転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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十四話

 ほどなくして、デミオ老はアルフェを伴って戻ってきた。アルフェは勝手知ったる他人の家、とばかりに備え付けられている椅子へ座る。

 そして、にこやかな笑みを浮かべた。

 

「ご領主さま、毎度。今回も良い取引をどうぞ」

「あぁ、そうだな。それで、いつものやつは既に?」

「えぇ、運び込んでます。ちゃんと、揃えてますって」

 

 現状、食糧などは伯爵家の援助で問題ないが、それ以外の消耗品。とくに狩猟に使う矢などは彼女の、マーネン商会に頼っていた。

 他にも、木炭なども頼っていたが、この後は暖かくなっていくことから、少しずつ必要量は減っていくだろう。

 

 それにしても、相変わらずであるがアルフェは表面上、にこやかに笑っているが、目は笑っていない。こちらを値踏みするような冷徹な目だ。

 

 試されている、という感覚が気に入らない。だが、それだけで取引をやめるほど子供のつもりもない。年齢的な意味で言えば、まだ子供なのだろうが。

 それよりも……。

 

「それにしても、ご領主さまは金払いが良くて、よう助かりますわぁ」

「そうか、それは良かった」

「えぇ、こちらも良客とは、長くお付き合いさせてもらいたいもんで」

 

 これは、金さえ払えばどんなものでも用意します。という前触れかな。なら、踏み込んでみるか。

 

「それはありがたい。こちらとしても、マーネン商会には助けられている。さて、それで少し相談なのだが……」

 

 アルフェの目がぎらり、と光る。目敏く商機を感じたのだろう。それは間違いない。大きい額が動く商談には違いない。

 俺はチラリ、とデミオ老を見る。

 見られたデミオ老は困惑している。なぜ見られたのが分からないのだから。

 すぅ、と息を吸い、吐く。自身を落ち着かせる。ここで迷っている場合じゃない。それは領民たちへの裏切りとなる。もっとも、いまから行う商談も裏切りに見えるだろうが。

 

「マーネン商会のモットーは、『揺り篭から、墓場まで』だったな?」

「……? えぇ、そうですなぁ。間違いありません」

 

 そこで、俺は身を乗り出し、アルフェへ近づく。そして小声でささやく。

 

「ならば、人を扱っているか?」

 

 アルフェと、そしてデミオ老が驚きに目を見張る。老に関して言えば、がたり、と立ち上がるほどだ。驚きのほどが良く分かる。

 

「ご領主さま!」

 

 デミオ老の悲痛な叫び。無理もない、この村はかつて子供たちを人買いに売り飛ばしている。そうしなければ、生き残れなかったから。そんなトラウマを刺激されて、動揺しない方がおかしい。

 それに対して、アルフェはすぐに商人の仮面を被り直すと、にたり、と粘つく笑みを作る。倫理観、いや、前世の世界ならともかく、今世のこの国。パルサ王国では奴隷は合法なのだから、単純に大きい商談が来て、算盤をはじいているのだろう。

 

「人は、高いですよ? 御用意できるので?」

「……問題ない」

 

 そう、問題ない。財貨、という意味でなら。

 そのための研究者たち、そのための伯爵領から持ってきたポケットマネー。

 そも、なぜ俺がそのような額の金を用意できるのか。それは、かつて俺が伯爵領。伯爵家で売り捌いたものたちの利益だ。

 

 それは、火の秘薬。……いや、もっと分かりやすく言おう。黒色火薬、そしてそれを利用したダイナマイトもどき。炮烙玉とでも言うべきか。さすがにニトログリセリンは用意できなかった。というより、しなかったというのが正しい。

 さすがにこの世界の危機管理でニトログリセリンを用意したら、不用意に爆発させ、城が瓦礫の山になるのは想像に難くない。その危険性が分かっていながら用意するほど、バカでも向こう見ずでもない。

 他にもローマンコンクリートや猫車、円匙(えんし)(シャベル)等多岐にわたる。まぁ、円匙に関しては鉄を使うことからあまり数は用意できなかったが。伯爵家としては、どうしても農業器具より武具を揃えなければならなかったのだから仕方ない。

 

 それらを研究、売り捌いたのだ。……姉貴の名義で。

 さすがに、いくら伯爵家の息子とはいえ、四男坊でさらに言えば子供に信用も信頼もあるわけなかった。そのため、姉貴の、アマテル・アルデバランの名前を貸してもらったのだ。

 ちょうど、当時パルサ王家にマイア姫という自ら財政に関わる型破りな姫がいたことで、一部の令嬢の間では財政に関わるということが流行っていた。そのため、怪しまれることがなかったのは幸いだった。

 そういえば、そのマイア姫。最後は金稼ぎに精を出す子爵家に自ら降嫁した、という破天荒ぶりだったと記憶しているが、その後どうなったのだろうか?

 

 まぁ、というわけで資金源に関して言えば心配ない。姉貴が親父どのの尻を蹴って援助を引き出したのも、俺の領地をさっさと安定させて、領地、伯爵家、公爵家で交易路を結んで利益を得たい。という思惑も絡んでいるのだろう。

 なにせ、権限を持たない俺の手慰みの商売でそれなのだから、本格的に領地が軌道に乗れば、と考えるのは自然だ。

 

「それと平行して、この村から売られた奴隷がいるなら優先的に買い戻したい。むろん、手間賃はその分払おう」

 

 その言葉に、今度こそアルフェはぎょっ、としている。さすがにそんなことを言うのは想定外だったようだ。

 そして、デミオ老は俺の言葉を聞いて、すこし瞳が潤んでいる。俺の言葉が本気で、俺が本気で買い戻そうと考えているのが分かったのだろう。奴隷買いも、それが目的だと思ったのかもしれない。

 それも目的ではある、が優先すべきは人的資源の確保だ。村を、領を発展させるために、だ。

 

 そしてアルフェも俺が本気だと悟ったのだろう。

 

「よござんしょう。こちらも努力させていただきます。その代わり――」

「分かっているとも。金に糸目は着けない。ただ、最低でも大人を三十人。それだけは確保してくれ」

「えぇ、承知しました」

 

 アルフェはにんまり、と笑う。取引成立だ。

 

「今回も良き取引でした。今後ともよろしゅう」

「あぁ、こちらこそ」

 

 互いに立ち上がり、手を握る。後は、どれほどで奴隷が来るか。そして、どれほど来るか、だ。

 どちらにせよ、すべては来た後。そういえば、奴隷はとりあえず館の方に住まわせればいいか。まだ、部屋も余っていることだし。

 そう考えながら、アルフェを見送るのだった。

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