転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件   作:想いの力のその先へ

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七十五話

 

「エレイン、大丈夫だろうか?」

 

 こちらから帰る時、あいつ。亀裂の走ったような、無理矢理な笑顔を浮かべていた。

 前日の夜、イオネと身体を重ねたあと。執務室の扉が少し、ほんの少し開いていたことに気づいた。

 しかも、イオネからも誰か覗いていたかもしれない、という話を聞いた。

 俺の身体はともかく、イオネの柔肌を覗いたのがどこの馬の骨とも分からぬ男であれば許せる話ではないが、それがもしエレインだとしたら。

 

「勘違い、させただろうか……」

 

 俺とて木の股から産まれたわけではないのだから、エレインやライナが、俺を憎からず思っているのは知っていた。

 だが、その想いに応えるつもりはなかった。

 身分の差、というのも当然ある。伯爵家の四男坊。部屋住みと王族や公爵家の令嬢とは釣り合いが取れない。

 しかし、それ以上に俺という人間。アイン・アルデバランという男の肉体はこの世界のものだが、意識は完全なる異物。それも当然だ、転生者という自認ゆえに、だ。

 

 俺の考え、政策はこの世界において異端だ。間違いなく。そして、異端とは排斥されるものだ。それはこの世界でも変わらない。

 

 幼馴染みとしてライナとエレインには幸せになって欲しい。それこそ、殺された。王宮で謀殺されたアンリの分も含めて。

 だが、それはこの世界の男と結ばれるべきだ。俺のような男と結ばれて、後ろ指を指されるくらいなら。

 

「そう、考えていたんだがな」

 

 だが、時勢が許してくれなくなった。

 王族が奴隷として扱われている。比喩としてではなく、実際に。

 このような愚かなこと。おそらくアクラが関わっているのだろう。本当に、余計なことしかしないものだ。

 俺のなかでふつふつ、と怒りが沸いてくる。これが誰もいない場所であれば暴れ散らかしていたことだろう。

 

 なにしろ、これで王国の崩壊が早まった。本来なら、もう少し時間があったはずだ。

 ……まぁ、十年、十五年延びた程度だろうが。それでも、緩やかな崩壊になっていたはずだ。だが、現状は最悪ダレス派、アクラ派の内戦すらあり得る。

 当然だ。いままで王族を、血の繋がった家族を奴隷として売り払ったのだ。これが貧民、彼らが食いつなぐため、あるいは子供だけでも救うため。それならギリギリ理解できる。

 

 だがアクラは違う。やつは政敵を排除するついでに奴隷へと落としたのだ。そのような相手に穏当な手を使えるわけがない。

 すなわち、対抗馬のダレス派はなんとしてもアクラを排除する必要が出てきた。そして、アクラも甘んじて受けるような殊勝な者ではあるまい。

 

 そして、アクラを排斥しなければならないのはこちらも同じ。なにしろ、王宮にはまだライナがいる。まかり間違っても、彼女を奴隷落ちさせるわけにはいかない。

 そういう意味ではこちらの派閥とダレス派閥は手を組む利がある。

 そして、派閥の。公爵派閥の結束を高めるため、イクリルくんと姉上の結婚に加えて、俺がエレインを正室に迎える、という正当性が出来てしまった。

 俺が婚姻することで、間接的に取引のあるディオスクロイ子爵家とイオス公爵家のラインの補強もされる。

 

「結局、政略か……」

 

 出来ればエレインには好いた人と幸せになって欲しかった。彼女の人柄は太陽で、周りの人々も幸せにするから。きっと、彼女が幸せになれば、それが伝播して他の人々も……。

 そう、考えていたんだが。

 

「この考えも、結局のところ。逃げだったのかもしれない……」

 

 不安だったのだろう。俺のような半端者が彼女を、エレインを幸せに出来るのか。その確信を持てなかった。

 エルファス閣下は早い段階からエレインとの婚約を進めようとしていた。その時に、俺の覚悟が出来ていたら。

 俺がすべきだったのは、エレインのため、と身を引くことではなく、エレインと共に進む。という、覚悟を持って道を切り開くことだったのだろう。

 それが出来なかったのだから、半人前の謗りを受けても仕方ない。

 

「人を信じ、人を愛する。なんと難しいことか」

 

 俺は性善説など信じちゃいない。だからこそ、法を整備し騎士団という暴力を整え、己が信を置く家臣団を整えた。

 人は法という道標がなければ容易に道を外れ、軍事力という暴力がなければ無法となり、信用できる者を仕えさせなければ、汚職、不正が蔓延するだろう。

 

 そんな矮小な考えの人間に、彼女ら。慈愛をもって民を愛することが出来るライナ。陽だまりのような人柄をもって人々を導くことが出来るエレイン。

 そして、天真爛漫で誰からも愛されたアンリ。

 彼女たちの傍に侍れるような人間じゃない、そう考えていた。アンリが謀殺されてからは特に、だ。

 

 彼女たちの幸せを眺めるだけで良かった。幸せになる手伝いをするだけで良かった。そのはずなのに……。

 アンリが殺されてから。俺は、せめてふたりだけでも守ろうと、そう誓ったはずなのに。

 

「バカは死ななきゃ治らない、とは言うが。どうやら死んでも治らなかった、か……」

 

 転生者だろうが、彼女らより人生経験があろうが、それをうまく使いこなせなければ意味がない。

 俺はいつの間にか天狗になっていたのだろう。前世の記憶、技術の知識があるから。この世界が、かつての地球より文明レベルが低いから。

 

 だから、俺が導こう。文明を開花させよう。

 驕ったか。そこまで優秀な人間でもあるまいに。かつて、文明を教える、等と嘯いて先人たちがどのような過ちを犯したのかも忘れて。

 

「せめて、愚か者は愚か者なりに動くとしよう。……まったくもって、甲斐性なしの碌でなし、だな」

 

 まずは先触れを出そう。そして俺も向かわないとな、公爵家へ。殴られるだけなら御の字。そう、覚悟するしかあるまい。それだけのことをしたのだから。

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