隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
二一〇二年十月三十一日
場所はロンドン
私とルシールは高校の学園祭で…
「なんでお化け屋敷なのよ…」
クラスの出し物として実行したお化け屋敷の片付けをやっていた。
私たち以外の生徒はちょうど先生の手伝いで別の教室に行っている…いやどういうタイミングよ、誰か残ってくれたっていいじゃないの。
「いいじゃん!ここのゾンビ風の飾りとか超本格的だしさ!」
「それが嫌なの、死体とかこの前の霊界落下で…だめ、思い出したくない!」
まあまあトラウマになっていることを自覚し、余計なダメージが入った気がする。
「霊界かあ、先週も落ちたけど酷い目に遭ったのは最初のあれっきりだね。」
「…何それ、聞いてないんだけど。」
「聞かせたら心配しちゃうかと思って。」
「そりゃ心配ぐらいするわよ、はあ…」
「お客さんが全然来ないからこのぐらいのスリルはむしろアドじゃない?」
「んなわけないでしょ!」
ルシールに振り回されながら学校と事務所を行き来する生活にも慣れてきた、とはいえ事務所へのお客さんは未だ片手で足りるぐらいなのだけれど。
「やってきたお客さんもちょっとした相談とか探し物とかで大した料金は取れない、今のフォークロア観測函とアプリのライセンス料だけが流れていく生活はしんどいわ、おばさまの貯蓄があるとはいえこの生活を続けるのは無理があるわよ。」
「うーん、広告でも出してみる?」
「何処か当てはあるの?」
「無い!」
「あんたねえ…」
お化け屋敷と化した教室の片付けをしながら、ぐだぐだと話していたところ
「ねえ、その話って本当かい?」
教室の扉が勢いよく開いたかと思うと、どこかで見たことのある男子生徒が入ってきた
「…えーと、どなた?」
顔は覚えてるけど名前が思い出せない。
「あれだよ、隣のクラスのイケメンの…ヘンリー、だよね?」
「正解!」
「ああ、ルシールがやってきて二日目に助けたっていう。」
「大正解!!その節はありがとう!」
満面の笑みで返してくれるが、ちょっと反応に困る。
「それで、本当って何について?」
「お客さんが来ないって話さ、二人が事務所に勤めてるって話は有名だけど事務所にお客さんが来ないとは知らなかった。」
「おっそろしいことに本当よ、引くて数多の事務所じゃなくて申し訳ないわね。」
「いやいや、別に嫌味が言いたかったわけじゃないんだよ。」
「じゃあ何?」
ヘンリーが少し息を整えると、こう切り出した
「実は、うちのクラスから依頼があるんだよ。」
それは私とルシールが待ちに待った話だった。
「うちの学校の屋上には幽霊が出るって噂があるんだけど。」
「それだけならどこででもよくあることじゃない。」
死ぬに死ねなくて、というよりは蘇るためのお金が工面できずにただ彷徨うだけの幽霊なんていうのはイギリスでは自販機の下の小銭よりも当たり前のものだ。
「違う違う、なんでもその幽霊はこの建物ができるずっと前、100年以上前にここにあったビルの時からいるって話なんだ。」
「とんでもなく怪しい話だね。」
「でも気になるだろう?それで元々はこの噂の調査結果をうちのクラスの出し物にしたかったんだけど…地味すぎるっていうんで却下されたんだ。」
「実際地味すぎるし当然な気がするけど。」
「うちのクラスの男子達と全く同じこと言うね…」
「呪理チャンってこういう子だから、あんまり気にしないであげて!」
「…ちょっと引っかかる言い回しやめてね?」
「善処します!」
返事はいいのよねこの子…
「それで、出し物は終わったけど気にはなるし、みんなで調べようってことで。」
「一応隠秘使いである私たちに協力を仰いだ、と。」
「そういうことさ、報酬はクラスのみんなで出すから、もしよければ手伝って欲しい。」
「呪理チャン、どうする?」
「まあ、今日明日と時間はあるし報酬も出るわけだし…引き受けるわ、その依頼。」
「ありがとう、じゃあ放課後に校門前で集合で、よろしくね!」
「…というわけなんですけど、コニーさんはどう思いますか?」
『そのヘンリー君には申し訳ないですが、帰ってきた方がいいですね。』
「あれ?思ってたのと違うタイプの回答だ。」
『出所のわからない噂の調査というのはとても難しいものです、それに幽霊が100年前からいるというのも気がかりです。』
「その数字に何か意味があったり?」
『…
「え〜っと?」
『そんな時代から幽霊が存在し続けているわけがない、ということです。』
「じゃあガセネタってことですか?」
『いいえ、そういう話には大抵の場合その噂を元にした
「じゃあそれを見つけてきます!」
『…どう考えても危険ですが、これも経験でしょう。どうしてもというなら行ってもいいです、ですが命だけは守るように、いいですね?』
「ラジャー!」
「わかりました。」
この時の私たちは油断していた
まさかあんなことになるなんて…
『オオオオオ!ソノイノチヲヨコセエエエ!!!』
「アハハハ!なんかどえらいことになったねえ!?」
「笑ってる場合か!さっさと逃げるわよ!!」
「ちょっと、待ってくれえ!」
私達とヘンリーが学校の屋上にたどり着いた瞬間、私たちは霊界落下した。
そこでは…
「あれこの前の妖怪だよね!?なんでここにいるのかな、ていうか喋れたんだね!?」
私が『カインの印』を使った結果逃げ出した妖怪によく似た緑色の肉塊に、私たちは追われていた。
「ああ、もう、どうすればいいんだっけこういう時!」
「アプリを使って戦う!もしくは逃げる!」
「で、どうするの!?確かこの先行き止まりだけど!」
「もう戦うしかないわよ!」
えーっと、こういう時のために練習したんだから、そう…!
