そろそろマシュに頭を砕かれそうな気がする。
今回の微小特異点は第4次聖杯戦争。私が参加した聖杯戦争のひとつ前の儀式だ。つまり、タイムパラドックスの可能性が多少は存在する。多分大丈夫だとは理解しても納得は別である。いくら清潔でも生卵は忌避するのは当然なのだ。
何せ、特異点冬木の影響か私の記憶もしっちゃかめっちゃかになっている。アンナマリーもだ。
─失敗してるぅー!
汚染されてるって父から聞いていたけど、普通に力量不足で盛大に失敗していた。結末の記憶はないが。当てつけにしては酷い八つ当たりだ。レフにそこまで恨まれることをしでかしただろうか。してたかもしれない。
まあ異様なほど邪魔が入ったから仕方がない気もする。アサシンのカーミラを従えながら学校を魂喰いしようとしたライダーを撃退。同じく魂喰いをしていたキャスターを処分。
その足でマスターの間桐家を襲撃し、人喰いの臓硯を処理。そのまま人喰いの化け物となった後継者を撃退して、何故か遠坂家が邪魔をした。
…だったかしら。時系列がうろ覚えで思い出せない。カーミラと最新のエステに行った記憶はあるけど、アーチャーセイバーエステバーサーカーのローテは狂っている。人理修復により複数日が混在している可能性が高い。
というより闘いすぎだ。聖杯の前ではセイバーに最後の切り札も使っているし、仮にも協会側の人間なのにレイドボス扱いである。多分セイバーにカリバられたのだろう。特異点のクレーター見る限り遠坂邸で。
これ以上私の記憶がぐちゃぐちゃになっても困るので藤丸には頑張って貰いたい。
今回はマシュは非番とした。身体ケアと休みを兼ねた命令である。普段ならば石橋を叩くためにレイシフトをさせるのだが、今回は最適なサーヴァントがカルデアに存在した。
諸葛孔明。エルメロイ二世の肉体を依代とした擬似サーヴァント。今回の聖杯戦争の当事者である。サーヴァントの真名もマスターの経歴も把握済みの状況なら、余裕がある内にマシュに褒美を与えるのは当然だ。
なお、孔明は名誉あるカルデア書類チームの第2号として休みなく働いてもらっている。人件費は少しでも節約したい。衛宮共々書類と格闘してカルデアに休息を与えてほしい。人理のための特別なお仕事だ。…他にも擬似サーヴァント来てくれないかな。
脱線した。
今回の特異点は特に召喚の制限も存在しない。孔明に彼セレクションのサーヴァント5騎とアンナマリー、そして藤丸の大団体だ。他マスターと無駄に敵対しないように背景や偽装はしっかりと肉付けしなければならない。
ただ、今回は珍しくアンナマリーが私にいい考えがあると胸を張った。
彼女が意見を出すのは本当に稀だ。よほど自信があるらしい。ダヴィンチも笑顔で頷いたレベルだと自慢していた。他人の評価込みなら一理ある考えなのだろう。
少し考えて、藤丸と相談して了承したら構わないと回答した。作戦会議は明日からの上、特に意見があるわけでもない。ダメだったら私の親戚として藤丸に騙らせるだけだ。
楽な特異点で良かった。
今日は早めに寝る。久々に熟睡できそうだ。
⭐︎★⭐︎★⭐︎★
第4次聖杯戦争の港での争いは大男の操る神牛によって中断された。
「双方、剣を収めよ!我が名は征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争においてライダーのクラスを得て現界した!」
戦車に乗ったまま真名を流すイスカンダルに、制された
イスカンダルは横暴に、あるいは鷹揚に敵であるサーヴァントに接した。興奮、賞賛、そして勧誘。アルトリア達が各々の理由で却下したのを残念がりながら、イスカンダルは港に響き渡る大きな声で叫んだ。
「聖杯に招かれし英霊は、今ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」
盛大なる挑発。
応じたのは、複数の笑い声。傲慢な男と華奢な子供の声が港に響く。現れたのは黄金の男、ギルガメッシュ。金で彩られた鎧が彼の精神を表していた。
幸運か、必然か。港には現存する全てのサーヴァントが存在していた。
「呼ばれているぞ、雑種」
「あら、見逃してくれると思ったのに」
全てのサーヴァントがコンテナを見た。コンテナの距離は10メートルも存在しない。彼らならば容易く認識できたはずの場所には人影があった。街灯に照らされた少女は、ギルガメッシュの指摘に不敵に笑った。
「ハッ。このような茶番など、我の退屈を労う価値もない」
年若いというよりは幼いと呼ぶべき容姿。黒を基調とした服と白髪のコンストラストが特徴的な少女─オルガマリーは右手にある令呪を隠しもせずにコンテナの上で足を遊ばせていた。
