マリーの中の寄生虫   作:ややや

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面接:絶対魔獣戦線 バビロニア

 何だかんだでようやくウルクで過労死60%(アンナマリー評)のギルガメッシュに謁見して数週間後、オルガマリーは最前線で兵役をしていた。

 

 ギルガメッシュ曰く、この特異点では『三女神同盟』を名乗る3人の女神が魔獣の群れを引き連れてバビロニアを滅ぼすべく襲撃を仕掛けてきているらしい。

 

 対抗としてギルガメッシュは自身の持つ宝物を聖杯として使用することで複数人のサーヴァントを召喚。カルデアの介入に先んじて三女神同盟と聖杯戦争を行い、バビロニアを守り通してきていたようだ。

 

 何でもあり過ぎる。遠坂は何故この英雄王のサーヴァント体と契約して土を着かせる結果を導き出せたのだろう。負ける方が難しかったのではないだろうか。

 

 閑話休題。

 

 戦地でオルガマリーが人外の肉体を動かして分かったのは、リスクの踏み倒しの危うさと素晴らしさだった。宙に浮き、地上を見下ろしながらの大魔術の発動。オルガマリーが幼い頃に想像した『大魔術師』の実現だったが、血生臭い空気は感動を台無しにしていた。

 

「「「星の形(スターズ)宙の形(コスモス)神の形(ゴッズ)我の形(アニムス)天体は空洞なり(アントルム)空洞は虚空なり(アンバース)虚空には神ありき(アニマ・アニムスフィア)」」」

 

 天体科アニムスフィア家の秘匿、星辰操作。人の作り出した宇宙図を魔術回路として使用する理想魔術を披露する。キロ単位でウルクに侵略する魔獣達へオルガマリーは隕石を落とす。範囲重視で威力も命中もそこそこだが、ウルク兵が容易くトドメを刺すには十分な隙だ。

 

「「「惑星轟!」」」

 

 ひたすらに連打する。今のオルガマリーは使役したアンナマリーの肉体を擬似的に使用している。詠唱を背中に生やした口(CV石川由依)で行い、分割思考で複数の惑星轟を管理して発射する。アンナマリーの肉体は鉱石だ。つまり、魔術回路が焼けつくことがない。擬似神経として肉体の負荷が低いならばアニムスフィアの大魔術も使い放題だ。

 

 決して、キングゥの攻撃や、ましてや空中に放り出された際にマシュに腰を掴まれたからではない。10トンの盾を持った彼女を腰ひとつで支えるのはアニムスフィアの魔術回路でも不可能だった。

 

 …治る?神経繋がるわよね??

 

『修復は既に完了しています。必要であれば骨密度を高めたりチタン製に出来ますが』

 

 それは後にしなさい。

 いや、サイボーグ化を検討するって意味ではないから。

 

 オルガマリーは脳内で叱咤した。戦場では魔獣達の血と断末魔が溢れ出ている。オルガマリーの息が整ったのを見た近場のウルク兵は粘土版を彼女に投げつけた。

 

「ギルガメッシュ王からの勅令です!ウルクに侵入したイシュタル神を撃退(かんたい)しろとのことです!」

「了解!でもこれ所長の仕事じゃないわよねぇ!?」

『マスターの性能は兵士が最も輝きますよ。きっと素晴らしい上院議員になれます』

 

 兵士の進化先は決して議員じゃない。

 

 ウルクの地は固定観念を破壊するには良い環境だった。兵士単体がサーヴァントのような身体能力を持つ世界では超人の動きにもセオリーが生まれる。オルガマリーは空気を引き裂いて跳躍するようにウルクの空を横断する。外套を翻しながら跳ぶ様はまさにスーパーマンのようだった。

 

 実態は24時間働く社畜奴隷だけれども。

 

『評価される身としては気分が優れます』

「私は褒美より休みが欲しいわ…」

 

 アンナマリー→アンナマリー→オルガマリーのワンオペ三交代製勤務だ。肉体的には過重を超えた過重労働である。ギルガメッシュからは最高級の食事と報酬が常に振る舞われているが、そろそろ横になって寝たい気持ちがある。

 

 そして、今日はあまり運が良くないようだった。

 

「そして、イシュタル神は退散したと…」

「ええ。イシュタル様はオルガマリー様が来られると耳にした瞬間に家畜を報酬として。我々も魔獣退治の代価としてはやぶさかではなかったのですが、やはりイシュタル神にはより良きものを差し出したいと考えまして。それで貴女に目録を認めてもらう予定だったのですが…」

 

 一応目録を作成しても時間は日暮まで余裕がある。ギルガメッシュからの粘土版には『重要人物との会談後は夜まで自由にせよ』と指示されている。会談自体は数十分。ひさびさの休みを目前に、オルガマリーは軽い足取りで目的地に向かっていた。

 

「ようやくマシュ達の仕事場に顔を出せそうね」

『…そうですね』

 

