マリーの中の寄生虫   作:ややや

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プラ犬に関してはオルガマリーは(アンナマリー経由で)実物を知っているためフォウ君と同種と認識していません。せいぜい犬種の元ネタくらいだと思っています。なんなら携わる言いながら獣がなんなのかもよく分かってません。


睡眠:監獄塔に復讐鬼は哭く

 藤丸が捕らえられた場所は、絶望の島と呼ばれる監獄塔だった。

 

 シャトー・ディフ。フランス南部のイフ島に築かれた牢獄として利用されていた要塞。生きとし生けるものに襲いかかる亡霊達を、藤丸は復讐者(アヴェンジャー)のクラスを名乗る英霊のおかげで凌ぐことが出来た。

 

「おまえの魂は囚われた。脱出のためには『裁きの間』を越えねばならん。先程の起床は奇跡だった。最早、おまえからカルデアの助けを求めることは出来ない」

 

 7つの夜までに7つの試練を超えなければ藤丸は死ぬと彼は言った。

 

 藤丸は生きるためにアヴェンジャーと仮契約し、第一の扉の番人であるファントムを撃破した。だが、アレをファントムと称していいのかは藤丸には分からない。清姫のような、嫉妬(ナニカ)に執着した人格を本人と呼ぶには、あまりにも失礼に思えたのだ。

 

「その認識に誤りはない。数多の亡霊が澱み器を介して這い出たモノ。本人など、なりようが無い」

 

 疲労により藤丸はしゃがんだ。魂だけとはいえ、何だか空腹も感じて来る。事実、魔術王がオルガマリーを警戒したために呪いは強化されていた。睡眠と覚醒を繰り返す本来の仕様ではなく、脱出まで永遠に睡眠する死の呪いを本格化したものだ。

 

 それでも、藤丸の眼には光があった。アヴェンジャーはその顔を見て、高らかに笑った。

 

「─待て、しかして希望せよ。救いの腕は既に手中にある。おまえはカルデアの何だ?」

 

 サーヴァントのマスターだ。藤丸は令呪を掲げて声高く宣言する。誰でも良い訳ではない。カルデアが必ず送ってくる援軍、そのサーヴァントと縁を結ぶために魔力を放出する。

 

 令呪の1画が消失し、空間から現れるように夢で見た所長に酷似した女性、アンナマリーがポーズを決めて現れた。

 

「サーヴァント、アルターエゴ。契約に応じ顕現した。これより我が資産は貴方と共にあり、人理修復のための礎となろう」

「アンナマリー!」

 

 藤丸の呼びかけにアンナマリーは感無量とばかりに唇を噛んだ。一般消費者からの歓声はすなわち品質の素晴らしさに等しい。ブランド品の鳴物品としてタグ付けられた快感はアンナマリーの本能に快楽をもたらす。

 

 気分良く浸った後、アンナマリーはアヴェンジャーを見た。アヴェンジャーは不機嫌そうに鼻を鳴らした後、藤丸について来るように牢屋から出た。

 

「怠惰を殺したな。試練は超えなければ藤丸の器を測れぬというのに」

「必要はあるのか?結局は、他人様が気にいるかどうかの風見鶏に過ぎないだろう」

 

 返事はなかった。

 

 廊下を歩く。藤丸とアヴェンジャーの間にアンナマリーは挟まった。アヴェンジャーの語りはアンナマリーを無視して藤丸のみに向けられていた。

 

「肉体と魂の乖離を止めるには裁きの間を越えればいい。残る裁きは5つとなった。次の裁きは『色欲』。怠惰の分だ…俺は見に回る。乗り越えてみるがいい」

 

 アヴェンジャーは壁に背中を預けた。藤丸が何かを言う前にアンナマリーが障壁を彼の前に出現させる。広間から飛んできたスケルトンが派手な音を立てて障壁を揺らした。

 

 色欲の間にいたのはフェルグスを模した男。獣欲を孕んだ目でアンナマリーの鼠蹊部をいやらしく睨め回していた。

 

「しみったれた監獄にひとり酒ひとり寝かと肝が冷えたが。穴としては悪くない。そして─」

 

 フェルグスが雑に剣を藤丸とアヴェンジャーに向けた。

 

「おまえたちはアレだ、いらん。邪魔だ、殺す」

 

 誇りも何もない短絡的な暴挙。振り下ろされる剣をアンナマリーが防ぐ。右腕と剣が金属音を奏でて火花を散らし、フェルグスの目が少しだけ開いた。

 

