帝国にこき使われてます。   作:未履修くん

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帝国に関する独自設定がかなり強めになっています。苦手な方はブラウザバック推奨です。



やる気を出す魔法を開発する

 

帝国には、魔法を"戦う道具"から"国家の資源"まで幅広く研究ないし開発する機関がある。

 

僕はそこで“研修研究員”をしている。といっても、魔法の天才でも努力家でもない。ただ、前世のクセで何となく就いているだけなんだけど。

 

かくいう僕には前世の記憶がある。最初前世を思い出した際、この世界に対しての感想としては"あーこういう世界なのね、ここ"ぐらいしかなかった。

 

魔法が存在して、魔族という恐ろしいものがいるとかの話はちょっと驚いたけど……そもそも転生という有り得ない現象を今体験しているわけで、そういうこともあるかと納得している。

 

両親は共働きなんで、小さい頃から今までの間一緒にいた時間は屋敷にいるメイドさんが一番なんじゃないかなとも思う。

 

僕の父は、いわゆる帝国の……なんだっけか、"特務魔導隊"の人? で、母は帝国の実務に関わっている"文官"。そんな優秀な親から生まれた僕……というわけで、結構周囲から期待をかけられている。

 

期待に応えねば……なんて気概はなくまあ、そこそこやれればいいやって感じなんだけれども。

 

前世があるだけの普通な人ですよ、僕は――なんて言えるはずもなく。

 

まあ、それなりに最低限魔法を使えるよう鍛錬とかしてきたわけだけど別に死ぬほど頑張った!という訳では無い。

 

……ぶっちゃけると、そこそこ頑張ってきたぐらいの人生を送っていない。

 

前世のアドバンテージ、とか言うけどあいにく活かせる機会はあまりない。前世の世界に存在していた兵器とかもそもそも作り方知らんし、材料もあまり知らないもんだから無理。

 

かといって、それ以外も難しい。というか前世では適当に生きてゲームを楽しんだ人生だもんだから、皮肉なもんである。

 

一応前世で勉強して、大学は出ているからある程度の教養は……あると思いたい? ぐらいかな。

 

まあ、話が長くなったけれど研究員という職に就いた以上何らかの研究をしないといけない。

 

前世の知識を使って、生活に役立ちそうな魔法をぼちぼち開発して、それが少なからず評価されたから職を持てているが。

 

今後も研究ないし開発を続けないと、仕事にならないんで頑張っているところである。

 

勤務自体はそんなに嫌いではない。

 

研究室は静かだし、上司たちも基本、成果さえ出していれば特に何も言ってこない。

 

むしろ問題は、帝国全体がどこか“重だるい”空気に包まれていることだ。

 

魔族、政治の駆け引き、大陸魔法協会……とにかく色々なものが組み合わさってしまった影響らしい。

 

兵も民も消耗していて、何かにつけて溜息をつくのが癖になっている。ここでも例外ではなく、朝から「やる気出ねー」とか「帰りてー」とか、そんな声がよく聞こえる。

 

帝国は広いから、労働力が落ちるだけで一気に機能不全になる。国家としては結構死活問題、らしい。

 

……いや、それを言い出したら僕も人のことは言えないんだけれど。

 

ここでふとピーンと来た。仮に名をつけるならば<やる気を出す魔法>。次の研究はこれにしてみるか?

 

けど、やる気って魔法でどうにかなるものだろうか?

 

前世の知識では、やる気を司るホルモンがあって、ドーパミンという。

 

それが出ると嬉しくなって、行動しようという意欲が湧く。当時は「ふーん」くらいで聞き流していたけど、今の僕にとっては妙に引っかかる情報だ。

 

魔法のイメージによっては、人体の内部に干渉することもできる。だったら、意欲のスイッチにちょっと触れるくらいは……できるんじゃなかろうか。

 

あーでも、僕が思いつくぐらいだし昔に既に誰かが思いついてるんじゃないか。そう思った僕は、先行研究の資料として"やる気"につながる魔法の存在を調べた。

 

上司に聞いてみたり、知り合いの魔法使いに聞いてみたり、魔法に関する資料を探してみたりしたけど……あまりめぼしいものはなかった。いや、民間魔法なら何かあるか?

