マリーの中の寄生虫   作:ややや

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Q:ソロモンの口調鏡合わせじゃなかった?
A:ちょっと再現しきれなかったのでレフ成分が多めになりました。今後もレフ成分マシマシで喋ります。


独白:監獄塔に復讐鬼は哭く

 藤丸が昏睡した。

 

 特異点後のダヴィンチの解析から、魔術王の呪いの残滓があったのは判明している。おそらく、私と同様に魂だけを分離して隔離したのだ。本格的に昏睡する前にマシュが話を聞けたのも運が良かった。

 

 私達が駆けつけた時には、藤丸はほぼ意識の無い状態だった。サーヴァントを呼び出す余裕もない。私は無理矢理にテスト前のアンナマリーボディを藤丸に接続し─アンナマリーから魔力を吸い取られて倒れた。

 

 戦闘を何回も繰り返したような魔力供給だった。多分、藤丸とカルデア側の時間は相当に食い違っている。このまま齟齬が大きくなれば先に死ぬのは私の可能性が高い。…かもしれない。最近は魔力量が増えすぎてよくわからないのだ。

 

 そして現在、私ことオルガマリーは自室にて安静を命じられている。復活したロマニがいつもの数倍効率的に治療を行った後、死んだ目で指示した以上従うほかない。自意識無い方が仕事出来るのは不思議である。

 

 まだ藤丸は小康状態のままだ。気分を入れ替えるためにも、上司は顔を出さない方が良い。たまの休暇として私はパジャマ姿のままベッドに寝転んでいた。

 

 アンナマリーの角を叩き折って大人しくした後に話を聞けば、どうにもアンナマリーの肉体はカルデアス人類にとって石油並みに便利な代物となっているらしい。

 

 まあ、謎物質だからブレイクスルーが発生したならばわからないでもない。一応私もへし折った角を溶かしてメダルにしているが、今のところ魔術の触媒にもならない。一般には絶縁体くらいしか使い道がない気もするけ─

 

「フォーウ!」

 

 マシュから聞いていたけど初めて見たわね、『フォウ』。確かアンナマリーが語った犬種は『プライミッツ・マーダー』だったはず。狩猟犬と愛玩犬の雑種だろうか。

 

「ほーら、こっちにきなさい。手入れしてあげる」

「フォウ、フォーウ!」

 

 うっわすごいふかふか。ブラシに抵抗が全くない。カリカリに焼いたベーコンを褒美にハサミで毛先を整える。トリマーなど未経験だが、枝毛とムダ毛くらいは…ほら、これで20%は綺麗になったわよ。

 

「フォーウ!フォーウ!」

 

 すっごい喜んでいる。狩猟犬の血なのか、フォウは私の肩まで容易く跳び乗り、頭を擦り付けてきた。今まで近寄らなかったのが嘘のようだ。

 

「…まあ、アンナマリーが苦手だったのかしらね」

「シスベシフォーウ」

 

 角がへし折れている限りアンナマリーは私に従順であるが、元が外来生物である故に動物からの評判はすこぶる悪い。それを体内に秘めている私も動物には嫌われっぱなしだった。利点は蚊に刺されないくらいだろう。

 

「あー、血が足りてない。Aチームも難航しているみたいだし、カルデアス破棄も考えなきゃならないかもね」

 

 どうせなら売却するのも手だ。嫁入り(笑)道具としてゴッフが私ごと(かいと)ってくれないだろうか。無理かなぁ。如何にお人好しの彼といっても、傷モノ(貞操という意味では違うけど)を引き取る道理はない。

 

 もうそろそろ三十路が見えて来る女の胎に…あれ、なんかこころが痛くなってきたぞー。想像する。婚期を逃して歳取った中年の私が種を買って産んだ子供にアニムスフィアを継がせる。

 

 …グレる未来しか見えない。

 

「アニムスフィアは終わりのようね…」

 

 アンナマリーの維持費が思ったよりキツい。アレが魔力節約など考えることはない。さっさと寝てしまおうと寝転がった時に、ドアからノックがあった。

 

「あの、ドクターから薬を届けにきました。その、お時間よろしいでしょうか…」

 

 おずおずとした声を耳にして、私は仰向けのまま深呼吸した。

 

