転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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六十話

 てくてく、と領主館の廊下を歩く俺とイオネのふたり。横から、男性としての欲を刺激する芳しい香りが流れてくる。

 ……前はそこまで露骨ではなかった。しかし、彼女と身体を重ねたあの日。それ以降から、彼女は少しづつ、そういった香りを身に纏うようになった。

 

 ――初めは……一時の気の迷いのようなものだった。

 

 昨年の俺の叙爵が決まる少し前。夏が終わり、少し涼しくなってきたかな、と感じてきた頃。俺とレグルスと政務のデスマーチ。それでだいぶん精神的に参っていた俺を心配しての行動だったのだろう。

 最初は彼女がティータイム用の紅茶や緑茶を入れてくれたのが始まりだった。……紅茶はともかく、緑茶は勝手が分からず大変だったろうに。ありがたい話だ。

 

 そして、それが少しづつエスカレート。いや、大胆になっていった。俺が休まないから、と無理やり膝枕に寝かせたり、心音を聞かせればリラックスするから、と胸元に抱き締めたり。

 

 その果てが、男女の関係だった。

 

 それを求めてきた。いや、誘ってきたのも彼女だった。むろん、断ることはできた、はずだ。

 しかし、出来なかった。その時、既に俺は彼女を一人の女性として意識していたから。

 

 機械であればそうあれたかもしれない。

 しかし、男として好いた。意識した女性からのアプローチを無視することなんて、出来なかった。

 自身が抱くことで得られる休息を、安らぎを捨てることなんて出来なかった。

 

 そして、その関係がずるずる、とここまで続いている。

 

 いや、違うな。続けている。それが正しい。そして、俺という男は、彼女に俺の子を産んでほしい。そんな浅ましい願いを抱いている。

 もちろん、その事での責任を放棄するつもりなんてない。嫡男として据えるのは難しかろうが、フェネクス男爵家の一員として迎え入れる。絶対に、だ。それは変わらない。

 

「アインさま……いや、坊や?」

 

 ドキリ、とした。

 イオネの艶やかな、それでいて潤んだ声。

 先へ歩いていたはずの彼女が振り向く。その頬は薄紅色に彩られていた。

 

「ずいぶんとぶしつけな視線じゃないか。女は、男の視線に敏感だよ?」

「すま――」

「いいよ」

 

 はにかむイオネ。彼女の表情にふたたびドキリとした。気を張ってなかったら、それこそ抱き締め――いや、壁へ追い込んでいたかもしれない。

 それ程、彼女が魅力的に見えた。

 

「……だけど、話があるって言っただろう? それが終わってからだよ」

「あ、あぁ。そうだな……」

 

 どこか遠慮がちな彼女の言葉。もしかしたら、彼女自身も待ち望んでいたのかもしれない。そう思うと、心の中に歓喜が巻き起こる。

 ……ともかく、まずは彼女の話を聞こう。

 逸る心を落ち着かせながら、俺はそう思った。

 

 

 

 

 そうして俺たちが来たのは館の執務室――ではなく、領主。つまり、俺の私室。プライベートルーム。

 基本、俺が重要な報告を受ける場であり、そして、イオネと初めて身体を重ねた場所でもある。

 かつてイオネを抱き留めた椅子に腰掛けながら、俺は彼女の報告を待つ。

 そして、その報告は――。

 

「部下がマーネン商会から聞いた話なんだが、奇妙な噂が立ってる。王族似の奴隷が売られている。そんな噂だよ」

 

 ――俺の浮わついていた気持ちを吹き飛ばすにあまりある言葉だった。

 脳裏によぎったのは、ライナの、守ると誓った。守りたいと願った少女の姿。

 がたり、と俺は立ち上がる。

 

「……それは、ほんとうか?」

 

 声が掠れる。いつの間にか、喉がからからになっている。

 

「あくまでも噂。でも、マーネンが動いてる。その意味、坊やなら分かるだろ?」

「……っ、マイア夫人か」

 

 マーネン商会はディオスクロイ子爵家の御用商人。そして、マイア夫人の意を受けて動く組織。それが動いている。つまり、確度の高い情報だという証拠。

 

「……なんて、ことだ」

 

 がしり、と頭を掴む。一瞬走った痛みに顔をしかめるが、そんな状態じゃない。王族が売られている? しかも、奴隷に?

 

 ――正気か?

 

 それが偽らざる俺の気持ち。

 

「一応、アタシの部下でとくに優秀な奴らを、マーネンと一緒に活動させてる。近いうちに何らかの報告をあげられる、と思うよ」

 

 そう言いながら、イオネは俺に近づいてくる。そして――。

 

「なに、を。うぁ……」

 

 とん、と押されて椅子へ座らされる。そして、イオネが正面から抱きつくように股がってきた。

 

「坊や、また余裕がなくなってる」

 

 イオネの吐息。それが頬にかかり、どくん。と心臓が跳ねる。頭のなかではこんなこと、している場合じゃない。と、警鐘を鳴らしている。しかし――。

 

「坊やの不安、アタシに吐き出しなよ」

 

 イオネの、好いた女の艶のある声。暖かい体温。柔らかく、心地よい感触。それが俺の理性を侵食する。

 わずかに残った理性が、敵わないな。と、白旗をあげる。

 

 不安もある、恐怖もある。

 それを吐き出せ、と目の前の女が言う。

 そんなことを言うから、そこまで気遣ってくれるから、俺は彼女に溺れたというのに。

 ぎゅう、と抱き締め胸元へ顔を埋める。

 

「ん、ぅ……」

 

 女の、イオネの艶やかな声。それが俺の理性を焼ききり、狂わせる。

 そのまま、俺は衝動に身を任せ、イオネもまた、俺へ身体を開く。俺を包み込むように。

 そうして、しばらく。部屋のなかでは男女の荒々しい呼吸のみが響いていた。不安を、恐怖を吐き出すように。受け止めるように。

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