転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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四話

 俺たちが寒村へ訪れた翌日。早朝にアスガルは指示通り旅立っていった。俺たち三人がこちらへ到着するまで約三日掛かったが、それはあくまで俺とレグルスというお荷物がいたからの結果。アスガルの健脚なら一日で到達するだろう。

 まぁ、到達したあとにも色々としなければならないことがあるのだから、こちらへ帰ってくるのは今しばらく時を必要とするだろうが。

 

 それよりも、問題はこちら側だ。

 俺の予測が正しければ、任命から着任まで時間がなかったこともあり、代官。いや、もと代官は不正の隠匿を完全に行えていないはず。

 それを見つけることができれば、物資の足取りを追える。もしくは物資自体がこの館に保管されている可能性すらある。

 そのための捜索要員を老人へ頼んでいたわけだが。

 

「よ、よく来てくれた……」

 

 一応、気を付けているつもりだが、顔は引き攣っていないだろうか。それほどまでに、来てくれた人々が予想外だった。

 男は数人で他は全て女性。別に女性を差し出せ、などと命令したつもりはないのだが……。

 それ以上に俺を困惑させたのは。

 

「おにーちゃん、ぼく手伝いに来たよ!」

「そ、そっか。ありがとう」

 

 俺の足元でにぱぁ、と笑う少女。昨日、大人に抱きついて震えていた、あの青髪の少女が笑顔を浮かべていた。

 

 ――なぜに? どうして?

 

 それが俺の偽らざる気持ちだった。

 ……いや、まぁ。嫌われているよりは万倍マシなんだが。

 

「おや、メルはご領主さまを好きになったのかい?」

 

 女性の一人が少女へ話しかけた。彼女はメル、という名前らしい。

 

「うんっ! だって、おとーさんもおじーちゃんも言ってたもん。今度のりょうしゅさま? はやさしいかも、って」

「そうかい、そうかい。それは良かった」

 

 にこにこ笑いながら受け答えする二人。というか、そういう話題は本人の目の前でするものじゃない。すごく、小恥ずかしい。

 て、待て。それより、お爺ちゃん? 昨日見た老人は顔役の彼だけだったはずだが……。

 

 そんな俺の疑問が顔に出てたのだろう。受け答えしていた女性が、ころころ笑いながら答えを口にする。

 

「ご領主さま。メルは顔役の孫なんですよ」

「やはり、そうなのか?」

「……えぇ。だからこそ、村に残れたとも言えますが」

 

 女性の顔に影が射す。そうだったな、子供の大部分は人売りに売り払われているのだった。もしかしたら、彼女の子供も。

 その中で、無事な村の子供である少女、メル。そんな存在は可愛らしく写ると共に複雑な感情を抱いても不思議じゃない。

 

 ……あぁ、だからこそか。

 

 村人にとってメルは羨望と嫉妬の対象だ。

 不謹慎だが、今は危機的状況だから良いだろう。しかし、村が安定すれば?

 その時、何らかの悪意がメルへ向く可能性は十分ある。それを防ぐため、ここへ向かわされたのだろう。俺という貴族と知己を得るため。もしもの時の後ろ楯とするために。

 

 ――一瞬、アンリの死に顔がフラッシュバックした。

 

「……くそ」

 

 嫌なものを思い出した。

 彼女の安らかな、しかし、唇から命の源。血が流れている姿。

 いや、そんなことを思っている暇はない。彼女がそうなりそうだと言うのなら、守るべきが今の俺ができる唯一の手向け。

 

「アインさま……」

 

 レグルスが心配そうな声色で話しかけてくる。しまった、顔に出てたかな。俺は努めて冷静に小声で返す。

 

「大丈夫だ、レグルス。今はそれより」

「御意、ですが無理をなさらず」

「あぁ。……するものかよ」

 

 俺は誓ったんだ。あの娘を、ライナを助けると。それまではなんとしても生き残って見せる。たとえ、泥水をすすることになっても。最後に勝利者となればいい。

 それよりも、今は。

 

「それでは、今日。みんなに集まってもらったことについて説明する」

 

 今は、この村を救うことに集中しないと。

 

