どけ!!俺は出久のお兄ちゃんだぞ!! 作:俺もお兄ちゃんだぞ!!
ついにやってきた雄英体育祭。
公平さを保つため、全員体操着での参加となる。
去年とはまた違う競技が来るだろうから予想は出来ないんだよな。
ただ毎年変わらないものはあって、先輩たちの話と俺の経験から一回目はレース形式。二回目はチーム形式。三回目はトーナメント方式ってのは決まってるんだと。
じゃないと時間がかかりすぎて1日じゃ終わらないからな。最初の時点で一気に落とさないと。40人だっけ。
ヒーロー科の他にも普通科やらサポート科やら経営科も参加する全員参加のイベントだからだ。
今回の実況は誰だろうか。
「もう時間が迫っている。ダメだ、頑張ると決めたのに」
「しっかりしろ環。お前は強いんだから今日くらい胸を張れ」
「だけど……」
「ここで進まなきゃ何処で歩みを進める? 前を向けとは言わないが外には目を向けてみろ。心配せずともここに居るのは友達でありライバルだ。お前の凄さをよく知ってるヤツらしかいない」
「転間……」
「緑谷が正論言ってると脳がバグる」
「わかりみがすごい」
「お前ら喧嘩売ってる?」
「自業自得じゃん」
「言動思い返せってー」
「いい度胸だな、狙って落としてやる」
「お前らの死は忘れないぞ……姫川、芦屋!」
「勝手に殺さないでよ!?」
「まだ死んでないっての!」
「でも誰かが足止めするならチャンスじゃね?」
「じゃあ1位はねじれに頑張ってもらおう」
「ね、この中なら波動さんが一番勝てる可能性あるだろうし」
「くっ……! これを狙って喧嘩売ってきたのか!! いいや全部やってこそお兄ちゃんだ!!」
「また言ってるし」
「マジでやりかねないからなぁ……」
環を鼓舞したり煽ってくる同級生たちを相手してたら時間になったので、俺たちは待機室から出て全員で出る。
去年もあったことだから驚きこそないが、やはり思うことは人口密度と熱気だ。
盛り上がってるな、相変わらず。
『選手宣誓! 選手代表 2年A組 緑谷転間!』
1年は入試。
2年からは成績のトップが立たされるらしい。
どうやらハウンドドッグ先生が2年担当みたいだ。実況じゃなくて良かった。
……いや、やっぱり大丈夫か?
それはそうと呼ばれた壇上に登り、見渡す。
誰もが注目している。ここにいるのはトップの成績を収めたもの。つまるところ一番警戒される存在であり、一番倒さなければならない相手。
当然全て敵の目だ。
──何個かどころか滅茶苦茶殺意混じってない? ちょっと待ってくれ、1年生の時より殺意の量がおかしい。半数以上俺に殺意向けてるんだが、本気で俺を殺しに来てないか!?
凄く刺さってる! ヴィラン以上の殺気!! 職場体験で戦ったヴィランの比じゃない!
それに関わりの長いヒーロー科ならまだしも比較的関わりの少ない方の他の学科からも殺気があるのは意味不明すぎる……!*1
やばい、今年の体育祭。
油断したら――ガチで殺られる!!
