マリーの中の寄生虫   作:ややや

1 / 48
数年前「ミギー風な話考えてたけどすぐに実験体にされて死ぬよな…」
現在「マリスビリー気にしないなこれ」
不定期更新です。


日記:炎上汚染都市 冬木

 私の頭の中には寄生虫がいる。

 

 正確には、寄魂虫…だと思う。

 私の脳漿と中脳の境目の隙間にある未確認の謎物質が、アイツの実体である。

 

 幼少期には姉ぶっていたアレだが、基本的には無脳である。

 

 訂正、無能である。

 

 馬鹿で間抜けで、おまけに知恵も無い。アレの語彙力は8歳の私よりも低く、勝負事では直近5年は勝ちっぱなしだ。未だにアレが勝てるのは口数程度だろう。

 

 そもそもアレは私に寄生しているくせに栄養すら奪わない。らしさで語れば、ハリガネムシのほうが余程高等だ。その場合、間違いなく父が取り除いただろうが。

 

 アレは自身を情報寄生物質生命体と定義していた。

 

『魂に刻まれる情報。所謂五感…肉体が浴びた刺激に対するバロメーター。それを糧に俺は生きている』

 

 ようは痛覚をエネルギーに変換するのがアレの特性だ。

 アレ曰く、情報さえあれば魔力を捻出し、肉体を創り出すことすら可能らしい。

 

 過去に魔力を融通させた際には、生爪に針を指しても全く痛みはなかった。わざわざ見学していた父が感心した声を上げたのは、少し悔しかった思い出だ。

 

 アレの声は私にしか聞こえない。

 

 魂から呼びかける以上、物理的に何かを動かすわけではない。というか動かされたら私は死ぬ。アレと私の会話を側から見れば、私は上の空で自問自答している狂人に違いない。

 

 父からは『病院に通うかい』と笑われた。私は泣きそうになった。

 

 そんな私を精神病患者に貶しめたアレは、情報体故に訳の分からない物事を知っていた。根源とは◼︎◼︎きの◼︎であり、テクスチャは◼︎内◼︎らしい。

 

 だれよ。いや、本当に誰よ。魂にあるって製造ラベルか何かか。

 せめて出身地くらいは地元に近づけなさいよ。

 

 まあ、便利なのは否定しない。偽名とかはすぐにわかるし。

 

 人類が魂を持つ故に発生する経歴という情報。幾多も寄生したと自称するアレは、多少の可能性…才能というべきものを演算出来る。…ようだった。

 

 …結局は私の前に失敗したアレの自称だから、正直話半分以下の信頼度だけど。多分一般人にも負けてるわよねこれ。具体的には脳手術で。

 

 とにかく。

 アレは寄生虫らしく夢があった。人型になるという夢だ。

 

 脳幹から指示をして動かすラジコンではなく、自らの手脚と五感で動き回れる肉体をアレは望んでいた。

 

 ホムンクルスで駄目とは我儘な寄生虫である。

 だが、アレには手脚どころか脳すら存在しない。夢を叶えるためには死ぬしかないのではと思った私だが、アレも道筋は考えていたらしい。

 

 私は、英霊の可能性を秘めているらしい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ズッ友宣言である。

 

 座。正式には境界記録帯(ゴーストライナー)。劇的な実績により信仰まで行き着いた魂の住処。人間サイドの守護者となる、英雄の棲家。

 

 現代では不可能とされるその偉業に、私の影武者として詐称者(プリテンダー)の座を狙い取る。

 

 具体的には私の死後に肉体を動かして影武者説を広めてから死ぬらしい。

 寄生虫らしい他人目当ての犯行に、思わず笑ってしまったことを覚えている。

 

 英雄になれる。

 

 幼少期には自慢に思い。

 現実を知るほど違和感を覚え。

 カルデアの所長になって疑問となった。

 

 ─英雄とは、奇跡を引き起こせる者だと、アレは言った。

 

 死後の復活()は確かにわかりやすい実証だ。恥を晒さないなら構わないと、確かに私は許可をした。そして未来を保障するカルデアス。分かりやすい道筋に私は気合いを入れて努力した。頑張った。苦労した。

 

 だが、カルデアの責務は私に耐えることはできなかった。アレのせいではない。単純に、今の私では器量が足りなかったのだ。

 

 私は英雄にはなれず、信頼していたレフによって裏切られた。

 

 特異点冬木での私の立場はあってないような者だった。

 

 そもそもが事故だ。大前提として私は特異点の攻略要員として検討すらしていない。部下として見るなら、解析と医療の分野が私の担当だ。手脚は再生できるが決して切った張ったの鉄火場でやる立場ではない。

 

 …私がアレの力を使えば。レイシフトさえされていなければ。最低でも爆破されたAチームの1人は復帰可能だった。凍結処理を行なった今では治療もままならない。カルデアはまんまとレフの策略に嵌ってしまった。

