マリーの中の寄生虫   作:ややや

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睡眠:絶対魔獣戦線 バビロニア

 目を開いた瞬間、これはアンナマリーが齎した夢だとオルガマリーは理解した。今のオルガマリーはアンナマリーが好む生き恥服の色違いを着ている状態でベッドに寝ていたからだ。このセンスは他のサーヴァントには真似できないだろう。

 

さいしゅうきょうかさぎょうをはじめます

 

 オルガマリーは寝る際はパジャマ派である。決して見知らぬ貫頭衣を着た人達が持ち上げるベッドに寝る人生は過ごしていない。夢だからか変な知覚能力を得てしまったようだ。

 

 貫頭衣を着た人達が持ち上げるベッドに寝る!?

 

 オルガマリーは盛大に跳ね起きてベッドから脱出した。強かに打ちつけた床は大理石に宝石の粉をまぶしてコーティングしていた。壁も床も天然の素材に希少鉱物を貼り付けたようなデザインだ。

 

 有り体にいって、自然を冒涜している。

 

「神よ、なにか、ふけいなことを、しでかしたでしょうか」

 

 ベッドを持ち上げていたのは10歳も過ぎてない少女達だった。全員がかつてのマシュのように身綺麗で可愛らしいが、力仕事をする容貌ではない。今にも泣き出しそうな彼女達にオルガマリーが慌てて否定すれば、幸せいっぱいの表情でベッドを持ち上げた。

 

「神よ、ご就寝なされるならば「目は覚めたわ…」そうで御座いますか」

 

 しょんぼりとした彼女達はベッドを降ろし、いそいそと入り込んだ。

 

「神様の匂い…」

「そう…」

 

 ツッコミを放棄したオルガマリーは近場に吊るされていたガウンを着て扉を開けた。鍵はかかっていないが、見た目に反して非常に重い。オルガマリーは中腰となって背中で押し始めた。

 

「おっ…もっ!純金で出来てるのかし…らっ!」

 

 強化魔術を使用してようやく扉が開いた。オルガマリーが蝶番を見れば、金色の金属が延びている。柔らかい金属でできた扉故に歪んでしまったようだ。本当に純金の扉だった事実に、オルガマリーは口元を引き攣らせた。

 

「成金だってこんな無駄なものを頼まないわよ…?」

 

 長い廊下も色々と豪奢だが調和も何もない。素材を冒涜するような、アンシナジーの具現化に少しだけげんなりとした。ゆっくりと動くムービングウォークに身を任せながら、オルガマリーは直立不動で待機する目の前の人物に向き合った。

 

 笑顔を絶やさずに笑う男。その姿は天草によく似ていた。オルガマリーが扉を開けるために四苦八苦する様をじっと見ていた彼は、立て板に水を流すようにひたすらに言葉を話していた。少なくとも、会話ではないとオルガマリーは認識していた。

 

「アルターエゴ・アンナマリーはサーヴァントと同様に魔力で肉体を構築していますが実態はラジコンと大差ありません。同志藤丸が錘となって顕現していても、肉体の主人はオルガマリー様の管理下。令呪(アドミン)を発すればワタシはいつでも命令に従います」

「誰に説明してるの…?」

 

 それは結構前に藤丸にした話だった。脈絡のない会話は恐怖である。冒涜的なセンスからアンナマリーの記憶の中だとは予想がつくが、オルガマリーはこんなものがアンナマリーの中身だとは信じられなかった。

 

「私は人格パターン宣教師。オルガマリー様が困惑なされないよう最も近しい出姿で形作られています」

 

 やはり別人だった。たまに言動がおかしくなったのはエミュレート先を変えていたからか。オルガマリーは与太話ばかりだったアンナマリーの詳細についてようやく理解出来そうだと髪を纏めた。

 

「そうね。正直本人のことを思い出すから初対面の人にしてくれないかしら」

「かしこまりました」

 