「宣誓は緑谷か」
「波動さんと一緒に文化祭で写真撮ってた男」
「明らかに距離感おかしいよな」
「あれで付き合ってないってほんと?」
「あーんとか手を繋いだりとかはしてたらしいぞ」
「膝枕してたの見た。緑谷くんの方が」
「え、そっちなの? 逆じゃなくて?」
「もういっそ付き合えよ」
「2年の中でもトップクラスの美少女といるのに平気で過ごしてるもんな」
「雄英1の問題児だけどね」
「ブラコンなのが傷なんだよね。普通にしてる時に話すとドキドキさせられるけど」
「性格も顔もいいんだけどそこがねえ……」
「そういえば1年の女子といい感じになってたって噂あったぞ」
「あー知ってる。しかもかなりの美少女だったとか」
「は? 波動さんがいるのに?」
「でもどっちかと言うとあの緑谷くんが攻められてたらしいね」
「何その女子、強すぎる。本当に1年か?」
「なんであのブラコンがモテてるんだ……」
「ブラコンさえ受け入られるなら頭良し性格良し実力良しルックス良しだからでは?」
「唯一仮免持ってるしね」
「ブラコンのマイナス要素強すぎない?」
「まぁどうしても一番になれないし……諦めちゃうよね」
「そういやだいぶ前だけど喫茶店にも居たな、ふたりで」
「なにそれ」
「羨ましすぎる」
「絶対落とす」
「お姉様の心を弄んで許せない……!」
人数が多すぎて小さい声がぼそぼそ言ってるくらいしか分からない。難聴持ちじゃないから普段は聞こえるんだけど、流石に無理だ。
この中からでも出久の声だけを聞き取ることは出来るんだが。*2
もう気にしてたらダメな気がしてきた。
全力でスルーし、息を吐く。
緊張の息ではなくため息だった。
気合を入れよう。
見ててくれ出久。俺はお兄ちゃんだ。
あの時誓ったことはどんな事があっても忘れたことはない。
オールマイトを超える最強のお兄ちゃんになる、と。*3
最強で完璧な究極のお兄ちゃんになると。*4
深く集中することで俺の意識から人が消えていく。
周りが消え、ただそこに居るのは俺と──ねじれ。環。ミリオ。甲矢と仲の良いメンツのみ。*5
環は何処か眩しそうにしている。ミリオは変わらず笑顔だが、どこか対抗心を感じさせる。甲矢は──殺ってきそうな目。一際強い殺意の正体はお前かよ。
ねじれはよく分からない。ただ真っ直ぐ俺を見て、対抗心のようなものはありつつも別の感情が宿ってる気がする。
期待、だろうか。
俺が俺らしいままで居ることへの。
そんな期待は必要ない。
俺は変わらないからだ。
いつだって、どんな時だって――
「俺はお兄ちゃんだぞ!! 優勝は誰にも譲らん!!」
出久のお兄ちゃんなのだと。
『『『絶対やると思った!!!!』』』*6
『『『生中継くらい慎めバカ!!』』』*7
「転間はそう来なくっちゃ!」
「だろうねえ」
「転間らしい……」
「あは、やっぱり転間くんは転間くんだなぁ……」
それでこそ俺だとクラスメイトたちも認めてくれている。*8
よくやってくれたと言ってるのだろう。*9
最高の宣誓だと褒めてくれた。*10
流石1年間イレ先のところで苦難を乗り越えただけあるな。仲間意識が強い。*11
大人しく戻ると、すぐにクラスメイト連中に囲まれてボコスカ叩かれた。
ええいやめろ! まだ競技始まってないだろ!!
人が個性を発動してないことをいいことに殴るな!
『選手宣誓も終わったことですし早速競技を始めていきましょう! 実況は僕──13号と』
『ブラドだ。よろしく頼む。……あいつはイレイザーのところに居た割には全然変わってないな』
俺は既に始まる前にボロボロになった*12のだが、実況は13号先生とブラド先生だった。
俺のダメージはハンデ扱いにされるのだろうか。お兄ちゃんパワーがなければもう力尽きてるぞ。俺だってアスファルトが砕けるだけのただの人間なんだぞ。
ちなみに真綿たちがいる1年は安全を考慮して人が多くされている。
イレ先、盛り上げるためのマイク先生。ミッドナイト先生。セメ先といった安全面のあるメンツだからな。*13
『まず最初の競技は──これです!!』
障害物競走。
去年はアスレチック競争だったかな。空中に居たらサポートアイテムとはいえ、えぐい連続攻撃が飛んできたりとかとにかく不正は許さない感じが半端なかった。
俺はフィジカルに任せて1位になったが。
ただ去年と同じようにスタート位置には決まっており、位置に就く。
前は去年同様ぎゅうぎゅう詰めだ。おしくらまんじゅうかな?
