隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
「一難去った、ね。」
「そうね、そしてここからどうしましょ…」
口元の血を服の袖で拭いながら、私は呟く。
二人で生き延びたはいいが、生き延びた後のことを考えてなかった。
「助けが来るのを待つしか無いんじゃないかな、引きずられながら観察してたけどこの空間おかしいし。」
「と言うと?」
「さっきの妖怪?が通ってきた道がもう無いっぽい、というか歩いた側から消えてた。」
「参ったわね…こんな気味の悪いとこに長居したくないんだけど…」
さっきのアプリのせいかまだ身体中重いし、頭痛も引かないし、血の味がまだするし。
「さっきはこのアプリのおかげで間一髪助かったけど、使わずに金槌で殴った方がよかったかな?でも警戒されてるのに私の金槌がもう一回当たる気もしないな…」
「たらればってやつだね〜…もしかしてだけど、その観測函が探してたセツリさんの遺品だったり?」
「…たぶんね、ひいおばあちゃんの名前でロックが解除されたし、まさか霊界に落ちてるなんて。」
「でもこれで帰ったら私は愛理サンの弟子、イェーイ!」
血だらけなのにまだ元気とは、恐れ入る…
「私の将来が勝手に決められそうだけどまあそれは良くて…ルシール、そっちは怪我とか大丈夫?内臓吐くとか言ってたけど。」
そんだけ元気ならまあ大丈夫でしょうけど、聞かないのもおかしいし。
「だいじょぶだいじょぶ、大したことない、むしろ呪理チャンの方が心配だなって。」
「私?眩暈はおさまった、鼻血も体の痛みも一応止まった、頭はまだちょっと痛いけど。なんて言うか、ズキズキする、普段使ってない血管を無理やり動かした感じ。」
「しんどそー、しばらくはじっとしておいた方がいいやつじゃない?」
「できたらそうするわ…」
それができる状況でも無いのが困る、なんせ私たちは意味不明の空間に囚われているのだから。
さっき通報してから今何分が経過したのだろう?そう思ってスマホを見るが
「「『-10分』???」」
私たちは二人揃って素っ頓狂な声をあげる。
「なに、なに、スマホ壊れた?」
「時間わかんなくなっちゃった…これも霊界の仕様だったり?」
ルシールが不安げな声で尋ねてくるが
「…そんなの聞いた事ないわよ。」
残念ながら、私もそんな話は知らない。
「とりあえず探索してみる?」
「流石に歩き回るだけの体力がもう無いわよ…」
「じゃあ私だけで「やめて、こんなところで一人とか一番嫌な予感がするわ、そもそも灯りがないでしょ…」確かに!」
結局私たちは妖怪が入ってきたあたりで座ってしまうことにした。
「なんで地面がベタベタしてるんだろ…」
「このベタベタ、なんだか覚えがあるのよね。」
この感触…この粘度…
「…ダメ、思い出せないわ。」
「ねえ呪理チャン。」
「なに?」
「私のバッグ見つけたかもなんだけど…」
「なによ歯切れの悪…い…」
ルシールの視線の先には確かにあのハンドバッグがスマホの灯りを反射していたが
その下には名状し難い、いやちゃんと言語化できる
それがハンドバッグを背中に乗せながら、こちらを凝視していた。
「「ギャーッ!!!!」」
私たちが恐怖ゆえ揃って叫ぶと、蜘蛛がこちらへ向かって動き出した。
「やばいやばいやばい!逃げよう呪理チャン!」
「逃げるってどこへ!?もう逃げ場ないわよ!」
出口はなし、入り口は頭上。
あの謎の塊はこいつの食べ残しかなんかだ。
この空間がなんでベタベタしてるのかわかった、あれは蜘蛛の巣だったんだ。
などと妙に能天気な感想が思考を掠めていくが、私たちは明確に危機だった。
「ここから叫んだらあの観測函起動しない?」
ふとよぎったアイデアが口から漏れ出た、大した意図はなかったが。
「ナイスアイデアだよ!フォークロア観測函、起動!」
ルシールには明確に活用可能なものと判断したらしい。
彼女の叫びに合わせて、ハンドバッグの内側から光が溢れた。
「『聖骸布』観測開始!」
『…?』
蜘蛛は一瞬怯んだようだが、なにも起きなかったことを理解したようで、再びこちらへ歩みを進めてきた。
「どうしよどうしよ、これ以上できること無いっぽい!」
「…もうこうなったら私がもう一回アプリを起動するわ。」
「ちょ、だめだよ!?もう一回あれだけの血を吐いたら流石に死ぬって!」
「なにもしないよりはマシ!」
そう言って私は再びあの観測函を取り出し、現代の魔法の呪文を唱える
「「「フォークロア観測函、起動」」」
…私のじゃない声?
