隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録   作:sakigake2004

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8皿目

『オライン!(ワタシ)の藻屑になりな!』

カリブディスを中心として、いや、カリブディスそのものが拡大して波が広がっていく。

「うわっ!引っ張られる!」

オルフェ達の視点ではただ押し寄せてきた波だったが、彼らが波に触れた瞬間からカリブディスが元々立って居た場所へ絶えず吸い込むような力を感じていた。

「カリブディスの逸話は渦潮の擬人化よ!コードネームと元々肉体にある属性を起点に神話を再現したのね!今ここで溺れたら異界に飲み込まれて即死するわ!」

恐ろしい事実を宣言しながらも、好戦的な笑顔でエリザベスは波にぶつかっていた

『そもそも〜肉体を異界と置換するなんて〜常人なら死んでます〜そこからさらに変身するとか〜ありえないぐらいの精神力ですね〜』

カゴちゃんはオルフェとセラムを担ぎ、そのまま走って波から逃げていた

「有効打とかないの!?」

『結局は〜エリザベスさんに〜任せておけばいいですよ〜』

広がっていく海水は重力に従わず、広場の外へ行く道の部分だけが高くなって行手を阻んでいた。

『ちょこまかと!』

カゴちゃんの逃げ場がなくなったその時

「『ドラゴンブレス』!」

『ッ!』

エリザベスが手から放った熱線は射線上の海を消し飛ばしていた。

「こっちを無視するなんて、ちょっとズルくなーい?」

エリザベスの両手、そして全身が光を帯びはじめる。彼女の首から下に隙間なく彫り込まれた竜の刺青と、彼女が着るドレスの紋様が赤熱しているのだ。

「ここまで起動すると結局勝負にはならないのよね、理想の力ってそういうことだけど」

彼女が一歩踏みだす度に、海は干上がり、地面が溶け出す。

「「それがあればなんでも出来る」って『ダイダロス』は言ってたけど、なんでもする必要って実際無いのよ」

どこへともなくエリザベスは呟く

『海に人間が勝てると思ってるのか!』

オルフェ達を無視して広がった全ての海がエリザベスへ迫る

「そもそも、私って言うほど人間じゃないのよね」

 

かつて世界を震撼させる前に消えた『ティフォン』はエリザベスを含めたオラインの精鋭達によって討たれた。その討伐報酬としてエリザベスにはオラインが保有するいくつかのアプリケーションの独占契約が提示された。独占契約そのものが何よりも貴重な選択肢であり、提示されたアプリケーションの全てがオラインの社員どころか全ての隠秘使い(オカルティスト)が注目に値するものであったが

「…この一つでいい、それ以外はいらないわ」

彼女はたった一つだけを受け取り、他の全てをオラインに返還した、その分の金銭を受け取ったと言えどどう考えてもその価値は釣り合っていなかった。

そもそも一人の隠秘使い(オカルティスト)が使える隠秘(オカルト)には限界がある、人間が実行できる観測に限界があるからだ。

だから彼女はそれ一つでなんでもできるアプリの、そのなんでもの中でもたった一つの機能だけを欲していた。

 

「『神々が恐れし輝き(ティフォン)』」

 

エリザベスの全身から数えきれない程の炎と熱線が放たれる、それは襲いくる(カリブディス)の全てを打ち払い、あろうことか殆どを蒸発させた。

それはティフォンの持つ全ての輝きと全ての炎。

彼女が望んだのは『口と目から炎と輝きを放つ(ビームが出る)』アプリの最強のバージョンだった。

 

「…うーん、オルフェー?セラムー?生きてるー?」

カリブディスを吹き飛ばした後に最初に発したのは仲間の生存確認であった。

「うう、眩しい…」

過剰な輝きに目をやられたのかオルフェは悶えていた、そしてセラムはすでにライトの方へと走って行ってしまった。

「ああ生きてた!一応加減はしたけど、ミスって蒸発してたら流石のワタシでもへこむわ!」

『私が庇ったからですよ〜概念的な太陽(ラー・ホルス発電炉)を私が内臓してなかったら危なかったですからね〜感謝してください〜』

カゴちゃんは若干煤けていたが、それでもエリザベスの足元の地面が溶けてガラス化しているのと比較すればはるかにマシな状態だった。

ありがと!(グラッツェ!)

━━━あら?」

『クソったれ…思ってる10倍、いや15倍は強い…」

かなりの重症ではあったが、カリブディスは生きていた、とはいえ肉体の大部分が蒸発し、強制的に変身が解けた今の彼女は、防護服でもあるアイギスがなくては数十分で死ぬだろう。

「はあ…少し調子に乗りましたね、カリブディス」

いつの間にか戦線から消えていたスキュラが戻っていた、さも当然の様に、さきほど破損していたカリブディスのアイギスを運びながら。

「貴女の予備はないので応急処置ですよ、ワタクシの予備機体のパーツで埋めたので着心地は悪いかもしれませんが、死にたく無いなら着てください」

「感謝しておくよ…」

「感謝するならそういう態度をしてくださいね」

「うーん…死ぬまでやる感じじゃないのね?」

エリザベスは消化不良といった態度であった、カリブディスとオルフェからしてみればあれだけのパワーを発揮しておきながらまだ戦う気でいるのかと敵も味方も関係なく引いていた。

「そういう契約ではありませんので、それに、守らねばならないものの大半はキルケーが持っていますから」

「契約こそが絶対ってこと?会社員ってそういうのが辛いのよね…ま、殺したい訳でもないし、いいわ、じゃあ私達はライトの方へ向かうわよ!」

「どうぞ、ワタクシだけであなた方全員は難しいでしょうから、行きたければお好きなように」

「ありがとー!今度会ったら戦おうねー!」

エリザベスはめちゃくちゃなスピードで走っていき、カゴちゃんとオルフェもそれについて行った。

「…貴女みたいなのとは戦いたくはありませんね」

スキュラの言葉は、おそらくもう聞こえてはいなかった。

 

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