前は嫌すぎて一番後ろに陣取った。
あの中にいたら殺される気しかしない。後ろ向いて舌打ちするな。いいだろ、1番後ろに居るんだから。
何故か隣にはねじれがいるけど。
「空飛べばいいのでは?」
「……転間くんもでしょ」
1年の頃ならそうしたんだが、殺意が半端なくて前でそれは出来そうにない。
間違いなく上下左右前後ろから殺られる。
まぁ俺が仮免持ってるのって1年生の時に知れ渡ってるし警戒も一番されてるだろう。
競技開始の合図を待って待機してると、ふと肩に衝撃が走る。
ねじれが肩をくっつけてきたらしい。
……らしくないな。不安とかあるのだろうか。
ねじれの実力ならまずここで負けることはないはずだが。
「どうかしたか?」
「んー……活力の補給?」
声を掛けたらそう言いながら俺の指とねじれの指が触れ、何処か遠慮しがちにゆっくりと手を繋いできた。
「そんなこと出来たのか……初耳だ」
「私も成長してるんだよーっ」
どうやら知らない間に回復能力を手に入れていたらしい。
手を繋ぐことが条件──それ俺の活力奪ってたりしない? これ以上体力減らされたら流石の俺も負けるどころか40位未満になるぞ。
もう既にボロボロになってるからな。ぶっちゃけ体痛い。
出久の応援がなければ力尽きてた。出久が応援してくれるなら、出久の笑顔のためなら俺は意識がなくなっても動くぞ。なんなら誰の攻撃を受けようとも死なない限り俺は動く。*14
例えそれが今のオールマイトや全盛期のオールマイトが相手だろうと。いや、嘘。個性なしで全盛期のオールマイトは耐えるだけで精一杯。きあいのタ〇キみたいな感じで耐えれるだけだ。だがお兄ちゃんだから限界を超えて立ち上がるぞ。
前提としていずれは越えなければならない壁。一発どころか二発三発以上耐えられるようになってみせる。
何より倒れても弟のためならば命を燃やし、立ち上がり続ける――それがお兄ちゃんだ。
まぁ力が抜けていく感覚とか特にないから大丈夫みたいだが、にぎにぎとしてくる。
そうこうしてる間にカウントダウンが始まる。
手が離れない。
3。
まだ離れない。
2。
指の間に絡めるように触れられ。
1。
何処か名残惜しそうに手が離れる。
その表情が、誰かと重なる。
果たしてそれは……誰だったのかは分からない。
前世なのか幼い頃の、あの時の辛そうな出久なのか。
だからだろうか。
雄英体育祭が始まり――“俺らしくない”行動を取ってしまったのは。
開始とともに。
俺は離れたねじれが動くより早くその手を俺から握りしめた。
驚いたのか俺を見て目を見開く彼女を尻目に俺は空へと一瞬で飛翔する。
だいたいは解決出来たし。
この辺りはまあ、性分というか。
召喚された存在ではなく前世の記憶があるだけの、マイエンジェルブラザーの兄なんだろうなって改めて自分でも実感出来る。
ん? そう考えると滅茶苦茶嬉しいな……?
「転、間くん?」
「……なんだ、その――らしくない顔するな」
前には誰もいない。
流れに逆らわず落下していく中で、ねじれに声を掛ける。
まだ理解が追いついてないねじれを離せば落としてしまうため、腕を引き寄せて肩を抱く。
「1年の頃にも言ったろ?
「――! 覚えてくれてたの?」
「濃いヤツらのことなんて忘れられないだろ。出久以外に残ってる記憶なんて雄英の思い出くらいだ。だから……今のねじれは違和感があるというか……あー。つまりだな、いつも通りの好奇心旺盛な、楽しそうなねじれの方がお前には“似合ってる”んだ」
「あ……」
異性相手に本気で褒めることはなかった影響なのか、顔を合わせることが出来ず妙に気恥ずかしい。
顔を見られないように逸らしたため、ねじれがどんな顔をしたのかも表情をしているのかも俺には分からない。
ただ肩を抱いていた手が上から乗せられ、ゆっくりと解かれるとねじれが波動を足から出して浮遊する。
俺もまた個性を発動して浮いた。
「――えへへ。うん!」
「分かったなら先に行っとけ、1位は譲らないけどな」
「む……じゃあ先に行く。負けても文句は聞かないんだから!!」
やけに今日はずっと暗かったねじれが元気を取り戻して、やっと“らしくなった”ねじれは自ら浮いて進んでいく。
その後ろ姿を見て自然と笑みが浮かび──大爆発した。
「やったか!?」
「バカ! それはフラグだ!」
「やってないぞ。つーかねじれを巻き込む気か!?」
「大丈夫だって。離れてから狙ったし」
「どうせお前守るじゃん」
「そうそう、わかってなかったらやらないって」
「ねー危ないじゃん。当たり前でしょ。怪我させたくないし」
「うんうん緑谷はいいけど」
「お……お前らな……!!」
無傷で俺は着地したが、その無駄に高い信頼度は一体なんなんだ。
確かに守るけど。
「――チッ。生きてたか」
「生きてたか……じゃねえよ! 俺じゃなかったら今ので戦闘不能だったぞ!? 全く煙たい空間を作りやがって……!」
いくら俺なら防げると知っていても酷すぎる。なんで遠距離攻撃が何個も飛んできてるんだ。殺意が高すぎるぞ。
というか審判!
