転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件 作:想いの力のその先へ
レグルスの報告、一部の奴隷が解放拒否のデモを行っている、という話を聞いてから一週間が経った。
あのあと、何度かの話し合い。そして当人たちへのヒアリングの結果、出来た草案を開示、説明を行った。
最初の説明では大丈夫なんだろうか、と否定的な者たちもいたが、根気よく説明することで、男爵さまがそこまで言うなら。と納得してくれたようで、改めてフェネクス男爵家で農奴制の政策を取ることとなった。
それと前後して、やはり人の口に戸は立てられなかったようで、我が領土。フェネクス男爵領が裕福である。という噂がまことしやかに囁かれ、移住者が増えてきた。
また、それに付随して護衛やこの領地で一旗揚げようと、冒険者たちも集まりだしてきている。
……と、まぁ。それだけなら良かったのだが。
「きゃあっ、フェネクス男爵さま!」
「男爵さまぁっ!」
と、町中を散策。巡察する俺に黄色い声。声援が聞こえてくる。
「は、はは……」
なるべくポーカーフェイスで声援をくれた華へ手を振る。
……なにを隠そう。俺が女好き、という噂も順調に増えているようで、あわよくば妾。側室になって玉の輿を、という女性陣も増えていた。
噂を流すのは早まっただろうか……?
そんな自問自答を繰り返す日々である。イオネやメルが冷たい目をくれるし、レグルスはやれやれ、と肩を竦めていた。
そしてさらなる問題は、そのレグルスによってもたらされている。
以前、俺はレグルスを家宰に任命するとともに人事権を与えたわけだが。今回、あいつはそれを行使し農業都市とフェネクスに、代官を任命した。
奴のなかで優秀な
ここでミソなのは女性が代官、ということ。ここまで言えば分かるかもしれないが、あの野郎。俺の側室候補として送り込んできやがったのだ。
名目上は、俺の
まぁ、さすがに女性。しかも代官相手に現状、手を出すつもりはない。
レグルスはフェネクス男爵家の血筋を増やしたい、という思惑で俺のお手付きを期待しているのだろうし、おおよそ、人柄や背景が問題ない人物を選別しているはずだ。
しかし、それはそれとして。片っ端から手を出して、代官や文官が足りなくなるのは本末転倒。それよりも、今は領地を完全に軌道に乗せることが先決だ。
……まぁ、単純に好みの問題。というのもある。
俺がイオネと関係を持ったのも、彼女が辛い時期に支えてくれたからだ。そこらの女性なら誰でも良い、というつもりは毛頭ない。
だから、そういう意味では玉の輿目的で来た女性たちはもってのほか。体を重ねるつもりも、手を出すつもりもない。
「まったく、困ったもんだ」
領主館へ帰路につきながら、独りごちる。
玉の輿を狙うにしても、それなりの家格。もしくは何らかの仕事を出来るものでなければ。
それに、今後は農業都市の他。河川河口に都市を築く予定なんだ。
その他にも、金鉱、鉄鉱の販路開拓。移民者の住居選定。奴隷に関しての農奴制移行の手続き。冒険者ギルドの誘致、建設。
それに、ハレム。離宮の、王族のお歴々を迎える準備。とてもじゃないが、酒池肉林などと現を抜かす暇はない。
「坊っちゃ――アインさま!」
どどど、と土煙がこちらへ近づいてくる。
アスガルがこちらへ走ってきていた。
すわ、なにか問題か。と身構える。果たして、それはある意味当たりだった。
「どうした、アスガル」
「急ぎ、領主館へお戻りください!」
「うん……? 既に戻っている――」
――最中だが。それを言う前にアスガルに手首をぐわりし、と掴まれる。
「えっ……。ちょっ――」
「急ぎますぞっ!」
ごう、と風切り音が響く。そして、身体が浮遊する。
「いだっ、いだだっ! おま――」
このバカ。俺を引っ張っての爆走を始めたのだ。俺は人形じゃないんだぞ!
そんな思いはアスガルへ届くはずもなく、俺は暴風にされされた枝葉のように、ふらふら、と揺られるのだった。
それで、早く領主館まで帰ってこれた、のは良かったのだが。
「ここです。ここにお客さまが……」
顔を引きつらせているアスガル。
ここに入れ、と。マジで?
「おい、アスガル。誰が来てるんだ?」
なんと言うか、客間の雰囲気がとても重いのだ。それこそ、空気が固体の質量を持っているように。
「申し訳ございません。口止めされておりまして……」
「はぁ……??」
口止めされてる? 誰に? 客人に?
というか、お前は俺の。フェネクス男爵家の騎士だろうが。どういうこったよ。
「アインさま、お進みください」
嫌です。そう言いたかった。あまりにもアスガルが平常と雰囲気が違いすぎる。
かといって、ここで押し問答していても意味がない。
――ええい、ままよっ!
俺は覚悟を決めて、がちゃりと客間へ入る。そこにはソファに座って、意識を彼方に飛ばして伸びているレグルス。そして、見覚えのある女性の後ろ姿。
「あら、ようやく来たのね。アイン?」
「アマテル、ねえさん……?」
ソファから立ち上がり、こちらを見る女性。
それは間違いなく、俺の姉。アルデバラン伯爵家令嬢にしてイオス公爵家嫡男。イクリルくんの婚約者。アマテル・アルデバランその人だった。