ベル・ラフムは聡明であるが、邪悪である。生きるために何でもするし、死を拒否するのに外道を躊躇わない。そのように設計され、規格以上の力を与えられ、当然の結果として下劣に戦っている。
「…どこまで本心なのかしらね」
『さて、ワタシからはなんとも』
形勢はカルデアに傾いている。ベルに戦闘経験は無く、キングゥは弱体化した上でギルガメッシュに仕様を把握され、ティアマトはほぼ死にかけている。
「我が声を聞け! 全砲門、解錠!!矢を構えよ、我が許す! 至高の財を持ってウルクの守りを見せるがいい!大地を濡らすは我が決意!
「いんやー!しんじまうー!」
「劣勢だね、わかるとも!ははは!はははは!!」
苦戦はしている。死の危機は常に首にある。ティアマトの自己再生は収まっていない。女神達は半死半生。それでもラフム達は3人で、寡兵だった。オルガマリーは藤丸とマシュだけを守ればそれでいい。
「コレは、貴女のせい?」
『さあ。ワタシは常に、使われるモノの味方となります』
アンナマリーは空虚な声で答えた。
『ティアマトは『良い子』を求めました。
「あれで?」
『マスターも聖杯戦争で聞いたでしょう?『我が失せろと言ったのだ。疾く自害するが礼であろう』と』
ベル・ラフムは不良品だが、それ故に規格外で、成功作だった。
他人の指示を聞くのがいい子なら、ラフムはそれを肯定しなければならない。彼らにとっての復讐は、新人類になり変わることではない。人類の代表に、後悔と失敗を植え付けること。
『吐いた唾を飲み込ませたなら、それはティアマトが正しかった証拠になるじゃないですか』
『このウルクは事実上滅びました。生き残りは生涯懸けても過去のウルクまで復興しないでしょう。そして口にする。
「思い知らせたかったと?」
『さて。少なくとも、次のウルク王はギルガメッシュが嫌悪する神に傅く者が選ばれるでしょうね。
回帰。ティアマトが持つ人類悪であり、人が抱える『元に戻そうとする意思』。ラフムは元に戻ろうとして死んだ。ベルは
『特異点の修復で失われた生命は無かったことになります。ラフムは必ず証跡を残せずに死ぬ。ならば、別に何をしても許されるのと同じではないですか』
「…遊びってわけ?」
死ぬまで
『ティアマト復活ゲーム。ラフム達がティアマトを復活出来るか、ギルガメッシュがそれを阻止できるか。欠陥生物ラフムに対してどのように遊ぶのか。殺し、遊戯、会話、隷属、そして戦争。
「露悪的なのは、…あー。『罰ゲーム』ってことね」
醜悪な見た目に惑わされず、会話と交渉を行なってティアマトの元まで連れて行かせる。事後孔明だが、最短最善はそれだった。為政者ポイントが高いからラフムは奉公を提案し、ベル・ラフムは統括者として王の敵を目指した。
『好感度が不足していましたね。ラフムは量が規格外なだけの知性ある魔獣。
ラフムの識別票もゲームを下地にすれば良くわかる。
どれだけ未来を見てもギルガメッシュにはわからない。彼はティアマトの敵故に遊ぶことは出来ない。ギルガメッシュの眼には必ず襲いかかるラフムの未来しか存在しない。ギルガメッシュは、ラフムにとってのNPCだった。
「…私の責任だから単純に疑問になるのだけれど。ギルガメッシュに提言をしなかったのはなぜ?」
『ワタシにも好みはあります。ワタシにとって彼は醜い生命そのものでしたので。ええ、
見ず知らずの誰かの生死を区別する存在こそが神だとアンナマリーは呟いた。誰かを皆殺しにしたいのならば、それに神自身を含めさせてこそ。
悲しい生き方だとオルガマリーは嘆息する。アンナマリーの獣性は全てに中指を立てずにいられない。神が嫌い、人が嫌い、自分が嫌い。本質的に
「ウルク人が嫌いだった?」
「どうでしょう。まあ、いい人ではあったのではないですかね」
戦闘が決着する。
ギルガメッシュが致命傷と引き換えにキングゥを殺した。どう殺したかはわからなかったが、おそらくは魂を道連れにする呪い系統の宝具だ。キングゥが死んだのを把握したベルは無表情でティアマトの身体に乗り込み、巨体を自壊させながら浮上させた。
浮上する彼女とオルガマリーの目が交差する。オルガマリーには彼女の本性などわからない。ギルガメッシュが見ていない『今』だけが
「あー、あー」
多分、彼女はようやく敵になった。
オルガマリーは奇跡があることは知っている。ティアマトが浮上する先には人類悪に一家の言があるカルデア最強のオルガマリーが空にいる。巨大なティアマトを見逃すのは不可能で、ベルはティアマト共々オルガマリーによって叩き落とされた。
「
レイシフト率を無理矢理誤魔化すために巨大化して冥界に足を踏み入れたオルガマリーは強制的にレイシフトを解除してカルデアに戻された。ロマニ達の独断であり、最善の判断だった。後1秒ウルクにいれば彼女は消失していた事実をギルガメッシュは見抜いていた。
ティアマトの断末魔が響く。ベル・ラフムが無理矢理に再生して浮上する。だが、全てが遅い。ギルガメッシュを生贄に召喚したサーヴァントギルガメッシュが、ベル・ラフムの全てを封じ込めた。
「…つまらん敵だと文句を言いたいが、赤子に語るのは栓無きことよな」
ギルガメッシュはベル・ラフムの中身を見抜けない。ベルは全てを詐称して生きていた。もしくは、全てがそのまま動いていた。本質を見たのはオルガマリーだけで、オルガマリーは節穴だった。
「─原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の祝着よ!」
誰にも彼女の本物はわからない。善悪正邪をギルガメッシュすら判別出来ない。だから、敬意を以てギルガメッシュは罪を裁く。この罪人は、ギルガメッシュから宝物を隠し切ったのだから。
「─死を以て静まるが良い。『
全ての特異点は解消された。
ラフム:死ぬために生まれた自称新人類。誠実、従順、依存、高性能、獣の眷属。そう決められた生命体。推定余命1週間の彼らは、人生を享楽に費やすことに決めた。回帰する時間もなく、浪費する余暇もない。ならば、秘密くらいは持ち越そうと遊戯を選んだ。
…と、オルガマリーは判断している。真相は誰にも分からない。ラフムは全滅した。それだけが、カルデアが理解している事実である。