マリーの中の寄生虫   作:ややや

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奮闘:絶対魔獣戦線 バビロニア

 さて。

 

 どう考えても敵がスパイに来たようである。オルガマリーはアンナマリーに一時的に操作権を譲渡し、魂の奥底…あの謎の夢空間の公園で考えをまとめていた。

 

 アンナマリーの内部にある固有結界もどきは時間をある程度捻じ曲げられる。具体的には1.5倍くらい。短時間で物事を考えるにはうってつけの場所だが、オルガマリー自体に謀略の才能はあまりなかった。

 

 見破った。暫定の敵は目の前だ。それならばどうすればいい。オルガマリーはマリスビリーから数多の戦闘の才能を褒められたが、策謀に関して言及されたことは記憶に無い。

 

「やはりオルガマリー様には上司の(従わせる)才能が皆無なのでは」

「アンナマリー。私はいま真面目に考えているの。カルデアのみんなが『でも所長って最終的に暴で解決するでしょう?』みたいな認識をそろそろ差し替えたいのよ」

「何時間かけても藤丸様の一言には敵わないと思いますが」

 

 ザビエルボディのアンナマリーは困ったようにコーヒーと金粉の山を差し出した。お茶請けに金属を持ち出すな。オルガマリーはアンナマリーの頭に金粉を振りかけ、アンナマリーはその固まり切った鉄面皮を真っ赤に染めた。お気に召したらしい。

 

 ちょっと…センスがイカれているかなって…。

 

「それで」

 

 携帯電話でパシャパシャと自撮りとOlga-Twitter(非認可)で仲間達に煽りをいれたアンナマリーは興奮した面持ちだった。多分。オルガマリーには理解出来ないほどの表情だった。ザビエルボディの彼女は鉄面皮過ぎた。アンナマリーはオルガマリーにクリップボードを手渡した。

 

「どうなされますか?不意打ち、迎撃、もしくは…拷問?」

「なーんで選択肢が全部物理なのよ!懐柔とか、諜報とか!なんか…もうちょっと、藤丸達みたいにスマートな手法があるでしょう!?」

「マスター。貴女にはその手の機能は有りません」

 

 アンナマリーがじっとオルガマリーを見た。アンナマリーはオルガマリー第一主義だが、能力を過大評価することは決して無い。ダメな物はダメだとスペックの面から評価するのが彼女の性質だった。

 

「有りません」

「に、2回も言わなくていいじゃない…」

「レフの話術にまんまと騙され、部下からは強さを軽んじられて指示待ち人間に徹され、ゴルドルフの稚拙な口説きにときめく人格に、交渉や諜報の優位性は存在しません」

 

オルガマリーはちょっと泣きそうになった。

 

「私にも出来ることくらいあるでしょ。…でしょう?」

 

 アンナマリーはさっとクリップボードに描画した。

 

オルガマリー・アニムスフィア

フォーリナー?

 

ステータス

Lv.90/90  ━━━━━━━━━

 ◆ ◆ ◆ ◆

COST16

HP15,450

ATK10,815

強化0/2,000強化0/2,000

宝具スキル


絆Lv.10/10 

絆Lv.10/10 

 

「ステータスを見せろと言ったわけじゃ無いわよ!!」

 

 レベルもコストもスキルも能力値も何もかもが出鱈目!基準点不明!怒りながらも話し合いくらいは前提に考えるべきだとオルガマリーは主張したが、アンナマリーの可哀想なものをみる目つきは変わらなかった。

 

「オルガマリー様。どれだけの努力をしても、ワタシ達に出来るのは暴力が最大の効率なのは事実です。それを誤魔化そうとしても、決して幸せにはなれません」

「そ、それでも…、…。…うん?」

 

 オルガマリーの怒りは疑問によって鎮火した。冷めた身体に張り付くように、嫌な汗がべっとりとワイシャツを湿らせていた。

 

「私達?」

「ワタシ達」

 

 オルガマリーは肉体の中継モニターをみた。ウルクの防衛の要害である北壁を藤丸達に見せたキングゥは辺地の森を案内しながらメソポタミアの惨状を教えている。

 

 いや、剣呑な目でアンナマリーと会話している…?

 

『うん…?うむ。今、オルガマリーは肉体の修復のために一時的にワタシに操作権を預けている。リカバリモードというやつだ。戦闘力は半減以下だ、キングゥ殿』

『…その名前は、どうして知ったのかな?』

『何の話かわからないが、仲良くする際には本名で話すべきだろう?』

 

 ねえ…何で…アンナマリーが…秘密を喋っている。

 

「仲良くしろと命令されたからですが…」

「おばか!!」

 

 藤丸は元より、マシュすらも信じられないとばかりに口を開いたままだ。キングゥの空気が変わったのを理解せず、アンナマリーは私の身体で胸を張った。隙だらけだった。

 

『うむ。信頼関係の構築は真を話すことからだ!』

『そうかい。なんとまあ、お人好しなことだ』

 

 せ、戦闘モード切り替えぇ!!

 

 オルガマリーがアンナマリーから肉体の指揮権を奪い取った時には既に手遅れだった。キングゥの渾身の蹴りがマシュの防御をすり抜け、オルガマリーの腹部を貫いた。藤丸の叫び声が響く中、キングゥは蹴りの感触から暗殺の失敗を理解して舌打ちをした。

 

「なるほど、中身はしっかりと戦闘態勢を整えていたか」

 

 人体を貫通させる筈の膂力を秘めた一撃は、砕け散る結晶体によって防がれていた。オルガマリーは胴体を半分ほど削れた状態で無理矢理に身体を捻り、キングゥに裏拳を振るう。キングゥはそれを片手で防ぎ─オルガマリーが力任せに振り切ったことで反撃することなく吹き飛んだ。

 

「中々、腹芸とは難しいものだね」

「…」

 

 貴方も物理解決の手法しかなかったのね…!

