隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録   作:sakigake2004

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間章、スープ、無名と顔無しと創世神話
1皿目


「さてキルケー、貴女のコードネームではない名前を教えてもらってもよろしいですか?」

「え、それはさすがに…」

ジェシカの提案にキルケーは冷や汗を流していた

「断るなら貴女をアレクサンドリア外の警察組織に突き出してもいいんです、『彼女』は貴女の保釈金を払うでしょうけど…無名(ウーティス)警備そのものへの影響がどうなるか、わかるわね?」

「それは…」

『おい!オラインなんかに話すなよキルケー!呪い殺されるぞ!』

「殺すだけなら今すぐ出来ますよ、殺すよりも生かしておくことでより多くの利益が得られるからそうする、利益を求めるのが営利企業としてのあるべき姿でしょう?」

『馬鹿にしてるのか?』

「いいえ、本心です」

アテナに噛みつかれても、ジェシカは真顔でそう答えていた。

 

『あーあー、キルケー、聞こえているかね?』

通信機から聞こえたのは穏やかで中性的な声だった

「CEO…」

「あら?貴女から来るとは意外ですね『オデュッセウス』ちょうどこちらから連絡するところでしたよ」

『実のところ君たちの話はアテナから聞いていたんだよ。それで、キルケーの名前だろう?『ムーナ・アスカリー』だ、これでいいかな?』

「…いいでしょう、随分過保護になりましたねオデュッセウス」

『過保護ではなく英雄のあるべき姿だよ』

「貴女のそれが良い変化なのかそうでないのか、私には判断出来ませんが、交渉は成立です」

ジェシカはキルケーの拘束を解いていく

「どうぞ、お仲間の所に戻っても大丈夫ですよ」

「は、はい…」

トボトボと工事現場の外へキルケー、いや、ムーナは歩いていく

 

ジェシカの持ってきた希釈されたエリクサーでライトの腕と足は治っていた。

「ライトさん、目録は揃いました、市長の元へ向かいましょう」

「はい、それよりも、あの、キルケーを解放してよかったんですか?」

どことなく弱気な顔での質問であった

「名前を教える事を条件にしたのはこちらですからね」

「上司が勝手に教えた名前じゃ呪いの効力が足りませんよ…」

「そこは想定外でした、彼女はもっと冷酷で残酷な指導者だと思っていたのですが、私の知らぬところで変化したようです」

「…知り合いなんですか?無名警備のCEOと?」

「大昔、無名(ウーティス)警備という名前が始まったその時にアドバイザーとして誘われた事があります、お断りしましたが」

「そうでしたか…」

ライトはそれ以上聞かなかった、タイミングが合わないというのもそうだったし、精神的にも疲れているのもあったが、ジェシカの顔に浮かぶ様々な感情へどう対応すればいいかわからなかったからだ。

戦略的な勝利を得た一方で、二人の顔にはある種の苦痛が滲んでいた。

一人は無力感と無知に

一人は違和感と後悔に

 

 

 

「ふうむ、してやられたね、『キルケー』」

「そのコードネームいいかげんやめてくれませんか?」

黒いフルフェイスヘルメットとアイギスを着用した不審者とアイギスとジェットパックを着用した赤毛の女性が会話していた。

一方は無名(ウーティス)警備CEO、コードネーム『オデュッセウス』

一方はコードネーム『キルケー』のムーナ・アスカリー

アレクサンドリアから離れ、地中海のとある海域でキルケーは今回の結末をオデュッセウスに報告していた

「そう言っても、君は「アスカリーさん』だなんて呼ばれるのも嫌がるじゃないか」

「そうですけど…」

「まあこの話はまた今度だ、任務失敗に関する処分は追って通達する、今は休みたまえ」

「はい、分かりました、失礼します…」

キルケーは部屋から出て行く

「市長の話ではここまでの戦力がアレクサンドリアに来るのは来週以降という話だったが、見通しが甘かったな、エリザベスが殺人を厭わぬ神になり切っていればニュンペーは全員死んでいただろう、むしろ私達の方が損害賠償を請求したいぐらいだ」

『え?やっちゃう?なんなら強盗とかやっちゃう?』

「やらないよ、そういう話は慎みたまえアテナ、守護神としての自覚をだね」

『御託はいいからさー、次どうするか決めてよー』

「…はあ、アレクサンドリア市長『シリウス・ポール』との契約は打ち切りだ、そのかわりにオラインエジプト支社から持ちかけられてる『ケートス』の取引に乗るよ」

『え?あの話乗っちゃうの?』

「『軽蔑襲撃事件』以来持て余してるんだ、あの船の代わりはここで十分さ」

オデュッセウス達が居るのは無名(ウーティス)警備の本社にして異界航行船舶、その名を『イタケー』

「ケートスが本当にギリシャやアメリカとのパワーバランス修正に役立つかは眉唾物だが…向こうが勝手に争って力を失うならそれでいい」

『息子の結婚式をダシに戦争しようとしてた奴が言う話じゃ無いねまったく、キルケーが結婚式やりたがらないのも納得だよ』

「…その話を言語化するのは禁じた筈だが?というか、待て、結婚するのか?うちの子とムーナが?」

『そうやって今更親ヅラしてもしょうがないんじゃないか?『オデュッセウス名義で来るなら呼びませんよ』ってキルケーも言ってたし』

「…は、そう上手くは行かないか…わかったよ、オデュッセウス名義では行かないと返信しておいてくれ」

『オデュッセウス名義で行きます、と』

「手紙で嘘を書くな!」

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