隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録   作:sakigake2004

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『皆様、ただいまカイロ空港に着陸いたしました。この飛行機は━━━


チケットを買ってから十六時間、二十一世紀はメンテナンスやら煩雑な手続きやらでより時間がかかっていたのが今じゃ直行便で寝てる間に日本からエジプトまでたどり着く、文明の利器様様である。しかしアレクサンドリアまでの移動経路はバス一択。二十二世紀になってもよくわからない移動手段が増えたりはせず、高性能になっただけの車が往来しているのを見て旧世紀の人々はどう思うのだろうか?見たら多分車どころの話じゃないだろうが…俺にはどうでもいいことだ。バスチケットはマイクロ秒で取得できたのでそのままアレクサンドリアの発掘現場に向かうこととする。

一時間程の待ち時間中に今回の自分、今回の目標、そして今回の計画を再確認する。

まず今回の自分は「八咫 来徳(やた らいと)」観光目的でやってきた日本人、普通の会社勤め、性別は男、年齢23歳、一人称は俺、エジプトでの滞在日数は一週間。
今回の目的は「アレクサンドリア図書館の目録」紀元前二百四十年頃に作成されたと思しきパピルス文書であり、見つかったのは収蔵品の名前とその概要がこれでもかと刻まれた目録が九つ。発掘中作業に使用された『死者の書』の誤作動で実在隠秘存在(リアリティフォークロア)として独立、暴れ出した文書の鎮圧に丸三日かかっている。なんで知ってるのか?『死者の書』を動かすのは我らがインサニティのフォークロア観測函だからだ、こっちにまで苦情が飛んできたと別部署の奴らが言っていたのを聞いている。
今回の計画は至ってシンプル「臨機応変に柔軟な対応」営業二課のポリシーだったようなそうじゃなかったような、そういうやつである。

━━━詰まるところまずは情報収集だ。
現地メディアは飛行機を降りてからずっと目を通しているがまともな情報は無し、どこのメディアも失われた発掘品よりもその発端である謎の実在隠秘存在(リアリティフォークロア)に注目している、まあ人死にが出たようなので当然か、ここは日本ではないので個人単位の巻き戻しは無いのだ。
ここから先に会う現地民達があてになるとは限らないのでインターネットに着目する、素人が触れると「三回見たら死ぬ絵」を五百億回は見る羽目になる現代のインターネットをどう使うか?


「フォークロア観測函、起動」「『八咫烏』観測開始」


ROM側もオカルトで対抗するしかない。『八咫烏』は導きを与える神を参考にしたアプリケーションだ、普通の道案内から役にたつ広告ブロッカーに隕石の回避方法まで教えてくれる優れもの、ただし一般にあまり普及していない、何故か?表面的な理由は

『アッチ!コッチ!ソコジャナイ!チガウ!』


シンプルにうるさいのだ、公衆の面前でやるとギリギリ撃ち殺されても文句が言えないレベルで。ネット回線で使う分にはデバイスの音量を下げればいいが、これで道案内なんてしようもんなら騒音のストレスで暴動が起きるだろう。後は根本的に一部のオカルトとの兼ね合いがよく無いらしく日本国外では不具合が起きるとか、俺は今の所遭遇したことはないが。


『コレ!コレ!ハヤク!』

お目当ての情報が見つかったらしい、ファイル名は…『発掘品の偽造』だと?探し物の中身を指定しなかったとはいえ随分と胡散臭い情報がヒットしたようだ。八咫烏が提示するファイルに危険は無い、もし有ってらうるさく注意してくれる。エジプトの現在の公用語なんてのはざっくりとしか読めないので専門用語だらけのこのデータはフィーリングで読むしかない…いや、普通に英語だった、問題無し。

どうやらこのファイルは発掘計画のマネジメントAIが書いたログらしい、発掘をしていた「━━━」博士…あ、認識不能?呪詛逃れの真名秘匿か?小賢しいことするもんだまったく。とにかく、博士は本来なら存在しない8個の目録をでっちあげてそれを発掘品として報告したが偽造自体は直後にバレており、理由や偽造手段を精査する前に本物と偽物合わせた全てが暴れ出し、鎮圧した矢先にまた別の実在隠秘存在(リアリティフォークロア)が現れて博士と一緒に行方不明と…雲行きが怪しくなってきたな。

この騒動は間違いなくなんらかの陰謀によって起きている。起こしたのが現地組織かはたまた俺みたいな火事場泥棒かはわからんが…いや火事場泥棒ではない、断じてない。あくまで他の誰よりも早く失われた目録を見つけ出し現地組織に高く売りつける、それだけの話だ。ビジネスと泥棒は違う、これは━━━

『次はアレクサンドリア、アレクサンドリアの━━━』

自己弁護の繰り返しなんていう無駄な時間を過ごしていたら着いたらしい、長いようで短い旅だったがここからは仕事10割だ。気を引き締めていかねば。と思った矢先にバスが停止した。

「ただいま渋滞が起きています、しばらくお待ちください。」

運転手はそういったが、渋滞?窓の外を見ればそこにはとんでもない長さの渋滞が有った。どうなってるんだ?

