隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録   作:sakigake2004

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2皿目

「…」

エイトが告げた市長の目的に一同は絶句していた

「いやー!無茶苦茶で笑えるよね!」

「笑う通り越して呆れてるよ…」

「何がなんだかわからないんだけど、これみんなわかってるの?」

知識の無いオルフェとユリディスはそもそも話題についていくことができていなかった

「そうか、そこからか…よし、説明してやる」

 

 

 

「まず第一に『ムー大陸』が何かわかるか?」

「太平洋にあったとされる想像上の大陸?」

「そうだ、そしてそれ以外のなにでもない」

「ええ…」

隠秘科学(オカルティエンス)においてのムー大陸はそれしかない。観測対象となる原典や聖遺物がほとんど無い、あらゆる学術で理論の大半が単純に否定された空想の産物、『空想』から揺らがない故に観測強度の上げようがない隠秘(オカルト)、このオカルト大正義の時代に数少ない居場所なきオカルトの究極的な例だ」

「本当にどうしようも無いの?なんか今まで見た無茶苦茶に比べたらマシそうだけど」

「マシに見えるのは名前が広がって様々な理論があるからだが、それがムー大陸の利用可能度合いを下げる一因でもある。」

「どうして?」

「信じる理屈が観測者の間でバラバラになるんだよ。『ムー大陸がなんなのか』をはっきり定められない、知名度の高い隠秘をそんな状態で観測しようもんなら観測函が負荷に耐えられず99%破損する、というかそんな例はこの100年で数えきれないぐらいある。」

「…オカルティエンスにも意外と無理があるんだね」

「人間とその産物がすることだ、当然…いやまあ例外もありそうだが…とにかく!巨大な大陸とそれに生まれた文明から得られる結果は個人が払えるリソースでは絶対に釣り合わない、故にムー大陸にまつわる隠秘は隠秘使い(オカルティスト)の間で最も危険とされる禁忌肢の一つだ、だがそれに挑んだ人間も人間以外もいくらでもいる。」

「危険なのに?」

「得られる成果がデカすぎるんだよ。人類誕生の地を完全に挿げ替えるなんて地球人類の歴史を根底から覆す究極の歴史改変だ、それで起きる隠秘法則や文化条件の変化で得られる利益は地球上の全ての貨幣資産を足しても釣り合わない。」

「そんなになんだ…」

「だが市長の取ろうとしてる手段はこれまでの100年でもとびっきり常軌を逸してる、『復活』じゃなくて『浮上』だからな。」

「違うの?海に沈んでるのは一緒なのに?」

「全然違う、月とスッポンぐらい違う。いいか?復活は一度滅びてるんだ、復活が成功して現れたのがムー大陸と名がつくだけで大衆の想像するムー大陸とまるで違う存在でも理論的には矛盾が無いんだ、復活でそうなったと言い訳が効くからな…だが浮上はそうじゃない、沈んだものがそのまま浮かび上がるということだ、完膚なきまでにムー大陸でなくてはならない。」

「無理じゃない???」

「無理だ、99.99999%…いやもう、確実と言っていい領域で無理だ、無理なはずなんだが…」

ここまで畳み掛けるように語っていたライトが黙る

「わざわざあの狂人(オデュッセウス)にこれを告げてるってことは儀式自体は成功する秘策がある、あるいは失敗しても何かしらの利益があると僕は考えてるよ。『浮上』を僕の前で言わなかったのは僕達(オライン)を油断するよう仕向けたってことかな?」

「計画全体の杜撰さを考慮すればその態度の差はむしろ不自然だと思いますが…事態は私達(オライン)の想定よりもはるかに危険な領域だったのは変わりないですね。」

「いや〜対処チームとエジプト支社はともかく本社の想定はどうだか、ね?」

セラムの発言に被せるように喋りながら、ジェシカの方にエイトは目配せする

「私は知りませんよ、知っていても忘れているでしょう。」

「ジェシカの対応が渋いよ〜カゴちゃん助けて〜」

『私に言われても困ります…』

エイトのダル絡みに対して普段の猫撫で声での対応をカゴちゃんの思考システムは完全に諦めていた

「『アトランティスの遺物』がおそらくムー大陸の証明を担う観測対象になるはずだが、詳しい情報は?」

「それはねえ、発掘に携わってた行方不明の博士、わかるかい?」

「あれはまだ真名秘匿が解けないんですが…まさか、わかるんですか?『八咫烏』でもダメだったのに」

「わかるよ〜僕と隠秘の使い方がある意味似てるからかな、ちょっと小細工したら読めたんだよね、それで驚かないでよ?その名前は『依神ニャルラ』日本支社の君なら聞き覚えあるだろう?」

 

その時、部屋の通信システムから聞き覚えがあるようなないような、そんな曖昧な声がした。

『━━━━日本支社要注意人物リストからずっと名前の消えない怪人、正確には邪神の端末かな』

「センパイ!」

『━━━━やあライト、5日間も君と八咫烏の声を聞いてなかったがそんなに寂しくはなかったね』

「……」

『━━━━そんなに黙らないでくれよ、話が進まないだろう』

「はい!」

『━━━━わかればよろしい、それで依神ニャルラについてだったね』

「そうだね、センパイ(主人公)君、君が語ってくれるならそれに越したことは無さそうだ」

「「…」」

「…?」

ライトとジェシカが一瞬妙な顔をしたのをオルフェだけが気づいていた

『━━━━どういう意図なのかはわかりませんが、呼ばれたからにはしましょうか』

『━━━━ま、一言で言えば『中身が人間ではない』人間です、ありがちでしょう?そんな状態で表向きは考古学者として人間社会に紛れているのがタチの悪いところですが』

「えーと、人間に害があるってこと?」

『━━━━いや?彼女はむしろ人間に優しい部類だよ、基本的には同じような人間もどきとばかり戦っている。まあその修理というか補填は日本支社がやる羽目になってるんですが』

「邪神の端末って?」

『━━━━彼女がたまに自称するのと、後は使ってる隠秘からもそう呼ばれてる。『這い寄る混沌の夢』という夢を現実に映し出すアプリで変装してるんだ、そのせいで性別が女性であること以外は何も足取りがつかめない、お手上げさ!』

「日本支社の一課が本気出せばいけそうじゃないかい?本気でやってる?」

エイトの挑発的な言動に対してカゴちゃんのアニメーションはドン引きの表情を呈していた、エイトはそれを見ながらもニコニコしている

『━━━━本気で殺しあうのは日本支社(こっち)としても避けてますからね、最近は社内でもある程度距離をとる方に意見が傾いてますよ。』

センパイは華麗にスルーをきめた、表情も感情もわからないがとにかく華麗だった

『━━━━そんな彼女の強みはどこからか集めてきた稀有な観測対象とオラインが権利を握ってないサードパーティ製アプリ、彼女の手持ちにアトランティスの遺物に相応しい観測対象があっても不思議じゃない。』

「市長の仲間ってこと?」

『━━━━それはなんとも、世界を破壊してでも邪神としての責任を果たすタイプかどうかで言えば…まあ彼女ならするだろうね、そんな覚悟の持ち主なのだけは確かだ。』

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