転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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三十三話

 どかっ、どかっ、と蹄鉄の力強い音が響く。

 俺はいま、馬上の人となり野道を駆け抜けていた。

 びゅう、びゅう、と風が頬を叩き、ばたばた、と服がはためく。

 あのあと、色々と大変だった。主にレグルス、アスガルを説得するのが。なお、ヴァンの方については問題なかった。最後、顔を青くしていたが、それはまぁ、頑張ってもらおう。マイア姫への説明とか。

 

 それはともかく、今後のことを考えるとやはり、一度直接公爵閣下と話すべき。そう考えたこともあり、俺が公爵領へ顔を出すことにしたのだ。

 もっとも、いま、俺は護衛なしの単独で行動している。これはヴァンの連れてきた奴隷たちが単なる職人だけではなく、戦争奴隷。もと兵士などが含まれていたからだ。

 いくら奴隷契約を結び、なおかつ三年契約の件も認知させているとは言え、荒くれ者たちはどういう行動に出るか不透明だ。そのため、万が一の可能性を考えてアスガルは動かせなかった。

 そして、アスガル以外に俺の護衛を出来る人材がいない。これは、兵士がどうとかという話ではなくて、単純に信頼できるに足る存在がいない、というところが前提だ。

 

 もっとも、そのために今回、俺は馬に乗って移動している。なお、この馬はマーネン商会から仕入れている。こうでもしないと単独行動は危険、だからな。

 まぁ、そのお陰で現在、野盗やモンスターには遭遇していない。遭遇したらお仕舞いなんだが。

 とにもかくにも、このままなら問題なく公爵家へたどり着けそうだ。俺は着いた後のことを考えながら、さらに馬を走らせる。一刻も早く着かせるために。

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか、問題なく着いたか」

 

 俺はいま、イオス城下にいる。

 なんとか、あの後も問題なく旅路を終えることが出来た。さすがに馬を町へ入れるわけにもいかず、厩舎に預けている。

 さて、あとは城で閣下に謁見するため、登城しなければ。

 幸いにして公爵閣下と懇意の間柄になっていることから城門は顔パスだ。ここはエレインや過去の自分に感謝だ。

 それにしても、ここは統治が行き届いていることからも分かるように活気がある。

 がやがや、と商人や民たちの商売や雑談。警らしている騎士たちの、がちゃがちゃ、と鎧の擦れる音。それに甲高い少女の声が聞こえる。

 

「あぁ! アイン!」

 

 ……うん。甲高い声? というより、思いきり聞き覚えのあるこの声は――。

 

「……エレイン?」

「アイン、なんでここに?」

 

 たっ、たっ、とこちらへ駆けてくるエレイン。その背後には、騎士たちが複数人、遅れるなとばかりに追いかけてきている。

 視察、という出で立ちではない。もしや、こいつも警ら中だったのか。少なくとも、民たちが騒いでいる気配はない。つまり、見慣れている光景、ということだ。

 

「お前は仕事か?」

「えぇ、そうだけど……。あぁ、うん。ここに帰ってきてから、お父様にこういった仕事を任されるようになったの」

 

 俺が疑問を持った、と感じたのだろう。エレインは補足説明をしてくれた。しかし、閣下。娘に治安維持の仕事を任せる、というのはどうかと……。

 なんとも複雑な感情を前に出しそうになって押し殺す。下手にそんなものを見せようものなら、エレインはへそを曲げかねないし。

 そこへ、こちらに追い付いてきた騎士のひとりが話しかけてきた。

 

「お嬢さま、急に走られると困ります! ……おや、きみは――」

「お久し振りです」

 

 たしか、彼は公爵家付きの騎士のひとり。だが、位は高くなかったはずだ。高くなかったからこそ、見覚えがある。一時期、エレインの側周りもしていたと記憶している。

 と、いうことは彼はエレインの部下として配属された、ということかもしれない。

 

「それで、アイン。なんで、あなたがここに?」

 

 不思議そうにこちらを見やるエレイン。配下の騎士たちも半分警戒、半分好奇心でこちらを見ている。ちなみに、前者は俺がこちらへ顔を見せなくなった後に召し抱えられた騎士。後者は面識のある騎士だ。

 それはともかくとして、さすがに目的をすべて口に出すことは出来ない。往来だと、どこに耳があるか分からないからだ。

 なので、俺は当たり障りのない部分だけを口にした。

 

「あぁ、少々閣下のお耳に入れたい事柄が出来てな。で、なおかつ動く者がいなかったので直接こちらへ来た」

「……そういえば、アイン。あなた、護衛は?」

 

 辺りを見渡した後、じと目でこちらを見つめてくる。あきらかに機嫌が悪くなっている。しかし、だからといってなぁ……。

 

「動く者がいなかった、と言ったが?」

「……あんたねぇ!」

 

 怒髪天を衝く、とまではいかないが、あきらかに怒りが爆発していた。さもありなん、といったところだが。

 

「あんた、この間――?!」

 

 そのまま捲し立てようとするエレインの唇へ指を当てる。ぷっくり、とした柔らかい感触を指に感じた。

 エレインはびくり、と驚き体を固まらせる。

 彼女に近づいたことで甘い、少女らしい香りが漂ってくる。それでやはり、彼女がどれだけ勇ましくとも、女の子である、ということを改めて感じる。

 

「お前が怒るのも分かってる。でも、今回だけは、どうしても、な? 許してくれ、とは言わないが。理解してくれると助かる」

 

 なるべく優しげな音色で語りかける。

 エレインは、壊れたマリオネットのようにかくかく、と頷いていた。そして、心なしか頬が赤くなっているようだ。

 ……さすがに、うら若き乙女へ不用意に近づきすぎた、かな?

 もしかしたら、後で謝り倒す必要があるかもしれない。

 それに一部の騎士は、こちらをすごい目で睨み付けている。そりゃ、そうだ。お嬢さまに悪い虫がついたも同義なのだから。

 

 これは、別の意味でも閣下に会う必要が出来た、ということかな?

 

 俺は頭が痛くなりながらも、エレインを正気に戻して城への水先案内を任せるのだった。

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