これ障害物競走だよな? 思いっきり直接攻撃してたけどセーフなのか!?
『グルルル……。ガウウウウウ直接ガルルゥ!。2年バウバウ! グゥルアアアアア!!』
人選ミスだろ。
誰だよこの人をここに設置したの。そもそもなんで既に怒ってるんだ。
もっと別のところに置け、審判交代しろ。
『2年からは直接の妨害もOKだ。ただし度が過ぎるのはダメだがな。緑谷だけはいいぞ。むしろやってしまえ!』
((((最後のは私情じゃね?))))
「理不尽すぎる」
なんでか知らないけどみんなと心がひとつになった気がした。
というか怒ってたのはねじれが巻き込まれた可能性あったからかよ。
……俺は?*15
『というのは建前です。緑谷くんは本来ならば今年得るはずの仮免を持ってますからね。他の科のことを考えるならば“全力で攻撃する”というのはハンデとしては十分だと思いますよ』*16
まともなのは13号先生だけしかいないんだが。
彼女だけが唯一の癒しと化してるぞ。
こればかりは否定出来ないから納得出来るし。
ブラド先生は後で絶対にイレ先にチクる。
「ということだ、死ね緑谷ァ!」
「羨ましいぞ緑谷ぁ! ここでぶっ殺してやる!!」
「何がだよ。というか雄英生なら遠回しに言えバカ共!!」
「うるせぇ! 今は雄英と関係ねえ! 男と男の話だァ!!」
「ごめんね転間。先に行かせてもらうね!」
「すまない……! 俺じゃ力不足だ……頑張ってくれ……」
ミリオと環に横を抜かれ、クラスメイトたちにすら次々と抜かれていく。
その時に言葉を掛けられた。
頑張れ、ファイトー。お前ならやれるーお兄ちゃんならいけるーなどなど。
誰がお前のお兄ちゃんだシバくぞ。出久以外に呼ぶな。
しかも棒読みだしさらっと俺に攻撃してたの気づいてないと思ってるのか。
後で覚えとけよ。
「くそ! ブラコンのくせにモテやがって!」
「お前なんだあの1年生は!!」
「お姉様だけじゃ足りないというの!?」
「自分がブラコンだと隠して近づいたのか!?」
「はあ……何が言いたいのかは分からないが――」
「俺が隠すわけないだろ!!!!」
『『『それはそう!!!!』』』
ノリがいいなこいつら!!
攻撃されたことを憎みたくても憎めないんだが……!!
「というか普通に受け入れてたな、俺のこと」
「え……その1年生最強か……?」
「すごい……!」
「波動さん以外に緑谷にぶつけるべき人材が現れたか……」
「真面目にどんな子か気になってきたな……」
「ね、どんな子なんだろ。凄く可愛いって噂だけど」
「緑谷が押されるような女の子って何もんだ……?」
「ちなみになんて言われたんだ?」
「たしか──」
レースをそっちのけに興味が移ってしまったらしい。
攻撃が止んで次の言葉を待っているため、俺は思い出していた。
あれは5日目だったか。
真綿が数十個以上の複数操作を可能になったから質問に答えたことがある。
――同時操作が可能になって解除していいと伝えた俺は少し驚いていた。
『こんなに早く出来るとは思わなかったな』
ぶっちゃけた話、俺が言ったことは1週間掛けてやれたらいいなと思ってたのだが、純粋に呑み込みがよかったのだろう。
『先輩。約束忘れとらんよね?』
『ああ、約束はしてないけどな』
『そこはまあ、どけんでもいいけん。じゃあ、早速質問ばい! 大事な人って誰?』
『弟』
『反応ばり速っ!? やっぱり噂本当やったんやねぇ』
『噂?』
『うん、えらいブラコンな人がおるって噂。先輩の名前だったけん、本当かなって気になってね』
どうやら雄英で噂になっているレベルらしい。
それはなんというか、すごく。滅茶苦茶――
『照れるな』
『先輩の羞恥心ようわからん……』
『むしろブラコンの何が悪い?』
『開き直ったと!?』
いやもう開き直るしかないし。
隠すつもりもなければ何を言われようとも俺は弟が大好きだからな。
家族愛は誰にも負けない自信がある。
