転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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二話

 結局、俺が任地へ着いたのは完全に日が沈む頃合い。現代で言えばおおよそ午後6時前後だった。

 ちなみに、この世界にはまだ時計という概念はない。つまり、この例えも俺の目分量みたいなところがある。

 

 それはともかくとして、さすがにこんな時間では出迎えも期待できない、と思っていたのだが。

 

「まさかな、驚いた……」

 

 出迎えがあった、というのも驚きの理由だがそれ以上に。

 まず、家屋。下手すれば倒壊しかねないような旧さに見える。いったいいつ、そして、どうやって建てられたんだ。

 次に住民たち、服の上からでもわかるくらいに痩せ細っている。それでも男衆はまだ筋肉は残っているようだ。そとで仕事をする関係だろうか?

 

 そして一番の理由男女の、大人と子供の比率がおかしい。

 おそらく、一番前に立っている白髪も髭もボサボサな老人。彼が顔役。村長的な立ち位置なのだろう。その他はほとんど二十から三十代に見える。子供なんてちらほら、と数人見える程度だ。これは……。

 

「人買いにでも売ったか……?」

 

 ぼそり、と口の中で呟く。

 この世界では公然と奴隷が罷り通っている。まぁ、中世の文化であるし、人権宣言、なんてものはまだないだろう。

 

 こんな寒村では、そうなるのも致し方なし。そう理解できる。それでも危機的情況は抜け出せていないのだろう。住民の目には、諦め、諦観の感情が浮かんでいる。

 今まで俺の他にも代官が来ていたのかもしれない。

 そんな俺の考えは、案内された建物をみて確信に変わった。

 

「……ここが、ご領主さまの館にございます」

 

 感情のこもらない声で語る老人。

 そして、その目の前では――村に比べると、だが――丈夫な造りの館が月明かりに照らされている。明らかに手入れも行き届いていた。

 

「……愚かなことだ。レグルス」

「わかっていますとも、アインさま」

 

 打てば響く、水が流れるような応酬。俺たち二人の考えは一致している。

 こんなところで搾取していた大馬鹿者の捜索、そして処分。これをしなくてはならない。今後のため、そして俺たちのために、だ。

 

 ここの住民たちの諦観も当然だ。こんな搾取をされていたであろう状態で領主が来た、と言ったところで信用も信頼もされるわけがない。むしろ、また搾取が始まると絶望するだけだ。

 しかし、そんな感情を見せようものなら住民が処分されるのもまた必然。ゆえに隠すしかない。それが無表情、無感動の正体だ。

 

 こんな村の状態では俺の目標など夢のまた夢。村の再建以前に、まず住民に信頼してもらわないと話にならない。

 そのためにできること。

 正直、俺としても(はらわた)煮えくり返る想いだが、前任者はとりあえず放置するしかない。それを今やったところで意味はない。

 今必要なのは支援。それも早急な、だ。

 

「アスガル、済まないがひとっ走りしてもらう」

「はっはっはっ、構いませんとも坊っちゃん。このアスガルにお任せくだされ」

 

 気の良いアスガルの返事。しかし、俺にはわかる。本の少しではあるが、アスガルの声が硬い。間違いなく内心ぶちギレている。

 アスガルはなぜか俺のような伯爵家から期待されていない坊主に着いてくる物好きだが、騎士として将来を期待されていたエリートの一人だ。

 そして、それは精神性にも現れている。こいつは弱者、市民は守るべきもの。という考えが念頭にあり、こんなことが罷り通っていたなど考えもしなかったはずだ。

 そんなことが目の前にある。それはアスガルという騎士の否定であり、唾を吹きかける行為。ぶちギレないはずがない。

 それを体力を使うことで少しでも発散してもらう。それに、ここでもっとも体力的に優れているのもアスガルだ。こいつなら、すぐにでも行動できる。

 だから、俺は打開のため、アスガルへ命令を下す。

 

「では、今すぐ出立して伯爵領へ頼む。してもらいたいことは二つ。一つ目は父上へ現状の報告、ならびに支援を取り付けてもらえ。あぁ、支援は食料だ。炊き出しをするからな」

