隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
1皿目
二一〇二年十二月十六日
場所は第二都市、かつての名を大阪府。
そこにあるオラインのオフィスの窓から見えるのは人、建物、そして人、人、人…おばさまから聞いていたけどものすごい人の量だ。さすが天下の台所。
オラインのオフィスで、カタシロ呪術事務所の調査員である私とルシールは、オラインの
「さて、明後日俺と君たちが向かう大阪市
「へー、じゃあ本来の名前は?」
ルシールが事前に調査したはずの内容をなぜかライトに質問していた、忘れたってわけじゃないでしょうに…
「そんなもの闇市場にはない…いや、ふさわしい呼び名は一つだけ有る、『運命市場』、最も取引されるのが寿命だからそう呼ばれてる。」
「寿命かあ、
「そんなところだ、ここでは寿命を通貨あるいは商品として使用できる、旧世紀の映画とかでみたような話だとでも思ってるだろうがガチだ。人余りの極まった第二都市の闇市場では寿命や臓器なんて何も珍しいもんじゃない。」
「日本とイギリスでは人が寿命以外で死なないっていう話もここまでくると怪しいよね。」
「ルシール、それたぶん禁句よ。」
「あんまり言うと本当に公安警察が出張ってくるからマジでやめたほうがいいぞ…それに日本の事情は君たちには基本関係ないと思ってくれていい。営業三課が既に現地に集まって準備してるから、手順に沿って参加だけしてくれればそれで十分だ。」
ライトが告げる内容はこれまでに擦り合わせた内容と概ね同じだ。
オラインが他の組織が介入できないレベルまで値段を釣り上げて月の石一式を買う。
オークションという体裁を保つために運営や他組織が介入するだろうけど、それを防ぐため私たちはオークションに形だけでも参加し、オークションという体裁を実質オライン関係者だけで保つ。
これでトラブルが起きてもオラインと戦えるような組織は少なく、それらとの関係は全てオラインが受け持つ。
つまり私たちは数合わせ、オラインが金の力にものを言わせているという事実を軽減するための外部要素。
なんだかとんでもないインチキな気がするけど、報酬が出るんだから仕方ない。
「しかし気をつけたほうがいい組織の名前もちらほら上がってる。」
「えー?お金の力でなんとかならないの?」
「金で靡かない組織なんてごまんといるんだよ、公的な後ろ盾のある連中、同じように金を持ってる連中、あとはチャンスを追い求めてるような奴らだ。」
そう言ってライトは私の仕事用のスマホ一体型フォークロア観測函に幾つかの書類を送りつけてきた。
「そこに書いてあるのは特に気をつけるべき連中、まずは第八都市の方で有名な『姫路呪詛センター』はっきり言うと君たちの同類かつ上位互換だな。」
最初のデータには黒い髪に黒い狐耳をつけた女性が写っていた…なんか最近見たな?
「思ってることを当ててやろう、その女性は姫路呪詛センターの所長で営業三課のツルギと同じ『化物』のアプリの使い手、コードネームは『長壁』姫路方面でアイドルをやってるんだ。」
「だいぶ濃いのが初っ端からきたわね…」
「一番厄介なのはそこが陰陽寮とズブズブの関係にある民間組織だってことだ、下手したら国レベルの実力者が後ろ盾として参加してくる可能性がある、そうなればうちも法務課を出さざるを得なくなって儲けになるか怪しい。」
「つまり敵に回すなってことだね!」
「そういう事だ、次はアイスランドからやってきた『牙羽探偵事務所』君たちとさっき話した奴らだ。」
「噂をすれば崖がズサーッってやつ?」
「噂をすれば影がさす、ね。」
次のデータにはコートを来た女性二人と男性二人の画像が写っていた、全員同じ服装だ。
「オーディンのコスプレらしいこの衣装を制服として着込んでるのは古今東西この事務所だけだろうさ、かなり警戒してるようで三課による調査を避けてる節さえある。敵に回しても俺と三課なら勝てはするだろうが…危険だし未知数だ、ここも敵に回すな。」
「コニーさんの実力把握的な意味でもちょっと関わってみたいけどな〜」
「やめとけやめとけ、でこれが一番の問題で『日牢会』地元のヤクザってやつだ。」
そこには真っ白なスーツを着たいかにも荒っぽそうな男たちとそれに囲まれる白いスーツの女性が写っていた。
「月牢組という巨大組織が二年前まで有ったんだがな、シノギが成り立たなくなって解散したんだ。そこの傘下で比較的勢力を保ってたところがこの日牢会。ヘルメス新聞と明光製薬っていう大手企業との癒着によって金だけはたんまり有ったからそれだけ勢力も大きかったんだが…」
「だが?」
「肝心のヘルメス新聞が社長の汚職騒ぎで倒産してな。明光制約の方も社長が不審な死を遂げたと思ったら社長一族の暴走で空中分解、ようやく再編されたグループは日牢会と縁を切ってしまい…つまりこいつらもいずれ沈む泥舟になったって寸法さ。」
「だからチャンスを求めてるって事?」
「そうだ、オークションの運営はかつては月牢組がやってたぐらいだ、そこで大きな手柄を挙げれば傘下組織をまとめ上げて自分達も助かるって考えてるだろうよ。」
「…何が有っても月の石を手に入れようとしてくる、追い詰められた野獣ってわけね。一番恐ろしいタイプの厄介ごとだわ。」
自分で言ってて気が滅入るような話だ。
「そういや今のオークション運営って誰なの?こんだけいろんなところから集まってくるぐらいだし相当な大物じゃない?」
「噂じゃどこぞの軍需企業の役員がやってるって話だが、滅多に表に出てこないから俺もわからん。」
「オラインでも知らないことってあるんだ。」
「知るべきでないことは忘れさせられるんだよこの会社、俺なんか八咫烏でなんでも分かってしまうから頻繁に記憶消されてるしな。」
「企業勤めって大変だね。」
「勤めてたことがあるくせに人ごとみたいに…まあいいさ、そして君たちもお待ちかねのイルカルラについて最低限話しておこう。」
「さっきから気になってたのよね、自分から日本に来たってどういうこと?」
神とか人造人間とかはもうこの際置いておく、深く聞いてまともに解釈できる自信が無い。
「オークション運営の説明によると自分から逃げてきたんだとよ、アメリカの実験施設からな。」
「…いくらアメリカが自由の国だからって、それが許されるの?」
人造人間の自由とか、漫画なんかで見た中では一番少ないもののように思えるけど。
「もちろん許されてない、だから政府からの追跡を受けているはずなんだが…その情報をくれるはずのアメリカ本社の動きが鈍くてな、関連企業の法務課による妨害を受けてるのか、はたまた癒着か…とにかくアメリカ政府関係者の到達は俺たちのタイムリミットだ、間違ってもオークションを長引かせてはいけない。」
「肝心のタイムリミットの具体的な時間がわからないのがもどかしいね…呪理チャンはどう思う?」
「…案外もう日本に来てたりしてね。」
「まさか、それだったら早いところ名乗り出て公の組織として回収に向かうはずだ、流石の日本政府もそうなったら対応するに決まってる。」