隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
0皿目、食後、エンディング、エピローグ
俺がどこで生まれたかとか、俺の家族がどうだとか、そういうのを俺は知らない。
…勘違いするなよ、両親は死んだわけじゃなくて生きてる、ただ俺は生まれてすぐに誘拐されたから、成長してからしか会ってなくて実感が無いんだ、結局疎遠になってしまったしな。
俺を誘拐した組織はバカの集まりでな、世界を征服するために世界を滅ぼそうとするような奴らだった。
ニューヨークにある「地球統一言語の塔」を破壊するために俺は誘拐されたんだ、笑えるぜ全く。
…知らない?俺たちがこうやって話せてる理由だよ、それで納得してくれ。
そうやって誘拐されたのは俺だけじゃなくて、同年代の奴らが何人も居た。
そいつらは俺と同じく「異端」に類する属性を持ってて、何かにつけて異常なアプリケーションの実験をさせられてた。何人かは見当違いなものを使って死んじまったな。今思い出してもそれなりに悲しいよ。
まあ結局、組織は俺が5歳のころには壊滅した。いざ世界征服を実行しようとしたらオラインの精鋭とアメリカ軍がやってきて全員捕まったよ、自業自得さ。
そうやって組織が壊滅して、各々の道を歩むようになった後でも疎遠にならなかった異端仲間が
「葵・シュミット」
俺の…なんだろうな、友人ではあったが、恋人とかではなく、腐れ縁の…
まあ結局、家族と言って差し支えなかった。一つ年上の姉って感じだ。
ちょうどお前とユリディスみたいな。
あいつは俺より一年先にオラインに入って、俺よりもはるかに早いスピードで出世して…
三年前、死んだ
死んだというのは語弊があるな、厳密には任務中に異界で行方不明になった。
異界での行方不明は発見されてもほとんどの場合死亡だ、結局行方不明から1年後には法的に死んだことになった。
あいつは遺言らしい遺言を残さなかったが、遺産は俺に色々押し付けていった。
意味不明な錬金術のメモ、謎だらけで読めても意味の無かった日記、そしてこの杖…
ドイツ支社の連中はこの杖の材質を『魔女の青銅』と呼んでいる、あいつの夢が「御伽話の魔女」だったからだとさ、俺も確かに覚えている。
「魔女ってね、なんでもできちゃうんだよ?」
「そう、なんでも!」
「あのつまんない部屋もキラキラのお城に変えちゃうの!」
「だから、あたしが魔女になって、らいとを助けてあげる!」
…幼少期の夢だ、ずっとそんな話を擦ってるなんて、大したもんだった。
この話の内、公的に秘匿されてるのは組織の存在だ。
世界の法則に反旗を翻すことは、それ自体が危険だというのは説明したな?
まさにそういう理由で、俺の過去なんていうのは、社外の人間ではまず知る由もない、知るべき理由も無い。
「だから疑問だったんだ、オーケー?」
「いや、めちゃくちゃ説明してくれるじゃん!」
「俺だけが
「いやそうだけど、そうじゃなくて、めちゃくちゃ嫌がってたし…」
「そりゃまあ、楽しくはないからな、だが今話した以外は社外秘の要素もあって話せない、形だけでも商売相手とフェアであることは大事だ。」
「はぁ…」
「そんなことよりも、これからどうする?あと数時間でやってくるエジプト軍の事情聴取を避けるために、
『オルフェさんとユリディスさんは〜しばらくうちの事務所で匿う予定ではありますよ〜カリオペーの処遇も決めなきゃですし〜』
「…そういや俺とユリディスの報酬ってどうなるんだっけ?市長は再起不能になっちゃったんでしょ?」