 

 このままの状態ではとてもじゃないが、この領地は冬を越せない。間違いなく全滅する。

 親父どのとしても、期待していなかった息子が赴任した直後に領民が全滅なんて醜聞、どうしても避けたいはずだ。それを考えれば支援を取り付けるのは難しい話じゃない。

 

「それともう一つ、姉上と面会して村の惨状を伝えた上で、一筆もらってくれ」

「一筆、というと公爵家、ですな?」

「あぁ、そうだ」

 

 俺の姉貴、アマテル・アルデバランは内々に公爵家の跡取り。嫡男であるイクリル・イオスと婚姻を結んでいる。つまり、後の公爵家当主の正妻となる立場だ。

 その姉貴に頼んで公爵家に動いてもらう。赴任直後に公爵家を動かす、という俺にとっては醜聞となるだろうが、そんなことはどうでもよろしい。名より実だ。名はあとから取り戻せば問題ない。

 

「公爵家には工兵、いやさ。黒鍬を借り受けたい、と伝えるんだ」

 

 いくら伯爵家が準備したところで、この領地までは道なき道を進んでいた。それでは間に合わない可能性が高い。だから、少しでも助かる可能性を高めるため、物資の輸送と街道の整備を同時にやる。

 それに街道を整備すれば、今後の村の発展にも繋がるはずだ。こんな陸の孤島では交易もなにもできたものではない。

 公爵家には伯爵家として、そしてアイン個人として借りを作る形となる。あとでどんな徴収があるか、と考えると頭が痛くなるが、それはあとの俺に任せるとする。

 問題の先延ばしだが仕方ない。

 

「ご老人、あなたがこの村の顔役でいいんだな?」

「はい、その通りでございます」

 

 老人が深々と頭を下げる。後ろで青髪の女の子が大人、おそらく、父親にぎゅう、と強ばりながら抱きついているのが見えた。

 こんな子供にまで恐怖されている事実にへこみそうになる。しかし、そんなことでへこたれている余裕はない。

 

「ご老人、村の蓄えについて聞きたい。案内してもらえるか?」

「……はい」

 

 明らかに老人が強ばった。蓄えも少ないのは既にわかっている。その蓄えを奪われると考えたのかもしれない。……これが、この村の現状か。

 無駄かもしれないが、俺は努めて穏和な、優しげな声で話しかける。

 

「なにも、奪うつもりはない。安心してくれ、なんて言えない。だから、宣言しよう」

 

 老人を前に俺は胸を張る。これから行うのは宣言。それ以上に老人との、村の人々との契約。

 

「我が家名、アルデバランに誓おう。諸君らの食料を奪うことはしない、と」

 

 貴族にとって、家名とは伝統にして誇りだ。それにかけると誓った。これは誓約だ。彼らと、俺の。

 我が宣言を受け、老人の瞳へ僅かに光が戻る。老人だけは知っていたんだ。貴族が名をかける、という意味を。

 

「ご貴族さまが、そこまで仰られるのなら……」

 

 老人の声が震える。怖いだろう、今まで搾取されていた側が、再び支配者を信じる、という行為は。恐ろしいだろう、自身の決断次第で家族が、村の仲間の命運が決まるのは。

 だからこそ、俺は裏切れない。裏切ってはいけない。

 そんなことをしたら、どの口で言えばいいんだ。

 

 ――ライナを、幼馴染みの妹分を救いたい、と。

 

 目の前の、救われるべき民を救わずに。どうして言えようか。一人の人間として、貴族として、統治者(人の上に立つ者)として。

 

「あぁ、信頼してほしい、とは言えない。だが、それでもどうか俺のことを信じてほしい」

 

 俺は老人に、民に、本来守るべきものたちに頭を下げる。本来、愚かしい行動だろう。

 村人たちの、アスガルの、レグルスの息をのむ音が聞こえた。それでも、誠意を示すにはこれしかなかった。

 若造の俺には、これしかなかったんだ。

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