隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
二一〇二年十二月十八日
場所は第二都市、かつての名を大阪府。
そこにあるオライン子会社のホテルで寝ていた私は、早朝からルシールに起こされていた。
「…オークションへの出発どころか朝ごはんにもまだずいぶんと時間があるわよね。」
「えっと…今更ながら私自身に関して話しておこうと思ってさ、まとまった時間がいつ取れるかわかんなかったし…」
ルシールは昨日の夕方からずっとこの調子、どこかしおらしいというか、テンションが低いというか…調子狂うわねほんと。
「急にどうして?」
「昨日の事でちょっと、思うところがあって…一昨日何も知らなくても困らないとか言った手前ちょっと恥ずかしいんだけどね、あはは…」
「昨日の事って私がマリアに襲われた事?別に…まあ、気にしてないは嘘になるけど、そういう変態なら仕方ないわよ、それに怪我とかもしてないし。」
「それはそうだけど、私の方が気にするんだよね。」
「なんで?」
「…私さ、アメリカにいた頃に説明不足で痛い目に遭った事があるの、だからこそ、いや今更だけど、せめて呪理チャンには説明しておきたいと言うか…私の
「まあ、いいけど…あ、ちょっと待って、一つ質問。」
「何?」
「そもそもシンギュラリティって何?ずっと気になってたのよ、隠秘科学の専門用語の中でも『
こういうのは機会があれば聞いておくべきよね。
「あー、そういえばこれってアメリカ発の専門用語か、イギリスでは愛理さんとエレノア以外は言ってなかった気がするし…うん、説明するよ。」
「助かるわ。」
「えーと…例えばなんだけどさ、人間には属性や要素があるじゃん?性別とか年齢とか人種とか…あ、いや人種は今時あんまり使えないか…じゃあ髪色とか目の色とか…あ!後は所属とか!そういうのがあるよね。」
「あるわね。」
「隠秘アプリを使ううえで、気にしなきゃいけない事ってのは沢山あるんだけど、その中でも使う人の属性は重要なんだよ、それで…『隠秘属性の本質不在に関する提言』っていう、何十年も前から議論されてる隠秘科学の未解決問題があるの。」
???
「何それ、全く内容が想像つかないけれど。」
「すごくざっくり言うと『なんでかわからないけど、多くの人間は生まれ持って何かしらの隠秘と相性が良かったり悪かったりする』っていう現象の話、その現象から逆算されたその人が持つ属性の事を
「へー…」
「その属性はその人がその人であるかぎり付いて回る、死のうと生きようと、絶対に。何より他の隠秘科学の理屈では説明がまとまらない、だから特異点…って言うのをおじさんがしたり顔で語ってた、なんなら特異点って呼び名の提唱者はおじさんだったかな。」
「たまに思うけどあんたのおじさん何者よ。」
「おじさんはおじさんだよ、名前はロバート・
「聞いてるだけで眩暈がしてくるような人ね。」
「でも性格は最悪。言わなくていいことすぐ言っちゃうデリカシーゼロ人間。そしてなんでもお金で解決するからみんながおじさんに近づくためにグレイ家に気に入られようと擦り寄ってくる…なんなら、マリアがあんな性格になってる理由の2割はそうやってみんなが擦り寄ってくるから、6割はおじさんが甘やかすからだよ。」
「残り2割は?」
「天性の性格が1割、あとはあの子の特異点のせいかな、あの子は
「あんたの実家って変なところね…」
「私もそう思う!本当に…変なところだよ。」
「…それで、貴女自身の話は?」
「えっと、まあ、頑張ってするから、ちゃんと聞いてね?」
「そりゃもう、ちゃんと聞くわよ。」
私さ、アメリカの学校にいる頃いじめられてたって話をしたよね。なんでいじめられてたかって言うと…その前にアメリカでオラインに居たことがあるって話もしたよね。それはいじめられてたのと無関係じゃないの。
2年くらい前かな、母さんが死んですぐの頃だったからたぶんそう、オライン広報部の人からスカウトされてオラインの雑誌でモデルをやることになったの。
それで最初は超浮かれてたんだよね、「みんなの憧れの大企業でモデルだ〜」なんて…実際モデル活動は楽しかったし、面白かった、あの日までは。
しばらくモデルとして活動して、それなりに大きい仕事がもらえることになって、それで父さんに話をしたの…「これで実績を積めば本家に帰れるね!」って。
母さんのお墓は本家の方にあって、グレイの名を持ってるだけで家に寄与しない私たちはお墓参りに行くのも一苦労だったから。性格は最悪だけど実力主義のロバートおじさんを実績で黙らせられれば他の人は何も言わないはずだったし。
でも私の話を聞いた父さんはなんて言ったと思う?
「母さんの家のことは忘れろ」だよ?信じられる?