「━━━━いやはや申し訳ないね、ビルの権利をこっちで用意するのは難しそうだ。」
「センパイ!」
「━━━━やあライト、そしてオルフェ君。君とユリディス君にはいくつか選択肢がある。」
「選択肢?」
「━━━━その一、エジプト支社から報酬金を受け取る。普通に考えるとこれが一番手っ取り早いが、カゴちゃんとエイトはともかくそれ以外の幹部は君達が儀式に介入したことに関して意見が分かれている。わかりやすく報酬がもらえるとは思わない方がいい。」
『こっちでも色々ありまして〜』
「まあ、それはしょうがないか。」
「━━━━その二、オライン本社からのスカウトを受ける。」
「え?」
「━━━━ジェシカさんがユリディス君をえらく気に入っていてね、彼女の美貌なら広報に使ってもいいとか言い出したよ。まあオルフェ君の居場所がどうなるかはわからないが…ま、悪いようにはならないだろう、彼女は仕事の出来には厳しいが、社外社内問わず穏健派でもある。」
「そうだったんだ…」
「━━━━そしてその三、僕のスカウトを受ける。」
「…!?」
「━━━━なんで君が驚いてるんだいライト。内容としては、僕が少し前に
「『ガレージ』の話ですか?」
「━━━━ソフィー、彼らが人手不足程度で僕やオデュッセウスの所有物になるわけないだろう。そうじゃなくて『ナインシスターズ・ミュージック』さ。」
「あー…私あそこの社長さん苦手なんですよね、なんていうか、カリスマや能力はあるけど運命力が無いっていうか…」
「━━━━言ってやるな、彼はそういう星の元に生まれてしまったんだ。とにかく、待遇については僕が保証しよう、少なくとも本社に行くよりも安全だと言える。」
「安全か…あれ?日本って行くと気が狂う場所なんじゃ?」
「何言ってるのオルフェ!失礼でしょ!」
「━━━━ノーコメントで…まあそれはそれとして、実は最近オフィスを移動してね、基本はリモートで運営している、ちなみに今の場所は
「海の上かあ…」
「来るというなら歓迎しよう少年少女、船長の『オデュッセウス』と。」
『操舵手の『アテナ』だ!ようこそ『異界航行船舶イタケー』へ!乗る時には船酔いに気をつけなクソガキども!』
「もっと品位を持ちたまえよ品位を、何度言ったらわかるのか。」
センパイの手元から映し出される映像には、嵐の中甲板に立つ、全身を
「━━━━この様に、船の一角に間借りさせてもらっている、おそらく世界一安全な船と言ってもいいだろう。」
「バチバチにやり合ってる敵なんじゃ無かったの!?」
「━━━━ずっと敵なのも苦しいだろう?適材適所として、敵の時もあれば、味方の時もある。君たちの所属する事務所はお互いにとっての人質なのさ。」
「これ本当に安全かなあ…」
「━━━━さて、どうする?」
「…その三はリモートでいいんですよね。」
「━━━━ああ、君たちが何処に住んでいようと、適切な業務を割り振ると約束しよう。」
「じゃあその三で!」
『あらら〜私たち振られちゃいました〜』
「ユリディス、いいのか?ジェシカさんにスカウトされてるんだろ?俺だったら涙を流して引き受けるが…」
「ライトくん、そういうところですよ。」
「えっ、俺何かおかしかったか?」
「ロマンとデリカシーが無いですね。」
「そうか…」
「ねえオルフェ」
「何?」
「私が一人だけアメリカに行ったら、嫌?」
「それは…嫌だけど…」
「じゃあ決まり!一緒に働きましょ!」
(━━━━僕たちは何を見せられてるんだ?)
(さあ…)
(センパイ、分かって言ってますよね?)
