隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
走って、走って、走って
どこまで走ったかわからないぐらい走って…
「どこよ…ここ…」
恐ろしいことに道は延々と続いていた
変わるはずの街並みは一向に変わらず、全ての建物のドアや窓はしまったままで、月明かりも電灯もない
手元のスマホのライトだけが変わらない不気味な世界
しかし変化は起きた、全く望んでいない方向で
足元を見れば、そこには真っ暗な穴が広がっていて…
私は真っ逆様に落ちる
「うわーっ!?」
「何なのよ…何なのよ!」
落ちた先は相変わらず真っ暗闇で、なんとなく湿気ていた。
「う…何この臭い…」
異臭、より正確に言えば酸っぱいような、甘いような、わかりやすく言えば腐った肉の臭い。
嫌な予感がしながらも、私はスマホのライトを向けると…
「うわっ…!」
そこにはドロドロに溶けた何かが転がっていた、大きくて、赤くて、たぶんこれは‥
嫌!考えない方がマシ!そう思って視界から外そうとした時
「…?」
スマホのライトを何かが反射した
恐る恐る近づくとそこには
「スマホ…違う、おばあちゃんの観測函…?」
やたらベタベタした地面に落ちていながらピッカピカのままの板、これがおばさまの言ってたやつだ、たぶん…霊界にあったならそりゃ見つけられないよね。
「一応点けてみるか、フォークロア観測函、起動。」
言葉をかけてみると画面がついたがそこには『パスワードを入力してください』の文字が
パスワードは流石に知らない…
『緊急時用キー』?そんなのがあるんだ、なになに?
『愛の理を作った創造主は?』何それ、訳わからな…あれ、もしかして
「誰かそこにいるー!?ちょっと助けて欲しいんだけどー!?」
この声…ルシール!
追いついてきた?どうやって?
声のする方向を見れば、そこにはさっきの緑色の妖怪に引きずられるルシールの姿があった。
「グオオオオ!」
妖怪がルシールを持ち上げる。
「ちょやめて!?これ以上叩きつけられた流石に骨どころの話じゃないから!?」
ルシールは全身土だらけで、服はボロボロで肌も傷だらけの血みどろだった。
「ルシール!」
「あ、呪理チャン!?助けよべた!?こっちはちょっとピンチかも!ああ揺らさないで内臓吐きそうだから!?」
軽口を叩いているが、よく見ればハンドバッグを持っていなかった。
あれがないと幸運がおかしくなるんじゃなかった?なんで絶賛ピンチなわけ???
いやそれはともかく、助ける方法…助ける?
思考が、脳髄が冷えていく
ルシールを見捨てればこの瞬間の安全は確保できるかもしれない
妖怪に金槌一本で勝てる気もしない
そもそもルシールは一昨日あったばかりの新しい友人で
でも、だからって見捨てていいの?
…いいわけない!
助けてやる義理もないけど、ここで見捨てるほど私は落ちぶれてない!
「呪理チャン!?なんでこっち向かってんの!!!???」
「あんたを助けてやろうってのよ!フォークロア観測函、起動!」
私はスマホと金槌を取り出して、緑色の妖怪に向かって駆け出す
「『丑の刻参り』観測開始!」
そして私一人で油断し切った妖怪の腕に向けて、金槌を振り下ろす
『グオオオオ!?』
…効いた?マジで?破れかぶれの一撃が?
取り乱した妖怪はルシールを落っことした。
「ぐえっ、もっと丁寧に持ち上げてよ!」
「言ってる場合!?さっさと逃げるわよ!」
しかしルシールは全身ボロボロのようで、うまく動けないようだった。
肩を持って歩くけど、すぐに妖怪は復帰してきた。
『グオオ!!!』
「あれめちゃくちゃ怒ってるよ、どうする!」
「あんたの観測函は!?」
「バッグと一緒に落としちゃった!」
「じゃあ最後の手段ね!」
そう言って私は
「フォークロア観測函、起動!」
拾った観測函を起動する
「緊急時用キー使用!『
魔法の呪文に続くのは、私の曽祖母の名前。
愛の理、
『権限確認』
『『カインの印』観測開始』
「!?」
その瞬間、私の全身に激痛が走る
痛い、痛い、痛い
吐き気がして、頭痛がして、眩暈がして、鼻血が出て、喉からも血の味が湧いてくる
「ちょ、呪理チャン大丈夫!?」
「これが、大丈夫、に見える…?ゲホッ、ゴホッ!」
そうこうしている間に妖怪は私たちの前に立った、そして腕を振り上げる
ああ、私このまま死ぬのかな?
死んだら私ってどこにいくんだろう?
霊界で死んだら確実に死ぬんだっけ、どうだっけな?
死を目前とながらも、本質的ではない取り止めのない思考が私の脳を埋め尽くしては消えていく
『グアアアア!!!???』
しかし、私は死ななかった
私を殴った妖怪の拳は、私に触れた瞬間に緑色の液体を撒き散らしながら弾け飛んでしまった。
「…わーお。」
青ざめた顔をした妖怪は一目散に逃げていく。
「へへ、ざまあ見ろだわ…ゲホッ、うえっ。」
口の中が血の味がする…頭も割れるみたいに痛い…
「ちょ、呪理チャン、アプリ止めて止めて!」
「そう、ね…『カインの印』観測終了…」