 天草は悔しげに頭を下げた後、廊下に触って扉を開いた。余りに冒涜すぎて観察していなかったが、ムービングウォークの下に部屋があったようだ。応対はアンナマリーそのものだなと、オルガマリーはほっと息を吐いた。

 

「…(´;ω;`)〈コウタイシマス」

「「「ザマァー!!」」」

「このムービングウォーク人力なの!?」

 

 天草の断末魔と併せて扉が閉まる。思わず、私は息を潜めた。ガシャガシャという音。爆弾が破裂したような音。肉が切り裂かれる生々しい振動。数分もしない内にムービングウォークは再稼働し、扉からメリケンサックを血塗れにした学生服の少女が這い出てきた。

 

「フランシスコ・ザビエルです。男性体・青年に代わり女性体・若年の姿となります。以後は私が案内させていただきます、神よ」

「ザビエル?本当にザビエル??」

「ザビエルで御座いますが…?」

 

 ザビエルも学生服を趣味で着る時代なのだろうか。

 

 ムービングウォークがゆっくりと動く。廊下の絵画は金粉と宝石で作られた宗教画だった。水晶の化け物と立ち向かう人類。そして、()()()()()()()()()()()()()()。通信機器と『人類存在罪』と書かれた死刑執行書が血に染まりながら踏みつけられている。

 

 露悪的で下手な芸術作品だ。それを理解していて、オルガマリーはそれを口に出さなかった。出すべきではないほどの熱があった。アンナマリーの生態の本質が、あの絵が示しているような気がした。

 

「…この世界は何?」

「ワタシの…アンナマリーの魂魄保存空間です」

 

 オルガマリーは三つ編みを作りながらザビエルの言葉を受け止めた。アンナマリーは数多の魂の集合体であり、債務者(ほんたい)が支払う代償を払えなくなった際にその全てを燃料として回収する。自我を失った魂の待機場所がこの空間なのだと、ザビエルは語った。

 

「本来ならば我らの一員となって魂が融解し、魂と肉体がアンナマリーとなる現象なのですが」

「さらりと恐ろしいことを言われた…」

「オルガマリー様の魂は特別です。最後の特異点に向けての最終強化作業。事実上、ワタシの全てがオルガマリー様に掌握されます。それはとても光栄なことであり、恐ろしく残酷な結末となり得ます」

 

 ザビエルが突き当たりの扉を開いた。

 

 眼前に広がったのは、光のオーロラで構築されたような未来都市。幾何学的に整列したビル群が奇天烈に空間を埋め尽くし、道路には色鮮やかな街路樹と噴水が美しく調和している。

 

 建ち並ぶ高層ビルはコンクリートなどといった無骨な塊ではない。透過金属と強化ガラスで構成されたその外壁は、人工太陽の光を複雑に透過・屈折させ、宝石のように美しい輝きを放っている。

 

 幅広の歩道の両脇には、異常なほど美しい街路樹が定規で測ったかのような等間隔で植えられている。鮮やかな葉は1枚1枚が瑞々しい。歩道として生やされている芝生は絨毯のように均一で、雑草の一本も見当たらない。

 

 計算し尽くされた『自然』。オルガマリーは思わず息を吸った。空気はオゾンと人工的な花の香りが優しく鼻を刺激し、街中には雑多なざわめきが一種のBGMとして耳を癒す。

 

『オルガマリー様を讃える歌を国歌斉唱とする動きが─』

『あまりにも不敬としてパターン鬼族が自らのツノをへし折る事件が多発し─』

『らぶらぶはぁとオルガ像?─吊るせ。オルガマリー様を愛称で呼ぶなど─』

 

 癒せない!