 

さらに民間魔法に手を広げてあれこれ調べてみたけど、有力な情報はあまりなかった。温かいお茶が出てくる魔法とかあるし、絶対あるだろと思ってたんだけど。

 

なんだろうなぁ。やる気という単語そのものが抽象的すぎるということか? いや、でも抽象度が高めの魔法は普通にあるしなぁ……まぁいいか。

 

ということは、やる気を出す魔法の実現は無理ということだろうか。 それとも発動はできてもそれを維持するのに必要以上に魔力を使うとかかな。

 

別に帝国のためにどうこうという大層な気持ちはない。

 

ただ、研究員として何か成果を出さないと食いっぱぐれるし、ついでに自分もやる気が出れば朝が少し楽になるかもしれない。

 

あー……でも、やり過ぎは禁物だよな。そこら辺の調整が難しい気もする。

 

そもそも“やる気”なんて、人間でも説明できない曖昧な領域だ。

 

魔法でどうにかするのは無理筋だろうな……と思いつつも、何もしないと怒られるので形だけでも作らないといけない。

 

――いや、形だけで済めばいいんだけど。

 

僕の経験上、曖昧なものほど魔力で触ると妙に反応が良かったりする。

 

それで予想外のものが出来上がるのが魔法研究というやつだ。それに前世の知識と魔力操作の理解だけは妙に相性が良かったのもあって。

 

まあ、失敗したらまた明日考えよう。僕のやる気も、日替わりみたいなものだし。

 

とはいえ、魔法というものは“イメージ”が必要になる。

 

前世の化学知識を持ち出すのは反則な気もするけれど……まあ、そこは気にしないことにした。

 

意欲という抽象的なものを扱う以上、完全再現は無理だ。

 

なら、僕が触れられる範囲だけ触ればいい。魔力でドーパミンっぽいものを“押す感覚”さえ再現できれば、それで十分。

 

そう考えると、逆に気が楽になった。

 

完璧を目指す必要はない――とりあえず動くものができればいい。

 

「――よし、何とか形になったか?」

 

それから自分なりに資料を集めつつ、開発に取り組んだ。

 

結構手こずる部分があったりもしたし、正直なところ理屈として説明はできても、完全に再現できているかは怪しい……それでも、動くものは出来た。

 

「名付けるなら、<やる気を出す魔法(アンツリープト)>。まあこんな感じかな」

 

後はこれを研究報告会で発表するだけだ。ただ、化学式なんたらの部分については上手くぼかしながら言った方がいい気もする。

 

まだ数日ほど時間がある、それに向けていわゆる"素人質問"に対応できるようやらないとな……

 

――というわけで、この魔法を開発ないし発表したわけなんだけど、なんかお偉いさんから直々に話が舞い込んできた。

 

なんでも<やる気を出す魔法(アンツリープト)>を詳しく教えて欲しいとか。

 

まあ、お金貰えるならいいけど……なんか必死な様子で言い寄ってくるもんだからちょっと焦った。

 

いうて、それモノホンのドーパミンを出すとかじゃなくて一段階下げた軽い作用があるぐらいだよ。

 

前世でいうとカフェインより上だけどドーパミンより下みたいな感じだけど大丈夫?

 

まあ、いいか。お金貰えるなら貰っときますよダンナさん――なんちゃって。

 

 

「あ、そういえば副作用ありますよ。やりすぎるとしばらく無気力気味になっちゃうので気を付けて」

 

 

とそう言ったら、お偉いさんたちが一瞬だけ顔を見合わせていた。

 

軽い作用とはいえ、魔法で脳のスイッチを押しているみたいなものだから、反動がないわけじゃない。いわゆる“ガス欠状態”みたいなものだ。

 

それから何やらお偉いさんたちが話し合っていた後。

 

 

「問題ない。用途はこちらで調整する」

 

 

そう言われた。まあ……そういうなら好きに使えばいいと思う。僕は朝だけ使えればそれで十分だし。

 

副作用? 僕の場合は、いつも無気力だから誤差みたいなもんだ。

 

――と思ったら、なんか皇帝さん? から直々に賞を授与されることになった。あとで聞いた話だが、民に“分かりやすい成果”を示す必要があったらしい。

 

 

……なんで??

