転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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四十三話

 メルたち、兵士見習いの訓練を見て、ほっこりとしていた俺の耳に、カァン、カァン、と鐘の音が聴こえてくる。

 以前のスタンピード。あれの教訓として設置された、外からの来訪――望む、望まれぬ関わらず――を告げる鐘の音だ。

 

 しかし、焦ったような鐘の打ち方ではない。ならば、少なくとも、敵襲ではないのだろう。つまり――。

 

「……お客人? いや、そういえば――」

 

 そういえば、物見にはアスガルが帰還した場合。鐘を鳴らすよう申し付けていた。つまり、アスガルの姿が確認できた、ということだろう。

 そして、アスガルが帰ってきたということは……。

 

「……さて、忙しくなるかな?」

 

 帰ってきた、ということは金鉱の調査が終わったということ。

 ここからは、アスガルから引き継ぎ俺たち。レグルスが考えた金鉱採掘の拠点。新たなる村の場所選定が改めて必要になる、ということだ。

 

「楽しそうだねぇ、領主さま?」

「うぉっ……!」

 

 いつの間にか、横に来ていたイオネがにやにや、と笑いかけてくる。思わずのけ反ってしまった。色々と心臓に悪い。

 それに、彼女のフェロモン、とでも言うべきか。鼻を、男の(さが)をくすぐる好い匂い。そういう意味でも心臓に悪かった。

 なにより、彼女は俺をからかうような行動をするのを好んでいるようだ。

 勘弁してほしい。そう思いながらも、同時に俺へ振りかかる()()に、心を弾ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊っちゃん、戻りましたぞ!」

 

 バタン、とけたたましい音を響かせ開け放たれる扉。もはや様式美となったアスガルの帰還だ。

 

「アスガル、貴様。少しは静かに帰ってこれないのか?」

 

 頭が痛い。無駄だと思いながらも注意する。

 しかし、当の本人はどこ吹く風。快活に笑いながら無理ですな! と、一刀両断してきた。

 

「俺が静かに帰ってきたら、もはや騎士アスガルではありますまい!」

 

 ……胸を張って言うことか!

 アスガルの有り様にイオネは腹を抱えて笑っているし、レグルスはまた、この筋肉バカは……。と言いたげに頭を抱えていた。

 俺もレグルスが頭を抱えてなかったら、あいつの代わりに頭を抱えていたはずだ。

 

「……もう良い。それより、報告は?」

「はっ!」

 

 アスガルの元気の良さについては棚に上げるとして、俺は報告を促す。こいつが帰ってきた、ということは金鉱の調査が終わった、ということ。その報告を聞かねばなるまい。

 

「お喜びください、アインさま。山師の調査では金鉱があるのは確定。しかも、複数箇所にある可能性が高い、とのことでしたぞ!」

 

 アスガルの報告に、俺とレグルスはぴしり、と固まる。

 本来であればでかした! とでも称賛したいところだ。しかし、こいつ、いまなんと言った。

 金鉱が、複数箇所にある……?

 

 俺もレグルスも金鉱がそこまで大規模なものである、とは想定してなかった。いわば、良い報告であると同時に、悪い報告でもあった。

 良いのは、かなりの収益が見込めること。悪いことは防衛計画の――金鉱村、ならびにカモフラージュ用の村――再検討が必要となったこと。

 

 横で見ていたイオネもおやおや、とでも言いたげな困った顔を見せている。

 なお、彼女には俺が雇うと言ったタイミングで金鉱については教えていた。ここで下手に隠して痛い腹を探られたくなかったからだ。

 それに、仮にイオネが首輪つきだったとしても、それをつけているのはマイア夫人辺りだろう。間違っても王都方面ではない。

 なにしろ、あれらは傭兵を下賎と、下に見ている。それでも稼ぎが良いなら彼女も馳せ参じるだろうが、ここまで辺境領の扱いが杜撰だった第二王子の派閥に近づくほどイオネは愚かじゃない。それはこの一週間で良く分かった。

 

 それはともかくとして、アスガルの報告について考える。

 正直、アスガルなりの笑えないジョークならありがたいのだが……。

 

「おい、アスガル。いまの話は本当か?」

「……? もちろん、本当のことですが?」

「まぁ、そうだよなぁ……」

 

 アスガルは嬉々として報告していたのだから、嘘ではないのは明白。そも、今回に関してアスガルが喜ばしい、と考えているなら嘘をつく理由がない。ないのだが……。

 

「さて、どうする。レグルス」

「どうしましょうか、アインさま」

 

 互いに深刻な顔で見つめ合う。アスガルも俺たちの雰囲気に困惑していた。なにしろ、場の雰囲気が急速に冷え込んだのだ。おかしい、と思うのは必然だった。

 

「……あの、坊っちゃん?」

「ちょうど良い、アスガル。お前も考えるのを手伝え」

「は、はぁ……」

 

 気の抜けたアスガルの返事。まだ事態を飲み込めていないのだ。そんなアスガルへイオネが現実を突きつける。

 

「で、騎士さま? 見つけたは良いけど、兵力の配置はどうするんだい? さすがにアタシたち紫煙の蜻蛉団だけじゃ賄いきれないよ」

「あっ……う、うむ」

 

 イオネの指摘でようやく合点がいったようだ。それに、そうじゃなかったとしても傭兵団としての側面を持ち、まだ領地に馴染んでいない彼らに金鉱の防衛を任せるのはリスキーだ。

 むろん、イオネやデフ指揮を取っていれば大丈夫だろう。しかし、二人で傭兵団を四六時中監視できるわけもない。

 そこから跳ねっ返りや、頭の軽い者から金鉱のことが露見したら最悪だ。そういう意味で、彼女たちだけに委任するのは厳しい。そもそも、イオネやデフが金鉱に縛られると、また組織が逆戻りしてしまう、という切実な事情もあるのだが……。

 

「さて、本当にどうしたものか……」

 

 降って湧いた朗報にして凶報。その解決策を得るため、俺たちは互いに頭を働かせるのだった。

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