「マスター!」

「迎撃、防御を重点に!敵は思考が固定されているみたいだ!」

 

 そんなモノなのかとアンナマリーは指示通りに肉体を結晶化させる。技術もない力任せの振り回しならば自身の肉体を削り壊すことは出来ない。苛立ち紛れに繰り出された首筋への攻撃を受け入れた後、アンナマリーは首を挟み込んで剣を固定した。

 

「ぬう!?」

「なるほど、隙だらけだ」

 

 アンナマリーの口腔から熱線が発射される。両手が塞がれたフェルグスにそれを避ける技量もなく、彼の口から上が文字通り消し飛ばされた。黒い靄となって湧き出てきた亡霊を殴り飛ばしながらアンナマリーはドヤ顔を藤丸に向けた。

 

「ドヤァ」

「声に出して向けるものじゃないよ」

「!?」

 

 藤丸が思わずこぼした指摘に、アンナマリーは驚愕した。その顔は所長とは違う動きをしており、この人が明確に別人なのが理解出来た。

 

 愛嬌はあるのは同じなのだが…何というか、アンナマリーのそれはペット的な可愛さなのだ。所長はもっと女傑の中にエリちゃんの香りを漂わせるような、玉に瑕を刺青として芸術に具現化したような不思議な魅力がある。

 

「あれがおまえの希望か」

 

 アヴェンジャーは揶揄するように言った。

 

「違うよ。彼女は─所長の希望だ」

「なるほど、恩讐の彼方を超えた者がいたか」

 

 次は憤怒だと彼は背を向けて扉を開けた。アンナマリーの戦法も強さもアヴェンジャーは気にしないようだ。あくまで藤丸が乗り越えるかどうか。道具の是非は勘定に入れてないのだろう。

 

「アヴェンジャーの名は教える必要はあるか?」

 

 アンナマリーは首筋から口を作り出して藤丸に質問した。

 

「分かるの?」

「ワタシの眼は立体世界(三次元)を遥かに超えて集合世界(六次元)を部分的に閲覧することが出来る。他者のラベル(名前)など、容易く分かる」

「そっか。…でも、アヴェンジャーが自分から言うまで待つよ。なんとなく、その方が良い気がする」

 

 知っても手を取るしかないのなら、相手の望むままに従ったほうが心象は良い。アンナマリーは容易く裁きの番人を倒したが、今後の敵が弱いとも限らない。

 

 フランスの特異点では正当性を理由に世界を壊そうとしていた。他人の正しさと自分の正しさは決して同じではない。理解し合うには、目線を合わせなければならない。

 

「ならば従おう。ワタシには…98年かけても分からなかった分野だ」

 

 アンナマリーは無感動に頷いた。

 

 そう、分からないのだ。アンナマリーは。アヴェンジャー─エドモン・ダンテスに起こった恐怖、怒り、裏切り、その感情を。

 

 ヤツのことはオルガマリーの魔力を使えば(腹はへるが)詳しく見れば解析できる。

 

 若い男の短いながらも確かに作り上げた人生が奪われる。若い頃の恋人。父親への愛情。海への愛と仕事。彼は自分の生き方のおかげで、全てを手に入れていた。エドモン・ダンテスは否定する余地なしに良い男だった。

 

 そして、それは一瞬にして奪われた。

 

 マルセイユ沖の監獄塔シャトーディフにて、14年の投獄。太陽の光も浴びれず、誰も平均的と語れない食事も無く、外部の接触もない。何もかもが、自分の人生を構成していた全てが奪われ─それでも、彼は脱獄した。

 

 だが、エドモン・ダンテスの人生は既に終わっていた。自分から奪われた世界はもはや存在しないことを確認した。父親は悲しみに暮れた果てに自殺し、恋人は彼の全てを奪った怪物と結婚し、子を産み育てていた。海の商売の師匠は破産した。

 

 エドモン・ダンテスは貴族モンテ・クリスト伯爵として生まれ変わった。

 

 神父に託されたモンテクリスト=救世主の山の財宝を得て、男は復讐を始めた。その恩を返すために、アヴェンジャーは神父の代役として魔術王に逆らった。

 

 結論から言えば、アヴェンジャーはただ自殺しにきたに過ぎない。

 

 アンナマリーには、何故それを行ったのか、カルデアに戻っても理解出来なかった。

 

 アンナマリーを使いながら、藤丸は監獄塔を攻略した。

 彼女の機能としては、それだけで省略できる事柄だった。




アンナマリー「射幸心を煽るような服装を…着る!」
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