 

 話を戻す。

 

 冬木で私が選んだ役職は斥候だった。マシュと藤丸はど新人。オマケにカルデアの最高戦力。生命の価値が最も低いのはオルガマリー・アニムスフィアで、成し遂げられるのも私だった。

 

 アレを利用した魂を観測しての天体魔術。強大であればあるほど感知しやすく、特異であればあるほど識別しやすい観測の基礎を利用したマッピング。私達は敵を避けながら友好的なキャスターを仲間に加え、英霊の凄まじさを目の当たりにした。

 

 音速を超えた振り下ろし。コンクリートを豆腐のように砕く怪力。全力で撃ち込んだガンドは容易く弾かれ、ひと睨みで人体が石化する。そして何よりも恐ろしいのが、宝具。キャスター、ランサー、アーチャー、セイバー。どれもこれもが人間を容易く屠れる決戦兵器。

 

 今更だが、アニムスフィアとしてマシュに謝罪する義務がどんどん億劫になる。手脚がへし折られる覚悟はしていたが、千切られる可能性が出てきた。

 

 …とりあえず、忘れる。後にする。嫌なことは後回しで良いのだ。

 

 最終的に、マシュの活躍で見事にセイバーを撃破し、特異点は沈黙した。私のささやかなプライドを命乞いへと変貌させた以外は満点の成果だ。藤丸共々褒め称えようと近寄った背後から、私はレフによって宙吊りにされた。

 

 どうにも、裏切り者のレフは前々から私が忌まわしかったようだ。

 

 『どいつもこいつも統率の取れていないクズばかり。特に、貴様のような廃棄物が世界を貪っていることが─我慢ならん』とのこと。

 

 余程鬱憤が溜まっていたらしい。彼はベラベラと自らの立場と目的を説明し、私の肉体が存在しないことを嗜虐的に嘲笑った。

 

 …正直。

 

 私が動揺を隠せたのは、アレがそれ以上に泣き喚いていたからだった。それがなければ無様に泣き叫んでいた自覚はある。

 

 アレがいる以上、私は(無事では無いにしろ)生身だと思い込んでいた。まさか、霊体になってもアレと一緒だとは考えていなかったのだ。

 

 レフ・ライノールの裏切りにより爆破された私は間違いなく死を目前としていた。魂だけの存在が現世に維持できる道理などなく、冬木の特異点解消に伴い─私はアレと一緒に成仏する。

 

 ただ、まあ、うん。

 

 悪い気分ではなかった。責任者として夢半ばで死ぬ。道連れも居たし、拷問死もアレがいれば痛みなんて感じない。ちょっとくらい格好付けようと生き残りに対して焚き付けた私にレフは激昂し、私をカルデアスへ投棄した。

 

 だから─私を助けたのはレフだ。

 

 人理焼却の宣言による私のカルデアスへの投棄は私に絶大な痛みと絶望を…つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()。カルデアスが超高密度のエネルギー体なのも一因かもしれないが、結果こそ重要だろう。

 

 過剰なエネルギーは一心同体の私とアレを分割した。

 本来ひとつであるべき霊基が分割され─あまつさえ肉体を複製するほどに。

 

 初めて見たアレは私と同じ見た目だった。多分、脳髄の空白の有無が私との違いだった。切り離されたアレと、切り離した私。きっと魂も同一だと直感した。アレは私であり、アレは才能のない私だった。

 

 魂の重量だけ私は浮いて、アレは沈んだ。

 カルデアスはアレを取り込み、こうして無事に私は日記を認めている。

 

 (乱雑に書かれた文字と大量の取消線)

 (あらゆる言語の罵倒と大量の取消線)

 (大量の人名と大量の取消線)

 

 私はカルデアの所長だ。

 それがどれだけハリボテで頼りないものだとしても、アレと一緒に就任した感動と約束は忘れていない。

 

 私はアレの主人だ。飼い主だ。契約者だ。偶然とはいえ、未報酬でさよならは沽券に関わる。まだ大統領には経歴が足りてないのよ。

 

 だから。

 

 人理焼却を解決するまで─待ってなさい。

 出馬するための戸籍くらいは用意してあげるわ。

 

 

 追記。

 

 あのバカ夢で私に生存報告してきた…!

 バカ…カスはカルデアスに無事寄生できたらしい。運よく生き延びて墜落したアレはカルデアス人類によって保護されたようだ。私の肉体は思ったよりも頑丈だったらしい。実験する気は全くしないけども。

 

 とはいえ、重症も重症。カルデアス人類は今のところ丁重に食事の提供と交流のアプローチを行っているらしい。排泄物を持ってかれるのが恥ずかしいとのこと。そりゃあ入院してるなら大人しく従いなさいな。心配して損したわ、全く。

 

 次に夢で会うときは叱りつけてやる。

 あなたの名前、アンナマリー・アニムスフィアと一緒にね。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。