404:Not Found   作:Kumokumo

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早く投稿するって言ったのにできませんでした。スミマセン。

一日一話以上投稿している全ての方々に敬意を


目が!目があああああ!!

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 『個性把握……テストォ⁉︎』

 

 広大なグラウンドでクラスメイトの声が重なる。……そんなピッタリハモることある? 仲良いなあ。というか、え、入学式やらないの? ガチで?

 

 そんな気持ちが伝わったかのように茶髪ボブの可愛らしい子が驚きの声をあげる。

 

「入学式は⁉︎ ガイダンスは⁉︎」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 一蹴。マジですか。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 相澤先生の言葉に、グラウンドの空気が困惑に包まれながらもピリリと引き締まる。自由、ねぇ。それってつまり、先生の匙加減一つでどうにでもなる……ってこと? 相変わらず合理性の塊みたいな人だ。

 

 「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈」

「中学の時からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」

 

 (……やってたっけ)

 

  先生が手元の端末を操作しながら私の方へ、チラリと視線を向けた。

 

「あー訶複、確か首席だろ。中学の時ソフトボール投げ何m だった」

 

「うーん、20も行かないぐらい? 忘れちゃいました」

 

 仮面の下でおどけたように肩をすくめてみせる。

 

「(……そりゃそうだろ。あんな細い腕)」

「(あれで入試一位? ホントに?)」

 

 ひそひそ声が後ろから聞こえてくる。仮面の下でちょっとだけムッとする。だって仕方がないじゃないか。個性も使わずこんな棒のような腕で何m も飛ぶわけないでしょ。

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 

 先生からめんどくさそうに投げ渡されたボールを片手でキャッチして、そのまま何度か自分の手のひらの上で転がすように弄ぶ。

 

 (いけるかな)

 

 そんな微かな緊張と共に円の中に入る。クラスメイトの視線が背中に突き刺さるような感覚に陥る。実際突き刺さってるけど。

 

 (そんなに見てもいいことないよ、爆豪君)

 

 そう、突き刺さる視線の一つには明らかに温度の違う殺意を帯びたナイフのようなものがあった。……まぁ流石に爆豪君だって分かるよね。

 

 円の中で爆豪君を一瞥する。……見なきゃよかった。怖すぎる。

 

 視線を外し正面に向き直る。

 

 さて、どうしようか。勿論ここで全力を出して圧倒的な力の差を見せつけるのも楽しそうではある。っていうかやってみたい。でも、多分それをすると体のラインがズレる。折角元に戻したのにまた直すのは勘弁だ。

 

 しかも恐らく無理に変形して体のラインがズレると制服が入らなくなる。制服ぴったし過ぎるんだよね。

 

 

  だから、最低限の変形で抑える。

 

 

 投球のフォームは教科書を、お手本をなぞるような綺麗なオーバースロー。左足を軽く踏み込む。腰を軽く捻り、右足から左足への体重移動。左手を上げて体重が左足に完全に寄ったところで右手を振りかぶりそのまま投げる。

 

 ――刹那。その教科書の内側で、ボールが手を離れる瞬間、「怪物」を宿す。

 

 (右肩の変形はせずに……腕と、手首だけ)

 

 ミシリ。

 外側からでは全く分からないように、細さを1ミリも変えないまま腕の内部構造を変形させていく。筋肉は高密度のスプリングへと変わり、骨はセラミックのような硬度へと再構築されていく。

 

 (カタパルト……かな)

 

「――ッよっと」

 

 爆発音。

 私の手から離れていったボールは放物線を描くことすら許されず、レーザーの如く空気を切り裂き、真空を貫いた。風圧によって砂埃が舞い、目に入りかける。――仮面つけててよかったー。

 

「………………は」

 

 静まり返ったグラウンドに誰かの呆けた声が転がり落ちた。

 

砂煙に巻かれてみんなから見えないうちに腕を元の「愛される形」に戻していく。痛みはない。どうやら禁足地は超えていなかったみたいだ。

 

