隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
「マンドラゴラはともかく…『カース』、君に紹介したいのはこれだ。」
ライトが一つの黒いケースを持ってきた、タグに書いてあるのは
「エンチャント複合砲…銃器の類なら私免許とか持ってないから遠慮したいんだけど。」
「安心しろ、動作は火薬じゃなく電動だし、撃ち出すのは弾丸じゃなくて紙だからな。」
「「紙?」」
ライトがケースを開けると、そこには黒く輝く…なんて言えばいいのかしら?
「銃なのはわかるけどあんまり見たことない形してるね。」
「外観はグレネードランチャーに寄せてるんだ、機能に沿ったビジュアルをしてる方が観測強度を保ちやすいからな。」
ライトがガチャガチャと安全装置らしきものを解除していく。
「これ自体が応用型のフォークロア観測函でな、細かい制御は連動してる別の端末でもしてるんだが…とりあえずここに紙を入れる。」
ライトはケースに同梱されていた画用紙らしきものをくしゃくしゃに丸めて砲の後から詰め込んだ。
「そんな雑でいいのかしら…?」
「そういう仕様なんだからしょうがない、どうしてもっていうならオーダーメイドで弄ってやれたりもするが、それはまあ後日だな。細かい改善案なんかはこれを設計したアメリカ本社に送ってくれ…よし、とりあえずの設定は完了した、一回俺に向けて撃ってみろ。」
ライトが複合砲を私に手渡す…って
「え、大丈夫なの?」
「死にはしないから大丈夫だ、距離はとったほうがいいがな。」
そう言って彼はルシールと私から距離をとる。
「…これで死んでも祟らないでよね!」
カチッ
トリガーを引くとさっき詰め込まれた紙がライトに飛んでいき
ぼふっ
ゆるい音を立てて、破裂した
「な、言っただろ?」
ライトは当然無傷だった。
「…兵器というかパーティグッズじゃないの?これ。」
威力が無いとかそういう次元じゃないわ、これじゃ弱めのクラッカーよ。
「そりゃ一番大事な隠秘アプリそのものの設定をしてないからな、君の射撃センスが壊滅してないかを見るための試験だよ。」
「じゃあこれにはなにを設定するの?」
「よくぞ聞いてくれたな『ラッキー』、これはそもそも印刷機でな、設定するのは『呪いのお札』さ。」
「アプリそのものは典型的だけど、理屈がピンと来ないわね、どうしてグレネードランチャーが印刷機なのよ。」
「そのエンチャント複合砲のライフリングには呪いのお札に書かれるような呪いの文言が刻まれててな…射撃によって弾である紙に呪いが刷り込まれるって仕組みなんだ。」
「線条痕による印刷ってこと?」
「概念的にはな、もっと言えば『聖なる弾丸』の拡大解釈であり…」
「それで、値段は?」
「おいおい、せっかちだな。」
「ライトの話聞かないの?」
「もうオークションまで時間ないでしょ。」
「そうだな、これの値段はライフリングに刻む呪い次第だ、刻んだ呪いの種類と威力と数で値段が決まる。」
「呪いの一覧を見せてちょうだい。」
「こっちのカタログだ。それと忠告だが銃口は絶対に覗かないほうがいい。それは設定前で機能してないとはいえ素材から呪いが漏れて失明するかもだからな。」
「怖〜」
ライトが渡してくるカタログにはありとあらゆる種類の呪いが載って…ない?
「…即死とかが無いのね?」
「即死の呪いを載せるわけないだろ、これはアメリカで暴徒鎮圧用として開発された非殺傷のツールだぞ。呪いの出力をミスって死ぬこともありうるが、よっぽど強烈なのを複数個起動した時だけだし、どの呪いを起動するかは後から調整が効くからそういう事故は基本は無いと思っていい。」
「事件ならありうるってことね。」
「裁判ならそういう話になるかもな…いっそレンタルとかでもいいぞ、それでなら費用はある程度割引してやる、君達に一任した途端に事故や事件が起きても面倒だからな。」
「助かるわ、諸事情で懐が寂しいもの、ねえ、ルシール?」
「相談せずに幽霊銃撃ったのはごめんって、本当に!」
「君達の関係がいよいよわからなくなってきたが…じゃあ最終設定だ、これでどこか肌を引っ掻いて生体情報を認証してくれ。」
ライトは硬そうな金属の棒を差し出す。
「…悪用しないわよね?」
「するかもしれないが、あまり深く気にするな、こういうのは遅かれ早かれだ。」
「オラインってポリコレに厳しいのかそうじゃないのか判断に困るよね…」
ライトと一緒に複合砲の設定をあれこれ決めて、私たちはオークション会場への道を歩み出した。
「一応言っておくが、なにもない時はケースに入れておけ、曲がりなりにもその観測ツールは兵器だから条例に引っかかって捕まる恐れがある。初期状態だとついてる剣をわざわざ外したから問題無いとは思うが、念には念をだ。」
「兵器ねえ、その杖とか実際どうなの?」
「これは少なくとも対人間には非殺傷だぞ、対人間にはな。」
「物は言いようだね…」
私達は他愛もない雑談をしながらも歩み続け、薄暗い地下道の先、アングラな雰囲気のある広い空間にたどり着いた
「一応言っておくが、ここにはあらゆる素性の人間がいる、下手に目を合わせるなよ。」
「わかったわ。」
「ねえ、アイくんやヨシノさん、それと『狐火』さんたちは?」
「もうついてるはずだが、姿が見えんな。」
「私とラッキーには土地勘が無いから探そうにも探せないし、困ったわね。」
「そろそろオークションが始まる時間なんだが…妙だな、オークション開始時にあるはずのアナウンスも無い。」
「他の人たちもざわついてるし、なにか有ったのかな?」