 アンナマリーは低い声で答えた。彼女が不快に思う信仰系サーヴァントと接触する時の機嫌だ。ギルガメッシュが召喚したサーヴァントにはそのようなサーヴァントは存在しなかったはず。ならば、現地サーヴァントの応対が目的だろうか。

 

 誤射しないようにという意味での顔合わせならちょっと自信無いけど…。

 

 歓談場所は前線から少し離れた掘立小屋だった。簡易的な警邏用の休憩小屋で、カルデアの個室より狭い。手土産に頂いた内臓焼きを片手に、オルガマリーは優雅にノックした後、小屋に入った。

 

「来たか」

 

 人生で浴びたことのない威圧感。黒色のフードを纏った大髭の老人が鎧姿の髑髏の武人へと変わり果てる。髑髏の意匠に殺意が具現化したような姿。かつてハサン達が死に際に首を斬られた、ハサン達の初代である山の翁だ。

 

 アンナマリーのラベルには『キングハサン』と記されていた。流石に不敬ではないだろうか。

 

「好きに呼ぶが良い。我が名は元より無名。拘りも、取り決めもない」

「顔に出てましたか…?」

「カルデアの調伏者よ。汝の語りは…些か実直に過ぎる」

 

 言外に馬鹿正直と言われた…!?

 

「理外の理を、人は神と呼ぶ。故に、神を相手に人道を語ることは愚かだ。だが、神に等しい力を有した人間が其れを口にするのならば。果たして、愚か者はどちらになり得るのか」

「…?」

「調伏者よ。汝が下した使い魔はガイアの破滅を是とするモノ。汝が現存した過去すらレイシフトが不可能なのは、使い魔をガイアが否定する故に他ならない」

 

 山の翁の言葉に、オルガマリーはただ深く頷いた。レイシフトは人物を特定時点に存在していると観測することで介入を可能とする。ウルクのような大昔はともかく、オルガマリーが生きて存在する第4次聖杯戦争でレイシフトに適性がなかったのは明らかに異常だった。

 

 ただ、オルガマリーはその理屈はレイシフトではなくマスター適性の理由だと直感で理解していた。レイシフト率の理由はアンナマリーが発端だが、ある意味では無関係だ。『生きているか死んでいるか不明の状態』が、きっとオルガマリーには存在しない。

 

 アンナマリーを救う代償は、安くなかっただけだ。

 

「汝が真の安寧を得るには、使い魔を真の意味で殺さねばならぬ。今の道を歩む先は、この山の翁が至上とする救済の対象。それを理解しているか」

「まあ、なんとなくは…ね」

 

 ハサン達が語る山の翁は天主になりかわり救済を与える信仰の化身。死すべき時(天命)を失った存在を殺す、残酷にして慈悲深き暗殺者。経験や洞察が、オルガマリーよりも上であると彼女は理解している。

 

「でも─」

 

 オルガマリーはネクタイを外して首を曝け出した。

 

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 オルガマリーも神は信じている。だが、それがオルガマリーに声をかけるとは思っていない。神様の言葉と精神病の戯言を区別できるのか。天命を受け入れるのと、アンナマリーを命惜しさに殺すこと、それのどちらが惨めなのか。

 

「斬りたいなら斬りなさい。私は友を裏切らない。見捨てない。それが気に食わないならそれでいい。だけど、それは救済の対象だからじゃなく、オルガマリーを殺したいから殺すと知りなさい」

 

 宣言して、オルガマリーは後悔する。今の答えは将来の仲間候補を蔑むような内容だった。今更取り消せないので、威圧感の増す山の翁に対して虚勢は張り続ける。

 

「左様か。ならば、汝の判断を信頼しよう」

 

 山の翁は、驚くほどあっさりとオルガマリーの言葉を受け入れた。

 

「えっと…いいの?」

「我にも友はいた。手段は違えど、歩む道は同じであった。汝が友を信頼するのならば、我が天命は不要となろう」

 

 山の翁は懐かしげに…多分懐かしげに目を細めた、と思う。アンナマリーの解析ではそう指摘されているが、オルガマリーには判別がつかなかった。

 

「懐かしき、若かりし頃からの友よ。酒さえ嗜めば全てが乗り越えられると豪語する、愉快な友であった」

「頭にアルコールまわりすぎてない?」

「汝の友と同義だ。友の酒は、友の信条を貫くための手段に過ぎない。だからこそ、汝も─それに溺れることは、汝が天命の果てとなるだろう」

 

 山の翁は挨拶もなく消えていった。アンナマリーの感知を受け付けない完璧な隠形。オルガマリーは固まったまま動けない。冷や汗をダラダラと流す彼女に、アンナマリーは気分の良い口調でオルガマリーを褒め称えた。

 

「流石はオルガマリー様。とはいえ、一応後30分はそのまま座っていてください」

「…あれ?え?もしかしてやられた?」

「いえ。多分。別に。一応。念の為。…後1時間ほど頭を押さえて」

「う、ウソでしょ!?うそだと言ってよ、ねえ、ねえ!?」

 

 最終的に、オルガマリーは1人寂しく2時間ほど座った。一応、首は切れていなかったとオルガマリーは認識している。

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