 ピピッと相澤先生の手元の端末から電子音が鳴る。表示された飛距離に少しだけ眉を動かす。

 

「……952.4m」

 

『はあああぁぁぁぁ⁉︎⁉︎』

 

 また声揃ってら。

 

 淡々と相澤先生から放たれたその結果はクラスメイトを驚愕させるには十分のようだった。

 

「嘘だろ、950……⁉︎」

「なんだこれ‼︎すげー面白そう!」

「個性どーなってんだ?」

 

 

 砂埃をはたき、トテトテとある人物の前へ立ち、話しかける。

 

「百、私成長したでしょ」

 

 幼い子供が字が書けるようになったことを自慢するかのように、或いは描いた絵を褒められるように無邪気に胸を張る。

 

 話しかけられた人物――八百万百は困惑と話しかけられた驚きとそしてどこか懐かしさの入り混じる複雑な顔をしていた。

 

「……廻さん」

「久しぶりだね。百。……ちゃんとここ(ヒーロー)に立ったよ」

 

 百が何かを言おうとしてその唇を微かに開く。だけど、それよりも早く、無理矢理遮る。

 

「あの日、百が向いてるって、言ってくれたから私は今ここに立ってる。あの時背中を押してくれたのは百なんだよ。――だから、ちゃんと見ててね。私を」

 

 あの日進路希望調査の紙を破ってしまった私を百は知っている。

 

 百の返事も聞かぬまま私は矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。

 

「百も推薦合格なんだし、負けてられないなー。お互い、がんばろーね。」

 

 視界の端に映った百の瞳は悲しそうに揺れていた……気がする。

 

 そんな空気を切り裂くような ――獣が唸るような低い声がグラウンドに投下される。

 

「……面白そう……か」

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

 

 

  …………は……。よし、じゃねぇよ。

 

 

 ジョセキ、除籍?マジで?

 

 とりあえず最下位にならなければいいもんね。楽勝楽勝。余裕すぎでしょ。……あれなんか足が震える。どうしよう。

 

 除籍になったら「聖人の娘」というブランドが崩れる。それは絶対にダメだ。……そんな本気出さないつもりでいたけど少し、頑張るか。

 

 

 「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

――50m走。

 

 「位置について――」

 

 スタートラインに並ぶ。

 愛される「綺麗な脚」のラインを崩さないように、慎重に、細心の注意を払う。でも、スピードは出さなきゃいけない。難しいなあ。入試の時みたいな足にしたいけどそんなことしたら多分終わる。ダメ、絶対。

 

 (だから、足の指、足首、膝関節……表面の皮膚も外見も変えずに、内部の腱と筋肉を収縮させる。……一点集中。バネを、巻いて、巻いて――)

 

 ピストルの音と同時に、私は地面を「蹴った」。

 

 周囲からは、私がただ軽やかに駆けているように見えたかもしれない。

 けれど、実際には一歩踏み出すごとに、靴の中で足の甲の骨を瞬間的に変形させ、超高反発のクッションを生み出していた。

 

「……ッマジかよ……!」

 

 さっきまで並んで隣にいた金髪のチャラそうな人から驚愕の声が聞こえる。

 

 (速いでしょ)

 

「……3秒02」

 

 心の中で自慢しながらゴールを疾風のように駆け抜けた私の耳に、計測結果が届く。……あれ、まだ金髪のチャラ男君は来てない。

 

 もう既に走り終わり、横から眺めていた飯田君が「信じられん速さだ……!」と眼鏡を光らせる。もしかして飯田君に勝ったかな。やったぜ。

 

 私は、膝を少しついたふりをして、急速に熱を帯びた足の内部構造を元に戻した。

 

 なんだか変な感じがする。――やっぱり急な変形は、体に悪いかなぁ。

 

 

  「……廻さん、大丈夫ですの?」

 

 

