隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録   作:sakigake2004

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0.5皿目、或いは離乳食の予知夢

その時、ライトの夢らしいものを私は見た

 

それは無根拠な生から感じる苦痛で

家族の死から始まる絶対的な絶望で

星の終わりに感じる一抹の安心感で

 

永劫にも思えたその感覚が実時間ではたった二秒で過ぎ去ったことを理解し、私は眩暈がした

 

「うっ、何これ…気持ち悪い…」

 

「あれ、カースさんにまで共有する気はなかったんだけどな…感受性の差かな、こういうこともたまにあるんだよね。」

 

「呪理チャン大丈夫!?」

 

「平気平気、土壇場でカインの印使った時に比べればなんてことない…」

 

私が眩暈から立ち直ると、ライトとツルギさんはとても神妙な顔をしていた。

 

「おい、八咫鏡、この夢の内容に具体的な覚えは?」

 

「…無いと言えば嘘になるが、実際に経験したわけじゃない内容の方が多い。」

 

「実際に経験したのは?」

 

「世界に対する異質感や吐き気は俺の記憶そのままだ、今もうっすら感じてる。」

 

「じゃあ経験していないのは?」

 

「黄金の死、あいつがほぼ死んだようなものだという情報を俺が知ったのは2099年じゃない。あと俺が山田さんとガチの殺し合いとか考えたこともない!これも断言できる!」

 

「…この夢の基盤はとんでもなく高精度なシミュレーションだよ、それも0.8現実ぐらいの精度。」

 

昼夢さんが口を挟む。

 

「なんだそりゃ、そこまでの演算能力を持つのは…マガツか。」

 

「或いはあの黒い函の同族。」

 

「同族ってどういうこと?あれが人間なの?」

 

「違うよラッキー、私こと昼夢が厳密には人間型の実在隠秘存在(リアリティフォークロア)であるように、あの函もまたそういう形の実在隠秘存在なんだ。同じ原典を持つものを私は同族だと呼んでる。」

 

「昼夢サンって何者?」

 

「クトゥルフ神話における外なる神が一つ、ニャルラトホテプの化身…あくまでもそういう概念の実体化であってニャルラトホテプという神が宇宙規模で実在するわけじゃないのは注意ね。」

 

「…そういう話って自分でしていいんだ。」

 

「私に関しちゃ今更だよ、自分がある種の夢みたいなものだって自覚してる…そうじゃなくてあの同族、あれがたぶんこの悪夢の原因だ。」

 

「ニャルラトホテプの化身だろ、あんな形なのは…」

 

「邪神にとって形は重要じゃない、大事なのは役割だよ、あれの役割はたぶん。」

 

「「戦争兵器」」

 

「…アルゴス、いつから起きていた、というか拘束して仮眠室に放り込んでおいたはずだが?」

 

「私がぶっ壊したのさ!」

 

ネフィリム…イブニングだっけ?が元気な声でアルゴスの後ろから出てきた。

 

「この際先日の敵対は置いておく、あの函の正体を知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、アイテール(ウチ)とオライン(ソッチ)両方が関わってるんだからわかって当然だろ?」

 

「何?」

 

「あ、知らなかった感じかこれ…よし、知りたいんなら交渉しようか?」

 

「望みは?」

 

「バトルロイヤル開始後の任意のタイミングでの解放。」

 

「…まずは昼夢の話を聞いてからだ。」

 

「だよな〜、まあいいさ、どうぞ続きを。」

 

「…あれは『チクタクマン』文明で最も優れた兵器に宿るニャルラトホテプの化身だよ。」

 

「具体的にはなんの兵器だ。」

 

「細かい仕様はわかんないけど、同意無く他者の夢に干渉できてるから…私と同じで存在と非存在を現実と夢って形で切り分けるタイプかな。」

 

「え〜と…」

 

「…平たく言うと、物理攻撃に対して無敵。」

 

「え、強くない???」

 

「でも夢に関する隠秘なら普通に通るよ、だから僕が昼夢のお目付役なわけだし。」

 

夢味さんが答える。

 

「そういう事、本当に無敵なら今頃私はオラインに勤めてないよ。」

 

「なるほど〜」

 

「それで、何か追加できる情報はある?それ次第で課長は解放してくれそうだけど。」

 

「あの黒い函はチクタクマンの本体じゃなくて子機、本体はスペインの原子力潜水艦『ドン・キホーテ』の制御システムだ。」

 

「…それは。」

 

「使われてるアイテールの製品は『リンフォン』、日本製の創作怪談をベースにあらゆる地獄の可能性を賢者の石に詰め込むことで成立した超高性能な演算装置さ。」

 

「…」

 

「そっちからはギリシャ支社がパンドラ逆理機関を提供したって聞いたぜ。」

 

「…」

 

「そしてドン・キホーテはもう何年も前に『軽蔑』の襲撃にあってる。その結果の自沈処理で地中海にある異界に置いてけぼりなんだ。」

 

「なるほど、昼夢とアワブンラク事務所と今回の事件、全てのピースが繋がったな。」

 

「そっちの事務所のことはよく知らないが、まあそういうことなんだろうさ。」

 

