マリーの中の寄生虫   作:ややや

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試験:絶対魔獣戦線 バビロニア

 藤丸が目を覚ました時には、既にイシュタルとの交渉は終了間際の状態だった。

 

「それでは、こちら著名な宝石カット方法19種を網羅した宝石となります。重さは全て1カラット、個人的な好みでの選定ですが、どうぞお納めください」

「なーんだ。ちゃんと賠償金があるじゃない。はやとちりしたわよ。マシュ、あんた、恋に溺れるのはわからないでもないけど…迷惑かけても嫌われるだけよ?女神(わたし)には無縁だけどね」

「うう。はんせいしましゅ…」

 

 しょんぼりと項垂れたマシュを見るに、彼女がイシュタル(目の前のサーヴァント)に何かしらの迷惑をかけたらしい。ウキウキしながら宝石をマシュ経由で受け取った彼女を見ながら、藤丸はそっとカルデア(ロマニ)に耳打ちした。

 

「状況が分からないんだけど」

『ああ、藤丸くん。気が付いてよかった。あのサーヴァントは女神イシュタル。理由は語らなかったけど、ウルクを守るために働いているらしい。いわゆる、遊撃隊だね』

 

 藤丸は顔を顰めた。つまり、日常的に敵からの侵略があると言うことだ。他人が死ぬ光景は気分がどん底になる。周りから聞こえる猛獣達の声に耳を塞ぎながら、藤丸はロマニに質問した。

 

「このコンサートが敵?」

『さあね。だけど観客達に余裕はないみたいだ!少なくとも60、近辺から未知の魔獣らしき生命体が押し寄せてる!この街は魔獣達の巣窟だ!…ってええっ!?帰っちゃうの!?』

「弱い者は助けないわよ、私。せいぜい生き延びてみなさいねー!」

 

 ロマニの緊迫した声と裏腹に、イシュタルは浮遊して飛んでいった。あっという間に米粒となった彼女を見て、ロマニはがっくりした声を上げて項垂れた。

 

『ああ万一にもと思った希望が!というか所長!引き留めなかったんですか!?』

「いや、こっちが悪い状態で更に恥を晒すのも…ねぇ?」

 

 オルガマリーの苦笑いに、ロマニが引き攣った顔で台を叩く。その手を押し除けて、モニターを監視していたダヴィンチがウィンクしながらオルガマリーに確認した。

 

『しかし、所長。魔獣達が押し寄せてくるのは事実だ。いったいどうするんだい?』

「当然、私の試運転よ。私のレイシフトは20%。アンナマリーと融け合ってる状態でこの有様。全力を出せるか─少し、試してみるわ」

 

 オルガマリーの雰囲気が変わる。

 

 鈍く、低い、闇のような低重音。時折響く砕破音はオルガマリーの体内で何かが壊れていくような不気味さを醸し出す。魔獣の全てが暴走を止めて吠え始めた。集団でかからなければ敵わない。本能的に、オルガマリーの強大さを感知したのだ。

 

星の形(スターズ)宙の形(コスモス)神の形(ゴッズ)我の形(アニムス)天体は空洞なり(アントルム)空洞は虚空なり(アンバース)虚空には神ありき(アニマ・アニムスフィア)

 

 魔獣が牙を向け直す。あまりにも遅い。オルガマリーの詠唱は既に完了した。聖杯戦争ではついぞ使用しなかった純戦闘用の魔術─理想魔術が、遂に魔神柱以外の前に披露された。

 

惑星劫

 

 半径1キロがオルガマリーの支配下となる。オルガマリーが魔術使いとして改造した理想魔術はアンナマリーの無限とも言える神秘の空間を基盤とする。世界の修正力を誤魔化すためにオルガマリーの内部を理想として改善を行うのだ。

 

「10、4、6、8、20%。…まだまだ行けそうね」

 

 個人の運命力を強化する。その姿、発言、行為、すべてにおいて一切の綻びのない至高の存在となる。理想とは完璧になること。なり続けること。彼女だけでなく、その支配下にあるものは天の星に守られ、支援される。