  駆け寄ってくる百。

 私は顔を上げ、仮面の奥で目を細めて笑ってみせた。

 

 「あは、ちょっと飛ばしすぎちゃった。百、見ててくれた?」

 

 百は、一瞬だけ痛ましいものを見るような目をしたけれど、すぐにいつもの凛とした顔で頷いた。

 

「ええ。……凄まじい速さでしたわ。でも、どうか無理だけはなさらないで」

 

 

 

  無理、ねぇ。

 

 無理をしないと、私は私を保てないんだよ、百。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 その後も次々と首席としての最高の結果を出し続けた。握力は手を鋼鉄ワイヤーのように変形させて結果は500kg弱ぐらい。……あー、そういえば540kgぐらいの記録を出してるタコみたいな人がいたな。一位だと思ってたのに。ちょっと悔しい。

 

 

  反復横跳びも立ち幅跳びも超人的な記録を「廻」としての形を失わない程度で叩き出し、上位を掠め取っていく。

 

 

 「除籍」その二文字が脳裏を横切り思い出すたびに焦燥に駆られ、自分の体を削り取るように変形させる。勝手に貼られたレッテルという鎖のような物が私の体を締め上げ、息が苦しくなっていく。気のせいだ、と思ってもそれはずっと消えてくれずに体の芯に残ってしまう。

 

 

 立ち幅跳びが終わり、休憩時間。テストでかいた汗なのかそれとも体の芯に残っている何かのせいでかいた冷や汗なのか分からないそれを拭う。

 

 そんな私の所に数人のクラスメイトがやってきた。中心にいるのは爆豪君とはまた系統の違うツンツン赤髪の人。その隣にはツノの生えたピンク色の肌の女の子が一緒にいた。

 

「すげぇ! そのジャンプ力どうなってんだ!? あ、俺切島鋭児郎! 呼び方は適当でいいぜ!」 

「私、芦度三奈! 三奈って呼んで! ていうかさっきの握力も凄かったね! かっこよかったー! 」

 

 

  陽キャだ。眩しい、眩し過ぎるよ。目が! 目があああああ!

 

 

 二人とも興奮が隠しきれない様子で私を見る。

 

 「名前はなんてーの?ってか何て呼べばいい? 」

 

 そう切島君から問われる。――名前。思考が一瞬だけ凪ぐ。

 

「訶複」お父様の苗字。それとも「廻」、お父様が愛す名前。

 

 

 

  (……あは、どっちも、嫌かも)

 

 

 

 ここで黙るのは良くない。そういえば百には「廻」って呼んでもらってたっけ。そう思い一瞬の逡巡の後、私は――。

 

「訶複、廻。廻って呼んで。……苗字では呼ば、ないで、ほしい、かな」

 

 少し感情が声に乗ってしまったかもしれない。ダメだなぁ、ホント。そんな私の雰囲気を知らずに、彼女、三奈ちゃんは「廻ね、オッケー!」と明るい声でそれらを塗りつぶしていく。……優しいんだな、この子。

 

「で結局廻の個性って何なんだよ?単純な増強系には見えなかったけど……」

 

 個性か。……言ってしまっても別にいいか。減るもんでは無いだろうし。

 

「私の個性はね『瞬間変形』だよ。体の筋肉とか骨とか変えられるんだー。あ、でも人の姿から離れすぎたりとかは出来ないよ。腕四本とか」

「瞬間変形……! すっげ、万能じゃん!」

「だからあんな細い腕で握力計壊しかけてたのかー! ギャップ萌えだね!」

 

  切島君が快活に笑い、三奈ちゃんが私の腕をまじまじと見つめる。

 そんなに見られるとちょっと変な気持ちになる。というかギャップモエって何だろ。燃え?まぁいいか。

 

 「あは、そんな便利なものじゃないよ。少しの間しか変形できないんだよね。私、あんまり体力無くてさ」

 

