マリーの中の寄生虫   作:ややや

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発破:絶対魔獣戦線 バビロニア

 キングゥは感慨深い気持ちでティアマトの竜体を見ていた。

 

 ゴルゴーンの戦闘の最中に引き揚げたティアマトに自身が持っていた聖杯とアンナマリー(ビースト)の破片を捧げて彼女が復活したのは良かったものの、彼女はとても保守的で理性が強かった。

 

 キングゥが思うような理想通りの母だ。アンナマリーの破片により理性を強化した彼女は黒幕(魔術王)の目的を察して殺戮に否定的だった。かつての人類に復讐しようにも、その結末は子を使い潰す殺し合い。人理焼却はラフム(我が子)も巻き込まれてしまう。

 

 死ぬために生まれてくる彼らを無為に苦しめたくはない。

 

 理想的だが、だからこそキングゥは反対した。キングゥ自身の持論として、何もしないまま死ぬのほど醜いものはない。泥を被ろうとも、進んだ成果を身体に刻むのが生きることだと、カルデアの戦いで学んだのだ。

 

 ティアマトはアンナマリーの用途を活用して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。数多の生み出した新人類(雑兵)から選ばれたそれはラフムのフォルムを手抜きと否定し、牛若丸の霊基を真似てベル・ラフムと名乗っていた。

 

「母ちゃん、すんげぇデカいんだな。顎を外しても乳吸えそうにねぇや」

「うう…」

 

 海の底。ベルはティアマトの竜体を見ながら感想を口にする。生命を創り出す生体工場。星も渡れる魔力量。無限に等しい生命の方舟。神々が生態系の破滅を懸念して放逐した肉体がそこにあった。

 

「それで、君は他のラフム(みんな)と同じく母さん任せにするのかい?」

「何言ってんだよ、ウルクのおーさまに白旗振ったら(無策で行ったら)俺様は消えちまう。何が悲しくてキングゥの兄ちゃんをまともに見ねぇ連中の為に自殺しなきゃならないんだよ」

 

 ベルは中指を立ててからウルクの街へ親指を下に向けた。

 

「じんりぃ〜とかせんてぃ〜とかぁ。それって犠牲(殴られる)側になってこそ正論になんじゃん。恐竜が人理してたのご存知?しらねぇよー世界の平和なんて。んなモン、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ティアマトが常時顕現すれば確かに生態系はおかしくなるだろう。だが、それは一時的なものだ。良くも悪くも生物は環境に適応する。そもそも、ラフムのように遺伝子を乗っ取る生命体がわかりやすい証左ではないか。

 

 剪定された場合は知らない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなモノの責任など取る気はない。

 

「兄ちゃんは俺様の家族で、アイツらはウルク語で殺戮を許容する言い訳を並べて俺達を殺す敵。罪とか正しいとかはよぉ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 要するに、見捨てられたから気に食わない。

 

 殺すには十分で、憎むには理性的。キングゥは肉体の中にあった蟠りが溶けたのを自覚した。本当の意味で、ラフムの一員として協力するべきだと、ベルの頭を撫でた。

 

「なら、僕の聖杯と接続すると良い。君の武器として、僕は従おう」

「おー?…それって、プロポーズか!ポーズだよなぁ!デケェ指輪だ!入んねえ!」

 

 聖杯がベルの内部に溶け込み、神の鎖がベルの全身に防具として巻き付いた。マスターをベルとしたことでキングゥの生殺与奪権が彼女の支配下となったが、恐怖心はなかった。胸を張って同胞の1人として生命を費やせる幸福を得て、キングゥは本当の意味でエルキドゥを超えていた。

 

「うう…母は、麗しさに感激しています…!…自分の不甲斐なさにも、悲しんでいます。…もう、保ちそうにありません」

 

 彼らの感動的な成長に涙を流していたティアマトが謝った。恐怖を克服できず、旧人類を皆殺しにしたい拒否反応を抑えきれない不甲斐なさに、涙は止まらない。それを知りつつ、ベルは手のひらをくるくると回した。

 

「ま、母ちゃんは悪くねぇよ。責任は俺様が取る。安心して寝てな」

「ううう…よわいははでごめんなさい…!」

 

 耐えていたティアマトの頭脳が死んだ。陸上で遊んでいたラフムが名残惜しげに花火を打ち上げながらティアマトの身体まで戻る。ベルほど狂気ではないものの、ラフムにも生存意欲は存在する。

