転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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七十四話

 

 わし等がアマテル殿に愛娘、エレインを任せてから、すでに三時間以上経っておる。あの娘は大丈夫であろうか……。

 応接間で待ちながら、わしは考えを巡らせておった。

 そんなわしに息子。イクリルが話しかけてきおった。

 

「父上、落ち着いてください」

「何を言う。イクリル、わしは落ち着いて――」

「ならば、剣の鯉口をかちゃかちゃ鳴らすのを止めていただきたい」

 

 ……ぐぅ!

 イクリルめ、痛いところを突きよる。

 たしかに、わしは心を落ち着かせるため、佩いていた剣に手を掛けておった。しかし、落ち着くことができなんだか。

 それにしても、エレインのあの姿。尋常ではなかった。フェネクス領、アイン坊のところで何が起きたと言うのだ。

 

「義父上、失礼いたしますわ」

「う、うむ……」

 

 考え事で上の空だったわしの前に、いつの間にかアマテル殿が立っておった。彼女がここにいる、ということは……。

 わしはがたり、と身を乗り出して問いかける。

 

「エレインは、あの娘はどうなったのだ」

「いまは落ち着いて、部屋で休んでいます。それと――」

 

 そこまで言うとアマテル殿は膝立ちになり頭を下げた。いわゆる土下座、であった。

 

「――申し訳ございません!」

 

 我が子の嫁殿の奇行に、わしはらしくもなく慌てることとなった。そして、それは横にいるイクリルもそうだったようで――。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください。アマテルさん、急にどうしたんですかっ!」

 

 そう問いかけたイクリル。しかし、アマテル殿は土下座を続けるのみ。いったい、なんだと言うのか。

 それを問いただすためにも、わしも言葉を重ねることとした。

 

「アマテル殿、顔を上げてはくれぬかの。それでは話しもできぬ」

「……失礼、いたします」

 

 顔を上げたアマテル殿。その顔は真剣そのもので、イタズラや遊びなどということは一切なかった。

 

「申し訳ございません。此度の一件、どうやら我が愚弟。アインが関わっていたようで……」

「ま、まぁ……。そうであろうの」

 

 なにしろ、アイン坊の領地から帰ってきてのこれ、なのだから。無関係、という方が無理であろう。何かしらの関係があった方が無難、と言えた。

 

 

 そこでアマテル殿の口から語られたことの顛末はある意味、わしからすれば微笑ましい、愛娘の勘違い、であった。

 ただ、わしの想定外であったのは、エレインがそこまでアイン坊のことを好いておった、ということ。そして、アマテル殿もイクリルもちょっとした勘違いをしておったことだ。

 

「此度のこと、誠に申し訳ございません。アインには、なんとしてもこちらへ赴かせますので。何とぞ、釈明の機会をお与えくださいませ」

「父上! アマテルさんが言うように、アインさんをこちらへ召還するべきです!」

「……お主等、落ち着くように」

 

 悲壮なアマテル殿と、憤怒のイクリル。ふたりとも心を乱しすぎだ。

 とはいえ、そのことにこちらがかかわり合いのないこと、とは言えぬ。まずはそこを説明すべきであろう。

 

「まず、アマテル殿。あまりアイン坊を苛めてくれるな。エレインのことを考えてくれるのはありがたいがな」

「……え? あの、義父上?」

「そも、あの妾。イオネ、であったか? あれを娶るのを許可したのは我らよ」

 

 そう、アイン坊の今後。というより、フェネクス男爵家の今後を考えるなら、妻となるものは多い方が良い。あやつは初代。アルデバラン伯爵家、という血の繋がりはあるが、それでも血筋の後継、という意味では薄いという他ない。

 もっとも、それだけではない。こちらがそれを呑むという見返りに正室としてエレインを迎えること。それを条件とした。

 そうでもなければ、あれは自身よりもより良い殿方がいる、と首を縦に振らなかった。まったく、こちらとしてはつべこべ言わず、婚姻を結んで欲しかったのだがな。

 

 それにアイン坊の家格が足りないのも事実。それでこちらから地ならしをする運びとなっていた。

 

 具体的にはあれには王族保護の功をもって子爵に。その後、領地拡張。あの農業都市と河川都市の整備をもって伯爵。辺境伯へと叙任させる手筈となっていた。

 あれも、アイン坊もそのことは認めている。

 

 ……奇しくも、アイン坊がエレインとの婚約をきちんと考えるようになったのも、王族奴隷の件が起きたからだ。

 そうでなければ、あれは決してエレインとの婚約を認めなかっただろう。娘のためにならない、とな。

 なぜ、アイン坊がそういう結論に至ったのか。それは分からぬ。だが、その均衡は奴隷の一件で崩れた。

 王国の瓦解、公爵家主導のブロック経済が現実味を帯びたからだ。

 そして、その時。アイン坊の領地はもっとも前線に近い国境。それを守るためには力と、そしてまとめ上げるための権威がいる。

 

 あれにとっては苦渋の決断だろう。ふさわしい男がいるはず、と固持していたのに、領地のため。そして、エレインを守るため、娶らなければならない。そう思っているはずだ。

 だが、公爵家としては好都合。なんとしても、あれを繋ぎ止めておかなければ。

 

「ともかく、あれとエレインは遠からず婚姻する。それだけは伝えおこう」

 

 わしの言葉にイクリルとアマテル殿は頭を下げる。

 いまはこれで良い。それと、エレインにも伝えておかなければ。アマテル殿に伝えてもらうとするか。

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