魔族の希望、白兎のバニラ   作:しがない生き物

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第1話

いつも通りの朝だった。

時間通り起きて、顔周りを綺麗にして、朝ごはんを食べて、身支度をして、出勤するために家を出た。

 

職場に行く道のりで横断歩道を渡っていると、横から感じる瞬間的な痛みと衝撃。

そして浮遊感。

鈍い音と共に、私の身体はアスファルトに叩きつけられた。

 

「ヒッィ!」

 

「あ、あぁ、人がッ!」

 

視界の端には私を見る人と、大量の血が道路を埋め尽くしていた。

 

「なん、ま、だ……」

 

なんで、

まだ死にたくない。

まだ美味しいもの一杯食べてないのに。

まだ行ってない場所だってあるのに。

まだお母さんやお父さんに恩返ししきれてないのに。

 

嫌だ……嫌だ、嫌だ、死にたくない。

 

そう思おうとも思わなくとも、血は私の身体から流れ続ける。

 

「ッ……」

 

視覚、味覚、触覚、嗅覚が全て黒く塗りつぶされ、人々のざわめきと悲鳴を聴きながら、そうして私、華山 蘭の人生は呆気なく終わったはずだった。

 

***

 

 

 

閉じた視界でも眩むような光を感じ、目を開ける。

 

「え?」

 

間抜けな声が口から思わず漏れ出す。

どうやら私は草花の上に寝っ転がっていたみたいだ。

 

「生きてる」

 

知らない場所なのに、私は安堵してしまった。

 

「ン?」

 

頭より上と尾てい骨辺りに感覚があり、両手を伸ばして二箇所とも触ってみると、心地良い感触を感じた。

これは、

 

「耳と尻尾?」

 

……なんで?!なんで兎の耳と尻尾が私についてるの?!

というか、服も、髪の毛の色も、身長もさっきと違う!

 

「私、一体どうなったの?!」

 

 

 

***

 

 

 

「ここにいても埒が明かない」

 

小鳥のさえずりと共に数分間自問自答してみても答えは見つからず、時間だけが過ぎていく一方だったので、立ち上がってとりあえず歩いててみることにした。

 

ドッキリということはないだろう。あの時感じた衝撃は紛れもなく本物だった。

最近電子広告で見かけるようになった異世界ものだとしても、ベタ過ぎて現実味がなさすぎる。

 

「なんだろ」

 

歩く度に音が聞こえるので、音の発生源を見ると、首に何かかけられていた。

首にかけられていたそれは小さな金属プレートで、日本語で「バニラ」と書かれていた。

 

「名前かな」

 

そう呟きながら顔を上げて辺りを見渡していると、一枚の新聞が木の枝に引っかかっていた。

遠いように見えたが、ジャンプすると案外簡単に取れて安心した。

 

「良かった!これも日本語だ!」

 

貴重な情報源なので、優しく開いて、木の根元に座り込んで読み始める。

 

「魔族……魔王、討伐……魔王の子に懸賞金」

 

この新聞からは「魔族」との戦争に勝ったこと。

その魔族のリーダー「魔王」が「人族」の中で最強の存在である「勇者」によって討伐されたこと。

魔王の子には100億ゴールドの懸賞金。

更に魔族の事細かな特徴や生態まで書かれていた。

至るところには「魔族を滅ぼそう!」や「魔族を絶滅させよう」と、正直寒気がした。

 

しかし、問題なのはそこじゃなかった。

魔族の特徴を読み込んでいけばいくほど、私の中で焦燥感が膨らんでいく。

 

魔族は人族にはない要素がある。

異常に好戦的だったり、短気だったり、角が生えていたり、動物の耳や尻尾が生えていたり、牙や鋭い爪があったりする、らしい。

 

「もしかして、私、人族の敵になった、って、こ、と?」

 

もしこれが夢でもドッキリでもなかったら、私は人間にとっては滅ぼすべき存在になってしまったことになる。

 

「どうして」

 

どうしようもない疑問、悲しみと怒りがふつふつと湧き上がる。

 

「どうして!」

 

時間が経つ毎に、怒りのみが私の中に残る。

そして、怒りのままに新聞を手から離し、踏みつけた。

もうあんな絶望は懲り懲りだ!

あの死にゆく感覚を二度も味わいたくない!

 

「絶対に死んでたまるか!」

 

生きてやる。

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