 

 

 

 その後、村の人間へ考えを説明するのと共に館の家宅捜索を開始。……したのだが。

 

「こうまで出るとはな」

 

 出るわ出るわ、女の直感、とでも言うべきか。彼女らが怪しいと思うところを調べると書類やら現物など次々と現れる。

 特にメルが隠し部屋と、そこに高く積まれている食糧を発見した時など、頭を抱えたものだ。

 しかも、書類に記されているもの。これは……。

 

「面倒なものだ。しかも、間違いないとは」

「えぇ、アインさま。……まったく、王国の官吏とあろうものが」

 

 少し、レグルスの語気が荒くなっている。彼としてもここまで杜撰なものは許せないのだろう。

 間違いなく王都の、王宮でうごめく派閥の仕業だった。こんな辺鄙な村の物資をちょろまかして、少しでも事を有利に運ぼうとしていたのだ。しかも、それを行っていたのが。

 

「よりによって、第二王子。アクラ派の人間か」

 

 第一王子、嫡男のダレス王子の対抗馬と目されているアクラ王子の派閥である、という事実。巷では改革派などと謳っているが……。

 

「これでは改革ではなく、革命ではないか」

 

 かつての世界、平等を謳いながらその実、上層だけが物資を独占。利益を得ていた政治思想を思い出す。唾棄すべき考えだ。

 これだけのことが起きているとなると、明らかにこちらの領分を超えている。

 

「できれば、公爵家にご報告申し上げたいが……」

 

 走らせるだけの人間がいない。こうなると結果論であるが、アスガルを早めに発たせたのは失敗だったか。

 

「いや、そんなことを考えても仕方ない」

 

 頭を振って、益体もない考えを追い出す。あの時点では、それが最適解だった。たられば、を言っても仕方ない。今ある手札でどうにかするしかない。

 

「ともかく、今できるのは証拠の保全だ」

 

 物資は村が壊死しないため使う必要がある。が、書類等は別だ。明確な証拠になる。もっとも、逃げたもと代官が尻尾切りで処分される結末だろうことは想像に難くない。

 それでも動かないよりはマシだ。それに。

 

「これで公爵家へ借りを全部返せる、とは言わないが」

 

 それでも、多少は功績となるだろう。ある程度、恩義に報いるというポーズにもなるはずだ。

 

「レグルス!」

「はいはい、アインさま」

 

 作業をしていたレグルスを呼び出す。あいつも違う場所で作業をさせていたが、こちらの保全が優先だ。

 

「どう思う?」

 

 ぺらり、とパルサ王家。第二王子の印が記された書類を見せる。

 訝しげに眉をひそめたレグルス。資料を捲るたび、眉間にシワがよっていく。

 

「誤報や偽装という線は?」

「あり得ませんね、これ。ちゃんとした王家の印です。嘆かわしいどころの話じゃありませんよ、これ」

 

 先にレグルスが官吏として辣腕を振るっていたと語った通り、こいつは一時期伯爵家の重要な部分の処理をしていた。だから、王家の印もみているだろう、と思ったのだが。

 

「完全に黒、ということか?」

「黒も黒、真っ黒ですよ。馬鹿じゃないですかね、ここの代官」

 

 はぁ、と深いため息をつく。間違いなく、これが部下にいたらレグルスは首を飛ばしていただろう。比喩的か、物理的にか、は分からないが。

 

「さて、アクラ派はどういう思惑だと考える?」

「辺境だから、バレないと思ったのでは?」

「まぁ、それが一番の可能性だろうなぁ」

 

 レグルスの指摘に呆れ果てながら同意する。

 隠すにはあまりにも杜撰すぎる手口。なにせ、部屋には鍵すらかかっていなかったのだ。最初は欺瞞のためかと勘ぐったぐらいだ。

 それに王家の印を使うのは、さすがにくそ度胸過ぎる、と候補から除外したのだが。

 

「ともかく、証拠は証拠だ。レグルスも手伝え」

「了解です。……まったく、なんてことだ」

 

 ぶつくさ言いながらも手を動かすレグルス。それを横目に見ながら、俺も俺で動くのだった。

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