「…え、何?情報量多すぎてついていけないんだけど。」

 

「今回は同意するわ。」

 

「奇遇だね、私もなのさ!」

 

「つまり、これまでの隠秘科学的にも異常な事件の数々はそれを可能にする超兵器の仕業だった、俺たち個人での対処は不可能!ということだ。」

 

ライトが渋い顔をしながら宣言した。

 

「ええ〜っ、じゃあオークションどうするの?」

 

「一課の回答待ちだな…いい返事が来なかった場合は君らとアワブンラク事務所には帰ってもらう、もちろん違約金なんなりは払うぞ。」

 

「うーん、消化不良は勘弁だなあ…」

 


 

ライトがアルゴスとネフィリムを再び拘束して別の部屋に連れていった時、ふと気づいた。

 

「そういえばルシールの悪夢ってなんだったの?」

 

「…言いたくないような話だよ、それで勘弁して。」

 

「同僚、或いは友達でも?」

 

「友達だからこそ!」

 

「そこまで言うなら、聞かないでおくわ」

 

でも、昼夢さんはルシールに対してアプリを使ってたし、あの人にはバレてるんじゃないかしら…?

 




 

「課長、伝えておくんだけど。」

 

「なんだ。」

 

「ラッキーの見た夢にはめちゃくちゃなプロテクトがかかってた、私と夢味でも解除には時間がかかる。」

 

「八咫鏡の悪夢には何もなかったのにか?」

 

「そっちの方は知ってもいいんだろうね、なんなら連絡先っぽい暗号までついてたよ。」

 

「おそらく黄金が提示した月の石の取引のための連絡先だな、急に悪夢を見せてきたのはそういう理由か。」

 

「そうなると余計にラッキーの悪夢が謎、ラッキーには注意しておいた方がいいと思う」

 




 

「5から35までのRuinを廃棄」

「ZoneとTakenの全個体を冷凍、Veilは事前通達した個体を焼却。」

「Jokerの最終調整が難航?10分後に到着する□□□□□(認知不可)でなんとかして、それ以上の処置は不要。」

 

忙しい

忙しい

こうなったのは…そうだ、叔父を、ロバートを、Zeroを超えたあの日からだ。

グレイの一族を全て黙らせ、父を否定し、それでも私には何かが圧倒的に足りなかった。

財が手元に溢れても

武力を手に入れても

愛人と睦み合おうとも

これではVoidを笑えないと自嘲した時、気づいた。

求めるだけでは決して答えなんかに辿り着けないということを。

他者から奪えるものは限られている。

そもそもこの星がとうの昔に限界に達しており、叔父が求めていたような真理や遊び場なんかはもう無いのだ。

叔父を、Zeroを超えたことを真に証明するには…ソラに手を向けなければならない。

それと同時にZeroのやり残しを果たす、終わらせる

個人に依存する、個人に端を発する異常性

特異点

それに関するZeroの研究は行き詰まっていたが、その原因はグレイの資金を持ってしても解決不能な人材不足とデータ不足だった。

私は特異点を活用した武力を解禁し、それに加えてアイテールの兵器を運び出した。

 

「エーテルビームライフル…いや、『ケラウノス』の出力を限界まで引き上げて。」

「目標はオライン本社ビル、□□□□□□□□(認知不可)は可能な限り生け取り、特に□□□□□□(認知不可)はなんとしてでも確保。」

 

オラインを滅ぼす、暗黙の了解により生き残ってきただけの神官たちは簡単に滅ぼせた。

それによって世界は混乱の渦に陥ったが…それでいい。

戦乱は渇望を、欲求を、価値を定義する。

幸運と実力、そして特異点という誤差のない人類にはまともに生き延びる選択肢のない混乱の時代が定義された。

既にそういった富と選択肢を持つ私の元へ人が集まるのは当然だった。

そうして私は、特異点の完全なる解明に乗り出した…

 


 

「Genius…『メデイア』、私の最終調整はいつになる?」

 

たったの数日、それだけで私の特異点は新たな変化を遂げつつある。

 

「お望みなら、明日にでも今日にでも!貴女みたいな凡人でも天才でもない異常にはそれでも足りないかな!?」

 

「ならば明日だ、急かしたくて来たわけじゃない。」

 

「りょーかい!絶世の天才の実力を見せてあげようか!」

 

明日、世界が終わって、そして始まる。

ちょうどオライン以外の全てが集まった最後の連合軍が目前に迫っている、本番前の腕試しにはちょうどいい。

連合軍を構成するのは隠秘、悪魔、英雄、神、戦争、幽霊、神話、妄想、幻覚etc…くだらない、全て知っている、通過済みの結論だ。

ただ大きいだけのこの壁を乗り越えれば、最後の最後。

 

「宇宙(ソラ)を引き摺り落とし、私がこの星界の空(アイテール)になる」

 

私はグレイ家当主、そして幸運の女神

ルシール・E(エンド)・グレイ

 

「魔術式起動━━━━」

 




 

「私が世界を滅ぼす夢を見たなんて、言えるわけないよね…」

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