「ま、まさかー。少ないかとは思っとったけど……。やけど、ちょっと羨ましいかも……」
「お前たちもそうなっていけばいい。真綿ならもっと多くの人を引っ張っていけるだろ。何よりヒーローになるんだろ? 来年には先輩になるんだから自信もつけてかないとな。体育祭も職場体験も林間合宿も真面目にやればちゃんとお前たちを成長させてくれる。だから──頑張れよ」
「あ……う、うん」
最後に応援していると伝えて軽く頭を撫でると俺は背を向けて歩いていく。
あとは彼女たち次第だ。成長も含めて。
少なくとも準備期間での俺の役目は終えたし、職場体験ではプロの世界を体験する。1年生が俺の言葉を忘れてなければ問題ないだろう。
真綿がリーダーに相応しい人物というのは前の時にわかってる。これだけは俺にはどう足掻いても得られない強さだということも。
彼女が強くなり、引っ張っていけば1年生はもっともっと強くなる。
だから1年生全員ではなく彼女だけを鍛えた部分もあるからな。一番の本音を言えば流石に全員なんて無理。
分身能力までは備わってないんだ。
体を真っ二つにしたら実質分身にはなるが死ぬ。
それより次はねじれとの約束の日か。
体育祭ももうすぐ傍まで来ている。
そう、思ったんだが。
「むぅううううう」
「なんで怒ってるんだ……?」
「ぷい」
約束通りちゃんと来たのに、ねじれが何故か怒っていた。
確かにこうして会うのは久しぶりだ。
何故か避けられてたし。話しかけても逃げられたし。
ただ正面切ってここまであからさまに怒ってる姿は珍しい。何か不機嫌になるようなことでもあったのだろうか。*8
こうなれば秘密兵器一つ目だ。
出来るなら使いたくないが──
「何かやるから機嫌戻せって」
「……本当に?」
「ただし弟の写真はやらんぞ」
「それは知ってるから転間くんの昔の写真でいいよ」*9
「なんで???」
理解出来ない回答に疑問符が滅茶苦茶浮かんだものの、写真数枚やることで許して貰えた。
一転して上機嫌になったのはいいのだが、許してもらったっておかしくないか? 俺は今回ばかりは何もしてないぞ。というか俺の写真なんて価値ないだろうに。
頼むから怒ってる原因を教えて欲しい。
まぁ……解決した……と言っていいかは微妙だがいいか。
そんなことより出久はどうしてるだろうか。
「雄英体育祭! そうか、もうその時期か! 緑谷少年はノートにまとめてたね、それはいずれ役に立つだろう。当日は休みにしようか」
「ありがとうございます! どうしても体育祭は見たくて!」
「今は日本のビッグイベントのひとつだからね。ヒーローを志すなら注目するのは当然のことさ! なんたってプロヒーローですら注目する体育のイベントだぜ? 懐かしいな! かなり昔になるし……私もおじさんになったなぁ」
「オールマイトはおじさんじゃないです」
雄英高校で年に1度開催される体育祭。
それぞれが鎬を削り、頂点を目指す体育のイベントだ。
昔のオリンピックの規模や参加人口が個性の出現によって縮小して形骸化した結果、それに代わる大イベントになった。
全国中継され、プロヒーローですら注目している雄英の中でも大きなイベントのひとつ。この活躍によってはプロから声を掛けられるスカウトの場にもなっているらしい。
もちろん僕の兄である転間兄ちゃんも出る。
去年は確か決勝戦で“波動ねじれ”さんという女性の方と戦って最終的に勝ってたけど、舞台が無くなるくらいには激しい戦いで会場も物凄く盛り上がっていた。
優勝したのは転間兄ちゃんだけど、やっぱり雄英体育祭は見る側も手汗を握るくらい熱い。
今年も勿論応援するつもりだ。
お母さんは転間兄ちゃんが優勝して泣いてたんだよね。僕は興奮しちゃって、家に帰ってきた兄が疲れていることも忘れてたくさん話しちゃったけど、転間兄ちゃんは僕の話をずっと聴いてくれてた。*10
OFAの修行はもちろん大事だけど、家族を疎かにしていい理由にはならない。
継承して1か月。
少しずつコントロール出来る出力も上がってきて、今は