「ルシール?」
「私じゃないよ!」
え、じゃあ誰の?
「『捨身月兎』観測開始。」
頭上から、炎を纏った何かが蜘蛛へぶつかる。
あれは…
「「コニーさん!?」」
「ようやく見つけましたよ、お得意さん!」
両手が燃えながら、爽やかな笑顔でコニーさんが語りかけるが…
「めっちゃ燃えてるけど大丈夫!?」
「大丈夫ですよ…あれ?」
コニーさんとの衝突で怯んでいた蜘蛛が再び動き出した、さっきまでよりも明確に動きが活発になってる…
「ふむ、流石に怒りますよね。」
「コニーさん、あれ倒せる?」
「できますけど、私がやらなくてもいいみたいですね。」
「「???」」
なに言って…
「あ!上見て!?」
ルシールが何かを言うと、頭上にうっすらと灯りが見えて…
「『
次の瞬間、頭上から三発の光が降ってきて、大蜘蛛を貫いた。
「一、二、三…ふむ、二発で十分でしたね。」
上からスーツ姿で金髪に赤メッシュの女性がとび降りてきた、大きな銃と剣を持ってて、女性の左手と右足はうっすらと光っていて幻想的…じゃなくて、なんで光ってるの?結構な高さだけどよく着地できたわね?
「やっぱり、エレノア!?」
どこかで聞いた名前、誰だっけ?
「こんばんは、ルシール、助けに来ましたよ。」
「えーと…貴女の従姉妹だっけ?」
「そうそう」
「初めまして、オラクル&インサニティー・カンパニーイギリス支社事業部営業一課課長、コードネーム『フェイルノート』のエレノア・
自己紹介してくれた。
「あ、初めまして…私は『呪理!』…おばさま?」
見ると、エレノアさんの背後には愛理おばさまが立っていた。
『あんたこんな血だらけになって!おまけに観測函を勝手に使ったね!?』
「あ、その、結構なピンチになっちゃって…ごめんなさい。」
勝手に使ったし流石に怒られるか…
『なんで謝ってるんだい?むしろ私が謝りたいぐらいだよ、あんたが使うことを何も想定してなかった!使ったら条件未達成で死ぬ可能性さえあったのに…』
「え、マジで…この頭痛そういう必要経費とかじゃないの?」
『んなわけあるかい!セツリだってお守り程度で使ったことはほとんどないよ!』
「そうだったんだ…」
「なんだか色々あったみたいですが…一旦地上に脱出しましょう、私がご案内します。」
「わっ」
エレノアさんが私を背負ってくれた、確かに歩くのはもうしんどかったけど。
「重く無いですか?」
「いいえ、軽くて心配になるぐらいですね。」
「エレノア…私もおぶって〜、もう一歩も歩けない〜」
ルシールがだる絡みするが
「貴女はまだ軽傷でしょう、そこまで過保護にはなってあげませんよ。」
はっきりと拒否されていた。
「コニーさーん…」
「だめです、どうしてもって言うならお金取りますよ。」
「う、わかったよ…」