4歳の頃から抱き続けた“本物”の思いを無礼ないで欲しい。
『けどもっと他に言うべき質問あっただろ? お前がそれでいいならいいけど。で、どうだ? 俺の回答に幻滅でもしたなら悪かったな』
『なんでするん?』
『……ん?』
雄英に来るだけあってみんないい人たちだからか、幻滅されたってよりはちょっと引かれる程度だ。むしろそれをネタにからかってくる。*17
受け入れては貰えてるのだろう。差別されても気にしないが。その程度で消えるほどヤワじゃない。だいたい昔から幼〜中学においてそれでぼっちだったし。
どうせ関わることないと知ってたからどうでもよかったし、時間が足りないと分かってたからわざとそうしてたのもある。
ただいつもと違う反応に一瞬戸惑った。
『自分の家族ば大事に思う気持ちは私にもよくわかるばい。やけど先輩がどんな人でも今の先輩と会えたから私はここにおるっちゃん。幻滅なんて絶対せんばい』
『それより先輩のこと知れたこつの方がずっと嬉しいっちゃね。口約束やったけん、破ってもよかっちゃったのに、一度も来ん日はなかったし。本当は先輩が面倒見がよかくて人を放っておけない優しい人やって、ようわかっとーもん。それも自分の時間ば削ってまで私に時間作ってくれるくらいお人好しやって。好意的に思うことはあっても引いたり嫌いになったりなんて絶対なかとよ? むしろばり燃えるばい!』
心の底からそう思ってるかのように、笑顔でそう告げてきた真綿に俺は驚いて、同時に一瞬だけ思考が完全に止まる。
『……先輩? どげんしたっと?』
『真綿……やっぱりリーダーの才能あると思うぞ』
『……ふえ?』
俺の弟を、出久を思う気持ちは確かだ。
しかしまさか、俺の本質まで見えてるとは思ってなかった。
俺の思考が止まったのは俺の根本的な部分となり、今まで誰も触れることがなかった
人を見る目があるというか、見抜ける才があるというべきか。
彼女なら適材適所に人員を割けるだろう。
心の底からそう思った。
ただ燃えると言っているが――妹にはしないぞ?
――とまあ、そんな会話があったわけで。
流石に全部話せないし、要約すると。
「幻滅したり引くことはないから、俺のことを知れたことが嬉しかったって言われたな」
『『爆発しろ!!』』
「急にどうした!?」
「緑谷に脅され――脅すわけないもんなこいつ」
「騙された……ってわけでもないしね。そんなこと緑谷くんしないし」
「あー……じゃあ、あれか。波動さんと似たタイプか」
「納得」
「そういう女子じゃなきゃ無理だわな……」
「別々に考えられる子なのね」
「なんだお前ら。褒めてるのか貶してるのかはっきりして欲しい」
『『『貶してんだよ!!』』』
他にも次々とブラコンとか言ってくるから思ったことを言ったのだが、どうやらこいつらにとっては褒め言葉じゃなかったらしい。
ブラコンは褒め言葉だろ。お前らの認識がおかしいんだ。
『緑谷ァ! いつまで喋ってるつもりだ! 早く競技に戻れ! もう前は第二関門突破してるぞ!!』
「俺だけ!? てか、しまった! これが作戦か!? くそっ! 人の善意を利用するとはなんて奴らだ!!」
「いや全然違う」
「うん、気になっただけ」
「勝手に答えて話したのはそっちだし」
「無視できない人の良さが仇となったな!」
「とにかく妨害しよ」
『『『賛成!』』』
再開と言わんばかりに徒党組んできたぞこいつら。お前らレースしろよ。
しかし人数が多すぎるのとレースである以上、相手するのは得策ではない。
俺は手を前に突き出す。
攻撃するのかと皆が警戒した途端、反転。
――俺は全力で逃げた。
「待てぇええええ!」
「逃がすと思うか!?」
「既に罠は張ってある!」
「げっ!?」
足を取られたかと思えば俺の足に植物やらスライムやら接着剤やら土を操作やらで身動きを封じられた。
1年と違って個性の扱いが上手い上に硬い!!
だがこの程度で止まってたまるか!
動けないなら一緒に動けばいい!