 嘘だ。個性なんてずっと使ってる。疲れなんてしないし体力だって人並み以上には持ってる。

 そんな嘘八百を私は鈴の鳴るような声で吐き続ける。二人は「そっかー大変なんだな」と優しく私を気遣ってくれる、光みたいな人達。いいな、羨ましい。

 

 

 

 テストも終盤に差し掛かり次は、ソフトボール投げ。

 

 円の中に入っていくのは、さっきからずっとガチガチに緊張していて碌な結果も出せていない――緑谷君。

 将来日本を救う大英雄の彼のここまでのテストの成績は、正直言って平凡以下。……というか、最下位候補筆頭だ。

 

 (このまま行くと除籍されちゃうんじゃ……。いや、待てよ。ちょっとメタいかもだけど緑谷君は将来、ずっと雄英高校のヒーロー科に属していた。ってことは今除籍はされないよね。今後も。)

 

 (つまり相澤先生の除籍宣告は嘘……ってことだよね)

 

 一安心。

 

 

 そんなことを考えてると、円の中で緑谷君は大きく振りかぶる。OFAの力で放たれると思われた球はたったに46mしか飛んでいなかった。

 

 彼の傍らにいた相澤先生を見るとその黒い髪の毛逆立ち彼の瞳が赤く光る。あれが個性「抹消」か。強いなぁ。見るだけでその人の個性を消せるってチートだよね。私に効くかな……? 微妙なライン。

 

 相澤先生は赤い目を爛々と光らせたまま緑谷君に近づき何かを告げる。

 

 

 

  爆豪君が「除籍宣告だろ」と吐き捨てるように言う。

 

 

 

  けれど、緑谷君の目はまだ死んでおらず彼特有のブツブツを発揮させたあとまた大きく腕を振りかぶる。

 

 

 

  ――空気が爆ぜた。

 

 

 数分前の彼からは想像もつかないようなスピードでボールは天へと伸びていく。放たれたボールは私の時とは違い放物線を描き真っ直ぐと「意思」を乗せて貫いていた。

 

 見ると彼の指は赤黒く変色してしまっていた。いや、それよりも。

 

 (……指一本に全力を?)

 

 相澤先生が手元の端末を掲げる。表示された数字は『705.3m』。

 

 「先生……まだ、動けます……!」

 

 ボロボロの指を握りしめ、痛みに顔を歪めながらも、緑谷君は相澤先生を見据えてそう言い放った。

 

 

 「……あは、眩し過ぎるよ」

 

 

 それが、自分の口から出たとは信じたくなかった。

 

 

 横からバチバチと火花が散るような嫌な音が聞こえる。

 

「どーいうわけだこら!ワケを言えデク!てめぇ‼︎」

 

 振り向いて確認する間もなくその人物は個性を使いながら前へ突進していく。狂犬みたい。

 

 その毒牙が緑谷君にかかるろうとした瞬間、相澤先生の捕縛布により雁字搦めに拘束される。相澤先生かっこよすぎて死ぬ。――あっ相澤先生ドライアイなんだ。じゃあずっと個性を消すことができないってこと?勿体無いな……。

 

 嵐のような騒動。

 私はそれを少し離れた場所から、他人事のように眺めていた。

 

 (直視なんて、出来ないよ)

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

 結果発表。

 

「――ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「はーーーーーー‼︎!???」

 

 

 

 

 

 私の名前は一番上にあった。……一位。

 

 でも、当たり前だ。目の見える人が目が見えることに感動したりしないように、「聖人の娘」として当たり前のことをしただけ。そこに感動は生まれない。どう足掻いても、生まれるのは言語化できないモヤモヤとした気持ちと焦燥感。……本当にこれで良かったのだろうか。

 

 

 

  そんな問いに答えてくれる存在はいなかった。

 

 

  頭の中で何故かたわいもないことが浮かんでは消え、浮かんでは消えてを繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………あ、そういえば、制服。……一回も採寸なんてしたことないな。

 

 

 

 

 

 

 








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