「…入っていいわよ」

 

 部屋に入ってきたマシュは少し萎びているようだった。藤丸が昏睡して2日。おそらくほとんど寝ていないのだろう。渡された錠剤を飲みながら、私はマシュに座るように促した。

 

「藤丸が心配?」

「…はい」

 

 トレーを掴みながらマシュは俯いた。

 

「先輩も私も所長に助けられてばかりで。近くでお力になれるなら兎も角、今の私は祈るしか出来ません。無力なのは、歯痒く思います」

 

 随分と人間らしく戻ったと私は安堵する。震える手、不安げな瞳。誰かを特別に思えるようなまともさを見て、思わず笑みを浮かべてしまった。

 

「先輩が、いなくなってしまうと思うと」

「なら、一度でいいから眠りなさい。貴女の仕事は目に隈を作って藤丸の前で泣くんじゃなく、綺麗な顔で彼を労うことよ」

 

 マシュはキョトンとした後、恥ずかしげに笑った。私の顔が赤いのを見たからかもしれない。甘酸っぱい恋の距離感などわかるわけない。漫画の台詞の流用だ。私は大きく咳をした。

 

「コレは所長命令。ほら、ここ」

 

 ぱんぱんと横を叩く。振り向こうとしたマシュは、少し逡巡した後、いそいそとベッドの中に入った。大きめではあるが、2人では手狭だ。シーツを被せて私とマシュは背中合わせで横になった。

 

 もぞもぞと身じろぎしながら時計の音を聞く。マシュがこちらを向いた気がしたが、私は振り向かなかった。

 

「マシュ、起きてる?」

「…はい」

 

 そうと呟いて、私は少しだけ口籠った。アンナマリーがいればいつものように口に出せるはずの勇気が中々生み出せない。

 

「─ごめんなさい」

 

 言葉を出せたのは、数分経ってのことだった。

 

「貴女の苦悩は、全部私達アニムスフィアの責任よ」

「…それは、どうしてでしょうか」

「資料にあった魔術王。アニムスフィアはその末裔。本人か。遺体の管理に失敗したのか。一族がやらかしたのか。どっちにしても原因は私達」

 

 アンナマリーを抱え込むと決心した時点で、私の人生は獣に携わることは決まっていた。才能が戦闘に偏っていたのも運命としかいいようがない。私は従者(サーヴァント)こそが最も相応しい人間として生まれてきたのだ。

 

「デミ・サーヴァントの実験も、貴女の立場も、藤丸の存在も。私に適性さえあれば何もかも不要だった」

「所長…」

「みんな、私が殺したようなものよ」

 

 マシュが私を抱きしめた。サーヴァントの力に肋骨がメキメキと悲鳴を上げる。きっと、私の身体がアレに近づいているために本能的に開放しているのだろう。慌てて腕を抓り上げてその力を緩めさせた。あの状況だとシリアスにならない。いまは真剣に謝罪しているのだ。

 

「貴女達との人理修復はとても楽しかった。辛い時はいつも1人だったから」

「私も、楽しかったです」

「本心では次回も貴女達と旅をしたい。でも、私が魔術王に勝てる可能性がある以上、最後の特異点まで私はレイシフト出来ない」

「理解してます」

「藤丸の中に侵入したアンナマリーは私とアンナマリーが操作するラジコンもどき。弱体化はしても、サーヴァントとして貴女達の力になってあげるための力よ」

 

 私がサーヴァントを召喚する為に開発していた『英霊召喚システム・エクストラ』をアンナマリーが脱法改造したもの。アンナマリーの肉体に私の精神を繋げて混ぜ合わせた分身(アルターエゴ)

 

「私が強いことはわかっているでしょう?アンナマリーも同じ。魔術王の呪いも何とかしてくれる。だから、いまはゆっくり休みましょう?」

「はい…」

 

 マシュは私の胸の中に頭を沈ませた。私はそれを漸く震えることなく受け入れることが出来た。

 

「…ありがとうございます」

「いざとなればアンナマリーが藤丸に(魔力供給)をすれば呪いを引き受けられるし」

「その時は所長の頭を粉砕するかもしれません…」

 

 私はアンナマリーへ貞淑を貫くように届きもしない命令をした。

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