「『八咫烏』アレクサンドリア行き、渋滞原因で検索しろ。」

『アレクサンドリア!デイリニケンモンアリ!トクニデルノハムリ!ケンモンリユウフメイ!データナシ!ケイサンフノウ!』

検問?しかもデータ無し?検問の正確な理由がどんなAIやクラッカーからも出回ってないというのか?今時あり得ない話だが…

「事態は俺の予想を遥かに上回る状態みたいだな。運転手、俺はここで降りる、自分で検問まで行ってくるよ。」

「あんた本気か?見た感じ観光客だろ、こうなった時は待ってる方がマシだよ、近頃は警察もピリピリしてんだ。」

「近頃?以前も検問があったのか?」

「先週にも一回有ったな、そん時はどこぞで強盗事件だかなんだかって言ってたんだが後で警察に聞いたらそんな事件どこでも起きてないってんだ、気味が悪い話だろ?」

不自然な検問、唐突な事故、事件、見え隠れする正体不明の隠秘(オカルト)、ますます行かなきゃならん。

「そりゃいいこと聞いた、尚更降りる。忠告ありがとよ、これはチップだ。」

運転手に今時珍しい紙幣を渡して勝手に降りる。運転手は奇特なモノを見る顔をしてたがそれ以上は何も言わなかった、賢明な判断だ。

検問所までたどり着くのは歩いて行くならそう難しくは無かった、渋滞してるのは車だけだからだ。

「どうして出れねえんだよ、俺達は仕事があるから行かなきゃならないんだ!」

大きな声がしているのを見ればアレクサンドリアから出るための道で10代後半ぐらいの男女が警察と揉めていた。

「ちょっと『オルフェ』貴方目立ってるわよ。」

「う、悪い悪い…とにかく、俺達は早く行かなきゃいけないんだよ。」

『そうは言いますが私達も強盗犯がいるかどうかを調べなくてはならないのです、今のところはお引き取りください。』

…違和感しかないな、特にあの警官たち。見た目は人間だがあまりにも現実感が無い。

「『八咫烏』本当に人間なやつを教えろ。」

『ソンナモノハナイ!トクニアノケイカンハチガウ!』

「なるほどな、だいたいわかった。」

『誰だお前は!そこで何してる!』

今の八咫烏の叫びでだいぶ注目を浴びてしまったらしい、まあ何となくわかったので強行突破と行こうか。

「そこの少年!生きてたいならそこから離れろよ!」

「は?」

 

唐突だが、隠秘科学(オカルティエンス)の発達に伴い生えた問題が有る。それは『高度な隠秘(オカルト)は科学と区別をつける必要が無さすぎる』という事だ。それの何が問題っているはずのものを無かった事にするような隠秘(オカルト)が兵器として蔓延った事だ。人の命が簡単に賄える分、人の命を簡単に支払う時代になってしまった。そういう真偽を問えない隠秘(オカルト)への対抗策こそ

「ミソクラスト投影鏡、起動」「『デウス・エクス・マキナ媒質』励起率40%『幻術破り』強制照射」

━━━強烈な真実をもって羸弱な偽物を圧殺する、神話を破壊する神話、トリックスターと権威の正当性両方に共通するちゃぶ台返し、真実のみを映す鏡による究極的な真実のコヒーレント光。

「さしずめ都市伝説破壊レーザーってわけさ、大丈夫か、少年。」

「大丈夫じゃない、目がおかしくなってる…」

ああ、強烈な真実を提示されれば多かれ少なかれ人間でもダメージを受けるからな、特に今のアレクサンドリアは現実と幻があやふやなようだし。さっきまでごねていた警官達は跡形もなく消えていた、なんなら検問も車もだ。無事なのは道路と俺と少年少女だけだ。

「「どうなってるの…」これ…」

「さあな?あいつらは真実と立ち向かえる存在では無いということだろう、俺はこの先の街にまだ用があるが、君と君の彼女は?」

「彼女…いや彼女じゃなくて…」

「おかまいなく!私達は勝手に行きます!」

「あ、おい!」

どうやら彼らだけで逃げるようだ、まあそれが安牌━━━あの『函』

「おい君たち、そのフォークロア観測函どこで手に入れた?」

「どこって、自前だけど…」

「そうかそうか、大胆な嘘つきだな。」

そう言った俺が一歩踏み出すと少年はすぐに走り出した。甘いな、対隠秘使い(オカルティスト)用戦闘訓練も受けてない様なガキに負ける理由は無い。

「早っ「こちとら先輩と同期にしごかれてるんでね!」

少年の足を蹴って体勢を崩して取り押さえる。

「さっきの『オルフェ』って呼び名は単なるあだ名じゃなくて真名隠しのコードネームだろ、荒事に携わる隠秘使い(オカルティスト)にとっては初歩の初歩だが…それにしては色々チグハグだな、初心者はもっと純粋戦闘を加味して『アキレス』とかの方がマシだぞ、力量不足で振り回されてもな。」

「知るかよ!『カリオペ』俺達を助けてくれ!」

「お、思ったよりハッタリが出来るな?だがやっぱり初心者『それをするには場所が不適切だわ』…は?」

神格?いや、実在隠秘存在(リアリティフォークロア)だ、ほぼ神と呼んで差し支えないレベルの、こんなガキにこれを起動する為のライセンス料も聖遺物も…そうか、九つの目録!

「おい、何で「アレクサンドリア図書館の目録」をお前がもってるんだ?事情を説明しろ、そうすればその観測函が盗品だっていうのはチャラにしてやる。」

「わかった、わかったから!とりあえず足どけろ!そこ折れてるから!」

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