 

 手を振るえば魔獣の首が飛ぶ。魔力弾は都合良く複数体の脳漿をぶち撒ける。巨大な大蛇は空から降り注ぐ隕石によって潰された。藤丸達は結界で守られ、埃一つ被っていない。頼もしい姿に、藤丸は声を上げた。

 

「所長!このバリア格ゲーで見た気がするんですけど!テンション一定消費して4or1+D以外の攻撃ボタン2つで出せそうなアレ!」

「ガークラはしないわ」

 

 やってたんだ…。

 

 意外だというカルデア全員の視線に、オルガマリーは猫目になった。確かにオルガマリーは仕事人間だが、社会的に働いている上でストレス解消に遊びは当然行う。映画館、ゲーム、乗馬、スポーツ、その他諸々。少しデザインを参考にして不思議がることはおかしい。オルガマリーも手を抜くことはある。

 

「60、4、6、8、70」

 

 オルガマリーは1度息を吸い、周りに敵が居ないかを確認した。その後、ゆっくりと着替えるように慎重になって制服の下に生き恥レオタードを反映させる。オルガマリーの必死の命令によって多少分厚くなった本気モードだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「71」

 

 ばぢりとオルガマリーの髪先が爆ぜた。

 

『所長、これ以上は無理です!2%を切りました!意味消失スレスレですよ!自滅するつもりですか!!』

「百貌に観測覚えさせたら200%にならないかしら」

『メモリ増設のノリで上昇しませんから!!』

 

 ロマニのツッコミに、オルガマリーは理想魔術を停止した。現実でも理想魔術は理論値を超えたことがない。レイシフト先ならば抑止力の後押しも含めて100%が可能ではないかと欲張ったが、そうそう上手くはいかないようだ。

 

「仕方ないわね。マシュ、藤丸。残党は貴方達の仕事よ。周りに人気がないのは把握したから、建物は多少─防御態勢!!」

 

 音速で飛んでくる何かを検知したオルガマリーはマシュに命令した。マシュは迅速に防御を展開し、魔獣達を含めた5メートル四方を吹き飛ばす。何かは全身から鎖を飛ばしながら怯んだ魔獣達にトドメを刺した。

 

「廃都とはいえ、復興の予定がある場所。あまり壊してもらうのは困るかな」

「あなたは…」

「僕の名はエルキドゥ。神に造られた兵器さ」

『エルキドゥだって!?ギルガメッシュ王と対等と言われた、世界最強の意思持つ宝具の名を持つ者。しかも、サーヴァントじゃない、劣化していない生身の存在だ!』

 

 白い肌、淡い萌黄色の長い髪、長いまつ毛が特徴的な美しい彼はこそばゆいとばかりにくすくすと笑った。

 

「知っているなら話は早い。ひとまず、瑣末な話は安全な場所で行いましょう」

「分かった。よろしくね、エルキドゥ」

「…?君は動作検証はしてないように見えましたが、何か右手に異常でも?」

 

 藤丸が躊躇わずに差し出した右手に、エルキドゥは困惑して指を指した。

 

「握手ですよ、エルキドゥさん。先輩はエルキドゥさんと仲良くなりたいのです」

「ああ、なるほど。こう、手を握れば良いのですね」

 

 エルキドゥは強めに藤丸の手を握った。

 

「ようこそ、神々の朽ちた古きメソポタミアへ。新しい時代を代表して歓迎しましょう、カルデアの御一行」

 

 エルキドゥは全員に握手をした後、道先案内人として先導すると背を向けた。世間話に藤丸達が駆け寄る中、オルガマリーは胸襟を開き、ネクタイを緩めて身体から出た熱を放出する。

 

 運動したからではなく、緊張によって出た汗を。

 

「油断できないわね、本当に」

 

 アンナマリーの眼には、彼の名は『キングゥ』と表記されていた。

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