隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
時は少し遡り、2102年11月のある日
(子供向け錬金術教室ね…はあ、インターネットを鵜呑みにするなんてらしくない事をした罰かな。)
彼はインターネットのガセ情報に騙され、「錬金術の奥義を教える教室」とは名ばかりの、地元の公民館で行われる子供向けイベントに駆り出されていた。
(結局強くなる方法もよくわかってないし、アゾットの改修費で懐は寂しいし…ツイてないとはこの事か…それにしても)
タカヤがあたりを見渡すが、それなりの数の子供達が来ているのに対して、講師陣はあからさまに少なかった。
(人件費が無くて人手不足というのも世知辛いものだな、バイト代も最低賃金だし当然かも知れないが、裏方とはいえいきなり来た僕でさえ受け入れるのだから少々不用心過ぎる気もするが…)
「…お兄さん…」
「…えっあっなんだ僕かい!?」
「…そうだよ…」
真っ白な髪、吹けば飛ぶような細い腕に細い指、それと相反する様なゴテゴテとしたスマートウォッチ、寒いのかかなりの厚着、いやに辿々しい喋り方、そんな中学生ほどの少女がタカヤに声をかけてきた。
「…お兄さんも…錬金術師なの?…」
「いやーどうだろうね?今の僕は裏方だし、技術も微妙だし、あそこの教授達ほど錬金術師としての心構えはできてないし、あえて言うなら…」
「…あえて…言うなら?…」
「先生見習いと言ったところかな!わからないが、うん。」
「…そうなんだ…」
少女の反応は薄かった、まるで思った通りの回答が出てこなかった時のクイズ番組を見ているようなテンションだとタカヤは思った。
(くっ、アゾットの毒舌が恋しい!アルラの減らず口でもいい!なんで僕は一人で来てしまったんだ、こんな塩対応は久しぶりだ!誰でもいいから助けてくれ!)
「…ねえ…先生見習いなら…錬金術教えて…」
「教授達の方じゃなくていいのかい?」
「…あの人たちは…お父さんみたいだから…嫌…」
(なんだいその匂わせは!?)
「…そうか!僕でよければ教授しよう!」
複雑な家庭環境を感じさせる少女をほったらかせるほど、タカヤは精神的に強くは無かった。
そして彼等は錬金術の基礎テキストを読みながら、制限のついた観測函で実験することとなった。
「ここで混ぜるのはこの薬剤だね、そして観測函による宣言を加えると」
「…うん…うん…わかった…」
意外にも二人のコミニュケーションは良好で、実験はスムーズに進んだが
「うわっ!」
「…ふふ…真っ黒…」
途中、タカヤは薬剤の配合を間違え黒い煤まみれになってしまった。
「笑わないでくれないか君!…そういえばお互い名前を訊いていなかったね。流石に自己紹介しようか。おっほん!」
タカヤは煤を払うと、わざとらしく息を整える。
「僕はタカヤ、灰吹タカヤさ。普段はパラグラヌム隠秘事務所という、まあ所謂なんでも屋で働いている。」
「…私は…『ケルベロス』…そう呼んで…」
「ふむ、あだ名かい?なかなか興味深いね、冥府の番犬か。」
「…名前…好きじゃないから…これも別に…好きじゃないけど…」
二度目の匂わせには流石のタカヤも驚かなかった、本人はそう思っているが顔は少し引き攣っていた。
自己紹介から十数分後、実験も終盤に差し掛かろうという頃、外から轟音が鳴り響く
見れば、無茶苦茶なスピードで大型化トラックが公民館の入り口に突っ込んできており、その移動方向にはタカヤとケルベロスがいた
タカヤの頭脳が導きだした激突までの時間はおよそ15秒
走っても逃げられるかわからないギリギリの時間
これまでの彼ならば諦めていたが、自らの遺言を読んだ彼はなんとか観測筺に手を伸ばし…
『フォークロア観測函、自動起動』
「!?」
タカヤが宣言をするよりも早く、タカヤのものではないフォークロア観測函の自動詠唱システム音声が流れると同時、ケルベロスがトラックに向けて走り出す
「危ない!」
「…!…」
ケルベロスとトラックが激突するその瞬間
『『
無機質なシステム音声と共に、直前まで爆走していたトラックは金属音を立てながら粉砕され、完全に停止した。
「は…?」
「…タカヤ…大丈夫?…」
「いや僕は幸いにも五体満足だが、今のは?」
トラックは運転手がそもそも乗っていない自動運転だったようだが、二度と走行不能なレベルで壊れていた。
「…私の…仕事用のやつ…これ…」
見れば、少女の腕には無骨なガントレットが装着されており、スマートウォッチには先程読み上げられたシステム音声と思しき文字列がうかびあがっていた。
「なるほど、フォークロア観測函と隠秘アプリか、神話に名高いヘラクレスの逸話を再現する身体強化アプリ…」
「…そう…これのおかげで…私は強いから…」
タカヤの脳内にはヘラクレスの契約料金がとんでもない天文学的数値であった事を告げる記憶が流れ続けていたが、藪蛇であろうと無視した。
「なんにせよ助かったよ、ありがとう!」
「…」
「どうかしたかい?まさか怪我でも」
「…ううん…なんでもない…どういたしまして…あっそろそろ…時間だ帰らなきゃ…そうだ…」
「何かあるのかい?もうすでにイベントの洪水でお腹いっぱいなんだが…これは…」
「…名刺…仕事の話をしたら渡すものだって…じゃあ…また今度ね…後片付けは私が呼んでおくから…」
チーム・キメラ所属
『ケルベロス』
電話番号□□□-□□□□-□□□□
「…じゃ…またね…」
ケルベロスは小走りで去っていった
「はは…強くなりたいとは思ったが、あれは流石に真似できなさそうだ。」
『それで、錬金術の勉強はうまくいきそう?』
「…全然ダメ…」
『かーっやってらんないね、せっかく日本までイタケーを動かしたってのに、収穫なしかあ』
「…でも…面白い人を見つけた…」
『何?』
「…錬金術の…先生見習い…たぶん凄腕…」
『名前は?』
「…タカヤ…パラグラヌム隠秘事務所で働いてるって…」
『ふーん…記録無し、該当例なし、パラグラヌム隠秘事務所で名前は出てくるけど実績らしい実績なし!あからさまに怪しいね…一周回ってお宝かも、でかしたよケルベロス!』
「…捕まえる?…それとも…殺すの?…」
『いーや、まずは生けどりにして…』
「そこまでだ、誘拐計画はやめて持ち場に戻りたまえ。」
『ちぇっ、いいとこだったのに』
扉を開けて入ってきたオデュッセウスの一言でアテナはしぶしぶと消えていった。
「…オデュッセウス…」
「成果はあったようだね、君が実力を発揮できるなら協力するよ、なんせ」
「…CEOと…社員だから…」
「そうだ、私達を維持するのはそれだけでいい、裏を返せば会社を抜きに君だけでやりたいことは君だけで好きなようにやりたまえ、アテナの言葉は真に受けなくていい。」
「…じゃあ…自分でやる…」
「よろしい、まあ次の計画でそろそろまた日本を出なくてはならないのだが。」
「…仕方ない…次来た時頑張る…」
ケルベロスの目には淀んだ決意が灯っていた。
それは獲物を見つけた猛獣か、はたまた新しいお菓子を得た番犬か
「…またね…タカヤ…」
あるいは恋に恋する乙女のようでもあった。
61話目にしてようやく原作主人公が出てくるってこれマジ?