自分は母さんが死んでからずっと話しかけてこないで、私のこと見向きもしないで、母さんの死をずっと引きずってるのは父さんなのに、墓参りに行くことすらできない私たちの現状を一番苦しんでるのは父さんだったはずなのに。
めちゃくちゃ頭にきちゃってさ、それでもう一人でなんとかすることにしたの。
オラインでもらったアプリを使ってめちゃくちゃにお金稼いだり、モデルとしての出番をなんとか増やしてもらったり。
しばらくそうやってるうちに、久しぶりに本家に行く機会があって、ロバートおじさんに言ってやったんだ「私、最近頑張って成果を出してる」って。
…おじさんは私の事を一通り褒めてくれた、でも最後にこう締めくくった「だが、運が良かっただけだ」って。
…その通りだった、私はたまたまオラインの人の目に留まって、たまたま幸運と不運が過激になる特異点を持ってて、たまたま顔とスタイルが良かっただけだった。私の努力は結局のところ何かを掴むためのものにはなってなかった。
そう思うと何にも身が入らなくなって、撮影中に事故を起こしてた。
気合いの入らないままで撮影に挑んで「危うく死ぬところだったけど君は運が良かった」なんて言われて…それで、気づいたらモデルを辞めてた。
オライン時代の大半の事を覚えてないのは、記憶処理のせいなんかじゃなくて、私にはあの頃の事を記憶に留めておける理由がないからなんだよ。
運に身を任せるばっかりで、何か意味のある努力をしてこなかったから当然なんだけど。
モデルを辞めて学校に帰ってきたら、今度は学校でいじめられることになった。
オラインで働く事を言いふらしてたのに、辞めて戻ってきたのがスクールカースト上位の子の逆鱗に触れたみたいでさ。
その時の私は学校でグレイ家の人間である事を隠してたんだ、みんなの態度が変わるのが嫌だったから。知ってたら誰もいじめてこなかっただろうけどね。
いじめられるのは最初は嫌だったけど、途中からこうも思い始めた
「これで大事になったら父さんは私を見てくれるかな」
「これを耐え抜いたらおじさんは私を見直すかな」って…バカみたいでしょ、実際そうだったんだよ。
そうこうしてるうちにいじめの内容はエスカレートしていって、殴られたり蹴られたりは当たり前になった。
そうなってくると流石に止めようとする子が出てきたり、逆に離れるようになったり…気づいた時には私は学校で一人ぼっちになってた。それでもなんだかんだ仲良くしてた子が一人だけいたんだけど…
7月の頭だったかな、とんでもなく暑い日だったのを覚えてる。
久しぶりに友達みんなで遊ぶ約束をしてたの、近所のゲームセンターで待ち合わせしてて…そしたらガラの悪い奴らに絡まれた。そいつらは私を襲ってきて…近所では悪い意味で有名な奴らだったけどなんで私がターゲットにされたのか最初はわからなかった、だってそいつらが通らない道をいつも選んで歩いてたから。
逃げ回って…しばらくして、私を少し遠くから眺めてる人たちが見えた。
私を待ってたはずの友達がいた、私をいじめてた奴らもみんないた、友達は申し訳なさそうな顔をしてて…気づいたよね、あの子が私が裏切ったことに、あの子が私のいじめに巻き込まれたことに。
流石に犯されたり殺されたりするのは勘弁してほしかった、だって私なんかじゃ母さんが行くような天国に行ける気がしなかったから、だから観測函を握ってなんとか立ち向かおうとして…
そしたら『天罰』が降ってきた
その日はずっと晴れで、雷なんかなんの予報にもなかった
それなのに、私を襲ってきたチンピラと、私を眺めてたいじめっ子と、私を裏切った友達、その全員が雷の被害に遭ったんだよ、信じられる?
私を苦しめる要因が何もかも焼き尽くされて、黒焦げになって、その時確信した。
私は神様に見つけてもらったんだってことに。
私が『
私は何も悪くなかった、そういうことになった
チンピラもいじめっ子も友達も、幸運にも死んでなかった、だけど、傷が治ってもちっとも目を覚まさなかった。
お医者さんは「魂が傷ついてる、完治する確率は0に近い」とか言ってたかな。
あの子の恋人がお見舞いに来たのに私には何も言ってくれなかった
そして、それだけのことがあったのに父さんは何も心配してくれなかった
それどころか「もう付き合ってられない」だよ?娘がいじめられてたのにそれだなんて…あんまりだって思ったけど、何も否定できなかった。
私が父さんだったら私みたいな娘は嫌だろうから。
ロバートおじさんは相変わらず「運が良かったな、君がグレイ家の人間でなければ社会的に死んでいただろう」とか言い出すし…
「それで…それで…エレノアが…」
「…泣いてまで話さなくてもいいのよ。」
「あ、れ?私、泣いてる?」
「それは汗じゃないでしょ、少なくとも私には涙に見えるわ。」
「…ねえ、呪理チャン。」
「なあに、ルシール。」
「今まで黙っててごめん、私って…ひどい奴なんだよ…」
「どこがひどいやつなの?」
「いい娘じゃなくて、いい親戚じゃなくて、いい友達じゃないんだよ?だから…」
「それでも、それよりも、私たちは同僚でしょ。」
「不注意が原因でオラインを辞めてるのに?」
「今度はしっかり働けばいいじゃない。」
「また運に身を任せて天罰が降ってくるかもだよ?」
「その程度で私は倒れたりしない…とも言い切れないけど、まあおばさまがなんとかしてくれるわよ。」
「…呪理チャン!」
ルシールが抱きついてくる
「貴女って、いつも楽観的だと思ってたけど、意外と悲観的なところがあったのね。」
「幻滅した…?」
「むしろ安心したわ、人間味を感じれてね。」