 

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人類悪 顕現

 

 ティアマトの竜体が感情豊かに飛び跳ねる。本来ならば理性なく咆哮するはずの口から子供らしい考えなしな笑いが木霊した。数多のラフムの肉盾に覆われた操縦室にいるのはラフム変異体であるベル。ギャバギャバとギザ歯を煌めかせたベルは、ウルクへ上陸せんとティアマトを前進させた。

 

「新たなアダムとイブ様のご侵略ダァ!!」

「それ、僕はどっちになるのかな?」

「この胸ン見てワカンねぇのか!!ユー、アダム!アイアム、イブ!!」

 

 ティアマトの急所に陣取るのは、ベルとキングゥだけ。その他はネガスキルにより旧来の生命を否定し、新たな命を生み出そうとする空間はベル以外のラフムすら否定する。本当の意味で生身の生命体は、この2人しかいないとティアマトが認めている証拠でもあった。

 

 ケイオスタイドを撒き散らし、接触した生命体を侵食してラフムに─したら攻撃しないので適当な魔獣に変貌させつつ、海上からティアマトの全身が徐々に現れていく。ウルクからの叫び声と断末魔に、ベルは高笑いした。

 

「壮観!爽快!新人類ノーベル平和賞はこの俺様ンモンだゼェ!!」

 

 嗤いながらもベルは冷徹に思考を働かせる。無駄な攻撃に仕込みがないとは否定出来ない。あの何でもありなウルクの王様が『ちょうすごいいみふめいのひっさつわざ』を用意している可能性は高い。それを掻い潜るには、ティアマトの肉体で想像もつかない突飛な挙動で作戦を台無しにする必要がある。

 

 つまり─飛べば良い。

 

 ベルはティアマトの肉体に翼を創り出した。竜体ならば羽くらい生やせるという暴挙だったが、その推測は正解だった。藤丸が籠絡した女神エレシュキガルの権能により、上陸地点の海岸は冥界へ繋がる落とし穴となっていたからだ。

 

「フラストレーション。それ即ちアートの兆し。ストレスフルな貴方に寄り添うドゥムジです。死にそうなので助けを求めます。ヘルプミー」

「あんた浮けるでしょうが!!」

 

 冥界に待機していたイシュタルがドゥムジをしばく。冥界下りの際に拾ってきた彼は冥界の住民としてラフムの翻訳と詳細な情報を引っ提げて海水から拾い上げられていた。ほぼ死体である彼に戦闘能力は無いが、燃料代わりの弾除け程度にはなるとイシュタルは彼を引き連れていた。

 

「何、作戦はあります。カルデアが彼女を冥界に叩き落としてからではありますが、ね」

 

 ティアマトの身体が浮かび上がる。速度は遅いが、生産能力とネガスキルは万全である。のんびりと浮遊して同胞をケイオスタイドと共に投下し続ければ勝ちは確実。

 

「うぉおお!ネコに生贄を捧げよ。ネコと和解せよ!でも怖いモノは怖いにゃ。どっせーい!」

 

 油断しきっているベルの頭上をジャガーマンが飛行して宝石と一緒に重量物が落とされたが、ラフムの一体も倒せない。下から響く振動を心地良く味わいながら、ベルはウルクに向けてティアマトの口経由で高笑いした。

 

「ギャハハ!そんなモノ、ビーストの霊基である母ちゃんに効くわけないじゃーん!神秘も、威力も、魔術式も、現代から丸ごと引っこ抜いても不足不足ゥ!」

 

 ベルはケイオスタイドを撒き散らしながら危険地帯のど真ん中に侵入した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな危険品をカルデアが所持している訳ねえよなあ!?

「あっ」

 

 横で愉しげに見ていたキングゥが思わず口を覆った。ベルは理論上あり得ない筈の存在に心当たりがある事実に、思わず操作を放棄してしまった。

 

「えっ…?…あるの……!?」

 

 轟音。

 

 地味に処分に困っていたカルデアボムが爆破し、ティアマトは肉体を半壊させながら冥界へと堕ちていった。




ベル・ラフム:牛若丸オルタの姿をした新人類代表。口調は荒いが他のラフムと同様に頭脳は明晰である。ただ、自分の世界を崩壊させかねない威力を持つ爆弾(レフボム)をカルデアが所持しているとは考えていなかった。
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