 

「この場所はオルガマリー様が永劫眠るためのピラミッド。貴女の死後、ワタシがワタシ(オルガマリー)であるために格納する最期の宝。それは、マリスビリーの計画に貴女が加担するという結果でもあります」

 

 父の望みは人理保障。私ならば任せられると遺言に父は遺し、アンナマリーは父を殺せ(従う必要はない)と説得した。私と彼らの認識は視野が違うとオルガマリーは理解している。それでも足りないと、ザビエルは首を振った。

 

「人理の保障とは、人類悪を討伐し続けることと同義です」

「ビースト…」

「人類悪。ワタシの同類であり、力だけはある負け犬の集団です。全力を出さなければ負ける。オルガマリー様も万が一があり得ます」

 

 オルガマリーは街を見た。美しい、安らかな、安寧を齎す光景だ。人類では資源をどれほど捧げればこの足元に届くのかもわからない。コレが負け犬とは、とても悲しい生物だとオルガマリーは思った。

 

「人類悪の存在はその獣性に沿ったスキルを持ち合わせています。通称、ネガスキル。人類が滅ぼすべき悪にして罪状。その能力は規格外なものとなります。ワタシで麻痺しているかもしれませんが」

「自覚あったのね…」

 

 だが、魔術王が人類悪ならば抵抗は可能だとオルガマリーは安心した。既にアンナマリーを何度も撃破しているのだ。規格外といっても人間単体で解決出来るスキルなら、アンナマリーとの『ワン・フレンドシップ・シング(きりふだ)』で─。

 

「因みに、ワタシのネガスキルは『ネガ・ナチュラル』。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。物理現象はワタシの管理下です」

 

 人類の全てを否定する能力を持つんじゃない。

 

「私に倒されたのは茶番か!ぶっ壊しても直るなら何の意味も無いじゃないの!」

「意味は、あるのです。ワタシをワタシとして魂で攻撃する。それがワタシの救いであり、討伐手段な故に」

 

 誰かのためではなく、自分のために。何かを使ってではなく、自分を使って。神を理由にした聖人(ニセモノ)ではなく、友人(ほんもの)だけがアンナマリーを滅ぼせる。

 

 オルガマリーは頭の中で巣食うバカな親友を止めるために全力を尽くした。それだけが、アンナマリーを倒すのに必要な事柄だった。

 

「オルガマリー様の()()()も併せて、ワタシが負けるのは必然だと言えるでしょう」

「ほんとお?父が何か脳髄に植え付けた結果じゃなくて?」

 

 ロマニ並みにノンデリお人よしケレン味魔術師脳な父だ。未だにこの謎生命体が父の作品として創り出された懸念を拭い取れない。葬式に来た連中の誰もが『取り敢えず死んだ扱いになったか』という眼で讃美歌を歌っていたのを忘れられない。

 

「コレばかりは本当に偶然です。マリスビリーにも限界はあります。恣意的にビーストを造る能力はアレには存在しません」

 

 ザビエルは少しだけ逡巡した。

 

「マリスビリーは貴女を本当に愛していました。人理保障が貴女によって恙無く運用されると信じています。だからこそ、アレは100年後の未来を懸念しました」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魂がそう調節されている。守護者が契約するように、死後の先に向かう場所をマリスビリーは強制した。人類のために、オルガマリーが出来ると信じて、どこまでも残酷になり得る神への道を、マリスビリーは拵えた。

 

「オルガマリー様。我らの救世主。ワタシは貴女のためなら永劫不滅で稼働できます。人格を参照(トレース)し、寸分違わぬ影武者(プリテンダー)をこなしてみせます。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アンナマリーは、オルガマリーに本心から伝えられるのはコレが最期だろうと知っていた。本当ならば10年以上かけて話し合いたかった。自身の生まれや歴史を笑いながら伝えたかった。だが、敵は無駄に強く、アンナマリーは拙速を強いられた。出来るのは、オルガマリーを気にかけることだけ。

 

「永遠の戦奴など、貴女には─」

 

 オルガマリーは起床した。

 

まっっったくわからない…

 

 第7特異点の、レイシフト当日だった。




マリスビリー「数年すれば最強の人理保障人になるだろうなぁ(遺言)」
ゲの字「(計画の)邪魔っ!レフボム投下っ!!」
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