アンナマリー渾身の当時のオルガマリー再現体である。万が一の整合性を高めるために前もって討伐したキャスターの立場を乗っ取る形で参加することを二世が主張したのだ。
「来なさい、キャスター」
当然、藤丸も偽装している。白を基調としたローブ。金色の装飾。そして褐色の肌に白髪の三つ編み。ダヴィンチが魔術王を元にリデザインしたソロモンの姿だ。ロマニは複雑な表情で装飾に文句をつけていたのは意外だったと藤丸は思い出した。
その姿を見てギルガメッシュは大笑いした。涙すら浮かべた馬鹿笑いに、藤丸は動じない。実際見抜かれたならば馬鹿馬鹿しいと思っている。が、まあ、死ぬよりはマシである。この手のサーヴァントは油断している方が有り難いのだ。
「ウルクの我の代わりだ。貴様達の献身ぶりを評価してやる」
全てを見通しているのだろう。ギルガメッシュはニタニタと意地の悪い笑みを浮かべたまま宝具を起動した。
「それとも、雑種だけで戦うつもりか?」
「まさか。魔術師が最強である必要はないさ。
藤丸が意味深に(実際に何の意味もない)地面を踏み付け、その影からサーヴァントが3体顕れる。レオニダス、ジークフリート、フィン。全てが霊基を持つ本物のサーヴァント。その全てが宝具を発動してギルガメッシュを迎撃した。
レオニダスが物量に対処し、ジークフリートが神秘を防ぎ、フィンが初見殺しを看破する。雨霰と降り注ぐ宝具の山に藤丸とアンナマリーは動かない。むしろ、余波を回避するために他のサーヴァントが逃げ惑った。
彼らの戦いはまさに戦争であり、港という戦場は手狭だった。
各自が自身のスタイルに合わせて距離を取る中、宙に浮かべるイスカンダルのマスターである
「何てインチキだ!ふざけるな!英霊だからってやっちゃダメな決まりくらいあるだろ!?」
「サーヴァントを召喚するサーヴァント。なるほど、キャスターならば不可能ではない。だがな、小僧。気を付けるべきは、サーヴァントを召喚したことではなく、複数人を問題なく運用していることだ」
戦局は未だに拮抗している。しかし、マスターの差が出た。複数人のサーヴァント相手に互角以上に立ち回っているギルガメッシュを見て、遠坂時臣は不安をもたげた。
周りにはサーヴァントが存在する。この場で勝利してもアサシンの援護を前提としても勝つことは出来るのか。消耗したギルガメッシュと対峙する藤丸を見て、時臣は令呪でギルガメッシュに撤退するように命じた。
失策だった。
ギルガメッシュは当然拒否した。癪に障ったからではない。転移の隙を突かれて負けるからだ。ギルガメッシュの宝具は自動で宝具を選定するのではない。類稀なその頭脳で適切な宝具を選び取って放っているのだ。
その最中に強制的に割り込まれた
「時臣、貴様は頭すらたわけとなったか─!」
時臣はギルガメッシュを説得しようと口を開いたが、この局面でその行動はあまりにも悠長だった。何故アーチャーが全員を蹴散らそうと宣言しなかったのか、彼の性格から戦況を解かなければならなかった。
「
彼が英雄王の名を口に出す前に、ギルガメッシュの首はサンソンの宝具によって刎ね飛ばされていた。
「いやあ、危なかった。アーチャー、君だけは僕も本気で勝てないと愚考していた。マスターと不仲で助かったよ」
藤丸はソロモンらしさを心掛けて気持ち傲慢に笑った。念の為にフィンに心臓を貫かせる。ギルガメッシュは時臣にキレ散らかしながら消滅していった。
「さて、マスター。どうする?」
「魔力不足ー。逃げる。とんで」
了解したと藤丸は頷き、アンナマリーと合わせて転移する。側から見れば藤丸が痕跡も残さず転移したように見えるだろうが、実際はアンナマリーによる転移である。藤丸は台本を読み上げるので割と限界だった。
騒然とする港の参加者達を尻目に、孔明はほっと息を吐いた。我慢していたタバコを口に咥え、長く深く煙を吸う。一心地ついた彼は、労わるように藤丸の肩を叩いた。
「よくやった、マスター。これでひとまず聖杯戦争で無闇に暴走するサーヴァントはいなくなった。このまま膠着を維持して原因を特定するぞ」
『先輩、お疲れ様でした。名演技だったと思います!』
『そうだね。ウン。スゴク、ソロモンダッタト、オモウヨ」
「何で片言なのドクター。やっぱりおかしかった?」
『ねえ、これ私の記憶がぐちゃぐちゃになるのは変わらなくない…?』
オルガマリーの問いに全員が目を逸らした。
アンナマリー(オルガマリーコスプレ)「バレて…バレてないか?これ」
藤丸(ソロモンコスプレ)「キャスター先に倒しちゃったし」
ダヴィンチ「大丈夫、声は本物を再現したから」