「フォークロア観測函、起動。」
「『丑の刻参り』観測開始。」
おばさまが教えてくれたとっておき。
「『カウント-1』!」
それは呪術における裏技。
呪うために必ずしも攻撃が必要ではなく、呪いによる形代の破壊は必ずしも呪術の対象と一致しない。
呪いは殴るふりでもいいし、形代が壊れなくたっていい。
つまり、本体を見据えてハンマーを振ればその時点で…
「ダメージは入るってことよ!そらっ!!」
ついでにそのまま殴り抜ければ2回攻撃!本当にずるいと思うわこれ!
『グウウウ!?』
「効いた、こいつ物理攻撃がちゃんと効くわよ!ルシール、アレ使いなさい!」
「よしきた!ヘンリー、ちょっと耳塞いでてね!」
「え?あ、うん、わかった!」
「フォークロア観測函、起動!━━━━『
ルシールの手元に機関銃が現れ、けたたましい音と共に弾丸がばら撒かれる。
緑色の肉塊は弾丸によって引き裂かれ、緑の液体を撒き散らしながら砕かれていく。
「うおおおお!吹き飛べえ!」
しばらく弾丸をばら撒いた結果、塊は跡形もなく消えていた。
「ふふ、ざまあないね!」
「な、なんとかなった…追いかけられた時は死ぬかと思った…」
「すごいや二人とも!ちゃんと強かったんだね!」
「いや、これはまあまぐれみたいなものな気がする、ルシールの機関銃もお試しで入れてたやつだし…」
「まあまあ呪理チャン、ここは勝利を祝っとこうよ!」
「…そうね、それじゃあ
ぐちゃり
「?何今の」
ぐちゃり
「…気のせいじゃないわね!」
ぐちゃり
「…上!」
『グオオオオ!』
生々しい音と共に天井が砕けたと思えば、咆哮する肉塊が目の前に落ちてきた、
「さっきのだけじゃないの!?」
「ルシール、もう一回「『銃』」え?」
瞬間、見覚えのある光が眼前の怪物を貫く
すぐさま視界のあらゆるところにその光が現れ…
霊界にあった校舎はあっという間に崩壊した。
「ゲホッ…ゲホッ!ちょっと、何すんのさエレノア!?」
瓦礫の中からなんとか立ち上がり、あたりを見回せば、そこにはルシールの従姉妹でオラインイギリス支社営業一課のエレノアがいた。
「貴方達だけでは手こずりそうだったので、手伝ったまでですよ。」
「余計なおせっかいだよ!手伝いどころか妖怪も校舎も全壊してるし!」
「そうとも限りませんが…まあ、そういうならそうかもしれませんね。それよりも。」
「何?」
「いえ、アイリさんが帰りが遅いことにそれなりに怒ってらっしゃったので、私が来たのもそういう理由です。」
「…今何時ですか?」
「十二時ちょうどですね、どうやら遅くなるとは伝えていなかった、そんなところですね?」
「やばあ…どうしよ…」
「一緒に…謝りましょ、それしか無いわ。」
「とんでもないことに巻き込んじゃってごめん。」
「ヘンリーが謝ることじゃないよ!よくわからない妖怪に襲われるなんて日常茶飯事になりそうだしさ!」
「日常茶飯事じゃ困るのよ…」
二一〇二年十二月十六日
「そういうことがあって、ルシールの幽霊銃はお試しから基本装備になったわ。」
「無茶苦茶だな君たち…」
ライトはそう言うが、私としてはこの人もなんか無茶苦茶な気がしてならない、エレノアと同じオラインだし。
「ちなみに、結局屋上の幽霊の正体はわかんなかった!次の日に行ってみたけど何にもなし!襲ってきた妖怪の正体も全然見当もつかない!」
「それでも報酬は出たから気にして無いけどね。」
「…ふむ、そういうもんか。」
二一〇二年十一月一日
場所はロンドン霊界
崩壊した校舎の瓦礫の中から、
「はあ、この手の『
見た目は白いカブ、しかし触ればそれの質感は植物というよりは金属だ。よく見ればところどころ錆びている。
「学校の噂の正体はおそらくこれ、ルシール達を襲った妖怪はおそらくこれのせいで変異した実在隠秘存在…死にそびれた魂や肉体を誘引し強化する、効果としてはそのあたりでしょうか。」
スコットランドの方の文化だろうに、誰が持ち込んだのやら…
「今になるまで何年も大事にならなかっただけマシと見るか、百年とは言わずとも八十年以上は前の貴重品を拾い損ねていたから損をしていたと見るべきか…ま、全ては開発課に持っていってからですね…」