全力で足を上げ、アスファルトがくっついた状態で走る。
このまま瞬間――
「見えなければ使えないだろ!?」
イカ墨のようなもので視界が僅かに遮られ、消えた頃には行く先々で山のような凸凹した形に地面が変化している。
空中なら、と使おうと思ったのだが、孔雀っぽい翼を広げたり他にも翼が生えてる異形型の人達が妨害してきた。
まるでカラスみたいに移動して。
対策バッチリかよ。
流石に焦りが生まれてきた。
誰だアホみたいに止まって喋ってたヤツ。*18
「みんな離れろぉー!」
「撃て! 撃ちまくれ!!」
「あいつの限界を超えたらヤレるぞ!!」
絶対そのヤレるって殺す方の殺るだろ。
ビームが飛んできたり銃弾っぽい形のエネルギーが飛んできたりと当たりこそしないが、留まっていたらいずれ俺に届く。
一発くらいなら生身で吹っ飛んでも耐えられるが、畳み掛けられる未来が簡単に見えてしまう。
なんか壁はあるしバリアっぽいもんは張られてるし鎖で防がれてるし──ガチでヤバい。
生成した刀とか釘バットとかで殴りかかってくるやつもいれば個性で攻撃したり変なサポートアイテムを使って
お前ら合法的に攻撃出来るからってやりすぎじゃないか!?
だが、あんな宣誓しといて初戦敗退とか嫌すぎる! さすがの俺も外歩けなくなる!
まだ間に合う。
負ける訳にはいかない。
なぜなら!
なぜって!
俺はお兄ちゃんだ!!
強引にゴリ押しして突進して乗り越えたあとは、障害物競走なのに障害物が勝手に消滅するし入試に出てきた大量の0Pロボットは勝手に爆発するしもう障害物が障害物してない。
妨害競走の間違いだろ。
俺の個性の影響で俺には当たらず、俺が何もしなくても道が出来る。
後ろを見たら地獄だが。
とまあなんやかんやあって俺に攻撃しまくってたせいで先に限界を迎えたようで、避けることや防ぐことに特化していた俺は振り切ったあとにゴールした。
――15位で。
1 5 位 。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
絶望とはまさにこのこと。
1位どころか3位にすら、10位以内にすら到達出来ず俺はたまらず絶叫した。
もう喉が腫れるくらい。腫れたかもしれない。
疲れて地面に伏せてしまう。
なんで1つ目の競技で俺だけこんなボロボロになってんだ……。*19
い、いや負けたわけではない。俺は出久の誕生日である15日*20と同じ15位を狙っただけなんだ。
そうだお兄ちゃんは負けてない。これは出久と一緒が良いという俺の想いが爆発しただけなんだ。
――なわけないだろ。いやもうそこだけは確保するという執念はあったが。
だが結果は嘘をつかない!!
「どんまいお兄ちゃん!」
「黙れミリオ。お前のお兄ちゃんではない。ぶちのめすぞ」
「いやー盛り返し怖かったよね」
「どこがだよ。俺が近くに来た頃にはゴールしてただろ」
「いやいや、あの形相で追ってきたら誰だって怖いって! こう、獲物を仕留めるハンターの目だったよ。むしろ妖怪だったかも……ターボババア的な……。オールマイトでもビビるんじゃないかな、あの気迫……」
確かに振り向いたミリオが俺を見てギョッとして加速してた。
なんなら2度見してた。
いやどんな目だよ。
そもそも誰がババアだ。俺はお兄ちゃんだぞ。
「ふふん、私の勝ちだねー、転間くん。去年のリベンジしちゃった」
「くっ……!! 敗者に二言は無い……殺せ……!!」
「やだ」
「殺してくれ……」
「むり」
「切腹で……」
「やったら許さないよ」
「お兄ちゃん失格だ……」
「それはちょっとわかんない」
「……ちくしょぉおおおおおお!!」
「よしよし」
未だに俺が伏せてるからか、ねじれは膝を曲げてしゃがむと俺の頭を撫でてきた。
勝者に頭を撫でられても屈辱しか覚えない。
あとさらっと2位を獲ってる環!!
お前入場前あんなんだったのに普通に2位獲るのかよ!! こっち見ろ!! 何自分は関係ないアピールしてやがる!!
「うわーあんな別の意味で荒れてる緑谷初めて見た」
「完全にキャラ崩壊起こしてるな……」
「あいつ、悔しがる感情がまずあったのか」
「弟くんが応援してくれるとか言ってたし、なのに負けたからでしょ」
「いやあの状態から15位って十分すぎるほど凄いんだけどね。最下位からだよ?」
「まあこいつがまともにスタートしたの俺らが第三関門行った時だしな」
「最初から自由だったら1位だっただろうな」
「次あるって、元気出せー」
「そうだぞお兄ちゃん」
「頑張ってお兄ちゃん」
「次は勝とうねお兄ちゃん」
「応援してるぞお兄ちゃん」
「お前ら聞こえてるからな!? 俺は!! お前らの! お兄ちゃんじゃ――ないっ!」