隠秘実存フルコース:二十二世紀オカルトパンク・アポカリプスの生存記録 作:sakigake2004
「…フォークロア観測函を使用する際に音声認識は必ずしも必須ではない。しかし観測宣言はオカルトとリアルを切り分ける儀式的行為であり…」
「ねえ、独り言呟いてるところ悪いけどここどこ?さっきまで私たち地下道で戦ってたよね?こんな真っ白な部屋じゃなかったと思うんだけどさ。」
「…ふむ、真っ白な部屋に見えるのか、なるほど。」
「質問に答えてよね、アプリ止めてないのに腕が戻ってるしさ、何これ?」
「私がかけた催眠術だよ、私の『百鬼夜行』は私や仲間の使う隠秘を強化できるんだ、それでお前を催眠術の要領で化かしたってわけ。」
「自覚してるのに抜け出せないなんてことある?」
「深層心理で私をナメてたからだろうな、思ってたより効きが良くてびっくりしてるよ。」
私目線では薄暗い地下道で無防備な『ネフィリム』が狼狽えているだけだ、こいつの言っている風景は何一つとして見えていない。
「なんで丁寧に説明してるわけ?」
「お前がさっき自分の隠秘を宣言してたのと本質的には一緒だよ、私はこの催眠状態の観測を成立させるため相手を安心させるための情報をできる限り提供しなきゃいけないっていう制限を課してるんだ。」
「何にも安心できないけど!?だって今ならそっちはタコ殴りできるわけだしさ!?」
「それはない、私が攻撃しない代わりに相手も攻撃できない、そういう条件だから。」
「…もしかしてこの説明って聞かない方が良かったやつ!?」
「そうなる。」
「最悪…でもないか。」
こいつ…
「やっぱりお前は囮か。その隠秘も派手なだけじゃなくてなんかしらデメリットがあるやつだな。」
「あ、わかっちゃう?これ長いこと使ってると進化しすぎて私が私じゃなくなっちゃうんだよね。本調子になるのに時間もかかっちゃうし、意外と不便なんだよ。」
「そうか、まあ今聞いたところで私には関係無いんだが。」
しかし時間か、戦闘開始からどのくらい経った…?
「そう言えば遅いな『氷柱』、今どこにいるんだ?」
「…ふふん、電話でもかけてみたら?」
「なんだ、挑発か?」
「そう捉えてもらって構わないよ。」
「…いいだろう。」
私は社用端末で氷柱へ連絡を試みる、が、応答なし…いや違う、音が聞こえる。
そんなに遠くない、いや違う、だんだん近づいてくる
足音が一二三…どころじゃない!
「「「殺してやるそオラインの犬ども!!!」」」
「『天狗』!」
「『雪女』!」
「『白昼夢』!」
「『貘』!」
「『狂骨』『がしゃどくろ』!」
瞬間、コンクリートの壁を突き破ってスーツの集団とヤクザの塊が流れ込んでくる。
突風と吹雪が吹き荒れ
不気味な悪夢が流れ込んでは掻き消え
そうこうしている間に巨大な骸骨がヤクザの塊を弾き飛ばす。
「課長は大丈夫ですか!?」
「ごめーん!みんなを連れてきたけど日牢会をまけなかった!」
「ああもう!どんだけいるんだよこいつら!」
「出力上げすぎだよ!?もっと加減して!」
「くっそ、こんな大変なら無理に有給でも取るんだった!」
「お前ら同時に喋るな!」
「へー、思ったよりも余裕あるね?」
ネフィリムが煽ってくる、まだ視界が真っ白のはずなんだが、流石に催眠術が解けてきてるのか?
「まあ当たり前だろ、こちとらなんせ…」
「「「「「「オライン営業三課だから」」」」」」
「…いや、私は違うけどね?」
人形みたいに綺麗な少女、『昼夢』がぼそっと呟いた。
「そろそろあきらめた方がいいですよ。」
優男っぽい青年『凶星』が語りかける。
「そうよ?住めば都っていうしオラインも悪く無いはずだわ。」
吹雪の着物を着た美女『氷柱』が諭す。
「僕としては監視役なんていう仕事が減るから抜けてもらってもかまないけど…ふぁあああ…」
眠そうな少年『夢味』はいつも通り欠伸をしている。
「俺みたいな失敗作に比べたら昼夢の方がマシだし代わって欲しいぐらいだけどな…」
自信なさげな青年『髑髏』がぼやく。
これが今のオライン日本支社事業部営業三課…私の仲間たち。
「三課のコードーネーム持ちが数日ぶりに全員揃ったな。」
「あれ?課長、なんか雰囲気変わりました?」
「お、新人君はわかるか?まあ人間いつだって成長できるものさ。」
「キザなセリフだね〜?同意しちゃうけどさ!」
そう言ってネフィリムはこちらを向き直った、目はこちらを捉え、先ほどと違って蹴りを意識した構えをしている。
次なる進化か、あるいは隠秘を切り替えるのか、なんにせよ…
「…よし、流石に決着とするか!」