 

 腹部から空気が漏れているために、オルガマリーは空気の読めない発言をかろうじて防ぐことに成功した。コミュ強の藤丸ならば軽口で済むセリフもオルガマリーが発すると罵倒になる。オルガマリーを好んでいるのはケルト系と海賊旗が主だった。

 

 キングゥの肉体が武器へ変貌する。自在に姿を変える肢体に武術の術理は通用しない。関節は鎖鎌で回転し、手打ちのビンタは鉄球の振り落としへと自在に変わる。急所だけを防いだオルガマリーは反撃の掌底を放ったが、キングゥの腹部は波紋が生じただけだった。

 

 オルガマリーの目が細められる。キングゥの肉体は彼が偽証したようにエルキドゥと同様の能力を持ち合わせていることは確かなようだ。肉体を液状化したことによる攻撃の無効化。オルガマリーは左腕を千切らせる代価にキングゥの右手を手刀で切り裂いた。

 

 キングゥとオルガマリーは示し合わせるように距離を取り合った。互いの呻き声を脳内で保管しながら復元した肉体に舌打ちをぶつけ合う。数分の戦いの結果は完全に無意味と化していた。

 

 ならば、必要なのは未来への布石だ。

 キングゥは臨戦態勢のまま口を開いた。

 

「君の使い魔は肉体の修復をしていると言っていた。魔獣を嗾けた際に見た戦闘では意味消失はともかく、肉体的には無傷だった。どうしてかな?」

 

 オルガマリーは冷や汗を無理矢理抑えた。序盤早々にオルガマリーの全力に時間制限がある事実を知られるのは非常に拙い。返答に困るオルガマリーを救ったのは、マシュを見た藤丸だった。

 

「所長!まさかマシュが掴んだ時に…腰を…!!」

 

 緊迫した空気が少し緩んだ。

 

 本心からの指摘。カルデア通信からの納得の呻き声。オルガマリーの強張りがキングゥの類稀な感知能力に全て引っかかった。間抜けな真実にキングゥはオルガマリーを鼻で笑った。

 

「君、部下の教育がなってないな」

「やかましいわよ!!」

 

 よくやったわ藤丸。でも後でしばかせてもらうわ。

 

 内心をよそにキングゥとの戦闘が再開される。マシュ達から吹き飛ばされる形で距離を取らされたオルガマリーは一方的に襲いかかる武器群を結晶体で弾く。劣化しているとはいえネガスキルは遠距離(しぜん)による攻撃を無効化する。10の槍がオルガマリーを貫いても問題なく動く様を見て、キングゥは好戦的な笑みを浮かべた。

 

「どうやら、君と僕は似た性質を持つようだ」

 

 音の壁を超えた状態での近接戦。互いの肉体の破損が無駄だと理解しているからこその、体積を消し飛ばすための異種格闘技。結晶と泥が互いの背中から弾き出され、少しでも減算を行うために人外そのものの関節と四肢を変貌させる。

 

「ッ!」

『キングゥの技はネガスキルに通用していません。誰かのためにオルガマリーを排除する意思があります…が、このままではマスターの精神は厳しいかと…!』

 

 オルガマリーが息を吐く。消耗戦で不利なのはオルガマリーだった。互いに肉体は不死身でも、操る側の処理能力(スペック)が異なる。オルガマリーが必死にコントローラーを操作しているのに対して、キングゥはコマンドを直に送信している。レスポンスの差はオルガマリーの負傷という形で勝敗を濃厚にしていた。

 

 それでも、本来ならばオルガマリーとキングゥは千日手を成すはずだった。足を引っ張るのはレイシフト率だ。次々に破損と再生を繰り返す肉体にカルデアの管制側が意味証明を維持出来ない。ひた隠しにしているアンナマリーとの結合箇所(のうずい)を貫かれたら、オルガマリーは事実上死亡する。

 

 どうすると考えるには遅過ぎた。逡巡の隙にキングゥの突きがオルガマリーの腹部に衝突した。オルガマリーの身体が浮遊する。樹齢何百年の木々に穴を開けながら、オルガマリーは姿勢を整えようと身動きしたが、両手が演算されていない。頭部を下にした状態でオルガマリーは石に陥没した。

 

『マスター!』

「運は…尽きていなかったようね」

 

 トドメを刺そうとキングゥが跳躍する寸前、オルガマリーの肉体が花束に変貌する。今までとは違う変身にキングゥは攻撃を取りやめ、背中から来た花束の斬撃に応対した。

 

 オルガマリーの技ではない。おそらくは、幻術と第3者による奇襲。そのどちらにもキングゥに心当たりが存在した。

 

「マーリンか。…仕方ない。撤退だ」

 

 キングゥは不利を悟ってその場から脱兎で逃走した。あわよくばの暗殺は残念ながら失敗したが、オルガマリーが不死身でも無敵でも無いことは戦いでよく分かった。後は、頭を使って勝ちをもぎ取るとしよう。

 

「アンナマリー。不死にして数多の魂を生み出す()()。僕達が求める新人類の理想のひとつとして、参考にさせてもらうよ」

 

 キングゥの手には、母親の肉体と混ざり合う結晶の欠片があった。

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