(━━━━なんのことやら。)
(人間関係は〜言葉にしないほうがいいこともあるんですよね〜)
「━━━━さてライト、君が望んでいたボーナスだが…」
「━━━━無い。」
「!?!?!?」
「当たり前だろう、君が今回の一件でどれだけの迷惑を出したと思っているんだ、ボーナスはそれの帳尻合わせで全て消えるよ。」
「そ、そんな…」
「━━━━始末書も書いてもらうからな。」
「そんな!」
「あーわかるわ、私もティフォン倒した時に同じようなことになったから…」
「教えてくれたらよかったのに!」
「もう理解してるかと思ってて…あはは…まあなんとかなるわよ、なるなる、うん!」
エリザベスは苦笑いを浮かべながら、そそくさと下がっていった。
「私たちはこれからすぐ日本に戻らなければならないので、また今度!ありがとうございましたエリザベスさん!」
「ソフィーちゃん、こっちこそありがとう!今度会った時にはセイレーンの塩漬けがどういう出来か見せてちょうだいね!」
「はい!」
シュールな約束をしながら、エリザベスとソフィーは道の向こうへ消えていった。
「━━━━さて、僕らも挨拶や用事は済ましたしそろそろ行くよ。ライト、君の次の業務については帰ってから話そう、飛行機の中で寝れるとは思わないことだね。」
「はい…」
「ライト!」
「どうした?」
「その…
一緒に戦ってくれて、ありがとう!」
「…そういうことか、ならこっちこそ
ありがとうな、オーファン!ユーリ!」
「今更本名呼び!?」
「いやー、若人の青春は大事だねえ。君もエリザベスともう少し遊んでいたらいいのに。」
「彼女の目線は僕よりも『ダイダロス』に向いてますよ。というか貴女も若いじゃないですか、エジプト支社長。」
「僕?まあ肉体はそうだが、他人の記憶や経歴を背負ってるとね、年寄りみたいな感性になるものさ。」
「…」
セラムは無言で携帯端末を差し出す。
「例の船に関する取引が終わったと聞きました。」
「ああ、終わったよ、ついさっき手続きが済んで、晴れて『ケートス』は
「エチオピア支社は貴女達に名前を貸します、その代わり貴女達には…」
「『パンドラの函』探しだろう?ギリシャ支社の奴らも詰めが甘いよね、自分達が売った商品のサポートもしないなんてさ。」
「パンドラの函そのものよりも夢界出力兵器が問題です、アレは未だ稼働しています。今回の世界危機直前にもいくつかの農場が悪夢により改悪されました。」
「死者は?」
「エチオピア政府の公式発表では0、ただし営業三課の人員の半数が再起不能です。人事課はパニック状態ですよ。」
「ふーん…ナメられてるね?」
「ええ、その気になれば彼等は全員死んでいたでしょう、二年前から続く挑発行為です。」
「乗るしかない、か…無名警備とも連携するけど、具体的な目的地はわかってるよね?」
「アメリカ合衆国」
「そして地中海、魔の海域。」
「そういえば、日本支社が捕まえた邪神の端末もなにか知ってるはずなんだよね、ちょっと巻き込んでみようか?」
『エリザベス!?何処で道草食ってるんだ!はやく帰ってこい!』
「なになに、今ちょっとお土産買うところなんだけど?」
『土産はどうでもいい!
「よくある電線の窃盗事件でしょ?ご大層な名前つけたところで泥棒はいるわよそりゃ。」
『それだけじゃない、お前が倒したあの竜神だよ!』
「…何?どういう意味?」
『ティフォンの死体がかなり削られてる!社外からの侵入者だ!さっきからデルポイ予言律は警報だらけだ!』
「貴女は、夢を叶えてね…!」
「違う!私はそこまでして!」
「お前ならきっとできるよ!」
「「葵」」
「うえっ…いやな夢見た、うわ、寝汗すご…最悪ー」
『それは本当に夢?』
「同じこと、言わないでね。」
『ええ、もちろん、私は賢明なので。』
「それで結局、賢者の石は日本かあ…やる気出ない〜」
『ロシアへ向かってからよりはマシでしょう。』
「まあそうね、ちょうど面白い隠秘で遊んでるみたいだし?竜王(笑)になんかお土産になるかもだしね。『レメゲトン』も呼んでちょっと暴れようかな?」
『天女、冥界、全くつまらない
「本当に大事なのは、月の石なんだよね〜アレさえあれば、もっと楽になるよ…!」
「や、やっと終わった、一生分の始末書を書いた…」
「お疲れさまです。」
「この書類のせいでゲームのガチャすら引けなかった…限定星六女神シナスタジア…交換すら…」
「あー残念でしたね…」
「━━━━お疲れ様ライト、さて、営業二課の今後の予定だが」
「━━━━ライトは僕と一緒にツグミを迎えに行ってほしい。」
「ツグミって、この前辞めた営業三課の?」
「━━━━そうだ、今はちょうど京都に居る。」
「━━━━そのあとは決めてないが基本は平常運転で…まあ、来年は夏休みでも取れるだろう。」
「そう言って仕事だらけとか、ホラーなことにならなきゃいいんですけどね…」
今作の創造、執筆にあたって、原作者様、並びにアイデアや世界観の構築に協力してくれた友人達に敬意と感謝を、ありがとう…!