 

 

だって、あれだよ? <やる気を出す魔法(アンツリープト)>って、前世でいうところの“強めの栄養ドリンク”くらいの効果しかないんだけど。

 

使うと“めっちゃやる気出たぁああああ!!”なんてガンギマリになるとかじゃなく、ましてや理性を削るほどの強力な効果はない。

 

それを帝国が勝手に盛り上げて、「国家的発明だ!」みたいな感じで騒いでいるらしい。そんなこと言われてもなぁ……正直、研究室で静かに開発してただけの僕としては、ただただ困惑しかない。

 

一応、授与式には出席してくださいと言われたので、はいと返事はしたけれど。

 

どうも噂では、帝国全体における稼働人口? が増えたとかで、偉い人たちが大喜びしているらしい。どんだけ疲れてたんだ、帝国。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国は近年、深刻な問題を抱えていた。

 

――人手不足。いや、正確には“労働意欲の低下”である。

 

魔族との長い戦い、度重なる政治的疲弊、ありとあらゆる要因が積み重なり、魔法使いだけではなく民の気力もまた静かに、しかし確実に削り取っていった。

 

帝国全体の士気は下がり、行政の処理速度は鈍り、生産現場では遅延が常態化する。 帝国は広大な土地を支えるために、膨大な労働力を必要としていた――にもかかわらず、その根幹を担うはずの民は、日々の生活に疲れ果て、動けなくなっていく。

 

 

「このままでは帝国が止まる」

 

 

そんな声が、上層部で公然と語られるようになった。

 

帝国は、労働意欲を取り戻すための施策をいくつも打ち出したが、どれも決定打にはならなかった。 そこに現れたのが――とある研究者が開発した、たった一つの魔法である。

 

 

その名は、 <やる気を出す魔法(アンツリープト)>。

 

 

その魔法は、帝国の希望として、一気に広まっていくことになる。そして、帝国はこの魔法を単なる生活改善ではなく、“国家再起の鍵”と捉え始める。

 

これを使えば、意欲が湧き、身体が軽くなり、仕事や鍛錬に自然と向かえる。やる気が出ない時であっても“やる気を出せる”。そんな当たり前のようで不可能だった行為が、魔法ひとつで成し遂げられる。

 

その効果を知った魔法使いたちは、驚きと共に多用し始めた。

 

鍛錬をすれば必ず“疲れ”という壁がある。限界を越えれば、魔力は乱れ、集中も切れる。それは人としての生理的な仕組みであり、覆すことはできない――はずだった。

 

だが、この魔法を使えば、その疲労感が薄れ、意欲が持ち直し、さらに前へ進める。

 

結果として、帝国の魔法使い全体の底上げが進み、その恩恵は鍛錬場だけでなく、帝国を下から支える民たちにも少しずつ波及した。なまじ、この魔法は難易度がそれほど高くなく、一般的な魔法使いであれば習得可能な魔法であるのも合わさって。

 

商人たちは活気を取り戻し、行政は滞っていた書類を処理し、兵士たちは以前よりも長く訓練に励み、街には賑わいがより満ちていった。

 

副作用も、“短期間だけ無気力気味になる”という軽いものに留まっていたため、抵抗感なく受け入れられ使用頻度は日毎に増えていく。

 

それが“便利だから”なのか、“使わなければ回らなくなったから”なのか……その違いを気にする者は、まだほとんどいなかった。

 

使えば使うほど、無気力気味になる頻度は増していく。しかし、それは逆に魔法を用いてもなお疲れているという事でもあり、むしろ休むべきだと分かるひとつの目安でもあった。

 

 

【やる気があればなんでもできる】。

 

 

この魔法に付随した格言までも出来上がるほどに広まりつつある。

 

そう、帝国は確かに変わり始めていたのだった。

 

 

 

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